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幸福論テスト  作者: Lantana
3/3

問3.人はなぜ他人の為に尽くすことに喜びを感じるのか説明せよ

烟樹 楓、それが俺の担当となる生徒…

なんというか、期待を大きく上回るほどかわいい女の子だった。ただ、なぜかその優しくまぶしい笑顔が、俺はなんとも言えない複雑な気持ちにさせた。


薊「あ、新しくマネージャーになりました、薊 言音といいます。よろしくお願いします…」


芥子菜「はい、じゃあご挨拶が済んだところで、二人でご飯でも食べてきてください。」


薊「え、お仕事はいいんですか?」


芥子菜「まぁ今日はお仕事というよりも挨拶みたいなものですしね。本来面接する予定でしたし。それに生徒とのコミュニケーションも大事ですよ〜」


薊「あ、あと!」


芥子菜「?」


薊「他の講師の方との挨拶がまだなんですけど…ってそういえば今日は日曜日だからお休みですかね。」


芥子菜「まぁそういうことですね。またお仕事が始まったらその時に。」


薊「わ…かりました。」


芥子菜「じゃあいってらっしゃ〜い。2時までには帰ってきてくださいね〜。」


薊「では、失礼します…」


…とは言ったものの、ろくに人と会話なんてしてこなかった俺がこんな女の子と何話せばいいのやら…中学生、くらいか…?やっぱり声優目指してるんだからアニメとかかな…でもそんなに詳しいわけでもないし…


そんなことを考えつつ、二人は近くのファミレスへと入った。


薊「…」

楓「…」

薊「えと…何食べます…?」

楓「私が先に決めてもよろしいのですか…?」

薊「ああ、うん。俺は別になんでもいいからさ…はは。」

楓「では、私はこのハンバーグランチで。」

薊「あ、美味しそうだね…俺も、これにしよっかな〜…ドリンクバーとか頼む…?」

楓「私はお水で大丈夫ですので…」

薊「ああそかそか…じゃあ注文しちゃうね…」


ピンポーン


店員「お待たせしました、ご注文の方お伺いします。」

薊「ハンバーグランチ二つ、お願いします。ドリンクバーは結構です」

店員「かしこまりました。メニューの方お下げしますね〜」


薊「…」

楓「…」


ああ、どうしよう…何にも思いつかない…気味悪いやつとか思われてないかなぁ…でも、いざ話題振るとなると、なんか必死さが目立ちそうで逆に引かれるかも…


楓「あの…」

薊「は、はい!」

楓「マネージャーさんになる前は何をされていたんですか…?」

薊「ああ、えっと…」


気を使って話題を振ってくれたのはありがたいけど、痛いとこついてきたなぁ…ここは適当にごまかし…いやいや!これからこの子の担当になるんだぞ!そのうちボロが出て嘘がバレるに決まってる。この子頭良さそうだし。ならいっそのこと正直に言ってしまおう…


薊「深夜のコンビニで働いてました…」

楓「…」


…失望されたかな。


楓「具体的には何時から何時くらいまでやられていたんですか?」

薊「あ、夜の10時から朝の6時まで…」

楓「ええ!?それは大変ですね!」

薊「ま、まぁ…そんなに、お客さんも来ないし…大変でもなかったよ。」

楓「私にはとてもできそうにありません…薊さんってとっても忍耐強い方なんですね。」

薊「…え?」


「忍耐強い」

俺にもっとも相応しくない言葉だ。


薊「まぁ、そんな大した人間じゃないよ…はは」

楓「いえ、私のマネージャーさんがそんな方だなんて、とても頼もしいです!これからはよろしくお願いしますね!」

薊「こ、こちらこそ!よろしくお願いします!!」


楓ちゃん…!なんていい子なんだ。これが子供の純真無垢な考えというものなのだろうか…こんな子の担当になれるなんて、俺はなんて罰当たりな男なんだろう。

…いや、よく考えてみたら罰当たりなんかじゃないのかもしれない。むしろ、今まで最低な人生を送ってきた俺に巡ってきた最高の人生のスタートなのかもしれない!

これは何としてでもこの子の為に尽くさなくては…!


店員「お待たせしました、こちらハンバーグランチになります。油が跳ねますのでナプキンをお使いください。」

楓「わ〜!美味しそうですね!」

薊「そうだね、美味しそう!」

二人「いただきまーす!」


楓「美味しいです〜!」

薊「よかった、喜んでくれたみたいで。」

楓「はい!本当にありがとうございます!」

薊「そんな大げさだよ。あ、そういえばさ、」

楓「?」

薊「楓ちゃんって中学生なのかな?学校とかってどうしてるの?学校が終わってから養成所に通うのかな?」

楓「…」

薊「?…楓ちゃん?」

楓「…学校には行ってません」


あ、これもしかして地雷踏んじゃったんじゃ…


薊「あ、あはは…そうなんだ…まぁそういう時もあるよね…でも、あんまりさ、その…深く考え過ぎずにっていうか…誰でも学校に行きたくないってのはあるか」

楓「違うんです」

薊「ら…さ?」

楓「私、両親を幼い頃亡くしてしまって。引き取ってくださる親戚もいないので、芥子菜さんに面倒を見てもらっているんです。」

薊「え…」

楓「養成所に入ったのも、声優を目指したいからではありません。他にやれるものが無いので、入所しました。」

薊「…」

楓「でも、せっかく私を拾ってくださった芥子菜さんのために、がんばろうと思ってるんです。私が少しでも有名になって、芥子菜さんの養成所に人がたくさん来てくださるように…って。」

薊「…そっか。」

楓「あっ…ごめんなさい…私、せっかくのお食事中に、こんな暗い話…」

薊「…楓ちゃんはすごいよ」

楓「えっ?」

薊「さっき俺のこと忍耐強いとか言ってくれたけど、実際は本当にどうしようもない人間でさ」

楓「…」

薊「大学も途中でやめて、仕事も途中でやめて…ダラダラダラダラとゲームばっかりして、挙げ句の果てにはアルバイトもクビになって…いい年こいて誰かの為になんて考えたこともない…」

楓「…」

薊「それに比べて、楓ちゃんはその年でもう誰かの為にがんばろうなんて言ってる。俺とは大違いだ。君はとても立派な人間だ。」

楓「薊さん…」

薊「こんなどうしようもないダメ人間だけどさ、楓ちゃんの担当になった以上、全力でサポートする。本当に頼りないし、何の取り柄もない俺だけど…精一杯がんばってみるよ。」

楓「ありがとうございます…薊さんは良い人ですね。」

薊「そんなことないって!」

楓「いえ…薊さんのおかげで、少し気が楽になりました…本当にありがとうございます。」

薊「ま、まぁそう言ってくれるなら俺もうれしいよ…なんか照れくさいな…」

楓「薊さん、改めて、よろしくお願いいたします。」

薊「こちらこそ!よろしくお願いします!」


自分は今まで甘えていたんだな…こんな子でも人の為にがんばるって言えるんだな…この子に比べたら遅過ぎるスタートだけど、楓ちゃんの為に全力を尽くそう!それに…やっと誰かに必要とされたんだ…!


楓「薊さん!薊さん!」

薊「ん?どうしたの?」

楓「時間時間!」

薊「げぇー!!もう半過ぎてる!急いで戻らないと!」

楓「あ、私はもう養成所に戻る必要はないのでここで。」

薊「ああそうなんだ!じゃあ俺もう行くね!」

楓「あの!薊さん!」

薊「?」

楓「芥子菜さんからな…」


ガシャーン!!

薊「うわっ!」

店員「ああ!申し訳ございません!申し訳ございません!」

店長「おい!何やってんだ!

申し訳ございません!お客様、お怪我はございませんでしょうか?」

薊「いえ、大丈夫です…運良く服も汚れていないので…あ、それより…」

薊「楓ちゃーん!今なんか言ったー!?」

楓「…」

楓「薊さんのおかげで元気が出ましたー!今日は本当にありがとうございましたー!」

薊「ははっ、これからよろしくねー!」


彼はそういって手を振り、彼女と別れた。店を出て、全速力でイカロスへ向かった。


薊「ハァッ!ハァッ!ハァッ!…」

薊「やばいな…もう3時になる…まだ仕事始まってもいないのに遅刻って…信頼無くしちゃったかな…」


まず戻ったらひたすら謝ろう、まだ始まってもいないこの人生の再スタートを台無しにしてたまるか。彼はそんなことを思いながら、事務所への階段をかけ上がった。


薊「しつ…ん?」


彼がノックをしようとした時、何やら話し声が聞こえた。


「……ですか!…?」

「はは………でしょう?」


この笑い声は芥子菜さんかな…だとするともう一人は…講師の方?でも今日は休みじゃ…

いや、それよりこういう時どうすればいいんだ!会話がひと段落ついてからノックした方がいいのか…?でも、盗み聞きしてるようでなんか…様子見だな。

しかし、何の話してるんだろ…


「…さすがに今回の新入りはどうなんですかねぇ…経歴から察するに頭も良さそうじゃないですし…ベラベラとあれこれ話されたら面倒なことになりますよ!」


え、新入り…って俺のことか…?なんかあんまりよく思われてないな…まぁ無理もないけど。それより、あれこれ話されたら面倒…?


芥子菜「まぁまぁ、彼は純粋な少年のようなものですよ。現に、私のことを信頼しきっている。」


ん…?え…どういうことだ?


「しかし…なんであなたはいつもカタギにあのガキを任せるんですか…あのことバラされでもしたら…」


か、た…ぎ?かたぎってなんのことだっけ…?それにあのことってなんだ?


芥子菜「無関係だからですよ。あんな話聞いたら、普通の人は誰だって逃げ出すでしょう?ま、回りくどいですが、時間稼ぎのためですよ。それに彼は実に使い捨てやすい人材ですからね〜」


使い捨て…?ちょっと待ってくれ、今そう言ったか?

俺はまた捨てられるのか?ふざけるな…話が違う!


彼は事務所のドアをバンと開けた


芥子菜「…」

薊「…!」


芥子菜「事務所に入るときはノックは常識ですよ〜?」


問3.人はなぜ他人の為に尽くすことに喜びを感じるのか説明せよ 終

















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