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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
116/165

【 誤差 】



告別式会場に戻ると先程よりも多くの人が集まっており、他国の偉いであろう人達はお互いに挨拶などを交わしているが 告別式の準備をしている人達は早歩きで忙しなく動き回っていた。



「ベルーガ総隊長さん、送って下さってありがとうございました。それとさっきは色々とすみませんでした」


「気にしなくていい。陛下の望みに応えてくれて感謝する。このまま学園島に帰るというのなら私が送るが、どうする?」


リードイスト王の命令とはいえ悪くもないのに謝罪をさせてしまった事やグルルの謎の咆哮も含めてベルーガ総隊長には迷惑を掛けっぱなしだ。


「ありがとうございます。でも、俺達はここで大丈夫です」


これ以上は迷惑を掛けるわけにもいかないので、俺達はお礼を告げた後ベルーガ総隊長と別れて会場の外へと歩いて出て行った。



ーーーーー



時刻はもうすぐ正午。

一般参列者が入場出来る時間まではまだ後2時間あるが…


会場の外には、俺の予想を遥かに超える大勢の人が集まっていた。


「すごい沢山集まってるな。ザッハルテさんって、もしかして人気者だったのか?」


俺の印象では、どちらかというと人に避けられているイメージが強かったが、葬式にこれだけ多くの人が集まるという事はそれだけ慕われていたという事だろう。


「セントクルス王国以外の人達からは尊敬されてたはずだよ。実際俺も子供の頃ワインベルクでザッハルテ爺さんが村に雨を降らせてくれているのを見た事あって、その時は村人全員でお祭り騒ぎして喜んでたからね」


どうやら先程リードイスト王が言っていた事は本当だったようだ。


セントクルス王国では変人扱いされていたのに…


「ーーーーー」


でも、なんだろうーーー胸が熱い。


思い出話をしたせいか、ザッハルテさんの為にこれだけ多くの人が集まってくれている事が、嬉しくてたまらない。


ザッハルテさんの死に顔を見た時には特に何も感じなかったのにな。

リードイスト王があんな事を言うから…



「なぁセル、ザッハルテさんが最期に呼んだ名前…王様は俺の事だと思っているみたいだったけど、セルはどう思う?」


俺は、正直わからなくなっていた。

初めはもちろん王様の勘違いだと思っていたし、今でもその考えは変わっていない。


でも……



「んー、本当のところは結局あの爺さんにしか分からないから もう確認のしようが無いけどさ…さっきのタクトの話を聞いたら、俺も爺さんが呼んだ名前はタクトだったんじゃないかって思えてきたよ」


「そっか…そう、だったらいいな……」


もしも、ザッハルテさんが最期に俺の名前を呼んでくれていたのなら…そう思うと、また胸が熱くなった。

それに加え、チクチクと痛くもなった。


なんでだろうな…

雨雲削除の件が無ければザッハルテさんの名前すら思い出す事なんてなかったはずなのに…

関わったのなんて、子供の頃に一度だけのはずなのに。


胸が痛くて、苦しくて…悲しいよ。


「ーーーーー」


「タクト悪い、俺ちょっと用事あるから一回学園島に戻らないといけないんだわ。2人は今からどうする?もう学園島に戻るなら一緒に行く?」


参列者の波に逆らいながら進んでいる途中でセルが申し訳なさそうにそう言ってきたが、俺は少し悩んだ後に


「いや、俺はもう一回ザッハルテさんにちゃんとお別れを言ってくるよ」


と、答えて足を止めた。


「そっか、おっけー。俺も用事が終わり次第連絡するけど、俺の方が遅くなるかもしんないからタクトが帰る時は一回メール入れといてよ!んじゃまた後でなぁ」



セルと別れた後、俺とグルルは供花を購入して一般参列者の列に並び 告別式が始まるのを待つ事にした。



14時から一般入場が開始されるので、まだ時間がある。


少し前の俺ならヘッドホンで耳を塞ぎ、シオンの歌を聞きながらぼぉーっとしてたはずだ。


でも今は隣で俺と手を繋いでいるグルルがいる。


そのおかげで最近ではヘッドホンがただのネックレス代わりになってしまっている。


「ぐるるとたっくと、ふくおなじー!たっくとといっしょすーき、もひひー」


こうして大人しくしているのを見ると普通の可愛い子供なのだが…

時折見せるグルルの豹変は、普通の子供とはかけ離れ過ぎている気がする。


さっきにしてもそうだ。

魔法名を口にしていなかったので あれがなんの魔法かはわからないが、威力が攻撃魔法の中級…いや上級くらいか?

とにかく異常なくらい強力だった。


グルルは出会った時から天才の片鱗を見せていたが、善悪の区別がちゃんと付いていない子供があのような力を無差別に放つようでは、この先 普通に暮らすことが出来なくなってしまう。


「なんとかしないとなぁ…」


それに破壊力のある魔法を口から放つなんて普通の人はしない。

出来ないわけではないが普通は手を媒体にするし、なにより危険だ。


「たっくと、どったのー?」


「・・いや、なんでもないよ。ほら、もうすぐ14時だ。はぐれないように手は離すなよ」


「おおー、わかたー!」


笑いながら元気良く返事をするグルルの口元には先程の咆哮の痕跡などはなく、毎日ちゃんと歯を磨いている為 白くて綺麗な歯がきちんと並んでいた。


まぁなんにしても、咆哮の件はリードイスト王も許してくれたし怒らないであげてくれと言っていたので、今はひとまずその事は忘れよう。

おそらく侵入者というのも、王様がグルルを庇う為に嘘を吐いてくれたんだと思うしな。


ーーーーー



『ザッハルテ・トルテ氏の告別式にお集まり下さった皆様へ申し上げます。まもなく会場を一般開放致しますが、大変混み合っておりますので係員の指示に従って慌てずゆっくりとご入場いただきますようご協力お願い致します』


先程の咆哮の事ではなく 今後のグルルへの教育について考えていると、告別式会場の一般開放の時間になった。


「おっ、開いたみたいだな。でもこれだけ多いと結局まだ時間が掛かりそうだな…。グルル、トイレとかは大丈夫か?」


会場は広いので中に入るのに時間は掛からないと思うが、ザッハルテさんは当然ながら1人しかいないので そこまで辿り着くにはまだまだ時間が掛かりそうだ。


「おおー?たっくととぱるるがダメいうから、トイレのカミはもういたまーすしてないおー!ぐるるえらー?」


いや…そういう話をしたんじゃないんだけどな…。


とりあえずトイレの心配はなさそうだからいいか。


「よし、じゃあ俺達も進もうか」


「おおー、カラッポにまたおハナどぞーするおー!」


この参列者の数だと先程の時とは違い、多分俺達がザッハルテさんの所に着く頃にはカラッポどころか花で埋もれていそうだけどな。

と、口には出さずにグルルの純粋な宣言にツッコミを入れつつ、俺とグルルは人の流れに流されるように会場の中へとゆっくり歩いて行った。

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