開花
ヒメルちゃんの才能が開花します。
「あなた、どうやらヒメルは精霊を見ているようだわ。」
テーレがうれしそうに話していた。
今、ヒメルは僕の膝の上で寝ていた。
遊び疲れたヒメルは、僕の膝の上で寝るのが好きなようだった。
僕も寝ていたいな。
そんな欲求にかられていた。
「そうか、それは楽しみだね。じつは古代語の方も順調だよ。この分だと将来とてつもない大物になるね。でも、そうなって欲しくもない気もするけど・・・・。」
2系統の魔術師は稀有な存在だった。
有名になった分、危険もまた存在する。
「ふふ、まだ先の話じゃない。その力が、この子が自分の身と、自分の大切な人を守る力になればそれでいいわ」
テーレはにっこりとほほ笑んでいた。
「そうだね。それは同感だよ。でも、悪い虫が付いたらどうするんだい!」
僕は変な男が言い寄ってくる未来が恐ろしかった。
少なくとも、この子以上の実力者でないと僕は認めない。
そして、なにより、この子を大切にしてくれる人でないとだめだ。
「この子がほしければ、まず僕を倒していくんだな。」
思わず妄想を口にしていた。
「あなた、ヒメルはまだ3歳。どれだけ気が早いの・・・・。」
テーレはあきれていた。
「そうだね。それもそうだ。」
僕は思わず笑っていた。
「エルツ様。テーレ奥様、ばあやは少し心配なこともあるのです。」
紅茶を煎れてきたばあやは、とても不安そうにしていた。
ばあやも年を取っている。昔はこんなことを言う人じゃなかった。
僕は漠然とそう感じていた。
「どうしたんだい?」
一応わけを聞いておこう。
「いえ、村のことです。時折ヒメル様は精霊を見てそれを追いかけようとしたり、いきなり精霊を見せたりしまして、その・・・。村の子供が怯えています。ヒメル様がくると、まるで蜘蛛の子を散らすように、いなくなるのです。そしてヒメル様が帰るとまた集まりだします。それは大人たちも同じなんです。ばあやはヒメルさまがおかわいそうで・・・・。」
すすり泣くばあやをテーレが慰めていた。
ありがちなことだった。
人は精霊を感知することが珍しい。僕も知覚できない。
いろんな精霊とであったけど、すべて人化してもらっていた。
目に見えないものを否定する。
それを見えるものを否定する。
弱いものが、弱い心を維持するために。
「これが難しいことなのですね・・・・。」
テーレは思い悩んでいるようだった。
エルフと人間の間に生まれた子の宿命を思っているのだろう。
「仕方がない、話しを理解できるまでは、できる限り外では遊ばせないようにするしかないか。君と僕である程度時間差をつけてかえって、ヒメルと遊ぶようにしよう。まあ、必然的に僕が君を転送することになるけどね。」
テーレは転移できない。
魔道具を毎日使うわけにもいかないので、僕が転移させて、あとで自分も転移するというのが一番早く安全だった。
そしてその方法で、何とか大きな問題には発展しなかった。
そして、ヒメルはすくすくとその才能を開花させていった。
すでに初級の古代語魔法は言うに及ばず、精霊魔法まで習得したヒメル。
本当にどれだけの才能を持っているのか測り知れなかった。
そして悲しい知らせが舞い降りてきた。
それは、ヒメルが5歳の夏のことだった。
ばあやの突然の死亡。
その死を受け止めることができず、ヒメルは悲しみの中にとらわれていった。
ばあやの死はヒメルに大きな心の痛手をのこしました。