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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
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【 場違いな告別式 】


迎えに来てくれたティーレさんの転移でセントクルス中心街の中心部、以前シオンのライブが行われたのと同じ場所に到着した俺は周りを見渡した。


遠征の時は華やかなライブ会場が特設されていた場所には、ザッハルテさんの大きな写真と棺桶が設置されており 当然ながらライブの時のような明るい雰囲気は皆無であった。


異様な雰囲気が漂っているのは告別式だからという理由だけではなく、そこに集まる人達が一般人ではないのも大きな理由だろう。


服に付いている紋様から様々な国から集まっているのが一目で分かる。


更に言うなら、ザワザワと話し声が木霊する特設された式場の内側からは、心声が一切聴こえて来ないので 今ここに居る人達は全員がM SS感染者であるという事が分かった。



「もう行くから、後は任せる。じゃ」


「了解ーーってもう行っちゃったよ。相変わらずだなぁ」


俺達を送り届けてくれたティーレさんは、役目は終わったと言わんばかりにすぐにどこかへ行ってしまった。


お偉いさん達が集まる中で、学生服を着ているのは俺達3人だけ…


「俺達だいぶ浮いてるよな…今からどうするんだ?」


「とりあえず爺さんの顔でも見に行こうか。王様からはタクトを連れて来て欲しいとしか言われてないから、そのうち向こうから接触してくるっしょ」



セルとの話し合いでザッハルテさんに挨拶をする事にした俺達は、棺桶のある祭壇に歩いて行った。


祭壇を登り、数人しか並んでいない列に並ぶと すぐに俺達の番が回って来たので、ザッハルテさんの顔を見て黙祷を捧げた。


死に顔は穏やかなものだった。

死化粧のせいだとは思うが 以前の様な薄汚れた肌黒さはなくなっており、生前より生を感じさせる顔だ。

それに加えて、昔見た時には洗っているのかさえ不明だった髪の毛も綺麗に整えられていた。




黙祷を終えた俺は、ふと空を見上げた。

そこには昨日から職場復帰を果たした太陽が堂々と俺達を照らしており、ザッハルテさんの最期の功績を称えているようであった。


ーー目の前で安らかな表情を浮かべて眠るザッハルテさん。

昔会った時のザッハルテさんに対する俺の印象は 恐らく他の人達と同じで、変なお爺さんだった。


いつもボケーっと空を眺めながらブツブツ独り言を言っていたし、日によっては晴れているのにザッハルテさんのいる範囲だけ雨が降っていたりしてびしょ濡れになっているのを見た事がある。


初めて会った時なんかは雷に打たれそうになっていたくらいだ。



「おろろ?カラッポー!いたまーすできないおー」


「何言ってるんだグルル?ーーーあぁ、そこは食べ物があったわけじゃなくて花を置く場所だよ」


俺とセルがザッハルテさんに意識を向けている中、グルルがまたよくわからない事を言っていたのが気になり グルルを見てみると、棺桶で眠るザッハルテさんの周りに置かれている空の器を見ている事に気が付いた俺は簡単に説明をしてあげた。


国によって葬儀の仕方は違うが、セントクルス王国の葬儀は棺桶で眠る故人に挨拶をした後に各々が持参した花を捧げるという送り方をする。


まだ一般人が来ていないからか、ザッハルテさんの棺桶の中には花が1つも入っておらず空の器だけが並べられていたので、それを知らないグルルは食事のお皿と間違えたようだ。


「ほら、これをそこに置いてあげて」


「ほほー、わかたおー!はい、おハナどぞー」


なんの用意もしていなかった俺達の為にセルが用意してくれていた供花をグルルに渡し、グルルは供花を器に捧げた。


グルルに続いて俺とセルも同じ様に供花をザッハルテさんの顔の横の器に捧げ、供え終わった俺達は祭壇を降りて告別式会場の出口近くへと移動を始めた。


しかし、歩いている最中に背後から声を掛けられて足を止める事になった。



「久しぶりだね、タクト・シャイナス君。わざわざ足を運んでくれて感謝するよ。それに生徒会の君も、御苦労だったね」


声をかけて来たのは、俺を呼んで欲しいとセルに伝えたリードイスト王だった。


リードイスト王の隣には以前俺の首元に剣を突き付けてきた大柄な兵士と、小太りで汗をダラダラ流しているちょび髭のおじさんが付き添っていた。


「お、お久しぶりです王様。この度はーーー」


「ふっ、君は相変わらず堅いね。前にも言ったがそんなに緊張する事はないよ」


柔らかくも気品のある態度のリードイスト王が優しい口調でそう言ってくれたが…やっぱり緊張は解けない。


それに、リードイスト王の隣にいる大柄な兵士には以前殺されかけてもいるし…


と、俺が心の中で考えているのが伝わったのかは分からないが、リードイスト王は何かを察したような顔で大柄な兵士を見た。


「そういえば以前、ベルーガはタクト・シャイナス君に剣を突き付けていたな。ーーーベルーガ、謝罪を」


ーーいや、ちょっと待て!

じゃない、ちょっと待って下さい!

あの時は完全に俺が悪かったし、ベルーガといえば聞き違えでなければ俺でも名前を知っている超有名人じゃないかっ。


ザッーー


「タクト・シャイナス殿。私はセントクルス王国軍魔獣討伐隊総隊長ベルーガ・ドリオッドと申します。王城内通路での不敬、誠に申し訳ございませんでした」


俺が動揺に動揺を重ねてあたふとしているのをお構い無しに、ベルーガ総隊長は片膝をついて謝罪をしてしまった。


「ちょ、やめてくださいっ!あの時は俺が悪かったんですしっ、あの本当お願いですからやめてくださいっ」


ザワザワーーざわざわーー


俺の願いも虚しく、ベルーガは片膝をついたまま微動だにしてくれなかった。

そのせいで、周りでは『何事だ?』とか『総隊長殿が学生に謝罪しているぞ』とか言われてしまっている。



「ベルーガ、もういい。頭を上げろ」


「はっ」



俺が何を言っても石像の様に動かなかったベルーガであったが、リードイスト王の一言でスッと立ち上がり半歩下がってリードイスト王の斜め後ろで直立を再開した。


ホッとしたが半分、意味がわからないが半分の俺は 何も言葉を発する事が出来ず、周囲の視線に居心地の悪さを感じながら リードイスト王が次に何を言い出すのかにビクビクしていた。



「陛下ぁ、儂はもう行ってよろしいでしょうか?やる事が山積みで山積みで…」


リードイスト王の言葉を待っていたが、口を開いたのはもう1人の付き人である汗だくのちょび髭男だった。


「ああ、中にも外にも言った通りにしておいてくれ。それが終わったら料理長への指示と各国の要人への礼品の準備も忘れるなよ」


「了解しました。はぁ忙し忙し…では陛下、挨拶までには必ず戻って下さいね。はぁー忙しい」



小太りの男は短い足を忙しなく動かして走り去って行ってしまった。


男を見送った後、リードイスト王は視線を俺に戻して穏やかに微笑みながら


「ここでは人目があるし君も落ち着かないだろう。場所を変えようか、ついて来なさい」


と言い、俺達の返事を待たずに歩き始めた。


ここで敢えて王様とは別の方向へと歩いて行ってみよう……というユーモアは持ち合わせていない俺は、素直に付いていく事にした。

もちろんセルとグルル、それにベルーガ総隊長も一緒に。

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