【 世界の中心でボキはぶひる 】
学園島に到着した時から常に視界に入る程の大きさを誇るアルバティル学園は、近くで見ると視界に入りきらない広大さでデブディモは「ほえぇ、圧巻でぶぅ」と呟いていた。
「見ると聞くでは大違いって言う言葉があるでぶけど、これは逆に噂以上でぶよっ!シオンたんが在籍しているのも納得のテーマパークぶりでぶっ!」
開け放たれている正門の前で大きな口をポカーンと開けながら、アルバティル学園を見上げているデブディモ。
そんなデブディモに1人の若い男が近づいて来た。
「こんにちわ、ようこそアルバティル学園へ。お2人は観光でこちらへ?」
「イエッサァーでぶっ!マイソウルヴィーナスであるシオンたんが在籍している学園を近くで拝見したくて馳せ参じたでぶっ!」
声を掛けてきたのはアルバティル学園の正門警備をしていた若い警備員であった。
間抜けな顔でアルバティル学園を見上げるデブディモに、若い警備員が笑顔でデブディモ達に声を掛けると テンションが上がっているデブディモは何故か敬礼をしながら本日の目的を告げた。
「遊園パスはお持ちですか?お持ちでしたらこちらで提示して頂ければ正門から入って頂けますが」
アルバティル学園は年に4回ある長期連休時は遊園パスを持つ人なら他大陸の一般人でも入園を許可しており、夏と冬は特に来園者が多い。
「パスは現地でも貰えるって書いてあったから持ってないでぶ。ここでも申請できるんでぶよね?大人1人と子供1人でお願いするでぶっ」
学園生にとってアルバティル学園は学校としての認識が強いが、学園生ではない人達から見ればアルバティル学園はテーマパークと変わらないと思っている人も少なくはない。
しかし、あくまでもここは学び舎でありMSS共生育成機関であり学園島の最高責任者が住む王城代わりの場所でもあるので、入園するには審査が必須である。
事前に遊園パスを手に入れる場合は、遊園パス発行売り場に身分証を持って行くかメールで送信すれば数日中に審査が終わり 遊園パスが本人の元に転移配送されるが、デブディモが学園島に行こうと決めたのは今日の早朝だった為 遊園パスの申請はしていなかった。
「そうですか、わかりました。では遊園パスの手続きをしますのでーーーーえっ?は、はいっ!わかりましたっ」
笑顔でデブディモ達に対応してくれていた警備員が話の途中で突然言葉を切り、デブディモの方を向きながらもデブディモではない誰かに緊張した声で返事をしだした。
目の前で理解不能な行動をする警備員を見たデブディモは、当然ながら意味がわからず首を傾げている。
「ん?どうしたんでぶ?大丈夫でぶか?」
「突然失礼しました。念話通信が入ってしまって、話を途中でとめてしまい申し訳ありませんでした」
若い警備員が突然言葉を切ったのは念話で誰かから通信が入ったからのようで、デブディモも納得した。
「そうだったんでぶか。それよりボキは早く中を見たいんでぶけど、パスはどうすればいいんでぶか?」
「あなた方を案内をして下さるお方が来て下さいますので、もう暫くお待ち下さい」
「・・・?わかったでぶ」
デブディモは若い警備員の言い方に違和感を感じてはいたが、すぐに案内してくれるならいいかと思い 素直に待つ事にしたが、待たされたのはほんの数秒だった。
「お待たせ致しました」
そして、案内をしてくれるという人が来た事で デブディモは先程の警備員が言った違和感のある「案内をして下さるお方」という発言の意味を理解した。
「ようこそアルバティル学園へ。初めまして、私はこの学園で教師をしておりますサラ・ストイクトと申します。ご不快でなければ学園内の案内をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「なななななななっっっっなんですとぉぉぉっ!」
人類の生ける伝説、八英雄の女リーダー サラ・ストイクトの突然の登場にデブディモは完全にパニックになった。
「こ、これは夢ではないんでぶよね?ドッキリ番組・・・なんかにストロングクールビューティーサラたんが出るわけもないでぶし…いやいやでもでも……」
「ーーーーー」
サラが正門に現れてからしばらくの間 デブディモはその場でうろうろクルクルしながら喜びや困惑が入り混じった感情に翻弄されブツブツ独り言を言っていたが、少し落ち着いたところでサラとデブディモとガルルの3人は学園内へと入る事になった。
ここにサラがいなければ綺麗な噴水や不可思議な学園長の銅像 それにお城のような校舎を見てワイワイしていたはずだが、そんな余裕は今のデブディモにはカケラも持ち合わせていなかった。
ーーー
「遊園パスをお持ちでないとの事ですので、申し訳ありませんが簡単な審査だけさせて頂きます。身分証があれば拝見してもよろしいですか?」
「は、はいでぶ。あ、でもガルル少年は身分証がないんでぶよ。身分証が無いとダメでぶか?」
少し時間が経ったおかげでパニックは収まったが、周りを見て景色を楽しむ余裕がなかったデブディモは、サラに声を掛けられるまでどこをどう歩いてここまで来たかも把握していなかった。
いつのまにか場所は屋内。
ゴミ1つ落ちていない綺麗な通路には所々にソガラム学園長の銅像が怪しく設置されており、物音1つしない広い通路が少しだけデブディモを不安にさせた。
「ガルル君と言うのですね。12歳以下の方は身分証は必要ありませんので大丈夫です。貴方はーーーデブディモ・ベツニエイヤンさんですか。ご提示ありがとうございます。審査はすぐに終わりますので、こちらの部屋で椅子に座って少しだけお待ち下さい。では後ほど」
「わ、わかり申したでぶ」
サラに言われるまま部屋に入ったデブディモとガルル。
部屋に入ったはいいが電気が点いておらずカーテンが閉まっているのか部屋の中の様子がよく見えない為、デブディモは部屋に入った場所から動けずにいた。
「ま、真っ暗でぶよ…ホラー映画とかは好物でぶけど、自分が怖い思いをするのは苦手でぶぅぅ。ガルル少年、手を…繋いであげてもいいんでぶよ?」
誰が見ても強がりだと分かる発言をしながら、デブディモは隣にいるガルルの手を握った。
「・・・・」
人肌に触れると心なしか怖さが薄れていき、徐々に暗闇にも目が慣れてきた。
目が慣れてきたおかげで薄暗い部屋の中央辺りでテーブルのような物が見えたデブディモは、ここで突っ立っていても仕方ないと思い 中央に置かれてあるテーブルに向かって一歩足を進めると、薄暗かった部屋が突然パァーッと明るくなった。
「うわぁっ!ビックリしたでぶぅ。動いたら自動で電気が点く部屋だったんでぶね…」
そう。
この部屋は中の人が動くと自動で明かりが点く感知センサー付きの部屋であった。
デブディモが暗闇に怯えて 扉の前から動かなかったから、電気が点かなかっただけだったのだ。
「とりあえずサラたんも座ってろって言ってたでぶから、座って待つとするでぶか…」
部屋が明るくなった事でさっきまでの薄暗い恐怖心が消え、デブディモはガルルの手を引いて部屋の中央へと進み 綺麗なテーブルに備え付けられている椅子へと腰を掛けた。
「おぉ!美味しそうなお菓子がある沢山あるでぶよっ!ここに置いてあるって事は、ご自由にお食べ下さいって事でぶよね?後になって食べたらダメなヤツでしたぁなんて事は流石にないと思うし、遠慮なくいただくでぶよ。ガルル少年もほら、ボキと共犯になるでぶよっ」
テーブルの上にはマカロンやケーキなどのお菓子が用意してあり、デブディモはほんの少しの躊躇いの後 目を輝かせながらお菓子を食べ始め、デブディモに勧められたガルルも同様にお菓子を食べ、2人は有意義な待機時間を満喫し始めた。
ーーー
「んー?飲み物はないんでぶかねぇ。コップはあるんでぶけどね…」
お菓子を食べ始めて数分、飲み物も欲しいなぁと思ったデブディモはテーブルの上を見渡したが、グラスはあるが肝心の飲み物がどこにもなかった。
もしかしてどこかにドリンクバーのような物でもあるのかと思い あたりを見回してみたが部屋自体それほど広くはないので、立ち上がって探さなくてもデブディモ達の前にあるテーブル以外には何も無い事が確認出来た。
まぁ仕方ないかと思い、喉の渇きを潤す事を半ば諦めていると
「お飲み物は冷たい紅茶でよろちかったでちょうか?」
と、斜め後ろから突然声を掛けられ、デブディモは身体をビクッと震わせて驚いた。
「うわぁっ!?い、いつの間に現れたんでぶかっ!?」
驚いて振り向いた目と鼻の先には、顔を仮面で半分だけ隠した不思議な少女がティーポットを持って立っていた。
「驚いてくだたって光栄でつ。わたくちはウラルと申ちまつ。パパたまからお客たまをおもてなちつるように仰てつかりまちたので、何かご要望がございまちたらお申ち付けくだたい」
所々聞き取りにくい言葉を話すウラルと名乗る少女は、話の内容と服装から執事メイド的な人物であると理解したデブディモ。
そしてデブディモは
「うんうん…なるぽ。なるぽでぶ。なるぽなのでぶよ……でゅふ、でゅふふふふっ!アルバティル学園……ここは………最高ではござらんかぁぁぁぁっ」
歓喜のでゅふふふを炸裂させた。
気まぐれでフラッと訪れた学園島。
アルバティル学園に立ち寄るついでに入った小さな喫茶店では、31年の人生で食べたタコ料理の中で圧倒的1位に君臨するタコ料理を食べる事が出来て大満足し、
本日の目的地であるアルバティル学園では、運が良ければチラッと顔が見れたらいいなぁと思っていた英雄サラに到着してすぐに会う事が出来たうえ まさかの道案内までしてもらえて大パニック。
そして今、美少女執事メイドコスの半仮面女子がご主人様扱いしてくれている……
デブディモは今、世界は自分を中心に回っているのではないかと思う程に浮かれきっていた。
「では早速、ボキは炭酸ジュースを所望するでぶっ!ビリル級に痺れる炭酸でぶよっ!」
「かちこまりまちた、デブディモたま」
「ぶひひ、ぶひゃっひゃっひゃっーーー・・・」
それからデブディモはガルルと一緒に有意義で優雅な待機時間を満喫し、サラが戻って来るまで貴族ごっこをしながらお菓子を食べ続けた。
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