かよわきもの、それはニンゲン
村で事件が起きました。
幼女はこころで泣いていた。
自分は何が違うのかわからなかった。
自分に見えて、みんなに見えないもの。
その境界が全く分からなかった。
人々は理解できなかった。
幼女が誰もいない場所にむかって手を振る。なにかと話している。
何も見えないが、幼女にはそれが見えている。
見えない自分たちと見える幼女。
自分も見えたらいいのにな。
最初は小さな願望だった。
しかしそれがかなえられないものだとわかると、それは日に日に大きくなっていた。
そして、次第に激しいものに変化していった。
妬み。
憎しみ。
恐れ。
そういったものが、幼女に向けられるようになっていた。
幼女が人々を拒絶したわけではない。
幼女がそれを望んだわけでもない。
しかし、人々は自分の中の感情を、すべて幼女のせいにした。
あのこがあんなことをしなければ、そこにいるかもしれないとおもわなかったのに。
あのこがあんなことをいわなければ、わたしもおしゃべりしたいとおもわなかったのに。
あのこがあんなにたのしそうにしなければ、わたしもそうしたいとおもわなかったのに。
あのこがいなければ・・・・・。
拒絶
人々は自分たちの精神を安定させるため、幼女を拒絶した。
しかし、幼女は人々を拒絶することはなかった。
拒絶した相手が見せる屈託のない笑顔
それは、あたかも自分が悪いと言われているようなものだった。
なぜ、そんな笑顔を見せる。
拒絶に反発が加わり、やがて怒りへと昇華していった。
脆弱な存在であるヒトは、その存在を脅かすものに恐れ、拒絶し、それを怒りへと変え、莫大なエネルギーを得る種族だった。
そして、幼女は次第に家からでなくなっていた。
幼女の心のよりどころは、この家にあるものだけだった。
かわいいぬいぐるみ。
優しいお母さん。
優しいお父さん。
優しい妖精たち。
そしてやさしいお兄さん。
ここにいれば、幼女は安心できた。銀色の馬のようなぬいぐるみ。
幼女のお気に入りのぬいぐるみ。
これを抱きしめた時、幼女の心はこの家を実感できるのだった。
しかし、人々の怒りのエネルギーはとどまることを知らなかった。
くらい炎を燃やすように、じわじわとその時をまっていた。
そして、それが最高潮に達した時、幼女に牙をむいて襲い掛かっていた。
人々は、狡猾だった。
幼女の家は、この村にあって特別な存在。
この村ではないが、他の村では脅威を取り除いてくれたこともあったらしい。
しかし、この村ではそんなことは一度も起きていなかった。
しかし、おこらないとも限らなかった。
だから、表立っては行動しない。
人々は、代わりを求めていた。
そこに目を付けたのは、幼女が外に出るときに肌身離さず持ち歩く銀色の馬みたいなもの。
変なもの。
それだったら、問題にはならないだろう。
人々の勝手な判断が、安易な行動を許していた。
直接体に危害は加えない。
それは証拠として残る。
幼女の心に傷を残す。
人々の心は狡猾で残忍なものになっていた。
幼女の目の前でその惨劇は引き起こされた。
とりあげ。
ひきちぎる。
泣き叫ぶ幼女に、嘲笑がのしかかる。
あまりの重さに耐えかねて、幼女の心ははじけていた。
折り重なるように倒れた人々の輪の中心に、幼女は呆然となって立ち尽くしていた。
ヒメルちゃんは大丈夫なのでしょうか・・・・。




