episode1
うちのクラスには‘幽霊’がいる。
この単語、‘幽霊’と聞くと誰もが‘奴’を連想する。
長い前髪。
しっかりと第一ボタンまでシャツを締め、ネクタイもきっちり止まっている。
そして何よりも...
このクラスは編成されて半年経つのに、誰も‘奴’の素顔を見たことがないのだ。
これまで振り返ってみても...
五月の体育祭。夏休み前の奉仕合宿...
集合写真及び、ふざけた男子の隠し撮り(女子のパンツとかそういうのじゃないよ)にもちょこちょこ写るものの、やはり素顔はわからないまま。
「ちょっと!マキ!聞いてる?」
「へ?あ、ごめん」
親友で、このクラスの女王様である秀花が頬を膨らまして私を見ていた。
「ぼおっとして大丈夫?」
私のオデコにデコピンしてケラケラ笑う。
でも、女王様って言っても悪い意味ではない、なぜなら秀花は誰にでも優しいし...ただこのクラスの空気を変える圧倒的な存在なだけだ。
「最近ずっとそうじゃん?さては男か~?」
周りの女子が茶化す。
「んな訳ないじゃーん!」
少し大きな声で言う。
‘奴’のことを考えないために...
「そういえばさ、今度の文化祭さ、何やるんだろうね」
「はい!お化け屋敷!」
秀花が張り切って言う。
「秀花、張り切りすぎ!」
すると皆の輪を抜けてどこかへ行ってしまう。
向かった先は...‘奴’
「ねえねえ、山城くんってお化けに詳しいよね?」
突然、話しかけられ、‘奴’はアワアワしている。
その意外な組み合わせに皆の目が秀花と‘奴’の方へ向けられる。
「げっ、秀花ったらよりによってなんで幽霊と話してんのよ...」
「本当にお人好しなんだから...」
秀花が皆から人気があるのは誰にでも優しいから...
そう、たとえいつも一人でいる山城に対しても...
暫くして秀花が戻ってきた。
「なんか収穫あった?」
私が聞くと秀花はニイッと笑った。
「うん!たくさん怪談話してくれた!今度皆で聞こうよ!」
「えー」
「でも幽霊の怪談も楽しそうだね」
いつのまにか、あれだけ幽霊に対して冷たいことばかり言ってたはずの皆が興味を持つようになった。
やっぱり秀花パワーはすごすぎる...
私は尊敬の眼差しを秀花な向けていると、秀花も私に気づいたのか、笑い返してきた。
下校時間...
私は普段は秀花と帰る。
いつも通り、靴箱から自分の靴を出そうとしたときだった。
...メモ?
「マキー?」
履き替えた秀花が私に近づく。
「どうしたの?」
そして手元を覗き込む。
「なんか...入ってて」
四つ折りされたルーズリーフの切れ端。
開いてみると割りと整った字でこう書かれていた。
『巻野修子さんへ。放課後話があるので教室にいてください。』
「...へ」
なんだ、この手紙は...
「マキ、行ってきな!」
秀花がなぜかガッツポーズをした。
「でも宛先わかんないし...」
「いいじゃん!相手の話聞いてよかったら付き合うのも有りだと思う!」
「...うん」
「それにもうすぐ文化祭じゃん。うまくいったら一緒に回れたりするだろうし...」
秀花は少し寂しそうに笑った。
「そんなことは...」
「とりあえず私のことは気にせずいってこい!話は帰ってからでも聞くから!」
「...うん」
秀花に後押しされ、私は自分の教室へ。
ドアの前に行くとすぐに人影が見えた。
ガラガラとゆっくりドアを開けると相手が振り返る。
「...あんたは」
一瞬、唖然とした。
「あ、えっと...」
私を呼び出した相手は...幽霊...いや、山城だった。
「これ、あんたの?」
私が紙を見せると山城はゆっくり頷いた。
...前髪で顔が見えなくてどんな表情してるのかがわからないな。
「何か用かな?」
私の態度にビビっているのか、山城はオドオドし出した。
「あ、あの...」
そしていきなり頭を下げた。
「俺と付き合ってください!!!」