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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
118/165

【 学園島に訪れた2人 】



ーーー同日、14時 学園島。


学園島から告別式に出向いたのはもちろんタクト達だけではなく、島に住む多くの人達…というよりは世界中の多くの人がセントクルス王国に集まっている最中、人が少なくなっている学園島にわざわざ訪れた2人組が居た。



2人の目的地はアルバティル学園。


しかし、ただ真っ直ぐアルバティル学園に向かうのではなく、大通りから外れた道を進んだりしながら歩き 道中で小さな喫茶店に入って行った。


カランカランッーーー



「へいらっしゃっい。2名様ですね?今日はセントクルスの方でお偉いさんの葬式があるってんで他のお客さんはいないから 好きな席にどうぞっ」


2人が入った店はネジリーのたこ焼きっさ。


恰幅の良いネジリー店長に迎え入れられた2人は、4人掛けのテーブル席に座ってメニュー表を広げた。



「ここは隠れた名店って言われてるらしいでぶよっ。味もさる事ながら料理のインパクトが凄いって評判なんでぶって。ガルル少年は何にするでぶ?」


「でぶでぃと・一緒の食べる」


「ガルル少年よ。なんでも一緒が好きなのは知っておるでぶけど、ここは別々のを注文する事を推奨するでぶ!違うのを頼んで一緒に食べれば、2つの味を共有出来て2倍一緒でぶよっ!お得っ!」


「わかった・じゃあ、ぼきはこれにする」


「うほっ、1番人気のオクトパスペシャルでぶかっ。いいでぶねぇ、じゃあボキは…タコとチーズのフォーチュンピザにするでぶっ!すみませーん、注文お願いするでぶよぉー」



学園島に訪れていたのはデブディモとガルルであった。


2人は大図書館街から帰宅した後 港街シーガルルメルで一緒に暮らし始め、頻繁に歌姫シオンの聖地巡礼旅行をしていた。

そして今日は歌姫シオンと相棒ケントが名前だけでも在籍しているアルバティル学園を見るために学園島へと訪れたのだ。


基本的にはセントクルス大陸内の聖地巡礼をメインに行うデブディモ達であったが、今日はザッハルテという偉人の告別式がセントクルス中心街で行われるとの情報を知り「セントクルスに人が集まるなら他大陸は人が少なくなる…という事は、周りの目を気にせずにアルバティル学園をゆっくりじっくり拝むチャンスではござらんかっ」という対人苦手症的な発想に至り、学園島へとやって来ていた。



「へいおまちっ!オクトパスペシャルと、タコとチーズのフォーチュンピザです。熱いから気を付けて・・・おや?坊やはタクト君の弟…じゃあないみたいだね。ごめんよ、知り合いにソックリだったもんだから。ーーーお2人さんはウチの店初めてだね?パンフレットを持ってるって事は他大陸から来たのか。雨も上がったし親子で観光かい?」



注文した料理を運んで来た店主ネジリーは、歌姫シオンのプリントがされたバスタオルをロープのように羽織るガルルを見て、顔も格好もよく似ているグルルと勘違いしそうであったが、髪の色や表情ですぐに別人だと判断し、軽く謝罪をした。



「うーむ、ボキ達はやっぱり親子に見えるんでぶねぇ。お嫁さんどころか恋人すらできた事ないボキがパパって…でも、確かにボキとガルル少年の関係はなんなんでぶかね?友達とはちょっと違う感じでぶし、血は繋がってないから親子でも兄弟でもないでぶからねぇ…」


ネジリーの何気ない一言にデブディモは首を傾げて考えていたが、、、結局わからなかったようだ。


しかし、デブディモの正面に座るガルルはその答えを知っているようで、首を傾げるデブディモを不思議そうに見ながら答えを口にした。


「でぶでぃは・ぼきの幸せ。おかしより・幸せ」


ガルルにとってデブディモは兄でも親でもなく、幸せのようだ。


「はははっ、保護者冥利に尽きるじゃないですか大きいお兄さんっ!おっと食事の邪魔してすまなかったね、冷めないうちに召し上がって下さい。ウチのタコは絶品ですからねっ」



ネジリーが笑いながらデブディモ達の元から立ち去ると、デブディモとガルルは揃っていただきますと言い、食事を始めた。


ネジリーの料理は2人の口にも合ったようで、うまいおいしいと騒ぎながら食事を進めていき、あっという間に平らげてしまった。


想像以上の美味しさに感動した2人であったが、本日の目的はあくまでも聖地巡礼である為 食事を終えるとすぐに席を立ち、お会計を済ませて店を出る事にした。


「おじさんご馳走さまでしたでぶぅ、こんなにおいしいタコは初めて食べたでぶよっ!また食べに来るでぶぅ」


「おっ、嬉しいねぇ。またお待ちしてますよ!観光、楽しんで来て下さい、ありがとうございましたっ」


ーーーーー



店を出たデブディモは、おいしい料理で満たされた大きなお腹を両手で優しくこねくり回しながら アルバティル学園へと向かって歩いていた。



「いやぁ〜、味もインパクトも最高だったでぶねぇ!学園島にはああいう隠れた名店が沢山あるって話でぶから、今度泊まりがけで学園島散策するのもいいかもしれないでぶねっ!」


晴れた空を見上げながら、大満足の食事の余韻に浸り 今日の目的も果たしていないのに今後のプランを語り出すデブディモ。


「それにしてもいい島でぶねぇ。今日は特に人が少ないってのもあると思うけど、自然が多くて人も優しくて…ボキもMSSがあればこんな島で暮らすことが出来たんでぶかねぇ。ーーーまぁでもセントクルス大陸にはセントクルス大陸でいい事は沢山あるからいいんでぶけどねっ、シオンたんと同じ大陸に住んでるってだけで幸せになれるでぶひひっ!あっ、それよりガルル少年。今日は勝手にどっか行ったりしないでくれでぶよっ、学園島はボキにとって未知な場所でぶから、逸れたら探せなく・・・あびゃぁぁぁっ、さっそく居なくなってるでぶぅぅっ!」


ネジリーの店を出てから5分。


デブディモは隣にいると思い込んでいたガルルにひたすら喋りかけていたつもりであったが、それがただの独り言だと ようやく気が付いた。


ガルルはデブディモと一緒に出掛けている時に、ほぼ毎回 一人でフラッとどこかへ行ってしまう。

今まではセントクルス大陸の聖地巡礼中に逸れるだけだったので、ある程度土地勘のあるデブディモがガルルを見つけ出す事が出来ていたが、今日訪れた学園島はデブディモにとって未踏の地である為、ガルルの行きそうな場所の見当すらつかない。


周りを見渡してみたがガルルの姿はなく、誰かにガルルを見てないか聞きたくても、街から少し外れた場所を歩いてしまっていた為 そもそも人がいない。




ーーーーー五分前



ネジリーの店を出たガルルは、テクテクと歩いて行くデブディモには付いて行かず 店の前でデブディモの背中を見送っていた。


デブディモの大きな背中が小さくなるまで見送ったガルルは、今しがた出たばかりのネジリーのたこ焼きっさの中へと戻っていった。


カランカランッーーー


「へいらっしゃっい。ーーーおや?黒髪の坊やじゃないか。どうしたんだい、忘れ物か?」


今さっき店を出たはずの少年が再度入って来たのを見たネジリーは忘れ物でもしたのかと思い、先程ガルル達が座っていたテーブルに目をやるが、そこには何もなかった。


「・・・・・」


テーブルから少年へと視線を戻すと、少年は何かをくれとでも言うように右手を差し出していた。


そして、


「おかし・・・」


と、一言呟いた。



その瞳は、何も映さない深黒そのもの。


以前 宿屋の老主人を食殺した時と同じ瞳であった。


宿屋の老主人はガルルの「おかし」という願いを叶えてやる事が出来なかった為、老主人自身がガルルのお菓子にされてしまったが、ネジリー店長はーーー


「あぁ、そういう事か…。すまないねぇ坊や…」


宿屋の老主人と同じように申し訳無さそうな表情で、そう言ってしまった。


この返事によりネジリーの人生は幕を閉じる…





と思われたが、


「ほら坊や、タコ足キャンディだ。すまないねぇ、今日はお菓子サービスの日だったのに渡すのを忘れちまってたよ。さっきの大きいお兄さんにも渡しといてくれるかい?それと、こっちはお詫びの吸盤ソフトクリームだ。サービスの事、教えてくれてありがとうな」



そう言うネジリーの背後の壁には「本日お菓子サービスデイ」と書かれた手作りのポスターが貼られていた。


些細なやり取りで九死に一生を得た、とは夢にも思っていないネジリーがガルルにお菓子を渡すと、ガルルは深黒の瞳に僅かな光を灯してニッコリと子供らしく可愛い笑顔を見せた。


「あり、がとう!幸せもらったら・ありがとう。おかし・ありがとう。でぶでぃにも・おかしくれて・ありがとう」


「どういたしましてっ。アイスが溶ける前に持って行ってあげな。転ばないようにするんだぞ」



大きく頷いたガルルは両手にアイスとキャンディを持って店を出ると、デブディモが歩いて行った方角へと小走りで進んで行った。


小走りで少し進むと あたふたと立ち往生しているデブディモをすぐに発見し、アイスとキャンディを渡した。


何がどうなってアイスとキャンディを持ってくる経緯になったのかわからなかったデブディモはガルルにどういう事なのかと聞くと、ガルルは笑いながら「食べなかったら・増えた」と意味のわからない事を言っていたが、ガルルの持って来てくれた吸盤ソフトクリームが美味しかったのでデブディモも深く考えるのをやめた。




そして2人でキャンディを舐めながら暫く歩いて行くと、本日の目的地である世界最大の学園『アルバティル学園』の正門前へと辿り着いたのである。

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