出会い
2話目です。
村で少し過ごしたエルツは、森の調査に向かいました。そこで彼が見つけたものは?
「えっと、この村の村長さんいますか?」
僕はとりあえず、用意されているという家に行くために、村長さんを探してみた。
魔術師が珍しいのか、村中から人が集まってきたようだ。
大体100名くらいだろうか、その中から、初老の老人と若い男が前に出てきた。
「ようこそ、エルツ様。私が村長のシュルツです。これは息子で、この村の役人をしているトートです。何かあれば、息子に聞いてください。」
村長はトートという息子を前に出していた。
「よろしく、トートさん。さっそくだけど、家を用意してくれていると聞いたのだけど、どこですか?」
僕は一応丁寧に尋ねてみた。
「こっちだ、ついてきな。」
明らかに尊大な態度だった。
自分はえらいのだと言いたげだった。
爵位がなくても貴族の子弟だ。ふつう、こんな態度はとらない。
僕は思わず村長を見たが、目をそらされた。
ついでに、村人も見まわしたが、誰も目を合わそうとしなかった。
「よろしく。」
ため息をついて、そう答えていた。
これは先が思いやられる。
この小さな世界で、彼は権力者だった。
何となくそう思っていた。
家は、村はずれの小さな小屋みたいなものだった。
もともと本当に小屋か何かだったのを、急きょ住居用にしたようで、ぼろいものだった。
一応これでも貴族の子弟なんだけど・・・。
僕はデルバー先生に心の中で抗議した、
「今日のところは食事を用意させるが、明日からは自分でできるんだろ?魔術師さん。」
トートは挑戦的にものをいう人だった。
こういう手合いは正直相手にしたくない。
「ああ、大丈夫だよ。僕も面倒はごめんだしね。」
僕は君に言ったんだよ?
通じていないよね?その顔。
次の日から、本当に何もなくて、びっくりした。幸い、1か月分の食糧は持参している。
「先生。絶対恨みますからね!」
僕はまた、デルバー先生に呪いの言葉を丁重に贈っていた。
それから、3日間後、村の人ともある程度仲良くなり、僕は森の中に足を踏み入れた。
「正直これはこたえるな・・・・。けど、この植物はなんだ?これって新発見?なんだここは?」
僕は調査に夢中になっていた。
もう、荷物は収穫物でいっぱいだ。
これでもいろいろ知識はもっている。薬草学は僕の得意分野だ。
講師に推薦されたのもこれだったが、正直面倒だったのでことわった。
「その仕打ちがこれかよ!」
思わず叫んでいた。
そして、何かにつまずいて、盛大にこけてしまった。
「あいたたた・・・。なんだ?・・・あし?」
僕はそれを見て驚いた。
けもの道の途中で、足が一部出ていた。こんなところで遭遇するのは、大抵死体か何かだろう。
「うごかないよね?」
おそるおそる近づいてみた。
「エルフだ・・・たぶんだけど、若い。」
エルフは長命な種族だから見た目以上に生きている。
そして、若いエルフほど、外の世界にあこがれる。そんな一人が旅先で何かに襲われたか?
一応周囲を警戒するも、何も感じなかった。風を感じるくらいだ。
「死んでからどのくらいたつのだろう?」
うつぶせているので、男か女かもわからない。額からは血が流れていた。倒れた時にぶつけたのか?
特にひどいのは、腹部の傷だろう。
冷静に観察していると、かすかに息があることに気が付いた。
「おお!まだ息がある。それならば。」
僕はそのエルフを抱えおこし、回復薬を飲まそうと試みた。
「くそ、意識がないと飲んでくれないや。どうする・・・・。」
こんな時回復魔法が使えたら便利だが、それは無理な相談だった。
「仕方がない、人命救助優先だ。ごめんよ、エルフ君」
僕は回復薬を口に含むと、それを口移しで飲ませていた。
少しずつ、何度も繰り返し、むせないように細心の注意を払いつつ、僕は薬を飲ませていった。
「さて、あとは腹部の具合だが・・・」
そう思って、あおむけに寝せて、お腹の部分の服をめくって確かめた。
「これはひどい・・・・。」
先に薬を飲ませて正解だった。
内部からでないと、この安物の回復薬では届かない。
幸い、大きな出血は止まったようだった。
あとは、この外側だ。傷が残らないように、腹部に薬をふりかけておいた。
応急処置としては、今はこれくらいしかできない。
「家に帰ればまだ薬を使えるが、いずれにせよ、他の部分も確認しないと・・・。」
手、足は特に大きな傷はない。
やはり腹部の出血がひどかったために倒れたのだろう。
背中には血はついていなかったから大丈夫だ。
そう思い、お腹の部分から胸の部分にかけて、服を脱がしていった。
「あ・・・・」
僕の目の前に、つつましい双丘があらわれていた。
美しいその光景に、一瞬固まってしまった。
「う・・・」
彼女のうめき声で、我に返った。
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
あわてて、服をなおし、彼女をそっと寝せた。
そして、頭を地面につけてあやまった。
けど、何も返事がなかった。
そりゃそうだ。意識がないんだった。
「こんなことをしている場合じゃなかった。早くうちに連れて帰って、手当の続きをしないと。」
僕はエルフさんを背負うと、自分の村に向かって歩き出した。
「エルフって軽いんだな・・・・。」
僕は妙な感想をもっていた。
「エルツ様、いったいどうしたのですか?」
村に入ったところで、珍しく村長と出くわした。
「村長。森で怪我をした女性を見つけました。手当てが必要なので、女性の方をお願いできますか?」
僕は村長に気軽にお願いした。
「女性の方って・・・それ、エルフですよね?」
村長の言い方に僕はなんだか、憤りを感じた。
「けが人に、種族なんて関係ないでしょ!誰でもいいから早く!」
僕は思いのほか大声でどなってしまった。
しばしの沈黙。
少しばつが悪くなり、返事を待たずに家にむかっていた。
家の中で、手、足、顔のあらかた汚れを落としていったが、どうしても、それ以上がためらわれた。
「何やってるんだ、村長・・・・・。」
僕は家の外を見回してみた。
だれも、村の外に出ていなかった。
これは明らかな意思だ。
「くそ!なんでだよ!」
家の中に戻り、僕は壁をたたいていた。
そのとき、家の中で風が舞い、その中から一人の少女が現れていた。
「これでみえるかの?ニンゲン」
少女は僕に問いかけていた。
「君は精霊かい?」
僕の知識がそう告げていた。
「いかにもそうじゃ、か弱き者。わしは風の精霊。名はいわん。困っておるようじゃから助けてやろう。この者、わしもよく知っておるでな。」
そう言って、風の精霊の少女はエルフの乙女の服を脱がせていった。
「ちょっとまって!」
あわてて後ろを向いていた。
「かか。何をあわてておる。ニンゲン。さっきもじっくり、ねっとり見てたじゃろ?」
とんでもないことを言ってきた。
「ちょっとまってよ?一瞬だし。ねっとりじゃないし!」
あわてて訂正しておいた。
「どちらも見たことに変わりはなかろう?しかも口づけまでしおって、この者199年で初めてじゃったぞ?どう責任を取るのかの?」
風の精霊は僕の後ろで好き放題いってきた。
「うーん。責任って言われても・・・。食事のお世話?」
僕は真剣に悩んでしまった。
「かか。愉快な。食事の世話か。ならばそこにわしも入れてもらおうかの。」
風の精霊はまたわけのわからないことを言ってきた。
精霊が生きるために食べる必要はない。ただ、人化した時に楽しみとしては食べることは可能だった。
「手当を手伝ってくれるなら考えてもいい。」
僕は取引を持ちかけていた。
これ以上責任とやらを取らされたら、たまったもんじゃなかった。
「かか。交渉成立じゃな。」
後ろでうれしそうにしているのが分かった。
妙なことになった。
僕はそう思っていた。
「それで、さっきから見てたんならわかるだろ?そのほかに傷はない?あと、それなんにやられたかわかる?たぶん、毒もらってると思うけど、種類が特定できないと治療しようがない。」
後ろで確認している気配がした。
僕は黙って待つことにした。
「おい、ニンゲン。」
「エルツだ。」
「では、エルツ。服でなくてよいが、何か着せるものがないかの。おぬしともいい加減顔を見て話さねばなるまい。」
風の精霊は肝心なことを話してくれなかった。
しかし、その訴えはもっともだった。
「僕の予備のローブを上からかけるといいよ。そこの壁にかかってるやつ。温度調節機能があるから、毛布としても使えるからね。ところで、その子の装備はないのかい?」
僕は精霊がローブをかぶせる音が聞こえたが、念のため、返事があるまではそのままでいた。
「賢明な判断じゃな、にんげ・・エルツよ。もういいぞ。」
精霊はそう言うと、僕とエルフの間に座っていた。
一応守っているのか・・・。僕はこの精霊に親しみを持っていた。
「なっ。何か盛大に勘違いをしておるようじゃが、ニンゲン。」
精霊は顔を赤らめて抗議してきた。
「エルツだって。それにわかったよ。ところで、さっきの質問に答えてはくれないのかい?」
僕は微笑みながらそう返していた。
「まったく、これだから脆弱な生き物はこまる。あれよりひどい傷はない。というよりもわしもそれを見ておる。あれはハイマンティコアの毒針じゃ。」
精霊は知りたい情報を教えてくれた。
「ハイマンティコアか・・・いったい何発うけた?」
僕は一応確認していた。
「腹部だけじゃ。完全に不意打ちを食らったわ。あんなものわしの力ではじけたものを・・・・。あんなときに言い合いなど・・・・。」
どうやらケンカしたときに襲われたようだった。
ハイマンティコア1体の毒針なら、何とかなる。
「よし、ちょっとまってて、調合する。」
僕はそう言って、自分の袋から、薬草を取り出していった。
「ほほう、おぬし薬草学をしっておるのかの。」
精霊は興味深そうにのぞいていた。
「まあ、専門というわけではないけど、少なくとも人に教えることくらいはできるかな?」
それを断ったばかりにこういう目に合っているが、知っていて本当によかった。
しばらく、調合し、最後に僕のオリジナル魔法を加えて、持続効果を高めていた。
「ほお、それはオリジナルじゃな?」
精霊はとても興味深そうに出来上がった小瓶の中身をながめていた。
「で、どうやってのます?」
意地悪そうに聞いていた。
「きみが・・・・」
「できんの。」
即答だった。
そうか、契約になるんだ・・・・。しかも術者が意識ない状態では、どうなるかわかない。
「・・・・・・・・・・・」
うめき声が聞こえた。
ほんのり赤みを増しているその肌は、熱の上昇をものがたっていた。
「ほれ、さっきもしたように、はやくせい。」
精霊はまたも意地悪そうにあごで指示していた。
「ごめんよ。これしかないみたいだ。申し訳ない。意識を取り戻したら、君の許しが得られるまで、君に奉仕しよう。」
僕はそう告げて、口移しで薬をのませた。
「うむ。わしが証人じゃ。」
嫌な証人だった。
「余計なこと言わないでね。」
一応はくぎを刺しておこう。でないと、あることないこと言われそうな予感がした。
「まあ、一応これで様子見だけど、2,3日たって意識が回復しなければ、近くのまちで司祭を連れてくるしかないかな・・・・。」
村人にお願いしても無駄だろう。通信用魔道具で連絡を入れようかと思った時、彼女が寝返りを打った。
あわてて僕は両手で視界を遮った。
しかし、かなしいかな。本能が指に隙間をあけていた。
「かか。奉仕がふえるのう。」
ローブをなおしながら、精霊は楽しそうだった。
やめておこう。
もし、その時にそうなったらとんでもない目にあいそうだった。
そして、なにより僕は自分の薬に自信があった。
「よくなってからね。」
僕はエルフにつげていた。
顔を見ると、少し、熱が下がったようだった。
「水を汲んでくる。ごめんね、僕は清浄化が使えないんだ。今度覚えておくよ。」
体を清潔にすることが必要だ。
僕は相変わらず外に出てこない村人に、言いようのない怒りを覚えていた。
それから、彼女が意識を取り戻したのは2日たった後だった。
エルフと精霊
二人との出会いがエルツ君の人生を変えていきます。