問2.あなたを必要としているものを挙げなさい(ただし、家族、友人、恋人は含まれていないことが条件)
「…声優さん、興味あるんですか?」
彼の唐突なアタックに動じることなく男はそう返した。
薊「あ、えと、興味あるっていうか…声優マネージャーさんみたいな、誰かの夢を叶える仕事って素敵だなって思って、それで、自分もそんなお仕事ができたらなぁ、なんて…」
その言葉を聞いて、男はうんうんと笑顔で頷きながら言った。
「そんな風に思ってくださるなんて嬉しいですね〜実は私も人手不足で丁度困っていたところなんですよ〜あ、自己紹介が遅れました。私、声優養成所イカロスの所属講師、芥子菜 糸真と申します。」
そう言って彼は薊に名刺を差し出した。
薊「ありがとうございます…あ、僕は薊 言音と申します。よろしくお願いします。」
芥子菜「あざみ ことねさん…なんだか女の子みたいでかわいい名前ですね〜」
女の子みたいな名前、小学校時代に同じような理由でからかわれていたが、この人に言われても嫌な気はしない。むしろ、どこか心地いいようなくすぐったいような。
芥子菜「いや〜しかしいきなり話しかけてくるもんですからびっくりしましたよ〜」
薊「あはは…すいません。」
芥子菜「んーと、じゃあ早速ですが、軽く面接を行いたいので、都合の良いお時間をお聞きしてもよろしいですか?」
薊「あっはい!僕はいつでも暇なのでそちらのご都合に合わせて頂いて大丈夫です!」
芥子菜「あはは!そっかそっか。でしたら、今度の日曜日なんてどうでしょう?」
薊「はい!大丈夫です!よろしくお願いします!」
芥子菜「はい。こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。」
そう言って、彼は会計を済ませ店を後にした。
薊「まさかすぐに面接の話にもっていけるなんて、これは運命ってやつなのかもしれないな…!あの人もいい人そうだったし、もしかしたら本当にマネージャーになれるかもしれないな…!」
彼はそう思い、生中をもう一杯と焼き鳥全種を頼んだ。本当にマネージャーになったらたくさん勉強しなきゃ、生徒たちと上手くコミュニケーションを取れるだろうか、美少女生徒に告白されてしまったらどうしよう。都合の良い妄想が湯水のように湧き上がり、酔いも回って最高の気分で床に着いた。
なぜ「いつでも暇なので」という言葉を気にしなかったのかを考える事も無く。
そして来たる日曜日、彼は声優養成所イカロスに足を運び、ビシッとしなきゃ、受け答えはちゃんとできるだろうかと、ニヤニヤしながらも事務所の階段を上った。
しかし、そんな期待を裏切るような一言を彼は耳にすることとなる。
芥子菜「まぁ、最初から採用のつもりだったので、面接なんてするつもりはないんですけどね。」
薊が事務所のドアをノックし、どうぞと言われ席に着いた最初の一言であった。
薊「…へ?」
芥子菜「薊さんから声をかけられた時にビビっときちゃいましてね〜ウチにはこういうパワーのある若い方が必要なんですよ〜」
薊「いえ!私なんてそんな…パワーがあるなんて…」
芥子菜「そんなことないですよ〜私にはわかるんです。あなたはパワーが無いんじゃなくて、発揮する機会に出会わなかっただけなんですよ。」
薊「そ、そうでしょうか…」
芥子菜「はい、あなたはここぞという時に発揮する力はそれは凄いものを秘めているのだと思いますよ〜あの焼き鳥屋さんでそれを感じました。」
薊「ほ、ほんとうですか…?」
芥子菜「もっと自分に自信を持ってください。あなたの悪いところは自分に自信が無いところです。」
ああ、そうか。俺は今まで自分に自信が無かっただけだったんだ。俺は本当は凄いパワーがある…それを発揮する機会が無かっただけだったんだ。
芥子菜「では、早速お仕事の話に入ってもよろしいでしょうか?」
薊「はい!大丈夫です!」
芥子菜「はい。ではまず、声優マネージャーが何をすると言うとですね。簡単に言ってしまえば担当の子にお仕事を持ってきてあげるというのが、お仕事の大まかな内容ですね。では、どのようにしてお仕事を手に入れるのかと言いますと…」
…夢みたいだ。今まで誰からも必要とされず、なんの取り柄も無く、遊んでばかりだった俺が「仕事を頑張ろう」と思える日が来るなんて…これは運命としか言いようがない。嘘みたいに話が進んで気がつけば採用。俺は声優マネージャーになるため生まれてきたのかもしれない。だとしたら、なんとしてもその役目を果たしたい。担当の子を誰よりも有名にしてあげたい…!これが俺の「生まれてきた意味」だったんだ!
芥子菜「あ〜ざ〜み〜さ〜ん?」
薊「っ!はい!?」
芥子菜「もー駄目ですよ〜お仕事の話をしてるのに考え事してたら〜」
薊「ああっ、す、すみません!」
ダメだ!何やってるんだ俺!せっかく見つけた生きがいを失うつもりか!こんなチャンスもう二度と無い!しっかりしろ!俺!
芥子菜「…とまぁこんな感じで、何年かやって初めて馴れてくるっていう仕事ですので、最初から張り切り過ぎないように気をつけてくださいね。」
薊「わかりました。」
芥子菜「それでは、薊さんから何か質問はありますか?」
薊「あ、えと…社長さんとかって、いらっしゃらないんですか?」
芥子菜「んーとですねぇ、実を言うとウチ、できたての事務所なんですよねぇ。
薊「あ、そうなんですか?」
芥子菜「そうなんですよ〜。ですから、私が一応代表ってことになってますね〜。講師の方も僕含めて3人しかいないんですよね〜生徒の子は50人ちょっとですかね〜」
薊「え、じゃあ芥子菜さんが社長さんってことですか!?」
芥子菜「形だけですよ形だけ。あっ、担当の子の紹介がまだでしたね。」
薊「僕の、担当…」
芥子菜「まぁまぁそんなに緊張なさらずに、最初は大変でしょうから担当の子は一人だけですよ。」
薊「えっ、一人だけなんですか!?」
芥子菜「まぁ、マネージャーさんの仕事はお仕事を取ってくる以外にもいろいろありますし、覚えることが多いですからね〜最初から何人も担当しても出来る訳ないですしね。」
薊「なるほど…」
芥子菜「じゃあ待たせているので呼んできますね。少し待っていて下さい。」
俺の初担当の子…どんな子だろう…可愛い子がいいなぁ…いやいや!どんな子だろうと真剣に接してあげなきゃダメだ!
芥子菜「お待たせしました〜」
薊「…この子が、僕の担当の子…」
「烟樹 楓と申します。よろしくお願い致します。」
問2.あなたを必要としているものを挙げなさい(ただし、家族、友人、恋人は含まれていないことが条件) 終