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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
124/165

【 話し合い 】


「いやぁ〜、良い結界張ってあるっスねぇ。ウラルちゃんの結界っスよね?本人がいないのにこの強度の結界を維持できるなんて、やっぱあの子はすげぇーっスねぇ」


「あのあの、パンちゃんがお部屋を散らかしてしまってごめんなさいですです」


壁を破壊して現れた女性2人組は緊迫感のない態度でズケズケと特別館の中へ足を進めながらそう言っていた。



パンちゃんと呼ばれていた軽い口調で話す茶髪の女性はスリムで小柄だが、おそらく20代半ば。

動きやすそうなジャージを着ており、ヘアーバンドのような物で前髪を上げている。


「なーんでラスが謝るんスか?それにここは学園なんスから、後でお掃除大好きダイソン君が喜んで掃除してくれるからヘーキっスよ」


「もぅパンちゃんは…いつまでもそんな子供みたいな事を言っていたらダメダメなのですです」



壁を破壊したのはパンちゃんと呼ばれた女性のようであったが まるで悪びれた様子を見せず、隣を歩くラスと言う名の女性に軽口を叩き 呆れさせていた。


ラスと呼ばれた女性はパンより少しだけ背が高いが、パンとは違い控え目な印象であった。

年齢はおそらくパンと同じくらいで、ポニーテールとツインテールを合わせた薄い緑色のトリプルテールという変わった髪型をしており、大きなポケットが付いたオーバーオールを着用しているせいでかなり幼く見える。


「ーーーーー」


サラとデブディモに見守られながら悠長に歩く2人がデブディモの目の前に来るまで、誰も動く事が出来なかった。


デブディモは驚きと戸惑いの為、ガルルはサラに意識を向けていた為、そしてサラは……



「パンデルさん、ラストルネさん。何故貴女達がここに?」


ガルルの相手だけでも苦戦すると思っていた最中、予期せぬ顔見知りの乱入により 目的を果たす事が更に困難になったと確信したからであった。


「パンデル…ラストルネ……どこかで聞いた名前のような気が・・・んん?んんんー!?パンデルとラストルネでぶってぇぇぇっ!?」


サラの胸中をよそに、サラの言葉を聞いて直ぐに反応をしたのはデブディモであった。



それもそのはず、この2人は誰もが知っている人物。

シオン以外には さして興味を持つ事がないデブディモでも知っている有名人、


「八英雄の拳神パンデル様と凶口ラストルネ様でぶかっ!?」


サラと同じく人類の強さの象徴、八英雄として知られる人物達であった。


今では歴史の教科書に当たり前のように載っている人物達。

とはいえ、サラやクローツやジャスティンのように表立ってメディアなどで顔出しなどはしておらず、教科書などに記載されている写真も英雄として認められた当時の物である為、デブディモが気付けなかったのも仕方がない事であった。



デブディモの驚愕を間近で受けた2人組は、同時にデブディモに視線を向けたが それぞれ違う表情を見せていた。


「あのあの、凶口って呼び方はやめて欲しいのですです」


ラストルネは少し困ったような顔でそう言い、


「拳神っスかぁ!まだウチの事をそんな風に言ってくれる人も居るんスねぇ……あれ?もしかして世間的にはまだウチらって英雄なんスか?」


パンデルは笑っていた。



デブディモの発言に反応した2人の態度は 警戒や緊迫といった様子はなく、まるで学校帰りに友達と談笑しているだけのような雰囲気がその場に漂っていたがーーー



「おおっーとサラさん、ダメっスよ。ってか無理っスよ。いくらサラさんでもその子を警戒しながらウチら2人の相手は出来ないっしょ?」


常人には気付くことすら出来ないサラの予備動作をパンデルが鋭い視線で牽制すると、和やかであった特別館の中の空気がどんよりと重くなった。


「ーーーーー」


サラとパンデルが視線をぶつけ合うだけの攻防を繰り広げていると、恐怖を実感しているわけではないはずのデブディモの身体が無意識のうちに小刻みに震えてしまっていた。


力量差があり過ぎる存在の放つ覇気に当てられただけで、無力な一般人はただ立つことすら困難になるのだと、デブディモは生まれて初めて実感していた。


「ーーーーー」


1分ほど穏やかではない視線の攻防が繰り広げられていたが、先に沈黙を破ったのはサラだった。


「・・わかりました、確かに分が悪いようですね。先日、セントクルス王城で貴女達の能力を見た時にも感じましたが、随分力を上げたようですね」


サラが口を開いた事で、目に見えない圧迫感が消え パンデルも肩の力を抜いてサラと会話をする事にしたようであった。


「あっ、やっぱ関わってたんスか。結構奮発してあの数の子分達を突撃させたのにやけに呆気なくヤラれたなぁーって思ってたんスけど、サラさん達まで手を貸してたんなら納得っス!もしかしてクロも居たんスか?いやぁー久しぶりにあの小生意気なガキンチョにも会ってみたいっスねぇー」


「ーーーーー」


納得がいったというように腕を組みながらウンウンと頷くパンデルは、旧友の存在を思い出して愉しそうな表情を見せる。


「でもさすがっスよねぇ。いくら低級メインの子分だけとはいえ、国民達に気付かせないで片付けちゃうんスから。まぁでもウチらだって遊んでばっかって訳じゃないっスからね。世の為人の為…とは言わないっスけど、自分の為に腕は磨き続けてるんで あれが全力だなんて思わないで欲しいっスね!ーーーってかその子、大人の話にはちょっくら邪魔っスね。デブ君、この子よろしくっス」


「あ、はいでぶ。ーーーガルル少年、こっちに来るでぶっ。パターン的にこの流れは多分もう大丈夫な流れでぶから、これ以上掻き乱すのは良くないと思われるでぶよー」


「・・・うん。」



サラと会話をしていたパンデルは、未だにサラに敵意を剥き出しにしているガルルに目を向けた後、デブディモにガルルをなんとかしてくれと伝え、デブディモは言われた通りにガルルを自分の元へと呼んだ。


「でぶでぃ・手、つなぐ」


デブディモに呼ばれたガルルは素直に言う事を聞き、デブディモの元に来るとギュッとデブディモの手を掴んで大人しくなった。


「うんうん、お二人はとっても仲が良いんですね。強い絆を感じるですです」


「こーやって見ると仲の良い ただの親子みたいっスね。とりあえずもう大丈夫そうっスから、ここはラスに任せるっス。ウチはサラさんと話してくるっスね」



大人しくなったガルルを見届けたパンデルはその場をラストルネに任せ、一人でサラの近くへと歩み寄って行った。


「お待たせっス。とりあえず今日は喧嘩なしで話し合いをしたいんスけど、いいっスか?」


「構いません。この場では私に選択権は無さそうですし、私も貴女に聞きたい事がありますので」


「りょーかいっス。なんかサラさんとこうやって話すのは違和感があるっスけど、仕方ないっスよね。じゃあ質問は交代でしていくとするっスか。嘘も隠し事もオッケーっスけど、意味のある対話が出来る事を期待してるっス」



ガルルの警戒も無くなり、ラストルネから離れたパンデルの提案を受諾したサラ。


一対一で向かい合った2人は、先程のような視線の攻防ではなく対話をする事になった。



「まずは私から質問をさせていただきます。貴女達はなぜデブディモさんとガルル君を手に入れようとしているのですか?」


「かぁー!相変わらずサラさんはいきなりっスねぇ。まぁいーっスけど。この2人は多分っスけど、あのバカ王がやろうとしている事に関係してるはずなんスよ。だから邪魔してるっス」


どんな状況でもペースを乱さないサラの言葉に、パンデルは懐かしいやり取りを愉しんでいるような明るい表情で言葉を返した。


「バカ王・・・リードイスト王の事でしょうか?パンデルさんはリードイスト王が何をしようとしているのかご存知なのですか?」


「わははっバカ王でちゃんと伝わっちゃうとこ、好きっスよ!でも質問は交互にっス。って言ってもウチが聞きたかった事は今の反応で分かったっスから、別の質問っス」



愉しそうに話していたパンデルが笑顔を消し、


「ーーーサラさん達は、バカ王の味方っスか?」


質問を投げかけた。



その瞳は光を宿さず 嘘は吐いても無駄だと理解させると共に、返答次第では完全に敵としてみなすという意思が垣間見えたが、


「いいえ、私達は善良な人の味方です」


サラは一瞬の迷いも無く即答していた。




「ぷっ、わははははっ!サラさん最っ高っスね!昔と全く変わってないじゃないっスか!いやぁー、安心したっスよっ」


サラの即答を見たパンデルは腹を抱えて大笑いした。


「正直ここに来るまではウチめちゃくちゃ緊張してたんスよ?サラさん達と喧嘩になったらどーしよーって。殴り合いはしてみたいって思ってるっスけど、本気で敵対するのはウチも嫌だったんスから」


ホッと胸をなで下ろすパンデルの言葉に偽りは見えないが、サラにはその理由が分からなかった。


「パンデルさんに敵対の意思がないのは理解しましたが、意味がわかりません。そもそも貴女達は何故リードイスト王を敵視しているのですか?前回のセントクルス王城の件も威嚇と警告だと聞いていますが、何に対する警告だったのかが未だに分かっていません」


「ええっ!?なんであれが威嚇と警告って知ってんスかっ、どこでその情報ゲットしたんスかっ!?」


「ーーーーー」


「そこはシカトするんスかっ!お堅いっすねぇ、まぁいーっスけど」



そこまでは愉しそうに話していたパンデルは、笑うのをやめて真剣な顔でサラの顔を真っ直ぐに見た。


「ーーーサラさんも異変には気付いてるんでしょ?地震、大雨、魔獣、黒い雨、更にはザッハルテさんの死。この一連の騒動が偶然だって考えるようなサラさん達じゃないっスよね?」


パンデルの言う通り、サラとソガラム学園長は地震の段階で違和感を感じ、立ち続けに起きている異変にリードイスト王が関与しているのではないかと疑ってはいた。


しかし確証を得る事はできず、調査をしようにも魔獣や雨雲削除の手配などに時間を取られてしまい手付かずのままであった。



「あのバカ王が何かをやろうとすると必ず大きな変革が起きる。何をしようとしてるかまでは掴めてないっスけど、なんであろうとウチはそれを止めたいんスよ」


「ーーーーー」


「バカ王が動くと、多くの人々にとって良い結果をもたらすのはわかってるつもりっス。でもーーーー」



ズオォォォォォォンッッ



サラとパンデルが会話をしている最中、パンデルが開けた壁の穴の方から 話を遮るように巨大な掃除機でも稼働しているかのような轟音が響いてきた。


「パンちゃんっ!ダイソン君が来ちゃったですですっ!」


ラストルネの言葉を聞いた全員が、轟音の鳴る方へと視線を向けた。



「ゴミハ、ソウジシナイト」


その場にいる全員が視線を向けた先でしゃがれた声と轟音を発しているのは、ウラルと同じようにサイズの合っていない執事服を着た幼い少年であった。


突如現れたダイソンと呼ばれた少年は右手にブラックホールのような魔力球を作り出し、破壊された壁の破片などを物凄い勢いで吸い込んでいた。

そしてダイソンの顔には、ウラルと同じ様に半分に割れた仮面が付けられているが 付いている場所はウラルと反対の左側。


ズオォォォォォォンッ


「うわぁ〜・・ウチら無視して掃除始めちゃってんじゃないっスか。会いたいとは思ってたっスけど、会うとやっぱめんどい奴っスねぇ。ってかサラさんヒドイっスよ、ちゃっかり助っ人呼ぶとか反則っス!ここはウラルちゃんの結界で魔力系は全部遮断されてたはずなのにいつ呼んだんスかっ!?」


「あのあの、パンちゃんが壁を壊したから結界も壊れちゃったんじゃないかなって思うのですです」


「あ…なるほどっス」



派手に登場したダイソンについて考えているパンデル達をよそに、壊れた壁の破片などが気になってしまったダイソンは念入りに掃除を始めてしまった。


パンデルはその様子を呆れた顔で見ていたが、ダイソンとサラ かつては八英雄として共に並び立っていた2人が集まってしまったこの状況は好ましくなかった。


なので、


「ラスッ!バックれるっスよ、マウスよろしくっス」


「ですです!うぅ〜、ぱっくんちょ!」


サラとの対話を中断し、退却する事にした。



ラストルネの掛け声に合わせて出現した大きな口は、一度だけニカッと笑うとデブディモとガルルを飲み込み、その後ラストルネも口の中に飛び込んだ。


脱出を邪魔されないように最後まで見張っていたパンデルも、ラストルネが口に入ったのを確認すると口に向かって走り出す。


「サラさん、今回はサラさんから重要人物を奪う形になっちゃったっスけど、ウチらはサラさん達と敵対したいわけじゃないって事は分かって欲しいっス!この少年についてはウチらで保護しながら調べてみるっスから、サラさん達はバカ王の悪巧みを暴いてくれると助かるっス!じゃあ今日は失礼するっス」


「ーーーーー」



パンデルの言葉をサラは無言で返したが、引き止めようとはしなかった。




TVの電源を切った時のようにスッと消えたマウスハウスを追う手段はなく、サラとダイソンだけになった特別館の中では ダイソンの右手に作られたブラックホールのような禍々しい魔力球にゴミが吸い込まれる音だけが響き渡っていた。


ズオォォォ、ズズッ



「ダイブ、キレイニナッタ」


パンデル達を呑み込んだマウスハウスが姿を消して間も無く、ダイソンが満足そうな顔で掃除を完了させた。


特別館の中はデブディモ達が訪れた時と寸分の違いもない状態に戻っており壁も天井も修繕され、先程までの荒れ模様が嘘のように綺麗に片付いていた。



「ダイソン君、綺麗にして頂いた後で申し上げにくいのですが、ここはすぐに撤去して下さい。ウラルさんの結界が破壊されてしまったので誰かに見られる可能性があります。そうなると面倒になりますので、出来るだけ早急に撤去をお願いします。私は学園長とお話がありますのでお先に失礼します」


ーーーパタン


「・・・・・」


振り返る事もせずに立ち去ったサラの後ろ姿を見送ったダイソン。


「キレイニ、ソウジシタノニ」


少しだけ切なそうな表情をしながらしゃがれた声で呟いた後、ダイソンは再度右手に魔力球を作り出し 特別館そのものを全て吸い込んで消し去った。


役目を果たしたダイソンは、自分で作り出した魔力球に吸い込まれるようにして姿を消し、そこにはいつもの学園の穏やかな風景だけが残された。


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