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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
127/165

【 変化する日常の始まり 】



「皆さんお久し振りです。空席が多いのはいつもの事ですが、また皆さんの元気な顔が見れて嬉しく思います。今日から二学期が始まりますが、本日の日程をお伝えする前に 今日から皆さんと一緒にこのクラスに通う事になった生徒を紹介します。では、グルル君 皆さんにご挨拶をお願いします」


相変わらずの淡々トークで簡単な挨拶を済ませたサラ先生がグルルを呼んだので、俺はグルルの手を引いて教壇の前にグルルを連れて行った。



「ほらグルル、ここにいる全員 今日からグルルの友達になってくれるんだ。ちゃんと挨拶しないとな」


「ほほー!ぐるるだおー、よろっくー!」


ニコニコ笑うグルルが元気良く手を挙げて自己紹介をするとーーー



〝キャァァァァッ、可愛いっ!〟


〝かわE越してかわFやんけっ、ほんでなんでシャイナスも前におるん!?〟


〝ってか子供じゃん!なんで高等部?〟


〝それよりどうしてシオンちゃんのバスタオル?ファンなの?〟



様々な反応がクラス内で起こった。



パンパンッーー


「はい皆さんお静かに。疑問もあるかと思われますが、グルル・シャイナス君は今日からこのクラスの一員になります。見た通り まだ幼いグルル君には難しい事やわからない事ばかりだと思いますので、皆さんも気付く事があれば色々教えてあげて下さい」


騒がしくなった教室内を静める為にサラ先生が手を叩いて音を出し、みんなに向けてそう言ってくれたので俺はそれに合わせてみんなを見渡しながら軽く頭を下げた。


「「「はぁーい」」」


「もひひー、ぐるるもはぁーいだおー!」


サラ先生の呼び掛けに、クラスメイト達は元気良く返事をしてくれた。



ーーーー



それからサラ先生は本日の日程を伝えて教室を出て行った。

日程といっても今日は2学期初日なので授業はなく、週末にあるテストの予定や全校集会の時間などを告げただけだが。



「まさか本当に登校してくるとはなぁ。まぁでも良かったじゃん!改めてよろしくなっグルル」


「おおー、せるるよろっくー!」


「ふふっ、楽しくなりそうだね。ーーーあれ?タクトの襟足、少しだけ金色に染まってるけど…染めたの?」


「ん?染めてないよ。ーーーっておいグルル、机を齧るなよっ!もう腹が減ったのか?今日は昼に帰れるからもう少しだけ我慢してくれっ」



グルルの席は窓際の後ろから3番目、元々空席だった俺の前の席だ。


俺の後ろにはイリア、俺の右にはセルスという俺得な席順にグルルも加わったわけだが、残念ながらルークは廊下側の1番前という離れた席で 先程からチラチラとこちらを見ながら小さく手を振っている。


授業中ってわけじゃないのだから、ルークもこっちに来ればいいのに…

ちなみにデュランは窓際の1番前の席でいつもと同じ様に腕を組みながらドカッと座っている。



「ねぇねぇ!シャイナス君っ、グルル君は弟なの?シャイナス君に弟がいるなんて初耳だよっ!」


「あぁ、まぁ…そうだな」


「なんや沸きらんやっちゃなぁ、それよりなんで高等部に入ったんや?飛び級か?どんな能力持っとるんや?MSSはレベル3なんか?」


「いや、まぁ…なんでだろうな」


「グルルくんっ、分からない事があったら何でも聞いてね!それとセルスッ、グルルくんに変な事を吹き込んではダメですよ」


「飛び火っ!?なんでいつも俺だけそんな扱いなの?」




全校集会が始まるまでの間、グルルに対する質問責めなどを受けていたが、みんな明るくグルルを受け入れてくれたので安心した。


Aクラスではほとんどない事だが 他のクラスでは僻みや妬みなどは日常的にあると、マキナから聞いた事がある。


休み時間などでもこのクラスから出たりしなければ、そういったネガティブな日常に触れる事はないが…グルルは好奇心旺盛だからな。

これからが大変になりそうだ。



ーーー



〝まもなく全校集会を行います。生徒の皆さんは第1体育館にお集まり下さい。繰り返しますーーー〟


懐かしくも聞き慣れた機械的な校内放送が流れ、俺達は移動を開始した。



兄棟を出て数分程歩いて到着した第1体育館。

第1体育館は学園にある体育館の中で1番広い体育館で、全生徒が集まる集会などは毎回ここで行なっている。


俺達Aクラスは左端に並べられている椅子に座っているのだが、これもレベル3が居る為の配慮だ。



周りを見渡すと、久し振りに再開した友人達と楽しそうに話す姿が多く見られ、ガヤガヤと雑談する明るい声が響き渡っていた。


「人いぱーい!みんなもひひー、ぐるるも笑うおー、もひひー!」


「いや、そこは真似しなくていいから。それにほら、もうすぐ始まるから大人しく座ってろよ」


楽しそうに笑う生徒達に感化されたグルルが椅子の上に立って笑っていたが、サラ先生が壇上に姿を現した事で周りもグルルも徐々に静かになっていった。



『皆さんお久しぶりです。今年は例年より雨期が長引いてしまいましたが、有意義な夏休みを過ごす事が出来たでしょうか?夏休みの余韻に浸るのも良いですが、中等部と高等部の学生は週末にはテストがありますので 気持ちを切り替えて勉学に励むようお願いします』


サラ先生の淡々とした挨拶に、初等部の子達はいまだにワイワイと明るい声を上げているが、中等部の子達はテストという単語にガックリと肩を落としているのが横目に見えてきた。

さすがにここからでは遠くて見えないが、あの中にいるマキナも恐らくガックリ肩を落としている一人だろう。



少しの間、サラ先生はいつもの心構えや二学期に行う大きな行事について話していたが、集会は15分程で終了となった。



『ーーーこれで全校集会は終了となりますが、中等部と高等部の生徒には追加報告がありますのでこのまま暫くお待ち下さい。初等部の生徒は教室に戻り、担任の先生の指示に従って本日は帰宅して下さい。では、二学期もよろしくお願いします』


最後にそれだけ告げたサラ先生が壇上から一旦離れ、初等部の子供達は教師に着いて教室へと戻って行き 残された俺達はよく分からないまま初等部の子供達が出て行くのをただ見守った。



「なぁセル、追加報告って何か知ってるか?生徒会で何か聞いてないのか?」


「・・・いや、俺は何も聞いてないよ。でも最近ちょっと色々あり過ぎてるから、そのどれかの事だとは思うけど…」


生徒会役員のセルなら何か知っていると思って聞いてみたが、セルも知らないらしい…というより心当たりが多くてどれの事か分からないらしい。

普段はおちゃらけているセルだけど、やっぱり生徒会の仕事は大変なんだなぁ。


と、感心しているとサラ先生が再び壇上に姿を現した。



『お待たせ致しました。では早速、追加報告をさせて頂きます』



表情も声のトーンもいつもと変わらないサラ先生だが、心なしかピリッとした雰囲気があるような気がした。


そう感じたのは、多分俺だけではないはず。


その証拠に先程までどよめいていた他の生徒達もシーンと静まり返ってサラ先生に注目している。


「ーーーーー」


居心地の悪い静寂に嫌な予感を感じながら次の言葉を待っていると、サラ先生は1度だけチラッとこちらに視線を向けた後 追加報告の内容を説明し始めた。


『MSSレベル3の生徒はAクラスのままになりますが、レベル3以外の生徒は今週末のテストが終わった後 クラス替えを行います。クラス替えの理由は今月から戦闘訓練の科目が必須科目として追加されるからです。それに伴いA、Bクラスは本格的な戦闘訓練を授業で行うようになります。Cクラス以降のクラスでも戦闘訓練は行いますがA、Bクラスはより実戦的な授業になります』


「ーーー!?」



戦闘訓練・・・

高等部に上がった時に選べる選択科目の1つで、警察や軍人希望の人が受ける授業だか…それを必須科目にする理由はなんだ?

それに、中等部から戦闘訓練なんかして大丈夫なのだろうか…。



『将来 製作や飲食に関わる仕事に就きたい方には戦闘は無縁…と、言えるような世の中にしてあげられていない事に深い悔恨を感じております。ですが、嘆いていても安全は保障されません。現在世界各地で《黒い雨》が魔獣を産み落としているのはニュースなどで知っている人も多いと思います。黒い雨の発生条件も原因も判明していない今、確実に安全な場所はないと私は考えています』


ガヤガヤ…ガヤガヤ……


サラ先生の発言に体育館内では不安や不満が入り混じったようなどよめきが起きたが、俺は納得もしていた。



要は危険から身を守る為の訓練をしてくれるという事だろう……まぁ戦闘訓練って言ってるんだからそうだよな。


確かに何かあった時に訓練をしているのとしていないのでは身体の動かし方1つとっても雲泥の差が出るのは言うまでもない。


といっても、俺がそれを痛感させられたのは前回のセントクルス遠征の時だけど。



ーーーあの時、俺は何も出来なかった。


魔獣の危険性はなんとなく理解していたつもりだったが、本当の脅威を目の当たりにした時 俺の足は震えて言う事をきかなくなってしまった。


あれがもし周りに誰もいない道をボーっと歩いている時だったりしたら、俺は確実に死んでいた。


その経験がある今の俺ならあの時みたいな事にはならないとは思うが それでもまた同じ様な状況になったらまともに対応出来るか?と問われれば自信はない。


それに、俺の様に魔獣と相対した経験がある生徒なんて 生徒会を除けば数えるほどしか居ないのではないだろうか。そんな生徒達の前にいきなり魔獣が現れたりしたら…簡単にバッドエンドが想像出来てしまう。



『Aクラスの生徒は学園が第2の保護者という立場にありますので戦闘訓練は強制参加になりますが、それ以外の生徒は戦闘訓練を行う際 保護者の方と本人の合意が必要になります。本日帰宅した後 保護者の方とよく話し合い、戦闘訓練に不参加の意思がある場合のみ申請して下さい。親族がいない生徒は教員と話し合って決めるように。それと、戦闘訓練に不参加するといった場合でも成績には全く影響致しませんのでご安心を。追加報告は以上です』



ガヤガヤ…ガヤガヤ……


サラ先生は一礼して壇上から去って行ってしまったが、生徒達は立ち上がる事はせずに不安そうな顔をしながらその場で身近な友人達と話し合っていた。


かく言う俺もその内の1人なのだが。



「戦闘訓練か。Aクラスは強制参加って言ってたけど…イリア、大丈夫か?」


突然の授業内容変更に驚きはしたものの、正直なところ俺は戦闘訓練に興味があるし 誰かを守る力を得られるのなら願ったり叶ったりではあるのだが、サラ先生の話しではAクラス…つまりレベル3は強制参加というのが気になった。


争い事を好まないイリアまで参加しなくてはならないのはどうかと思い、イリアが不安を抱いていないか聞いてみると、


「うん、私は大丈夫だけど…グルル君はどうするの?グルル君のMSSレベルは2だったよね?それならCクラスとかに替えてもらった方がーーー」


と、自分の事ではなく グルルの心配をしていた。


まぁイリアらしいといえばイリアらしいし、グルルの事は俺もどうしたものかと考えていたのだが、当のグルルは案の定…


「いやだおー!ぐるるはたっくとと一緒ぉー!」


と言う始末。


グルルはノリノリだし 学園で行う戦闘訓練なので危険はないと思うが、さすがに戦闘訓練をさせるのは気が進まないので帰ったら母さんと一緒にグルルを説得するしかないな…。


「ーーーーー」


「・・・?どーしたんだよセル。珍しく真剣な顔して」


「ーーん?あぁいや…なんでもない。おっ、なんか演台がガタガタ揺れてないか?あれは絶対学園長が飛び出してくるやつだろ!たはっ、分かりやすっ」


俺とイリアとグルルで会話をしている間、珍しくセルが話に入って来ずに難しい顔をしていたので声を掛けると、セルは何かを誤魔化す様に壇上を指差した。


しかしセルの言った事は嘘ではなく、壇上にある演台が不自然な程ガタガタと揺れていた。



・・・あぁ、あれは俺にも分かる…間違いなく学園長だ。


俺達同様に演台の揺れに気付いた学生達が壇上に視線を向けると、注目が集まったタイミングを見計らったように演台がスポーンと宙に舞い、想像通りの人物が飛び出してきた。



『期待通りにジャジャジャジャーン!みんなの大好きなガックエンチョーだよー!ーーーってあれ?中等部と高等部の子供達だけだと もうぼくに免疫が付いちゃって驚いてもくれないのっ!?かーなーしーいーよー!』


場の空気を読まない学園長の登場に、もう慣れっ子の生徒達は反応が薄く 生暖かい目で学園長を見ていた。


だが、戦闘訓練という一般の学生には縁の無かった科目の話を聞かされて多少なりとも動揺の気持ちがあった生徒達も、学園長のいつも通りの明るい態度に少しだけ安心感が戻ったようであった。



『うんうんっ、ちょっとはリラックスした顔になったねー、サラ君の話し方は堅いし怖いからみんな緊張しちゃったよねっ!戦闘訓練なんて仰々しい言い方されたら縮こまっちゃうよねー。まぁ戦闘訓練は戦闘訓練なんだけど、君達が心掛ける事は戦う事ってよりも《守る事》だってのは分かって欲しいなっ』



「戦闘」と聞けば誰でも戦う事が最初に頭に浮かぶのは当然だ。


それは周りの生徒達の表情を見ていれば分かった。

戦闘訓練を受けなくてはならないかもしれないと聞いた途端に表情が強張り、学園長が守る事を心掛けるのだと言った途端に少しホッとした表情を見せる人が多かったからだ。



『今回授業に取り入れる戦闘訓練は普段の授業で行なっている魔学と高個学の延長、それに加えて対人や対魔獣を想定した連携訓練や怪我人が出た場合の救命訓練がメインになる予定なんだよねっ。だからあんまり難しく考えないでいいと、ぼくは思うよっ!あ、でも、難しくは考えなくてもいいんだけど、しっかりは考えてほしいな』


そこで学園長は一拍置いて、仮面越しに全員を見渡した。


『ーー君達の守りたいモノは何か、をねっ』


守りたいモノ。


その一言で、多くの生徒の瞳に力強さが宿った気がした。



『本当だったら、ぼくが君達全員を守ってあげちゃう!って言いたいところなんだけど、いつどこで《黒い雨》が降るのか予測すら出来ない現状だとあんまりカッコいい台詞は言えないんだよねぇ。ごめんねっ、だから君達の力を 君達と君達の大切なモノを守る為に貸して欲しいな。ぼく達も精一杯手伝うからさっ!』


「「「はいっ」」」


みんな、自然と大きな声で返事をしていた。



『いーい返事だねー!うんっ、その調子で二学期も明るく楽しい学園生活を一緒に過ごそうねー!じゃあ今からぼくは、ぼくの方がサラ君より上手く話をまとめられた事をサラ君に自慢しに行ってくるから、君達は教室に戻って帰る準備でもしちゃいなよー!じゃーまったねぇーふんふんふ〜ん』


〝あんまり調子に乗ると、またサラ先生に縛られますよぉ〟


〝学園長ありがとー、ちょっと緊張ほぐれたよぉ〟


〝ハハハッ、学園長バイバーイ、二学期もよろしくねぇー〟



話を終えた学園長は 表情の明るくなった生徒達に見送られ、めちゃくちゃ嬉しそうにキレッキレのスキップをしながら演台を後にした。



「ふふっ、学園長さんってやっぱり凄い人だね」


「凄いっていうよりは、変な人だと思うけどな……でも、みんな最初は戸惑ってた戦闘訓練に対して前向きに捉えれたみたいだから、それは良かったのかもな」


「ーーーーー」


「たっくとー、ぐるるお腹減ったおー。はよ帰ろおー」



ぐるるの言葉を最後に、俺達も体育館から出て行く人の波に乗って教室へと戻る事にした。





サラ先生から戦闘訓練の話を聞いた時は多少の不安があったが、学園長の話のおかげで今はそれがない。

むしろ早く戦闘訓練を受けてみたい気持ちになっていた。



『ーー君達の守りたいモノは何か、をねっ』


学園長が言った言葉。


この言葉で、多くの生徒達が意識を入れ替えたのは一目瞭然だった。

みんな、それぞれ守りたいモノがあるって事なのだろう。



みんなの意識を変えたその言葉に対する、俺の答えは決まっている。


グルル、イリア、マキナ、セル、マリア、ルーク……両手では到底数え切れないが、俺が守りたいのは大切な仲間達だ。


もちろんその中にはネジリーさんやマカオさん、ついでに母さんも入っている。


ーーーでも、今の俺では守るどころか いつも守られてばかり。


魔獣に襲われないのが1番いいに決まっているが、万が一があった時に大切な仲間達を守る事が出来る力を、俺は手に入れたい。





おそらく来週から行われるであろう戦闘訓練に緊張と期待を抱きながら、タクトはグルル達と共に教室へと戻って行った。

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