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桃から生まれた?

作者: 山口みかん

 むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが居ました。

 おじいさんは山へ芝刈りに

 おばあさんは川に洗濯に行きました。

 おばあさんが川で洗濯をしていると上流から、どんぶらこどんぶらこと大きな桃が流れてきました。


「あらまぁ、こんなに大きな桃が。おじいさんは桃が大好物ですから、これをもって帰ればとても喜んでくれるに違いないわ」


 その時、おばあさんはおじいさんの喜ぶ顔を想像するだけで、身体の芯が熱くなるのを感じたのです。

「いやだわ、欲求不満かしら」


 おばあさんは頭を軽く振ってその妄想を振り払います。


 私はおじいさんに美味しい桃を食べて貰って喜んで貰いたいだけなの。

 そうよ、ただそれだけなの。

 熱くなっているのは洗濯に集中しすぎて疲れているからに違いないわ。


 そんな事よりこの桃よ。

 こんなに立派な桃は何としても愛するあの人に食べてもらいたい。

 おばあさんはそう心に固く誓うと、桃を家に持ち帰り、おじいさんを待つことに決めました。

 ああ、おじいさん、早く帰ってきて。

 あなたの居ないこの家は、まるで廃墟のよう……


 おばあさんには、その一分一秒が永遠のように感じたのです。



 その時、家の外におじいさんの荷車(愛車)の音が聞こえてきました。


 ああ、おじいさんだわ。

 今日はいつもより帰りが早いわ。仕事がうまくいったのね。

 きっとご機嫌に違いないわ。

 間違いなく桃を喜んでくれるわね。


 そして入り口の引き戸が勢いよく開かれたのです。

 そこにいたのは、もちろんおじいさん。

「今帰ったよ、愛しい人(マイ・ラブ)

「ああ、待っていたわ、おじいさん」


 おばあさんはおじいさんに駈け寄り、おじいさんの逞しい身体を抱き締めたのです。

「なんだ、どうしたんだい? 愛しい人」

 おじいさんは軽い接吻(キス)をかわすとおばあさんに問いかけました。

 

「今日、川に洗濯に行ったときあなたの大好きな桃を見つけたのだけど、とても大きくて…… これを早く見て欲しかったの」

「なんだ、狼煙を上げてくれれば良かったのに」

 おじいさんは首に巻いた手ぬぐいを緩めながらおばあさんに微笑みかけました。

 おばあさんはその微笑みに気持ちが昂ぶるのを抑えるのに必死です。


 まだ、まだよ。

 おじいさんにこの桃を食べて貰うのが先なの。


 おばあさんは頬を微かに染めながら、それでも心の内が表情に出ないよう、努めて冷静におじいさんに答えます。


「だって今日はあなたが以前から計画していた大事な芝刈りの日でしょう? あなたの邪魔をしたくなかったの」

「何を言うんだ。君より大事な物なんて何も無いよ。遠慮しなくていい」

「ああ、おじいさん、あなたは私を良い気持ちにさせてくれる言葉をいつも知っているわ。ええ、わかったわ、今度からそうさせてもらうわね」

 そうして二人はもう一度キスをかわしたのです。


「さあ、おじいさん。早くこの桃を食べましょう」

「そうだね」


 おじいさんに早く桃を食べて貰ってその後は……

 おばあさんは我慢しきれなくて、おじいさんの手を取り囲炉裏の間へとおじいさんを引っ張っていきます。


「おいおい、そんなに引っ張ったら僕の腕が抜けてしまうよ」

「まあ! あなたのこの逞しい腕は見せかけだというのね? きっとお箸も持てないに違いないわ」

「だとしたら、毎食君に食事を助けて貰わないといけないな」

「ご希望とあればいつでもしてあげるわよ」

「それでも君を支えることは出来る」

「そうね、あなたはとても頼りになるわ」

「勿論だとも」

「なら、もっと引っ張っても大丈夫ね」

 おばあさんは笑いながら、更に強くおじいさんの腕を引っ張りました。


「ははっ、君にはかなわないよ」

 おじいさんは軽く肩をすくめると、おばあさんに引っ張られるままついていくことにしました。


 そして囲炉裏の間に入ったおじいさんの目に真っ先に飛び込んだのは大きな桃です。


「おいおい、なんだい? この桃は。なんて素晴らしいんだ! 艶やかで張りがあって、まるで君のお尻のようだ」

 そう言うと、おじいさんはおばあさんのくびれた腰に腕を回し、懐へと抱き寄せました。


「なに? あなたの目にはこの桃が私のお尻に見えるの? やめて、触らないで。私のお尻はこんなに大きくは無いわ」

「すまない。もちろん君のお尻はこんなに大きくは無い。だけど、ここにこんなにもっと瑞々しくて美味しそうな桃があるのに手を出せないなんてなんの拷問だい?」

「だってあなたは桃が好きっていつも……」

「もちろん大好物さ。こっちがね」

 そう言いながらおじいさんの芝刈りで鍛えられた逞しくてごつごつした指が、おばあさんのヒップをぎゅっとわしづかみにしました。


 ああ、だめよ……

 私がここで桃を切らないと話が進まないの。


 そう思いながらも、おばあさんは自らの体が蕩けそうになっていくのを止めることはもう出来そうもありませんでした。


 ああ、もうだめ…… 我慢、出来ない…………


      ◇      ◇


「この時に出来たのがお前だ、桃太郎」

「!?」

「高齢出産で大変だったのよ?」

「!?」

※桃はあの後、2人で美味しく頂いてました

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