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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
125/165

【 手札 】



「サラさんがすんなり引いてくれて良かったっスねぇ」


「ですです。無事に2人も確保出来たし、今日は上出来だったのですです」



アルバティル学園から無事に脱出したパンデル達。


悪い言い方をすれば誘拐されたデブディモとガルルも、当然一緒にいる。



「こ、ここは…どこでぶか?見た事無い景色でぶけど…もう学園島ではないんでぶ?」


「ん?なんスか?」


歌姫の聖地巡礼をしている最中に突然拐われたデブディモであったが、今後の不安よりも先に気になったのは ここがどこなのかという事だった。


しかし、デブディモが驚くのも無理はなかった。


巨大な口に食べられた時点で死を覚悟していたが、目を開けてみると そこには広大な草原が広がっていた。


横を見れば綺麗な小川が流れており、空を見上げれば鳥達が楽しそうに羽ばたいている。


かなり遠くの方には街らしき物も見えるが、デブディモが見た事のない景色であった為 セントクルス大陸ではないのだろうと想像出来たが、それならここはどこだと言われると 答えは出なかった。


「明るいのに、太陽が…ないでぶよ?どうなってるんでぶ?」


デブディモの中の知識では昼間が明るいのは太陽のおかげだと認識していたが、ここには太陽らしき物が見当たらない。


「ここはラスの能力の中っス。分かりやすく言えばさっきの口の中っスね!外の世界とは完全に別の空間になってるんスけど、今日からしばらくはここに住んでもらうっス」


「ほへぇ〜、ここが口の中…規格外過ぎる能力でぶねぇ。ボキのタフネスとは大違いでぶ………んん?今、ここに住めって言ったでぶ!?」


何処かに転移させられたと思っていたデブディモであったが、どうやらここはラストルネのジース《マウスハウス》の能力内であるようだ。


しかし、英雄と呼ばれるラストルネの規格外な能力を目の当たりにして感心したのも束の間、パンデルの突然のお引越し命令を受けたデブディモは本日何度目になるかもわからない驚きに声を上げた。


「いーい反応っスねぇ!そうっス、今日からここが君達の楽園ベイベーっス!このマウスには他の人間は住んでないっスから、自由気ままにニートをエンジョイしてくれればいいっスよ」


わははっと笑うパンデルとは裏腹に、デブディモは動揺を隠しきれずに汗をダラダラ流していた。


「ちょ、ちょっと待つでぶっ!急過ぎるでぶよっ、ボキ達の装備品を見て慈悲を与えて欲しいでぶっ!着替えなし、フィギュアなし、お菓子少々……無理でぶっ!着替えは諦めれてもお宝が何も無いのは酸素がないのと同じでぶっ。逃げたりなんかしないでぶから、一回だけ家に帰らせて欲しいでぶっ」


「でぶでぃ・・・おかし・ないの?」


「わっはははっ、デブ君おもろいっス!オタクの鏡っス!バスタオル少年もなんなんっスか、さっきまでずっと無言だったのにお菓子には反応するんスねっ!2人とも偏り過ぎっスよぉ、ひぃー腹痛いっスゥ〜」


「あのあの、急に連れて来ちゃったのはごめんなさいですです。でもでも、不自由がないようにちゃんと準備はしてあるのですです」


「準備、でぶか?」


一般人とは多少価値観の違うデブディモ達の主張を聞いたパンデルはさらに声を大きくして笑っていたが、ラストルネはデブディモの要望にしっかりと耳を傾けてくれていた。


「ですです。見てもらった方が早いと思うので、とりあえずあの街まで移動しますねーーーぱっくんちょ」




ー=ー==ー=ー==ー=ー



大口の中の世界で再び大口に食べられた一行は、先程遠目に見えていた街までやってきた。


様々なショップらしき建物が並んではいるが人の気配はなく、街並自体は明るいのだが どこか寂しさと冷たさを感じさせる風景。


しかし、そんな寂しさなど 見覚えのあり過ぎる1つの建物を見つけたデブディモにとってはどうでも良かった。



「あ、あれはっ!ボキの家じゃないでぶかっ!」


拐われた事も、街に人が居ない事も、英雄達と一緒に行動している事も頭からすっ飛んだ行く程の衝撃がデブディモを襲った。


見慣れた家がこれほどの感動を与えてくれるなど夢にも思っていなかったデブディモは、プレハブ小屋を改造して作り上げた自分の家に向かって走り出した。


「ぶほぉぉっ、間違いなくボキの家でぶ!中もそのままっ、良かったでぶぅぅぅっ」


「でぶでぃ・ぼきのプリリン・ある?」


「ーーーあるでぶっ!あるでぶよガルル少年っ!良かったでぶねぇ、今日帰ったら食べるって言って 楽しみにしてたでぶからねっ」



ーーー


それから少しの間 デブディモとガルルは家の中でワイワイ騒いでからパンデル達の元へ戻ってきた。



「あのあの、勝手に連れて来たり 勝手に家を運んで来ちゃったのはごめんなさいですです。でもでも、必要な事だったのですです。デブディモさん達が協力的にしてくれるのであれば、わたし達も出来る限りの要望には答えるつもりなのですです」


清々しくスッキリした顔で戻って来たデブディモに対して、ペコリと頭を下げるラストルネ。


本来であれば誘拐した挙句 家まで勝手に移動をされたのであれば、ごめんなさいで済む話ではないが、


「いいんでぶよ。家があってガルル少年が居る。それだけで、ボキは満足だぜなのでぶーーキリッ」


デブディモは満足しているようであった。


そしてデブディモの隣に立つガルルは、


「おかし・・・」


と言いながら、ラストルネに右手を差し出した。



「お菓子が欲しいのですです?ーーーん〜、よいしょ。はいどうぞっ。沢山あるから、デブディモさんも食べて下さいですです」


ガルルのおねだりを受けたラストルネは優しい笑顔を見せた後、オーバーオールに付いている大きな前ポケットに手を入れてお菓子を沢山取り出すと、ガルルに手渡した。


「あり、がとう。おまえも・しあわせくれた。でぶでぃにも・くれた。ありがとう!」


「いえいえ。この街にある物は好きに使ってくれていいので、旅行に来たと思って楽しんでくれると嬉しいのですです。食べ物も娯楽施設も無料で使えるので不自由はないはずなのですけど、わたし達が協力して欲しいと言った時には協力をして欲しいのですです」


「この街で足りない物があったら言ってくれれば出来るだけ用意するっスから、変な気だけは起こさないで欲しいっス!」


「わかったでぶっ!拐われたのにVIP待遇なんて、ボキ達ラッキーでぶねっ!」





こうして、楽観的過ぎるデブディモとお菓子で釣れるチョロいガルルはマウスハウスの中の世界で優雅なVIP(軟禁)生活を始める事となった。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



一方、学園島ーーー



パンデル達を見逃したサラは、一連の報告と対策をする為に学園長室へと足を運んでいた。


学園長室に着き、いつもの様にノックをすると直ぐに扉が開かれ、ピンク色の巨漢マカオがサラを出迎えた。



「あんらぁ〜サラ姐お疲れさまぁ。大変だったみたいじゃなぁ〜い。学園長さんがソワソワしながら待ってるわよん」


「マカオさんもお疲れ様でした。モーテルさんは休まれているようですね、容体も気になりますがまずはーーー」



マカオに労いの言葉を掛け、1度だけモーテルに視線を向けたサラだが 優先するのはソガラムへの報告と擦り合わせ。


それを理解してか、サラが最後まで発言する前にソガラムからサラの方へと歩み寄って来た。


「サラ君ごめんねぇー、いっつも君には大変な事を押し付けちゃって。でもパンデル君とラストルネ君まで出て来たのは驚いたねっ!ぼくもそっちに行ければ良かったんだけど…」


いつも通り、仮面で表情が隠れているソガラムは 申し訳なさそうに肩を落としながらサラに謝罪をした。


「いえ、今回は学園長がいらっしゃらなくて良かったかと思います。あのお2人は話し方や態度からは想像しにくいですが警戒心が強い方達ですので。それよりも、ガルル君について詳細を得る事が出来ないまま手放してしまい申し訳ありませんでした」


「いーよいーよ。サラ君の判断なら多分それで間違ってないと思うし、なにより今回ぼくってばなーんにも役に立ってないしねっ!」



反省しているのかいないのか分かりにくい態度で自分の無能をアピールするソガラムだが、何も役に立っていなかった訳ではないのはサラにも分かっている。


とはいえ、イレギュラーが重なり過ぎてしまった為、お世辞にもスマートに対応出来たとは言えないが。



「とりあえずぼくの方から報告すると、マリア君達は問題なしっ。問題があったのはパンデル君達の事がクローツ君とセルス君に勘付かれちゃった事かなっ、どうしよっか?」


「そうですか。クローツ君もセルス君も頭の回転が速い子達ですから、ある程度は話しておいた方が良いかもしれませんね。それに学園長もご覧になった通り ガルル君とシャイナス君の弟になったグルル君は他人の空似では片付けられない程に似ていました。パンデルさん達はガルル君に重要性を感じていましたので、セルス君を通してシャイナス君の弟であるグルル君を監視しておくのは必須かと」


「まーたセルス君かぁ…子供達には友達を騙す様なやり方をさせたくないのになぁ」



ガックリと肩を落としながら後ろ向きな発言をするソガラムは、子供達の心に黒い靄を掛けるようなやり方はしたくないと思っていた。


セルスに関していえば、既に今日…というより数時間前に親友であるタクトに同行する際、タクトの事もしっかり見ておくようにサラから指示を出していたが、その時もセルスはいい顔をしていなかった。



「学園長がそう仰るのであれば従いますが、何かが起き始めているのは確実です。そして、ここまで疑心を持ちながら『何か』と言っている時点で後手に回っていると私は思います。後手に回れば回る程、対策の幅も有事の際に守れる範囲も狭くなります。ーーー今、私達が掴む事が出来る唯一の手札はグルル君だけだと思いますが」


「んん〜、だよねぇ。でもなぁ〜、いやだなぁ…」


サラの言う事が間違いではないのはソガラムも理解しているが、まだ幼い子供達に嫌な思いをさせなくてはならない提案に 頷く事が出来ないでいた。


葛藤するソガラムを前にしているサラは無言でその様子をジッと見ている。

ソガラムの指示ならば従うが、サラの考えではグルルの監視と調査は必須だと判断している為、ソガラムの甘っちょろい葛藤に共感などは感じる事なく ただソガラムが結論を出すのを待っているだけであった。


しかし中々腹が決まらず、んんーと唸りながら悩むソガラム。

そこで、同じ部屋にいながらもここまで口を挟む事なくただ椅子に座ってモーテルの様子を見ていたマカオが立ち上がった。



「ねぇねぇ、部外者のワタシが口出す事じゃないかもしれないんだけど、簡単に解決出来る方法があるんじゃない?」


「マカオくーん、部外者なんて寂しい事は言わないで欲しいなぁ。なんとなぁーくだけど、ぼくはマカオ君にシンパシーを感じちゃってるんだよっ!ーーーそれでそれでっ?簡単な解決方法とは?」


「あら嬉しっ、うふっでもワタシは若ぁい男の子が好みだから淡き期待はしちゃだめよん・・・あらやだ、ワタシったらすぐに話がそれちゃうのは悪い癖よね。解決方法だったわよねん、そんなに大それた事じゃないわよ?子供達に嫌な思いをさせないようにタクちゃんの弟くんを監視したいのよね?それならーーー」



中々結論を出せずに唸るソガラムと、ソガラムの結論が出るまで口を出さずに不動の姿勢を保つサラを見ていたマカオが、案を提示した。



そして、マカオの提案を聞いたソガラムは


「採用っ!それならサラ君も文句ないよねっ?」


我が意を得たりといった様子でその提案を即採用した。


「私は初めから文句などは言ったつもりはありませんが…、それよりも学園長は本当にそれでよろしいのですか?ーーーいえ、大丈夫なのですか?」



意気揚々のソガラムとは対照的に、サラは不安を感じているようにそう言ったが、ソガラムが「ぼくは大丈夫だけど、確認しなきゃいけない事もあるから それ次第だねっ!心配はあるけどぼくはマカオ君の案に大賛成っ」と言った事でほぼ決定となった。




それからもソガラムとサラとマカオは話し合いを続けていたが、日が落ちる頃になってようやくモーテルが目を覚ました。


目が覚めたモーテルは、初めはボーっとしていたが、ガルルに喰べられて短くなった前髪に気付くと再び発狂して暴れ出してしまった。

しかしそれを予想していたマカオ達の手によって押さえ付けられ、サラがモーテルに謝罪をした事でようやく我に返り モーテルもサラ達に謝罪をした。



前髪以外は正常に戻ったモーテルに対し、サラはガルルの髪を通して何を見たか質問をしたが、モーテルは首を横に振って 成果を得られなかった事を告げる。



モーテルが見たガルルの中にあったのは闇だったと、モーテルは言った。


過去や心が見えないのではなく、見渡す限りの闇が広がっていたと。


ガルルの髪を通してガルルに入り込んだものの 負が充満する闇の中をただ歩かされていたと言うモーテルは 最後に小さな光を見つけたらしいのだが、それが何かを確認する前に前髪を喰べられてしまい我を忘れて暴れてしまったようだ。



余談だが、モーテルは生まれてから1度も自分の髪も他人の髪も切った事がなく、自分の髪の毛に関しては抜けた事すらないらしい。


それほど大切な髪を喰べられてしまったのであれば、任務を遂行出来なかったのも仕方ないとしか言いようがなく、サラもソガラムも責める事はなく逆に再び謝罪をしていた。


ーーー



思惑の見えないリードイストの暗躍に対して、それを邪魔したい八英雄パンデルとラストルネ。

一部の限られた人達には業族と呼ばれて危険視されている英雄2人は、デブディモとガルルという手札を手に入れる事に成功。


パンデル達にガルル達を奪われる形になった学園サイドは、ガルルと同種の気配を備え持つグルルを手の内に収めて置くために準備を始めた。




ーーーーー


ーーー




ザッハルテの最期の力で晴れ渡っている空は 久し振りの仕事を終えた太陽が地平線の彼方へと堕ちかけており、これから起きる波乱を予言しているかの様に 世界を真っ赤に染めていた。



それから6日ーーー


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