【 初対面の再会 】
教室に戻った俺達はその後、サラ先生から二学期の行事表を受け取り 本日は帰宅する事になった。
途中まで一緒に帰ろうと思ってルークに声を掛けたが、ルークはララに呼ばれているらしく断念。
無理強いするつもりもなかったのでグルルとイリアとセル、いつものメンツプラスグルルで帰ろうとしたが、校内放送で生徒会が呼ばれた為 セルも離脱。
マキナは二学期早々部活があるらしく、結局朝と同じ3人で帰宅する事になった。
マキナとは戦闘訓練の事などの話をしたかったのだが、部活なら仕方ないか…。
今の時代、卒業後の進路に重要な要素の1つとしてMSSが含まれている。
学園島で生活をしていると失念してしまいがちだが、世界全体でいうなら感染者よりも非感染者の方が遥かに人数が多いのは今も変わっていない。
なので俺達のような感染者はそれだけで就職などが有利になるが、非感染者はMSS以外の事で評価をあげるのが必須になってくる。
もちろん成績や魔力適性、アイデンによってはそれだけで企業や軍から逆指名されたりする事はあるが、仕事として役に立つアイデン持ちや魔力操作が上手いというわけではない いわゆる普通の学生が評価を上げる為の手段として部活動があるのだ。
部活動では大会などの成績が評価を上げるのに効率的なのは間違いないが、それだけではなく部活動に真面目に取り組む姿勢や向上心、リーダーシップや協調性などあらゆる資質をアピールする場でもある。
生まれ持った素質や後天的なMSSだけではなく、個々の優れたポイントをしっかりと見極めて伸ばしてくれる部活動は、MSSや特殊なアイデンを持たない人にとっては授業と同じかそれ以上に大切と言っても過言ではない活動なのだ。
ましてやマキナは勉強が苦手で、アイデンも自強化系なので授業の成績だけでは 将来選べる幅が狭くなってしまうのが目に見えているからな…
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「まだ昼だし帰りにどこか寄って行くか?昼飯を作るのも面倒だからどこかで済ませた方が楽だしな」
「ご飯なら私が作るよ。パールさんは今日も遅くまでお仕事なんだよね?それならお昼ご飯のついでに晩御飯の分も作り置きしておいてあげる」
「んー、今日はいいよ。最近イリアに作って貰ってばかりだからな。それに たまにはこってり系も食べないと力が入らないし。だから今日は3人で円源に・・・」
「グルル君も居るんだから外食するにしても、ちゃんとお野菜が食べられる所にしないとダメだよ。だからラーメンは禁止ね」
「はぁ〜・・・イリアは母さんより母親らしいよな…」
「ぐるるはたっくととイーリャが一緒ならなんでもおいしいおー!」
3人で兄棟を出て正門に向かって雑談をしながら和気藹々と歩いていたのだが…
「ーーーん?」
ふと、違和感のある風景が目に入ってきた。
違和感のある風景とは、正門近くにある噴水付近。
いつもは生徒同士が待ち合わせをしたり雑談したりで、人が多く集まっている噴水前に 不自然なほど人が居ないのだ。
たまたまかなぁとも思ったが どうやら人が居ないのは偶然ではないようだ…
「ねぇタクト、噴水前に居るのって…マゾエルさんとマリアちゃんかな?」
そう。
人が寄り付かなかった原因はおそらくマゾエルとマリア。
というかマゾエルだ。
学園生の中で一番近寄ってはいけない危険人物は言わずと知れたサディスだが、そのサディスと双子であるマゾエルも、関わりの少ない学生から見れば恐怖の対象であり なるべく関わり合いたくない存在として認識されている為、噴水付近でウサクラさんに跨がるマリアと遊ぶマゾエルを見て 人が寄り付かなかったようだ。
まぁ俺達はマリアとは仲が良い方だし、マゾエルさんに対しても他の生徒達よりは理解も免疫もある方だと思うから気にしないけど。
「そうみたいだな。マリア達が噴水の所にいるなんて珍しいな。ーーーそういえばマリア達にはまだグルルを紹介出来てなかったし、挨拶だけでもしに行こうか」
「うん、そうだね。タクトと一緒にいるのなら、マリアちゃんとは今後も沢山会う事になるもんね」
あまり嬉しくない認識のされ方だが、残念ながらイリアの言う通りだと俺も思った。
マリアだけではなく、マゾエルとサディスも遠征以降から更に関わる機会が増えてきたので、早めに紹介しておかないと不要のトラブルになりかねない。
「まぁとりあえず行こうか、ーーーって重っ!どうしたんだ、グルル?」
サディスは居ないが、マゾエルも一緒に居るので多少緊張感はあったが、どうせいつかは関わるのであれば顔合わせは早い方がいいと思い あまり深く考えずにグルルの手を引いて噴水に向かおうとしたのだが、何故かグルルは石像の様に立ち尽くしてピクリとも動かなかった。
「ま、ま、ま……」
「ま?」
どうしたのかと思い グルルの方を見てみると、グルルは目と口を大きく開き 驚愕に近い表情をしながら噴水の方を見て何かを呟いていた。
「おい、どうしたんだよグルルーーーっておい!いきなり走っ、いてててっ手が千切れるっ!」
「あっ2人とも!走ったら危ないよっ」
初めて見せる驚愕の表情をしていたグルル。
グルルは俺の手を掴んだままズドドドドッと地響きがしそうな勢いでマリア達の居る噴水の方へと走り出した。
「マーマ!マーマーッ!」
俺の制止もイリアの呼び掛けも全く聞こえていないかのようにグルルは走る速度を上げていき、その勢いのままマゾエルではなくマリアに向かって飛び込んだーーー
「あらあらあらあら、マリアちゃんに一目惚れでもしたのでしょうか?ふふふ、でもごめんなさい。マリアちゃん 少し下がっていてください」
俺の手を離したグルルが勢い良くジャンプしてマリアに突撃しようとしたが、それを遮る様にマゾエルがマリアの前に立った。
マゾエルは禍々しい魔力を全身に巡らせながらグルルを迎え討つべく、両手を広げてマリアを隠す様に立っていたが、グルルは意に介さずそのまま突っ込んで行ってしまった。
「グルルッ!だめだっ!」
目に見える程に濃く、それでいておぞましい魔力を練り上げるマゾエルに飛び込もうとするグルルに、俺は叫んで制止を試みたがグルルは止まる気配を見せない。
なんとかしなくてはと思っても共存を発動する余裕などなく、止める事が出来ないまま グルルがマゾエルに飛び掛かるのを見ているしかなかった。
「ジャマだおーっ!」
勢いを弱めようとしないグルルは、触れただけでも致命傷になるかもしれないマゾエルの禍々しい魔力の領域に躊躇いなく突っ込み、マゾエルが展開した魔力の壁に対して小さな拳で攻撃を加えたーーー
「くッーーあらあらあらあら、これは想定外ですね。受けたくない攻撃なんていつ以来でしょう」
グルルの拳がマゾエルの魔力に触れた途端、ズドォォォォンという巨大な音と共に 後ろにある噴水がまるで噴火したかのように水飛沫を上げた。
「マーマ!マーマーッ!」
マゾエルに対して強烈なパンチを繰り出したグルルだが、グルルの視線はマゾエルではなくマゾエルの後ろに居るマリアにのみ向けられていた。
目の前にいるのに視界にすら入れてもらえないマゾエルは、目を細めてグルルを見ながら 先程とは比べ物にならない程の魔力を全身に纏った。
「ーーーーー」
マゾエルが魔力を練った途端 俺は目眩と吐き気に襲われ、魔獣に襲われそうになった時がまるでぬるま湯だったと感じる程の圧迫感を全身に浴びせられて立ち上がる事すら出来なくなってしまった。
「あらあらあらあら…私には興味すら抱いて下さらないなんて…ふふふ寂しいですね。マリアちゃんが可愛いのは分かりますけど、貴方をマリアちゃんに近付けるのは危険そうなので……」
ーーやめろ。
必死に声を出そうとしても、圧倒的過ぎるマゾエルの魔力に当てられているせいで声が出せない。
ーーやめてくれ。
マリアに向かって再び足を進めるグルルにマゾエルが致命的な何かを繰り出そうとしているのが、まるでスローモーションのように見えた。
ーー頼むから、やめてくれっ。
そんな俺の声にならない懇願。
「敵意は無いようですけど、ごめんなさいね。ーーふふふッ死んで下さい」
俺の懇願を嘲笑う様に、真っ白な悪魔は三日月の様に口を歪めて笑った。
マゾエルの言葉に合わせて、練り上げられた凶悪な魔力の塊がグルルに襲い掛かるーーー直前。
「…えむねぇ、めっ!」
ビクッーー
いつもと変わらない眠そうな目をしたマリアが、普段はあまり出さない大きな声でマゾエルを止めた。
「ーーーーー」
マリアの少し大きな声を聞いたマゾエルは練り上げた魔力を霧散させ、体をビクッと震わせた後 金縛りにあっているかの様に動かなくなってしまった。
「マーマ、マーマーッ!」
マゾエルの急停止にすら興味を持たないグルルは、マゾエルの後ろからピョコッと出て来たマリアに駆け寄って行く。
感極まっている様子のグルルは、走り寄った勢いのままマリアに飛び付こうとしたが
ずびしっーー
「あうぅ、マーマ痛いお。」
飛び付いて来たグルルに対して、マリアが鋭いチョップをお見舞いした事によって制止された。
「…おチビ、だれ?」
「ぐるるだおー!マーマ、マーマーッ!」
ずびしっーずびしっーー
「痛いおー、どして叩くの?」
「…マリア、ママちがう」
さっきまでの緊迫した雰囲気は完全に無くなり、地面に倒れる俺と腰を抜かしているイリアと直立不動で硬直しているマゾエルを放置して、グルルとマリアは全く進展のない子供と子供のじゃれ合いを繰り広げていた。
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