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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
100/165

【 1人よりも3人 】





グルルが玄関まで来た事で俺達はリビングへと入る事になった。


そしてまったく状況を理解出来ていないイリアとセルに、グルルとの関係を簡単に説明した。


ーーーーー



「いやぁー、紹介したい子とか言うから俺はてっきりタクトに彼女でも出来たのかと思って焦ったわぁ。そしたらまさかの弟って!予想の斜め上すぎるっつーの」


「どこでどうしたらそんな勘違いが起きるんだよ。なぁイリア?」


「ーーえっ?あ、うん。そう…だよね!そ・それよりもっ、まさかタクトに弟が出来るなんてね」



リビングに入りグルルが家族になった事を話すと、予想とは違う反応だったが2人ともかなり驚いていた。



「ほらグルル、こっちがセルでこっちがイリアだ。2人は俺の友達で、今日からはグルルの友達でもあるんだぞ」


「おおー!ほほー!せるる、いーりゃ、ぐるるだおー!」


俺が2人をグルルに紹介すると、バスタオルに身を包むグルルが右手を挙げてセルとイリアに自己紹介をした。


「ふふっ、可愛い。グルル君もシオンちゃんのファンなのかな?私もシオンちゃん大好きなんだよっ。ーーー私はイリアっていうの。よろしくね、グルル君」


「おおー!いーりゃ、よろっくー!」


イリアはグルルの目線まで腰を落とし、同じ目線の高さで優しく微笑みながらグルルと握手をした。



「すんごい綺麗な黒目だなぁ。濁りきった俺の瞳で見つめていいのか不安になるわ。ーーなんてね、俺はセルス。タクトが教えてくれないアダルトな事に興味が出てきたら役に立つ 頼れる男だよん。よろしくなっグルル!」


「おおー?せるるは、たよれるる?ほほー!せるる、よろっくー!」



セルもイリアと同じ様にグルルの目線に合わせて自己紹介をしたが…変な事を吹き込まれないように気を付けなくては。



「よし、自己紹介は済んだな。焼うどんしかないけど、とりあえず食べようか」



ーーーーー




「「いただきまぁーす」」



俺の作るオールイン焼うどんは冷蔵庫の中にある物の中で焼うどんに合いそうな物を適当にぶち込み、多少の味付けをして完成のお手軽料理。


今日のは先日開催された海老パーティーの残りの海老がメインだが、バランス良く野菜や肉も入っている。



「うんまっ!相変わらずタクトの飯は美味いなっ。この焼うどんだけで商売出来るんじゃね?来年のカカカ祭りで屋台でもやれば絶対行列出来るって!」


「そんなわけないだろ。カカカ祭りにはもっと美味い屋台が腐るほど出店してるんだから。こんな適当な焼うどんでネジリー店長のたこ焼きと同じ土俵に上がるなんて恥を通り越して失礼だろ」


セルは基本的になんでも美味いと感じるチョロい味覚の持ち主なので、セルの感想を鵜呑みにすると痛い目を見る可能性がある。


とはいえ、今日の焼うどんは自分でも上出来だと思う。

まぁ単純に冷蔵庫にあった食材が良かっただけだが。



「タクトが作る料理は焼きうどんだけじゃなくて、どれも本当に美味しいよ。パールさんが仕事で帰れない日はタクトよく外食してるから、たまには晩御飯を作ってあげたいなって思ってるんだけど…私よりお料理上手だから作ってあげる勇気が出ないくらいだもん」


「イリアの飯の方が美味いに決まってるだろ。それに俺はイリアみたいに繊細な味付けも綺麗な盛り付けも出来ないし、お菓子とかも作れないしな」



実際イリアの作る料理はかなり美味しいし上品な感じなので、俺の作る賄いみたいな料理とは別物なのだ。


今日持ってきてくれたホールケーキも、ただの円形ではなく桜の様な色と形をしており ケーキ屋で並んでいてもおかしくない見映えだ。




ーー学園島に来てからは特に1人で晩飯を食べる事が多くなった為、ある程度の自炊は出来るし自分なりの拘りもあり 人に食べてもらうのに抵抗がないくらいには自信はあるが、あまりストレートに褒められるのは得意ではない。


でも、美味しいと言って貰えるのは素直に嬉しい。



そんなこんなで しばらく焼うどんを食べながら談笑していると、ふいにセルがグルルの事について質問をしてきた。


「そーいえばグルルの得意属性とかはわかってんの?」


「いや、知らない。グルルが喋れる様になったのも多分俺と会ってからだと思うから、グルルも自分の得意属性とか知らないと思う」


「そっか…身元不明って言ってたけど、属性を調べれば もしかしたら何かわかるかもしれないし、検査だけでも早めにやった方がいいかもなぁ」


少しだけ真剣な顔をしたセルがグルルを横目で見ながら話を続ける。


「得意属性が偏れば出身地が絞れるかもしれないしね。俺のアイデンで学園島の住民は全員記憶してるから学園島の線はほぼない……ってなるとやっぱりセントクルスが1番確率が高いのは間違いないけど、もしかしたら偏る可能性もあるしね」



ーー確かにそうだな。


得意属性は殆どの人が2つ持っているが、その属性は家系や出身でバラバラな事が多い。


そして2つの得意属性があっても1番得意な属性と次に得意な属性の差が大きい人も居るのだが、それが顕著に表れているのが北のエルスノウと南のワインベルクだ。


エルスノウは寒さの厳しい大陸である為 火属性を得意とする人が多く、ワインベルクは土地柄のせいで地や雷を得意とする人が多い。


その為、根っからのセントクルス人と根っからのエルスノウ人では得意属性が同じでも偏り方が違ったりする。

例えば火と風が得意属性だった場合、1〜10で属性割合値を比べると


セントクルス人

火5 風6 その他1〜3


エルスノウ人

火8 風4 その他1〜2



このように差が出たりする事があるのだ。


もちろん属性が偏ったからといって100%そうだと決め付ける事は出来ないが、グルルの故郷を知るヒントにはなるかもしれない……



「・・・・・」



「ーーでも、無理に調べなくてもいいのかもね。グルル君はもうシャイナス家の一員なんだし、言葉もすごい速さで覚えていってるのなら そのうちグルル君の口から色々聞けるようになるかもしれないし」


セルの提案に俺が少し沈黙してしまったのを見たイリアが、何かを察したように突然そう言い出した。


「・・・・・」


イリアが察したのは、俺のどちらの感情なのだろうか……




身元不明、5歳くらいなのに知識も言葉も知らず大雨の中 全裸で橋の上にいた幼い少年ーーー

そこから連想されるのは、幼い少年グルルが苛烈もしくは悲惨な生活を強いられてきたというものだろう。

俺もグルルを見つけた時はそう思ったし、今でもその考えが消えたわけではない。


他にも色々考えたが どのパターンで考えても碌な想像が出来なかった俺は、正直なところグルルの身元がわからないのなら わからないままでもいいと思っている。


こんな幼い少年が辛い思いをしていたのならば、それは環境か境遇が悪かったからであって、グルルが悪いはずがない。


それならば辛い過去など忘れたままでいい。

思い出す必要も、わざわざ探し出す必要もない。


俺達がグルルの故郷や親族、これまでの軌跡を探す事で、今のこの無邪気な笑顔が消えてしまう可能性だってある…むしろその可能性の方が大きいのではないかと 俺は思っている。


そう俺が考えている事をイリアは感じ取ったのかもしれない。

・・・いや、そうであって欲しいと思った。



なぜなら、

もう一つの俺の感情は、自分勝手で浅ましい欲望だっから…

グルルを手放したくないという ひどく薄汚れた願望を、イリアに見透かされたくなかったからだ。


ーーだが、この意地汚い願望を俺は捨てる気などさらさらなかった。


まだ出会ってから3日しか経っていないが、俺の中でグルルは既に大切な家族なのだ。

グルルの幸せが故郷にあるのならば、もちろん探してあげたいし連れて行ってあげたい。


しかし、グルルは全裸で橋の上で雨に濡れていた。

そんな状態になる過去を探して、グルルが幸せになれるのかと考えたら、俺の答えはノーだった。



「・・・・・」


「なーるほどね。タクトお兄ちゃんはすっかりグルルの虜になったわけか……でもまぁ状況を考えたら無理に探すのはデメリットの方がでかいかもしんないね」


再び俺が沈黙した事で、どうやらセルには俺の意地汚い方の考えもバレてしまったようだ。


だが、セルは俺を軽蔑するどころか むしろ晴れやかな表情で軽く笑っていた。



「俺は…グルルに辛い思いはさせたくない。親が健在なら探してあげたいとも思う。でも、それが本当にグルルにとって良い事なのか…俺にはわからないんだ。ーーーでも、今グルルはここに居て、笑って飯を食ってくれてる…俺は、これからのグルルを幸せにしていってあげたい」


これは俺の勝手な願望であり、他の人から見れば偽善に見えるかもしれないし、真実から目を背ける愚かな考えだと罵られるかもしれない。


自分でもこれが最善かはわからないし、本当は俺がグルルと一緒に居たいだけのに、無理矢理理由を付けているだけなのかもしれない。


だが、今の言葉と気持ちに嘘などはカケラもない。



「たっくとー!ぐるる、たっくとすーき!ぱるるもハミガキもエホンもすーき!」


「ぐはっーーグルル重いっ」


少しシリアスな雰囲気になってしまった俺達を見たからか、それとも話の内容をなんとなく理解したからかは分からないが、グルルが俺に飛び付きながらそう言った。



「ふふっ、グルル君はタクトが大好きなんだね。ーー私は、タクトがそう思ったのなら 今はそれでいいと思うよ。私にも出来る事があるなら何でも手伝うから、いつでも遠慮なく言ってね」


「イリア・・・あぁ、頼りにしてるよ。ありがとな」


案の定といえば案の定ではあるが、イリアはやはり賛同してくれた。



「だなっ。それにタクトがグルルと会ってからもう3日なんだろ?それなのに捜索願いも出てないなら、親がいたとしても碌なもんじゃなさそうだしな。ーーそれより、どうしてタクトはちびっ子に好かれるのかが俺は気になってしょうがないわっ。マキナちゃんにしろマリアちゃんにしろグルルにしろ…タクトって、歳下ホイホイのジースでも持ってんじゃない?」


「そんなジースがあってたまるか。ーーーまぁなんにしても2人ともありがとうな。頼りにしてる」




ーーーーー


ーーー




「じゃあまた明日遊ぼうなっグルル!タクト、明日も美味い飯 期待してるからよろしくねぇ」


「明日は私も手伝うね。グルル君、これから宜しくね。じゃあまた明日ね」


「あぁ、また明日。セル、イリアを頼むな」


「せるる、いーりゃ、ばばーい!」




喋ったり遊んだりしていると あっという間に夕方になってしまい、暗くなる前に2人は帰宅した。


明日も2人は来てくれる事になり、昼飯を一緒に食べた後に学園へ行こうという事になった。


セルの話しでは明日 生徒会が夕方に収集されるらしく、その関係でサラ先生と学園長も学園に滞在しているとの事なのでグルルにも会わせようという話になったからだ。


グルルの過去は必要ないが、これからの生活で必要なMSSのレベルを調べる事と、学園島で暮らすのであれば知っておいた方がいい人物を見せる為だ。



ーー俺1人だったらMSSの事など後回しにして、ただ遊んであげたり言葉を教えたりしていくだけだったはずだ。



だが、セルはグルルの今後の生活を考えて学園へ行く事を提案してくれた。


イリアは料理を手伝うと言っていたので、栄養バランスを考えて健康面をサポートしてくれるだろう。


俺は足りないところだらけだが、それをイリアやセルが埋めていってくれる。


だからーーきっと大丈夫。



「たっくとー、せるるもいーりゃも、たのしかったおー!なかまはイジワルしないだなー!」


「あぁ、そうだろ」



これからのグルルは笑って暮らしていけるはずだ。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


お久しぶりです、セカンドです。


皆様のおかげで100話を迎える事が出来ました。

本当にありがとうございます!!


下書きや設定集を含め、人生でこれほど多くの文字を書いた事はありませんでした。

それもこれも全て、読んでくださる方が居てくれたおかげです。



これからも主人公タクトが子供と戯れる以外に活躍してくれるかは不明ですが、見守ってくださると嬉しいです。



では、引き続き「光のタクト」を宜しくお願いします。



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