表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
114/165

【 腰痛持ちの雷お爺さん 】


特設された告別式会場の片隅に立っていた兵士にベルーガ総隊長が声を掛けると その兵士は敬礼をした後 転移魔法を展開して俺達を転移した。



ー=ー==ー=ー==ー=ー


転移された場所は静かな部屋だった。


広間とまでは言わないが広い部屋。

カーテンが閉め切られている為、ここがどこなのかはわからないが天井にぶら下がっている高級そうなシャンデリアを見る限り 王城の中なのではないかと思う。


部屋の中央には正方形のテーブルが置かれており、テーブルの上には高価そうなティーカップが4つ準備されていた。



「少しだけ君と話がしたい、いいかな?」


「はい、大丈夫です」


ここまで来て断るわけもなく、俺はリードイスト王に頷くと リードイスト王は俺の前にある椅子を引いて座るように促し、俺を椅子に座らせた後 リードイスト王も俺の正面の椅子に座った。


「君達も座ってくれ、ネクタイなど外して気楽にするといい。好みがわからなかったから冷たい紅茶を用意させたが、口に合わなければ他のを用意させるから遠慮などせずに言ってくれて構わないからね」


友好的に話すリードイスト王からは警戒の気配はなく、まるで親戚の子供達を家に招いた優しいお兄さんのような雰囲気が漂っていた。



「おおー、イスふかふかだおー!」


「んじゃ俺も。失礼しますーーーおっ本当だ、この尻感触はやばいなっ!癖になりそうっ」



こいつら正気か…?

俺がこんなに緊張してるのに、2人とも緊張感のカケラもないじゃないか…



「あ、あの。ベルーガさんは座らないんですか?俺は立ってても平気なので、よかったら座って下さい」


正方形のテーブルには椅子が4つしか備え付けられておらず、ベルーガ総隊長だけがリードイスト王の横後ろで立っていたので 申し訳ない気分になった俺はベルーガ総隊長にそう言って立ち上がろうとしたが


「心遣い感謝する。だが、私の事は気にしなくて結構だ。会話に口出しもしないので置物だとでも思ってくれて構わない」


ピシャッと断られてしまった。


ーーそれもそうか、普通に考えて王様の客人である俺達を立たせて自分が座るなんて出来るわけない…余計な事を言ってしまったな。


少し冷静に考えればわかる事なのに、緊張のせいでうまく思考が働いていない証拠だ…落ち着こう。


冷静を装ってはいたが 内心で緊張が解けていない事を自覚した俺は、一度目を閉じてフゥっと大きく息を吐き出して心を落ち着かせた。



「あ、そうだ王様。遅くなってしまいましたけど、この間は道案内をしてくれてありがとうございました。それと、学園長が失礼をしたみたいですみませんでした」


ベルーガ総隊長に余計な事を言ってしまった事で、少しだけ冷静な思考が戻ってきた俺は 以前お礼を言いそびれてしまっていた事を思い出してお礼を告げ、ついでに学園長の不敬を謝罪した。


「ふっ、奴の無礼を君が謝罪する必要はないよ。それに、ソガラムとは古い付き合いでね。ソガラムがああいう奴だという事はよく知っているから気にしていないさ」


そう言えばあの時も学園長とリードイスト王は付き合いの長そうな会話のやり取りをしていた。

一瞬険悪な雰囲気にもなっていたので親しいかどうかはわからないが、見た感じだと仲が良くて仲が悪い兄弟みたいな感じだったような気がしなくもない。



「それよりもタクト・シャイナス君。さっそく本題に入ってもいいだろうか?」


柔らかい雰囲気を崩さないまま、リードイスト王は俺を観察するように見つめながら口を開いた。


「はい。ザッハルテさん、の事ですよね?紅茶までご馳走してもらって申し訳ないんですけど、人違いだと思います。俺は昔ここら辺に住んでいた時に何回か会った事がある程度でしかないので、死に際に名前を呼ばれる程親しくはありませんでしたから」


ザッハルテさんが息を引き取る直前に口にした『タクト』という名前。

俺の名前と同じ単語だが 名前であるなら違う人なのは間違いないはずだし、もしかしたら指揮者が持つタクトの事を言っていた可能性だってある。


もっと言うなら死ぬ直前で夢のような物を見ていて寝言で『転タク到着』と言っていたと言われた方が、俺の名前を呼んだと言うより現実的だ。



「君はそう思っているのか……なるほどね。君の意見を否定してしまって心苦しいが ザッハルテが最期に呼んだタクトというのは、私は君だと考えている」


穏やかさの中に鋭さを交えた瞳で俺を見るリードイスト王は、少し間を置いてから続けた。


「勘違いはしないで欲しいのだが、私は別にザッハルテの死に君が関わっているとは思っていない。知りたいだけなんだ」


ん?

どういう事だ?


「あの、すみません。ニュースでは死因は老衰だと言っていたと思うんですけど、それなら関わるって意味がよくわからないんですが…」


リードイスト王の言葉に違和感を覚えた俺は、疑問を口にした。


「あぁ、世間的には老衰という事にしたが、ザッハルテの死因は老衰ではないよ。その事を知っているのはごく一部の人間だけだから、君も口外はしないでくれると助かるね」


死因が老衰じゃない?

しかもそれを世間には公開していないという事は・・・殺された?


ちょっと待てよ。

じゃあこの状況はなんだ?まさか尋問っ!?

俺が犯人だと疑われているって事なのか?

いや、でもリードイスト王は俺が関わっているとは思っていないと言っていたが…



「中途半端な情報は余計に混乱させるだけのようだね。結論から言おう、ザッハルテは殺された。犯人はまだ捕まっていないが、原因はわかっている。だから先程も言った通り、私は君がザッハルテの死に関係しているとは思っていない。ここまではいいかい?」


「ーーはい」


「今回君に会いたかった理由は簡単だ。ザッハルテという人物を少なからず知っているのであれば、彼が特定の人とはあまり関わらない変わり者だという事は知っているだろう?その彼が死に際に君の名前を呼んだ。その理由が知りたかったからだ」


俺の名前を呼んだわけではない、と俺は思うが…リードイスト王の中では俺だと決めつけてしまっているようだ。


「ザッハルテはウェザーコントロールという稀有な能力を持ち、人知れず人の為に責務を果たしてくれていた。今回の雨雲削除にしてもそうだが、各地で水不足などが起きないのも彼の功績が大きい。ーーー私は、セントクルス王国の王としても勿論だが この世界に生きる1人の民として、彼にはとても感謝をしている」



ーー意外だった。

ザッハルテさんはいつも何を考えているか分からない変わり者だと思っていたのに、まさか知らない所で人の為に活動していたなんて。


それに、ザッハルテさんの話をしているリードイスト王は、本当に惜しい人を無くしたと思っているように時折辛そうな表情を見せていた。

王様のこんな顔、初めて見た…


「だからという訳ではないのだが、彼が最期に口にした君にはどうしても告別式に来てほしかった。そして、君の話しを聞きたいとも思ったのだよ。ーーー親しくはないと言っていたが顔見知りではあるのだろう?ザッハルテとの事で君が覚えている事を聞かせてくれないかな?出会い方でも、どんな話をしたかでも構わない」


ここまでザッハルテさんの事を親身に想ってくれている人が居た事に、俺は驚きと少しの喜びを感じた。

それに、住む世界が違うと思っていたリードイスト王の人間らしい一面を見る事が出来て、緊張感は完全に無くなり 図々しいかもしれないが親近感さえ感じていた。



「ザッハルテさんとの出会いですか…わかりました。本当にあまり記憶に無いんですけど…初めてザッハルテさんと会ったのが公園だったのは覚えています。俺がMSSに感染して1年くらい経った頃、俺は1人でよく外へ出掛けていたんですけど その時に心声が聴こえたんです」


「ーーーーー」


俺が話し始めると、リードイスト王は真剣な表情で話を聞いていた。


薄れていた記憶であったが、その時の事を話し始めると 不思議と鮮明にその時の光景が蘇ってきた。



===============



ーーーあれは11年くらい前、MSS騒動で外を出歩く人が極端に少なかった時の事だ。


その頃には既に感染者は化け物扱いをされていて、感染者と非感染者がお互いに恐怖を感じている時期ではあったが、俺は当時 MSSで人の声が聴こえるという自分の状況をチャンスだと感じていた。


今思えば、子供の頃の俺すごいなぁと客観的に思えてしまうが、当時の俺はこの力を使えば困ったりしている人を助ける事が出来る!と信じて疑わなかった。


その時既に完璧ではないにしろ共存のアイデンも開花していたので、MSSと合わせて人助けが出来ると根拠の無い自信に満ちていたのだと思う。


ザッハルテさんに初めて会ったのも、そんな幼い正義感と傘を持って 人がいない雨の降る街を歩いている時だったーーー



いつもの様に困っている人がいないか目的地もなく歩いていると、消え入りそうな心声が聴こえてきたんだ。


【くだらんのぉ、長生きなんかするもんじゃないのぉ。あぁー、腰が痛いのぉ…】


弱々しい心声のする方へと近づくと、そこには薄汚れた服を着て雨に濡れているお爺さんが立っていた。


雨はどしゃ降りではなく小雨だったけど、傘も差さず防雨結界も張らずに濡れたまま立ち尽くしているお爺さんは とても悲しそうな顔をしながら空を見上げていた。

そしてそのお爺さんが見上げている低い空には他の雨雲とは明らかに違う雲が停滞していた。


バチバチと音を鳴らしながら時折眩しいくらいの光を放つその雲は、ザッハルテさんの頭上で雷をいつ落とそうか様子を伺いながらソワソワしているように見えた。


危なそうだなぁと思いながらも、ゆっくりとお爺さんに近づいて行ったのだが…

その途中で、ソワソワしていた雷雲が一際明るい光を放ったーー


「お爺さん危ないっーーきょうぞんっ」


「なふっ!?なんじゃらほいっーー」


間一髪・・・だったと思う。


雷がお爺さんに落ちてしまうと思った俺は、共存の力を使ってお爺さんに入り、その場から飛び退くように落雷を避けた。



「ーー戻った、うぇ…ぺっぺっ。また口の中に泥が入っちゃったよ。あっ、そんな事よりーーお爺さんっ、だいじょうぶっ!?」


共存を解除して自分の身体に戻った俺は少し離れた場所で地面にへの字にうつ伏せているお爺さんへと駆け寄った。


「な、なんばしょっとかっ!小僧、今わしの身体を乗っ取りおったな!?腰痛持ちのジジイに無茶な動きをさすでないわっーーぐえっ」


お爺さんは地面にへの字でうつ伏せたままの状態で俺を睨みつけて怒鳴りつけたが、腰の痛みが襲ってきたようで ぐえっと言ったきり動かなくなってしまった。


とりあえず無事だったのを確認した俺は、上空の雷雲がどうなったか見てみたが既に雷雲はどこかへ消えていたので これ以上の危険はないだろうと思い、ホッと胸を撫で下ろした。


「お爺さん、もう大丈夫だよ。雷はどっかへ行っちゃったから。ーーはい、もう遅いかもしれないけど僕の傘に入れてあげる」


そう言って自分が差していた小さな傘でお爺さんを小雨から守ってあげていると、腰の痛みが落ち着いたお爺さんはゆっくりと起き上がった。



「なんじゃ、小僧はわしを雷様から守ろうとしとったんか・・・」


「うんっ!お爺さんがケガしなくてよかった…あ、お爺さんも泥んこになっちゃったね。ごめんね、お爺さん」



【雨粒と同じくらいおる人間の中にも、腐っとらんのもおるもんじゃな】


「何言ってるの、お爺さん?人は腐ったりなんかしないよ、変なお爺さんっ。でも雨と人が同じって、なんかいいねっ」


言葉ではなく心の声に反応した俺を見たお爺さんは、ほとんど閉じかけの瞳を大きく開いて一瞬だけ驚いた顔をしたが、その後すぐに大きく口を開けて笑った。


「ーーっ!? りゃはっはっはっ、変はお主じゃわ小僧っ!お主名前は?」


「僕はタクト!タクト・シャイナス!お爺さん、さっきすごい寂しそうな顔してたけど大丈夫?辛い事があるなら、僕が助けてあげるよっ」


「腰の痛みが辛かったから、雷様に電気治療してもらおうとしとったのを邪魔したのは小僧…いや、タクトじゃろうが」

【もう、助けられたわぃ。捨てたもんじゃない…って事かもしれんのぉ。長生きはしてみるもんじゃな】


特に何かをしたわけではないが、お爺さんは皺くちゃな顔を更に皺くちゃにしながら笑っていた。


「そっか。よかった!じゃあ僕、もう行くね。傘はお爺さんにあげる!風邪ひかないでねっ」


暗い雰囲気の消えたお爺さんに安心した俺は、傘をお爺さんにあげてその場を去ろうとしたが、お爺さんに引き止められた。


「ちょいと待てタクト、傘はいらん。わしを助けようとしてくれた礼じゃ、特別じゃぞーーーふんっ」


お爺さんが両手を空に向けて力を込めると、小雨を降らしていた雲が一瞬で霧のように消えてしまった。

雲のなくなった空には円形の虹が掛かり、眩しい陽の光が街を明るく染めていった。


「うわぁ〜・・すごいっ!お爺さんすごいよっ」


「りゃはっはっはっ!本当は雨も風も神様からの贈り物じゃから消したりは滅多にせんのじゃがな、今日は特別じゃ。それと、わしはまだ四捨五入したら100歳のピチピチなんじゃからお爺さんはやめぃ。わしの名前はザッハルテ・トルテじゃ」


ニカッと笑うザッハルテさんの前歯が二本無かったのが印象的だった。


「ザッハルテさん、ありがとうっ。じゃあまたねっ」


「あぁ、またのぉ」



ーーこれが、俺がザッハルテさんと初めて会った時の出来事だ。


その後も何回か公園でブツブツ独り言を言いながら1人だけ雨に濡れているところや、すれ違った人達の近くに落雷を降らせながら笑うザッハルテさんを見かける事があったが 心声に負の感情は無く、声を掛けたりはしていない。


その時期は心に闇を抱えた人が多くいたから、俺もそっちに気を取られていて平気そうな人に声を掛けている暇がなかったからだ。


それから暫くすると ザッハルテの姿を見かけなくなったが、当時はその事を気にもしていなかった。



===============



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ