愛情と憎しみのはざまで(ヒメルの章)
ヒメルは火の精霊の会話を聞いてしまいます。
「お母さん・・・・こわい・・・・」
わたしは、一人取り残されていた。
窓の外には火の精霊さんが躍っている。
悲しい踊り・・・・。私はそう感じていた。
「なあ、俺たちもこうしたくないんだぜ。」
「ああ、仕方がないんだ・・・・。大体ニンゲンは勝手だよな。俺たちにこんな役目を押し付けてよ」
「ああ、かってだよ。この子が聖鳥の来訪を告げてあげてたのによ。」
「ばかだな、聖鳥が見えるわけないだろ!精霊もみえないのに!」
「じゃあなにか?この子がしたことは無駄なことか?」
「無駄どころか、害だと思うな、この子が言いまわったから、気味悪がったんだよ。いままでは村の一部だったけど、今回は村全体に駆け回っただろ?あれで恐怖したんだよ。」
「へー。じゃあこの子が言わなければ、こんなこと起こらなかったんだ。」
「まあ、そこまでは言わないけどさ、でもそう考えることもできるよ。なにせ、この子の言動で子供たちは怯えてたし、大人たちもそれに近かったしね」
「へーじゃあ、俺たち悪くないね。この子が引き起こしたことだ。」
「うん、俺たちは俺たちのしなければいけないことをしているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「でも、見えてる相手を焼き殺すのって、やっぱりいやだな・・・・。」
「しょうがないだろ。それが俺たちの役割だ。それを曲げたら、俺たちが消されるんだぞ。」
「そうだよな・・・・。」
「そうだとも・・・・。」
何言ってるの精霊さん?
全部ヒメルのせいなの?
ねえ、ヒメルが精霊さんを見れるからなの?
ねえ、ヒメルがおしゃべりしたからなの?
ねえ、ねえ、おしえてよ。
ヒメルがお母さんを危険な目に合わせたの?
ねえ、ねえ、ねえってばー!
「わかんないよ!ヒメルのせいなの!」
そして私は暗闇に放り込まれていた。
気が付くと、私は大量のぬいぐるみさんに囲まれていた。
安心する・・・。
近くにお母さんの気配がした。
「お・・か・・あさ・・ん」
声が出なかった・・・。
「ヒメル。話してはダメ。大きく息を吸っても駄目。できたら口を覆って、耐えて。火がすぐそこまで来ているから。今ぬいぐるみさんたちが守ってくれている。だから、お父さんが来るまで頑張りましょう。」
お母さんの声が聞こえた。
私は言われるように手で口を覆っていた。
「ヒメル頑張って。ヒメル。頑張ってね。」
お母さんが近くにいる。それだけで安心できた。
でも、熱い。
どうにかなりそうだった。
何か、もっとお母さんを感じたい・・・・。
すると、片方の手がお母さんの手につつまれた。
ああ、お母さんはちゃんとヒメルのことをわかってくれているんだ。
私は安心した。
安心すると同時に、さっきまでの熱さがなくなっていた。
お父さんだ!お父さんが助けに来てくれたんだ!
ヒメルの大好きなお父さん。
いつもヒメルを守ってくれるお父さん。
やっぱりヒメルを助けに来てくれたんだ。
安心したら、さっきの精霊さんたちの会話が気になっていた。
やっぱり、ヒメルのせいなのかな・・・。
お母さんに聞いてみよう。
「お母さん、あのね・・ヒメルのせいなの?ヒメルが鳥さんのことを話したせいなの?ヒメルが精霊さんを見えるからなの?火の精霊さんが言ってた。この子が何も言わなけりゃ、こんなことにはならなかったんじゃないかって。ねえ、お母さん、本当なの?みんなヒメルが悪いの?」
お母さんはしばらく黙っていた。
やっぱりヒメル悪い子なのかな・・・・・。
でも、お母さんは話し始めた。ヒメルにちゃんと教えてくれるんだ。
「ヒメル。よく聞いて、あの鳥さんは聖鳥といって、精霊とは違うけど、普通の人にはみえないの。精霊使いには見えるけど、普通の人には見えない。だから、残念だけど、お父さんも見えないのよ。だから、ヒメルの見た鳥さんは誰の目にも見えないものなの。」
あれ?それって火の精霊さんも言ってたよ?
じゃあ、火の精霊さんたちのいってたことって正しいんだ・・・・。
ヒメルは悪い子だった。
ヒメルがしゃべったから、こんなことが起こったんだ。
ヒメルが精霊さんと仲良くしたから、こんなことが起こったんだ。
だったらもう何も言わない。
何も見えないようにするから。
ねえ、ヒメルいい子にするから。
ねえ、ねえ、ねえ・・・・。
お母さんの手がヒメルの首を探してた。
お母さん・・・。痛い・・・苦しい・・・。
やっぱりヒメルは悪い子なんだ。
言っちゃいけないことを言っちゃったんだ・・・。
見えることは言っちゃいけないんだ・・・・・・。
精霊さんとは仲良くしたらダメなんだ・・・・・。
そんな時、お父さんの声が聞こえてきた。
「テーレ!ヒメル!」
お母さんの手が、私の首から離れていった。
お母さんは何でも知ってる。
ヒメルが言わない、話さないと決心したら、苦しいことをやめてくれた。
ヒメルはこれでいい子になれるんだ・・・・。
よかった・・。
お父さんに引き上げられて、4人で輪になった。
あったかい。
お父さん、お母さん。ヒメルは今日から何も言いません。これでいい子だよね?
お父さんに抱っこされて、外に出るとき、お母さんが叫んでた。
でも、大きな音でわからなかった。
そして私はおとうさんといっしょに、転んでいた。
「お母さん、いたいよ。」
あたりは、煙でいっぱいだった。
もうもうと立ちこめる土煙の中、私は、起き上がって、お母さんの方を見た。
「ねえ、お父さん・・・お母さん・・・・どこ?」
さっきまで、お母さんはすぐ後ろにいたんだよ?
さっきまで、お母さんはヒメルの手を握ってたんだよ?
ねえ、さっきお母さんはなんていったの?
「お母さん!」
あの髪、あの長くきれいな髪。それだけが見えた。
私は夢中で駆け寄った。
お父さんは先にそこにいた。お父さんはやっぱりすごい、お母さんをすぐ見つけるんだね。
「お母さん?」
お母さんの髪、その先はつぶれたおうちで見えなかった。
お母さんの髪、なんだか赤い色になっていた。
お母さんの髪、お母さんの血・・・・・。
「いやー!お母さん!!」
そんな・・・そんな・・・
さっきまで、さっきまで、ヒメルと一緒にいたんだよ?
ねえ、お母さん。返事して・・
ねえ、お母さん。お母さん。ヒメルを置いて行かないで!!
ばあやのとこに行かないで!!
「あー。エルフも赤い血なんだ。」
なんだかわからないけど、嫌な気がした。
それよりも早く、お父さんが壊れてた。
「トート。お前なんて言った?テーレになんて言った?聞いたぞ、知っているぞ。お前!!」
トートと呼ばれた人は何かに押しつぶされていた。
お父さんは魔法で、そこにいる人たちを殺していた。
いいの?お父さん。そんなことしていいの?
いつも仲良くしようって言ってたよ?
死んじゃうよ?
死んだら痛いんだよ?
「エルツさん!ダメです!」
バーンがお父さんを止めていた。でも、小さいお父さんが、大きいバーンを投げつけていた。
「バーン。しばらく麻痺してろ」
お父さんはそう言ってバーンを麻痺させていた。
「この村がテーレを殺した!この村人全員がテーレの仇だ!逃げても無駄だ。俺は最後の一人まで殺しつくしてやる。」
お父さんは、大規模に魔法陣を展開していた。
そして、光が村人一人一人に向かっていた。光を浴びた人々は、特に何もないことにほっとしたようだった。
「それは、烙印だ。それが光る時、お前たちの命はない。テーレの悲しみと苦しみをお前たち自身で味わうがいい!!」
あんな怖い顔のお父さんは初めて見た。
泣いているのか、怒っているのかわからない顔だった。
わたしは、ただ呆然とお父さんを眺めていた。
テーレの死。これはエルツにとって受け入れがたいものでした。
そして、心無い人々に対して復讐の牙をむいていきます。
そして、母を失ったヒメルは、心を失いかけますが、エルツの行動で混乱しました。
ただ、この事で、ヒメルは余計なことを言わないと心に誓いました。