【永遠の眠り】
雨雲削除が終わった後にグルルが泣き?疲れて眠ってしまい、真っ直ぐに家に帰った俺達。
眠っていたグルルはリビングで休ませていたのだが、俺が夕飯の支度をしている途中で目を覚ましたので2人で食事をした後、風呂を済ませてから一緒に自主練をした。
自主練では何故か今日はいつもより魔法の調子が良かった。
空から雲が消えた事と関係があるとは思えないが、天気も良くなり魔法の調子も良かったおかげで 夜は気持ち良く眠る事が出来た。
ーーー翌朝
ボフッ、ボフッ、
「ぐはっ、グルル重いっ!」
「たっくとー!アサだおー、おそとがピカピカしてキレイだおー」
ネジリーさんのタコ焼きをおかずに円源のラーメンを食べる、という最高の夢を見ている最中にグルルが俺の腹の上でピョンピョンと飛び跳ねて起こしてきたが…重過ぎるグルルの戯れのせいで 危うく永遠の眠りにつくところだった。
「お、おはようグルル。起こす時はもう少し穏便に頼むよ」
「おおー、たっくとおはおー!」
時計を見るともう9時を回っており、締め切ったカーテンの隙間からは陽の光がキラキラと洩れているのが見えた。
「ーーそうか。昨日、雨雲削除がされたんだったな」
昨日の光景は夢だったと言われた方が納得できる程に凄い光景だったが、カーテンを開けて眼孔を刺激してくる太陽の光が 昨日の出来事は現実だったのだと告げていた。
そういえば昨日、セルがいきなりティーレさんに拉致されてから連絡がないな…
ベットで体を起こした俺は携帯電話を確認したが、セルからの連絡は来ていなかった。
記憶のアイデンを持つセルが後で連絡をすると言った事を忘れるとは思えないが、それより今はーーー
「ん〜、よし。朝飯にするかな」
「おおー!たっくとおきるのまってたんだお!はよたべよー!」
大きく伸びをした俺は、セルの事は一旦保留にしてグルルと朝飯を食べる為に一階のリビングへ移動する事にした。
ーーー
リビングへ行くと いつもの様に母さんが作り置きしてくれた料理が並べられてあったので温め直してから2人で朝飯を食べ始めた。
最近ではこれが当たり前になったシャイナス家の朝だ。
「なぁグルル、折角天気も良くなったし 今日はどこかへ出掛けてみないか?」
昨日までは食事をしていても外の雨音が聞こえてきて、どこかへ行こうなどとは考えられなかったが 今日は、いや今日からはおそらく晴れの日が続くはずなので、夏休みが終わってしまう前にグルルと一緒に色々行きたいと思っていた俺は グルルにそう提案した。
するとグルルはご飯を食べながら俺の方を向き、
「おおー?ぐるるはたっくとがいくなら イッショにいくおー!ぐるるとたっくとは、いっしょだおー」
と、言ってくれた。
なので俺はグルルをどこに連れて行ってあげようか考えていたのだが
♪〜〜
セルからの着信で思考を中断させられてしまった。
これからの楽しい予定を考えている最中に横槍を入れてきた着信であったが、昨日 あの後セルがどうしていたのかも多少気にはなっていたので居留守は使わずに電話に出る事にした。
「もしもし、タイミングが悪い人だなって言われた事ないか?それに後で連絡するって言っておいて次の日の朝ってーーー」
「タクト、テレビ見たか?見てないなら見てくれ。今ちょうど放送してるから」
「テレビ?」
俺が冗談半分のクレームを言うと、セルはその事には反応せずにテレビを見ろと言ってきた。
いつもとは明らかにテンションが違うセルの言葉が気になり、俺はリビングのテレビをつけて確認する事にした。
カチッーー
『ーーーザッハルテ・トルテ氏の告別式は、本日の14時からセントクルス王国中心街で執り行われます。既に中心街には多くの人が集まっておりますが、一般参列される方は14時からの入場になります。それに伴いーーー』
・・・告別式?
「なぁセル…どういう事だよ。ザッハルテさんの告別式って」
「見ての通りだよ。あの爺さん、昨日亡くなったんだ」
ーーーは?
昨日って、何言ってるんだ?
昨日は雨雲削除で大活躍してたじゃないか。
それがなんで死ぬって話になるんだ?
「タクト…タクトはあの爺さんと何か関係があったのか?」
「関係?いや、特に関わった事はないぞ。子供の頃セントクルスに住んでた時に何回か会った事はあるけど……って、なんでそんな事聞くんだ?」
セルの質問の意味が分からない。
何故セルは深刻な声でそんな質問をしてきたのか、想像すらつかない。
「実は昨日、ティーレさんにセントクルス王城に連れて行かれたんだよ。規則で詳しくは言えないけど、ザッハルテ爺さんが息を引き取る直前に立ち合ったんだけどさ……最期に爺さん、タクトの名前を呼んだんだよ」
・・・意味が分からない。
セルは何を言っているんだ?
ザッハルテさんが俺の名前を呼んだ?そんな事あるはずがないだろう。
面識があると言えばあるが、血が繋がってるわけでも親しいわけでもないのに 死ぬ直前に名前を呼ばれるわけがない。
「あり得ないって。なんでザッハルテさんが俺の名前を呼ぶんだよ。会ったのなんて学園島に越してくる前の話だぞ?誰かと間違えてるんじゃないか?」
タクトなんて特別珍しい名前ではないはずだ。
幼い頃に数回会っただけの俺を呼んだのではなく、同じ名前の違う人を呼んだって思う方が自然だろ。
「いや俺もそう思ったし、そう言ったんだよ…でもその場にリードイスト王も居てさぁ。あの王様はタクトの事だって思ったみたいなんだよね…ほら、ちょっと前にタクト 王様に会ったって言ってたじゃん?多分それで王様もすぐにピンと来ちゃったんだと思うんだけど…」
いやいやいやっ、たまたま最近会ったってだけでピンと来られても俺には全く関係ないだろっ!
「その王様がタクトにも告別式に来て欲しいって言うんだよねぇ。しかもタクトには俺が伝えろとか言うしさぁ。あ、でも強制はしないとも言ってたよ。どうする?」
「どうするって言われても…あの王様が直々に言うなら、ほぼ強制みたいなものだろ。ーーーまぁでも王様に言われたとかは別にして、告別式には行きたいから行くよ」
ここで行かないなんて言ったら、きっとセルにも迷惑が掛かるしな。
それに、別にやましい事なんかないし名前を呼ばれたのも他の人と間違われただけだろうから気にする必要もないだろう。
だから俺は、ただの一般人として雨雲を消してくれた偉人の告別式に参加すると思えばいい。
「そっか、オッケー!じゃあもうちょいしたら迎えに行くわ!知り合いを連れて来てもいいって言ってたからグルルも一緒に連れて行ってあげたらどうよ?グルルを1人で留守番させる訳にもいかないだろうし、タクトの生まれ故郷も見せられるじゃん」
「グルルを連れて行けるのはありがたいけど、まだ9時30分だぞ?告別式は14時からって言ってたのに、早すぎじゃないか?」
「14時からは一般人メインだよ。それまでの時間は各国の偉い人達とかが先に挨拶を済ますんだけど、俺達もその偉い人達と同じ時間なんすわ。服はアルバティルの制服で大丈夫だからグルルの制服もサラ先生に頼んで用意してもらって後で俺が持って行くよ。んじゃまた後でなぁ」
セルとの電話を終えた俺は、グルルに今からセントクルスに行く事を伝えた後 再びテレビを見た。
テレビには大勢が集まるセントクルス中心街が映されており 暫くは混雑の話をしていたが、それが終わるとザッハルテさんの死因についての説明がされた。
ザッハルテさんの死因は、老衰だとナレーターは言っていた。
朝食を済ませて支度を終えると、タイミング良くセルとティーレさんが到着して、グルルを着替えさせた後 セントクルスへと向かう事になった。