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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
122/165

【 衝突 】


特別館として用意された小さな美容院の中には2つのスタイリングチェアが横並びに設置してあり 右の椅子にはガルルが座っていたが、今はその椅子ごと真っ黒な毛に包まれている。


隣の椅子に座ってその様子を見ていたデブディモは、興味を鏡から毛の球体に移してドリンクを飲みながら観察していた。



「ほえぇ…さっきまでボキもあの中にいたんでぶかぁ。これ、知らない人が見たら完全にホラーでぶよ…」


光沢を放つ真っ黒な球体は時折ウネウネと動いており、今にも怪物が産まれてきそうな卵のようにも見えなくもない。


しかしデブディモにはこれがモーテルの能力である事はわかっている為、恐怖などはなく 今頃ガルルも過去の出来事を振り返っているんだろうなぁと考えながら、黒い球体が開放されるのを待っていた。



「デブサイクなボキですら こんなにビシッと決まってるんでぶから、元々可愛らしい顔をしているガルル少年はどんな風に進化するんでぶかねぇ。今日からはイケメン親子って言われちゃうかもしれないでぶねっ、楽しみでぶぅ」


再度 鏡に映る自分に目をやり 普段とは違う自分にニヤニヤしながら、もう少しで自分と同じ様な感動を得るであろうガルルの事を想像してぶひひと笑うデブディモ。


「それにしてもモーテルたんの能力は凄かったでぶねぇ。当時の事を思い出すだけじゃなくてその時の感情までリアルに感じて、でも今の考え方も出来たり出来なかったりで……上手く説明出来ないでぶけど、なんにしてもモーテルたんにはボキの黒歴史を全部見られたって事でぶよね。ぶぶぅぁ〜なんだか恥ずかしくなってきたでぶよ。嫌な気は全くしないでぶけど……。今はガルル少年の過去を見ているんでぶよね。ガルル少年、自分の事はなんにも話してくれないから ボキも少し気になるでぶ。ーーーそうだっ!ガルル少年がいいよって言ってくれたら、モーテルたんに何を見たか教えてもらうでぶっ」


ガルルが自分の事を何も話してくれないと言ってはいるが、ガルルと生活を共にするようになったデブディモは ガルルの過去については何も触れずに今日まで過ごしてきていた。


日を重ねるごとに増えていっているガルルの笑顔が 過去を思い出す事で消えてしまうのではないかと思ったのも理由の1つではあるが、嫌な事からは目を背けて今を楽しめばいいというデブディモイズムが、問題から目を背けさせていた。


それとは別に、ガルル自身そこまで口数が多くないのもデブディモがガルルの過去の話を聞かなかった理由でもある。


そしてそれは、言い方は悪いが デブディモにとって都合が良かったのも事実であった。


デブディモは人と接する事が苦手という訳ではないが、人と深く関わった事がほとんど無く、その為 重たい話をされたとしても気の利いた言葉を掛けてあげられる自信がなかったからだ。


だから今までは「話したく無い事は無理に聞かないのが優しさでぶ」と自分に言い聞かせ、目に見えない問題は切り捨てて 目に見えているガルルの笑顔を消さないようにする事を重視していた。



しかし今、モーテルという過去を知る事が出来る能力を持つ人物がガルルの過去を見ている。


目を背けていた問題を目にするチャンスが目の前にある。



デブディモイズムその2。

それは「迷ったら買え」である。


これはシオングッズを購入しようか迷っている最中に、他の人に先に買われてしまい手に入らなかった時に心に決めた教訓。

どうしようか迷ったら、買わずに後悔する前に買ってしまおうというもの。

そしてそれは買い物だけではなく全ての事において心掛けている事でもあった。



今回、たまたま訪れたアルバティル学園で偶然にも行われていたモーテルのスタイリングサービス。

モーテルの能力でガルルの過去を知る事が出来る可能性が出来た今 デブディモは知りたいけど知る勇気がなかったガルルの過去を、迷うくらいならガルルの許可が降りたら聞いてみようと思った。


ガルルにとって辛いであろう過去を知る事には多少の躊躇いはあったが、今日まで一緒に過ごしてきたデブディモには、どんな過去であろうと2人でならば乗り越える事も受け入れる事も出来るだろうという根拠の無い自信があった。



「チュ〜・・ずずずっ。あっ、無くなっちゃったでぶ。ゴミ箱はどこでぶかねぇ?」


ご機嫌な様子で首を左右に揺らしながらジュースを飲んでいたデブディモであったが、勢い良く吸い続けていた為 すぐに空っぽになってしまったようだ。



「んんん?なんか球体の様子がおかしいでぶね。これが普通なんでぶかね?」


空になったペットボトルをゴミ箱に捨てる為に椅子から立ち上がったデブディモがモーテルとガルルを包んでいる球体に目を向けると、球体は内側で何かが暴れているような動きをしていた。


モーテルの能力を初めて見たデブディモにはこれが異常なのか通常なのかの判別が出来ず、首を傾げながら見ている事しか出来なかった。



「まだガルル少年が包まれてから2分くらいしか経ってないから、終わりがけって事ではないと思うでぶけど…」


デブディモが状況を掴めずに首を傾げている間に、黒い球体の動きは先程よりも激しくなっていった。


球体だった毛の塊はお菓子の金平糖のような形になり、突起物が秒単位で暴れ回っている。


「な、なんかヤバイ気がするでぶけど大丈夫なんでぶかこれは!?」


その場で暴れ回る球体だった物を見てデブディモが怯え始めると、唐突に特別館の入り口の扉が開かれた。



バンッーー


「うわぁっ!な、なんでぶかっ!?」



勢い良く開けられた扉の音に驚いたデブディモが視線を向けると人影が2つ視界に入った。


1人は片手に鞭を持ち もう片方の手に魔力を練っているサラ。

もう1人はもの凄い勢いで球体に向かって走り寄るピンク色の巨漢。


「マカオさん、力ずくで構いません。モーテルさんを引き剥がした後、しっかりと抑えて下さい」


動揺するデブディモを放置し、サラにマカオと呼ばれたオカマのようなピンク色の巨漢は暴れ回る毛の塊に飛び掛かった。



「なぁにをブチギレちゃってるのよっ!いいから落ち着きなさいよーーーって、言ってんだろぅが、このアホンダラァァァァッッッ」



マカオは毛の塊に飛び付くと逞しすぎる右腕を振り上げ、そのまま毛の塊目掛けて振り下ろすとズドォォォォンと大きな音と衝撃を発生させた。


「ーーーーー」


大砲を撃ち込まれたような衝撃のせいで特別館の中はグチャグチャになってしまったが、倒壊はせずに済んだようだ。



モシャモシャモシャモシャーー




衝撃の揺れが収まり舞い上がった木屑が晴れると、先程まで黒い球体があった場所にはガルルが立っており、少し離れた場所にはモーテルとピンク色の巨漢がガルルの方を向きながら立っていた。


デブディモは先程の衝撃で入り口付近まで飛ばされており、デブディモのすぐ横にサラが立っていたが、サラの視線もやはりガルルに向けられていた。



「ちょっとぉ。いつもケッケッケッって笑ってるあんたがブチギレるなんて珍しいじゃないの。どうしちゃったのよ?」


マカオが呆れとも心配ともとれる質問を投げ掛けたが、服も髪も乱れたモーテルは俯いたまま視線だけはガルルから外さずにプルプルと肩を震わせていた。



「・・喰い、やがった。喰いやがったっ。あのクソガキッ、私の髪様を喰いやがったぁぁぁっ」


怒りで我を忘れているモーテルが血走った目でガルルを睨みつけ、自分の髪の毛を急速に伸ばして複数のドリルのような形に作り上げていく。


「いつまで私の髪様を喰ってるつもりだぁぁぁぁっ!死ねぇぇぇぇっ」


後ろ髪で作られた複数のドリルはガルルに狙いを定め、勢い良くガルルを貫く為に向かって行ったがーーー


「落ち着きなさいよって言ったばっかりでしょうがっ!ーーったく、仕方ないわねぇっ」



モーテルの隣に立っていたマカオが溜め息を吐きながら、その大きな右手でモーテルの顔面を鷲掴みにして魔力を放出した。


「離せぇぇぇっ!はな…せ……」


マカオの大きな手から放出された魔力を顔面に押し付けられたモーテルは、最初こそ抵抗していたが すぐに力が抜けたようにグッタリとなっていった。



モシャモシャモシャモシャーー


「あらやだ。この子、本当にモーテルの髪を食べちゃってるわねぇ。ーーーサラ姐、どうするの?ワタシの胸筋がこの子は危険だってピクピク反応しちゃってるわよ。可愛いから将来が楽しみではあったけど…始末しちゃう?」



(始末・・・?

ガルル少年を、殺すって事でぶか!?

なんで、どうして?

そんなの…そんなのって…)



突然のサラとマカオの乱入、爆音と衝撃、モーテルの絶叫。

現状に全く思考が追いついていなかったデブディモだが、マカオの発した始末という言葉で我に返り ここに居ては自分もガルルも危険だと理解した。


危険を理解してからのデブディモは機敏だった。

イジメられていた経験があるデブディモは、逃げるという行為を円滑に行う事に長けていたのが幸いしたのかもしれない。


足の震えなど気にもせずガルルに駆け寄り、モシャモシャとモーテルの髪の毛を食べているガルルの小さな手を掴んで、サラのいる入り口ではなく 先程の衝撃で亀裂の入った壁に向かって走り出した。


「ガルル少年っ、逃げるでぶよっ!」


「あんらぁ〜。あのおデブちゃん意外と状況を見えてるわねぇ。そ・れ・に、必死に子供を守ろうとするなんて可愛いとこあるじゃない、ウフッ」



デブディモの判断はおおよそ正しかった。


特別館に唯一ある出入り口に向かえば確実にサラに捕まってしまう。

多少の怪我はするかもしれないが、亀裂の入った壁に体当たりをして外に飛び出す方が逃げ延びる確率は高い。


そこまでは正しい判断だったのだが、


「ぷぎゃーーなんでぶか、この壁。ビクともしないでぶっ!」


デブディモはタフネスのアイデンの上に自強化魔法を掛けて壁に体当たりしたが、ヒビ割れている壁を壊すどころかヒビを増やす事すら出来ずに弾き返されてしまった。



コツッ コツッ コツッ


その様子を見ていたサラがゆっくりとデブディモ達に歩み寄り、1メートル程の距離を置いて立ち止まった。


「この部屋はウラルさんの結界で守られていますので常人に破壊は不可能です。大人しく我々に従って下さい。ーーーマカオさん、後は私が対応しますのでモーテルさんを学園長室へ連れて行って休ませて下さい」


「はいはぁ〜い。じゃあおデブちゃん、またどこかで会えるといいわねぇ。ん〜ムチュッ」



サラが視線をデブディモに向けたままマカオに指示を出すと、マカオは意識を失っているモーテルを片手で担ぎ上げながらデブディモに投げキッスをした後 お尻をプリンプリン揺らしながら扉から外に出て行った。





♾♾♾♾♾♾♾♾♾♾


本日はクリスマスですね。


私は昨日も今日も仕事ですが

皆々様は素敵な聖夜をお過ごしですか?


私は昨日も今日も仕事ですがっっ!!

あれ…昨年も同じような事を呟いたような…


成長のない私ですが、閲覧して下さっている皆様のおかげで1年も続ける事が出来ました。

本当にありがとうございます。


タクト君達の物語はまだ中盤ではありますが、これからもお付き合い頂けると嬉しいです。



ーーーー


大切な人がいる皆様へ


寒い冬だから出来る

小さな魔法を教えます。


普段はただ繋いでるだけの手を

今日は5秒だけ、あなたの両手で

大切な人の右手を包んで暖めてください。


そして優しく手の甲にキスをしてあげて下さい。


キスをされた相手は全身寒いはずなのに

あなたが包んだ右手から

全身が暖められた気分になります。


魔法は完了です。


真っ白な雪景色も

キラキラ光るイルミネーションも

あなたを輝かせる引き立て役になります。


いつもなら恥ずかしくて出来ない

ほんの5秒の魔法も

今日は寒さで恥ずかしい感覚が

麻痺したせいにしてしまいましょう。


今日はクリスマス


相手はもうあなたの魔法にかかっています


ドレスはなくても

今夜はあなたが主役です

思う存分、楽しんで下さい。


メリークリスマス

聖なる夜が明ける前に

忘れられない想い出を。


♾♾♾♾♾♾♾♾♾♾




P.S.

恋人がいない人は、私と傷を舐め合いましょう。


来世に期待するセカンドより。

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