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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
102/165

【 学園長室への訪問 】



「ーーーーー」


コツッ コツッ コツッ


「ーーーーー」


コツッ コツッ コツッ



多少の気まずい沈黙が流れる中、大人しく俺の手を握るグルルを連れてサラ先生の後ろを同じ速度で歩き、学園長室へと向かった。



沈黙のせいかやたら長く感じた園内散歩だったが、ようやく目的地に着いた。


「ーーーーー」


初等部から学園に通っている俺だが、学園長室に来るのは初めてだ。


他の教室とは違い、何かの紋様が刻まれた扉。

多少の緊張感はあるが、中に居るのがあの学園長だとわかっているので特に身構えることも無く扉の前に立ち止まり、サラ先生が扉を開けてくれるのを待った。



コンコンコンーー


「学園長、サラ・ストイクトです」


サラ先生が音もテンポも一定のノックをして名前を告げると、室内からは布を引きずるような音が聞こえ、その音が扉に近付いてくる気配がした。


ガチャーー


そして扉が開かれ、顔を見せたのは学園長・・・と同じ仮面を半分だけ付けた小さな女の子だった。


「お待ちちておりまちた、ムチ姉たま。どうぞ中へお入りくだたい」


「・・わかりました。シャイナス君、グルル君、お二人も中へ入って下さい」


「え…あ、はい。失礼します」


「ーーーーー」



言われるがまま中に入り、初めて訪れる学園長室の中を見回してみると室内はとても広く豪華な作りであった。


奥の壁は展望台などで使用されているスイッチウォールと呼ばれている物で、ボタン一つで窓にも壁にもスクリーンにもなり冷暖房機能も付いている優れた壁。


天井には魔鉱石が散りばめられているであろう高級そうなシャンデリア。


本棚には分厚い魔導書などが大量に、そして綺麗に保管されており、適当そうな学園長が使用している部屋とは思えない内装だった。



唯一学園長の部屋らしいと言えるものは部屋の四隅に置かれている道化師の銅像……学園島の至る所に設置されている学園長の銅像だ。


いや、そんな事よりも・・・


「あの…学園長は居ないんですか?それに、この執事服を着た女の子は誰なんですか?」


学園長室の扉が開き、俺達を迎え入れてくれた謎の少女。


舌ったらずな話し方とサイズの合っていない執事服を着た少女は、どうみても俺より年下だ。


見た事はないが学園生…なのだろうか?



「彼女は学園長専属の執事ウラルさんです。ウラルさん、こちらがタクト・シャイナス君とグルル・シャイナス君です」


俺の質問に淡々と答えたサラ先生が、初対面の俺達を紹介すると小さな執事…ウラルが一歩俺達に近付き 丁寧なお辞儀を披露した。


「初めまちてタクトたま、グルルたま。わたくちはウラルと申ちまつ。どうぞお見ちり置きを」


「あ、えぇと…はい。タクト・シャイナスです。よろしくお願いします…」


礼儀正しく品格のありそうな雰囲気ではあるのだが、幼い見た目と不思議な言葉遣いとだらし無い服の着こなしのせいでどんな子なのかよくわからなかった。



「それでウラルさん。学園長から何か伝言はありますか?」


「はい。パパたまはどうちても外てない緊急の用事が入ったのでちかたなくお出掛けになった事にちて言い訳ちておいてほちいと言っていまちた。もう一つはグルルたまはレベル2で登録ちておくとの事でつ」


サラ先生の質問に答えるウラル。

しかしその内容は酷いものだった…


ウラルから伝言を受け取ったサラ先生は、そうですかと言った後、俺達の方へと顔を向けた。



「お二人とも申し訳ありません。学園長は不在のようです。戻ってくるのもいつになるかわかりませんので顔合わせはまたの機会にお願いします。ですがグルル君のレベル測定は既に済ませてくれていたようで、レベル2で登録するとの事です」


「ーーそうですか、わかりました。ありがとうございます」


いつどこで測定したのかは分からないが、まぁ学園長だしな。と思い、深く考えるのをやめた。


グルルを学園長に会わせられなかったのは、俺としては別に何の問題もないし、MSSのレベルさえ把握出来れば良かったので学園長をわざわざ待つ必要もない。


それにさっきからグルルがずっと大人しすぎるので、これ以上は変な刺激は与えたくないので学園長が不在だったのはタイミングが良かったのかもしれない。



「じゃあ俺達はもう行きます。わざわざありがとうございました」


「シャイナス君。まだ発表はしていませんが、明後日の正午に雨雲の消去を行います。その事を今日の夕方に念話放送で世界中の人に伝える事になっているのですが、突然知らない人の声が頭に流れてきたらグルル君が混乱してしまうかもしれませんので、側に居てしっかりと見ていてあげて下さい」


俺がグルルを連れて退室しようとすると、サラ先生がそう言ってきた。


念話放送とは全ての人の脳内に直接声を届ける緊急連絡のような物で、滅多に行われる事はない。

俺が聞いたことのある念話放送は人生でたった2回しかない。


1回目は英雄達がフレイク魔教団を壊滅させた時で、2回目はセントクルスの前王が亡くなりリードイストが王になった時。


リードイスト王が王様になったのが確か6年程前だったはずなので、グルルの年齢が見た目の通り5歳くらいだとしたら念話放送は初めて経験する事になる。


「わかりました。気に掛けてくれてありがとうございます。ちゃんと側に居ますから大丈夫です」


グルルは先程サラ先生に対して物凄い敵意をぶつけていたが、サラ先生はその事を根に持つどころか グルルの事を気に掛け、心配までしてくれていた。


世の中には確かに悪い大人も沢山居るが、良い大人だって沢山いる。

グルルにもその事がいつか分かる時が来るだろう。



俺は再度サラ先生にお礼を告げて学園長室を出た。


あまり時間は掛かっていないが、イリアとセルを外で待たせてしまっているので グルルの手を引き、足早にイリア達の元へむかった。



廊下を歩いている途中でグルルの様子を横見で見てみると、いつもの無邪気な表情に戻っていたので一安心し、心なしか足取りも軽くなった。

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