44 - 遺跡の探索の一日目のこと
遺跡の探索はそつなく行えている、と思う。
途中に罠はそれなりに設置されていたけど、大したものでは無かったので、特に手間取ることもなく無事撤去。
遺跡の構造自体も単純で、大部屋と通路が連続しているだけのシンプルなものだった。
それでもこの遺跡の探索難易度が高いんだろうなあと思ったのは、それぞれの大部屋に必ず数匹の魔物が居たからである。
予め教えられていたオルドラゴはもちろんだけど、特に目についたのは物理攻撃を原則無力化してしまうメタルスケイルデビルや、攻撃を受けるごとに『増える』という厄介な魔物、インフルースライムなどだろうか。
オルドラゴはともかく、メタルスケイルデビルやインフルースライムは迷宮の主たる存在にさえなっている事がある『高位の魔物』に違いは無い。
そんなのが部屋毎に五、六匹くらい集団で居るのだ。
部屋の数は一層あたりに二十五個ほど。その全てに最低でも五、六匹居たから、一層で二百匹ほどを討伐したことになる。
魔物の生態系が心配になるけど、クリアたちの話を信じるならば、長い時間を掛けて復活す……、
「どうした、ノア。急に立ち止まって。何かあったか?」
「……いえ、すみません。なんか今、怖い想像をしてしまっただけです。一応罠が無いか確認しますね」
「おう」
罠を確認しながらあらためて考える。
クリアたちの話は恐らく真実だろう、そしてそれによると、魔物は長い時間を掛けて産まれ変わる。記憶は引き継げないけど、魔物は滅んだ原因が強ければ強いほど、強い魔物として復活するわけだ。
オルドラゴにせよメタルスケイルデビルにせよインフルースライムにせよ、リーフやレティスたちにとっては普通では多少手間取る相手だったようだけど、僕が補助魔法による補助を実施した結果、ほぼ一撃で仕留められるようになっていて、おかげでインフルースライムは全然増えなかったし、メタルスケイルデビルも物理攻撃が貫通したし、オルドラゴに至っては見ている方が可哀そうになる感じになっていた。そう、一方的だったのだ。
この遺跡の中に産まれ変わるのか、あるいは少し離れた所に産まれ変わるのか、そんなところは知る由も無いけれど、たぶんここで倒された魔物たちは『上位の魔物』から『最上位の魔物』に産まれ変わるんだろうなあ……。
まあ、未来の事は未来の冒険者が頑張るだろう。
「罠はありませんね。大丈夫です」
「そう。それにしても、一日で大分進めたわね」
「そうだな」
レティスにオドさんが同意した。
そう、一日だ。
攻略を始めたその日の内に、今僕たちは第四層へとたどり着いている。
この間、一度も外には出ていない。
「とはいえ、そろそろ僕の魔力が半分になりそうです。一度出ますか?」
「そうしましょうか。一日でここまで進めれば十分でしょ」
僕の提案にレティスが満足そうに頷いて同意する。
よし、じゃあ外に出るか。
僕は床に短剣を一本、天井にも一本投げて突き刺し、『設視』をしかけておく。
「じゃあ、皆さん、ちょっと僕に触ってください。頭でも肩でもいいので」
「うん?」
僕が言うと、とりあえず三人は思い想いに僕に触れる。
レティスは僕の頭、オドさんが右腕、リーフは左の肩。
全員が触れている事を確認して、僕は『転』の魔法を行使する。
瞬間景色は切り替わり、そこは外、夜の設営地になっていた。
「無事脱出に成功しました。疲れた!」
「おい待て。なんだ今のは」
「『転』という単字魔法ですよ。イセリアさんに教えてもらいました。予め設定したポイントに、という誓約はありますけど、空間転移出来るんです。便利ですよね」
「便利ですよね。じゃねえよ。そんな魔法使ってるのイセリアさん以外に見た事ねえし、とんでもない魔力の消費なんだろアレ。そう聞いたぞ」
「聊かならずそれは古い情報ですね。僕があの魔法を教えてもらった時、多分僕の魔力じゃ無理かもねみたいな感じだったんだけど、イセリアさんは解釈違いをしていまして。それでも無理矢理発動してたから馬鹿みたいに魔力を消費してたんです。僕が解読したら、魔力の消費は少し大きめの攻撃魔法程度で済むことがわかりました。今頃イセリアさんは正しい解釈を勉強中です」
「はァ!?」
あ、リーフがキレた。
レティスはあきれ顔、オドさんは困り顔だ。
「え、待ってくれ。じゃあノアくん、もしかしてお前はその、予め設定したポイントとやらにならば、割と行き来が自由なのか?」
「はい。ただ、対象は『分散』だと増やせなかったんですよね、『転』は。代わりに行使者に触れている人間は一緒に転移出来る事が解ったので、それで妥協しています」
「えっと……その、設定したポイントに距離の制限とかは?」
「ないと思いますよ。ただ、ポイントの設定数には限度があるので、あっちこっちに自由自在とは行きませんけど」
オドさんの質問に答えると、オドさんが大きくため息をついて、周囲を見渡しながら言った。
「それならば設営しなくてもよかったんじゃあないか……?」
「ああ。それについてなんですが、それは駄目です」
何も隠す事じゃないし、僕はちゃんと説明しておくことにする。
「確かに『転』は強力な魔法です。設定したポイントに一瞬で移動できるわけですから。そして魔力の消費も大分抑えられました。けど、僕の魔力は決して規格外では無いんです。もし普通に戦闘を行っていたならば、脱出に使うための魔力が残っていると言う保証が無かったんですよ」
「なるほど。道理か」
オドさんは納得してくれたようだ。
一方でリーフは未だに混乱している。
「いやいやいやいや。納得してる場合じゃねえだろ。空間転移ってそれ、それこそイセリアさんの専売特許みたいなもんだろアレ。それをなんでこんな子供が使えるんだよ」
「これでもレベルだけは高いので、習得はできるみたいですね。そういえばレベル上がってるかな?」
僕はレベルカードを取り出して更新と唱えて見る。
文字が変化し、そこにはレベル95と表示されていた。
「あ、95になってる」
「…………」
混乱から一気に立ち直ったらしく、リーフもレベルカードを取り出して更新。それを見たレティスとオドさんも更新をそれぞれして、カードを互いに見せあった。
現状によると、僕が魔賊レベル95、リーフが格闘士レベル94、レティスが騎士レベル96、オドさんが神官レベル94になっていた。
おお、逆転されてる。
「さすがに前衛の伸びも良いですね。まあ、あんだけ強い魔物を六百匹も屠ればそうなるか」
「うわあ。俺、レベル90になるのが割と冒険者としての目標だったのに、なんか一気に94って……」
「まあ、なんて言うのかしらね。私たち、多分世界的にもトップチームになったんじゃないかしら、これ」
「大体ノアくんのおかげだろうけどな。補助魔法を使える魔法使いというのは、あるいはおれたち神官以上に貴重かもしれん」
ふうん、そうなのか。
でも考えて見ればそうかもしれない。補助魔法って費用対効果が悪いのだ、普通に使うと。
『分散』を前提に考えて、攻撃魔法と同じくらいだろうか。まあ、攻撃魔法も『分散』できる事を考えると結局はそれ以上に差がつくけれど。
「脱出前に短剣を突き刺してたの、あれは何だ?」
「天井に刺したほうは『設視』。床に刺したほうは『転』のポイント設定用です。『転』で一気に戻るにせよ、魔物がいたら面倒なので、その確認ですね」
「…………。アレシアがお前をああも強く推薦した理由がようやく解ったよ。確かに遺跡の経験が殆ど無かったとしても、お前の魔法に関するセンスは常軌を逸している。お前に使えない魔法、無いんじゃねえの?」
「そうでもありませんよ。アレシアさんから借りた魔法書は全部読めたけど、魔力が足りなくて発動しなかったのもいくつかありますし、アレシアさんに出来て、僕にできない応用も多いです」
逆に僕にしかできないことは殆ど無い。
それはきっと、本当の意味での才能の差なのだろう。
「末恐ろしいとはまさにこの事ね。……私たちも大概高レベルな部類だけど、あれね。ノアと一緒に冒険した、ってこの事実が、なによりの名声になりそうな気がするわ……」
「褒められると嬉しいですけど、残念ながらその後期待には添えないかな」
僕は少し困ったような表情を浮かべながら、設営の設備の方に歩き始める。
「僕は盗賊ギルドのメンバーですからね。『盗賊ギルドの誰か』が参加したという事実は残りますけど、そこに『ノア・ロンド』の名前は絶対に記録されません。そういう契約です。そして、僕の外見についても、それは同じですから」
「なら、いっそ冒険者になっちゃいなさいよ。あなた、盗賊にしておくより、冒険者としてのほうが活躍しそうだし」
「考え方次第なんですけどね。でも僕は、やっぱり盗賊ギルドかなあって。ほら、暗殺した時に『転』使えば逃げるの簡単だし」
「ああ……ごめん。言い方を変えるわ。あなたが盗賊だと冒険者としては護衛依頼が成立しなくなるから、冒険者になってくれない?」
最初は単なるお願いだったのが、急に切実なお願いになった。
言われてみれば僕が襲撃側だと、僕から護りきるのは案外大変かもしれない。
「まあ、考えておきます。で、また交代で寝ますか?」
「いや、その必要はない」
オドさんが笑みを浮かべて言った。
「設営依頼をしている以上、おれたちが寝ている間の監視はその依頼を受けた冒険者たちの仕事になる。皆で寝ても問題ないわけだ」
「なるほど」
歩みを進めるとなにやら良い匂いが。
どうやらご飯も準備されているらしい。
「だから、食事を終えて、水浴びでもして、その後適当に寝て……明日の朝から探索再開と行こうか」
オドさんに対して、僕を含む三人は頷いて答えた。




