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シニモドリ  作者: 朝霞ちさめ
最初のシニモドリ
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03 - お店と彼らの印象のこと

 僕が僕、ラス・ペル・ダナンとして生き始めてから二年。

 僕の身体が眠り続けていた頃も、両親のどちらか片方は常に家にいたそうだ。

 そして僕が目覚め、この二年間は両親のどちらかが必ず僕と一緒に居たけれど、僕がまた長い眠りにつく事もなさそうだ――と判断したらしい。

 両親は漸く、本格的な仕事を再開するつもりらしかった。

 ちなみに僕は九歳になっている。

 目覚めた時、僕は自分の身体を見て五歳くらいだと想定していたのだけど、その時点で七歳だった。

 考えて見ればずっと寝ていたのだ、成長がその分遅れたのだろう。

 で、僕もそのお仕事のお手伝いをすることになった。

 ダナン商会。

 その名前が示す通りお父さんが開いたお店で、保存食や薬草といった必需品から、それなりに根の張る魔法武具まで冒険者向けの用品を広く揃えているんだとか。

 僕がお手伝いするのは、あくまでも雑用だ。

 お掃除をしたり、軽くて安全なものの移動をしたり、そんな感じ。

 武器や防具の類は、まだ危ないから触っちゃダメ。

 両親としてはできる限り目の届くところに僕を置いておきたいと言う事なのだろう。

 僕としてもその点は嫌じゃないので、とりあえず掃除をすることにした。

 掃除をある程度し終えた頃、初めてのお客さん。

 三人組の人たちで、それぞれが結構強そうだ。

「久しぶり、奥さん」

「あら」

 どうやら顔なじみだったらしい。

 三人組のリーダーっぽい人が軽くお母さんに話しかけると、お母さんは笑みを浮かべていらっしゃい、と答えた。

「三人揃ってくるのは珍しいわね。何か大きな山でも引いたのかしら、ミア?」

「流石は奥さん。お見通しだね。特薬草と、このリストのものを揃えてもらいたいんだけど」

「解ったわ。ラス、ちょっとこっちへ」

「うん」

 呼ばれたのでそちらへ向かうと、三人組の視線が僕に集まった。

 えっと……とりあえずお辞儀。

「はじめまして?」

「はじめまして。えっと……?」

「この子はラス。ラス・ペル・ダナン、私の息子よ」

「え?」

 三人が顔を見合わせた。

 この反応、どうやら僕が眠り続けていた事を知っているらしい。

「二年前くらいに、目が覚めてね。そろそろ大丈夫だろうってことで、今日からお店の手伝いなのよ」

「よろしくお願いします。えっと……?」

 たしかミアとか呼ばれてたけど、それがフルネームなのかな?

 僕が迷っていると、リーダー格の人がそれに気付いてくれたようで、居直った。

「俺はミア。このトリオのリーダーをやっている、剣士だよ。お前らも挨拶しといたほうがいいと思うぞ」

「そうね。あたしはセイナ。魔術師よ」

「ラバル。神官だ」

「ラス・ペル・ダナンです」

 一応自分も名乗ってお辞儀する。

 で、気になったので聞いてみたら、どうやら当然フルネームじゃあないらしい。

 なんでも冒険者と言うのは本名とは別の名前を持ち、冒険者として活動する時ははそちらの名前、そうでないときは本名の方を名乗るんだそうで。

 なんというか、普通に知らない作法だった。

 もっとも、『前の僕』にとって冒険者なんてのはそれこそお伽噺の中の存在だったし、『僕』にしても馴染みが合ったわけじゃないから、仕方ないか。

「ラス。私は倉庫から品物を出してくるから、あなたはちょっと、三人の接客をお願いね」

「え? 僕?」

「だって他に従業員居ないじゃない。品物にはちょっと危ないものもあるし」

 そう言う事なら仕方ないか。

 倉庫に向かうお母さんを見送って、いざ三人の居る方に視線を向けると、三人は僕を観察していた。

「えっと……。接客って何するんだろう?」

「世話話とか?」

 セイナさんが即座に助け舟を出してくれた。

「良く有るのは、薬草とかの相場の変化かしらね。冒険者としても店としても重要な事だもの」

「なるほど。でも、僕がお手伝いを始めたのは今日からだから、相場のおはなしは難しいかも……」

「それもそうだな。ならばラスくん。ラスくんが俺達を見て、似合いそうなあって思う武器って何だ?」

「武器……」

 ふーむ。

「イメージで良いんですか?」

「ああ。イメージで良い」

 ならば、と改めて僕は三人を観察する。

 剣士ミア、魔術師セイナ、神官ラバル。

 うーん。

 じゃあ順番に、率直に。

「ミアさんは、今装備しているその剣より、もっと軽い剣に替えたほうがいいかも」

 今装備している剣はかなり上質なものみたいだし、その代替品はそうそう見つからないだろうけどね。

 たぶん彼の得意分野は軽い剣を使った連続攻撃だ。今彼が装備している剣は重すぎて、それができないとみた。

「セイナさんは、あえて装備を増やすなら、短剣かな……ナイフじゃ無くて、ショートソード」

 魔術師なのだから近接戦闘はしないのだろうけど、万が一の場合もある。

 その万が一ならばナイフで良いような気もするけど、獲物の長さが短すぎて使いにくい。

 それなら少し重くてもショートソードのほうがまだマシだろう。

「ラバルさんは、片手で持てるような斧が良いかな。盾はカイトシールドより、丸盾のほうが良さそう」

 ちなみに今のラバルさんは大剣を装備している。

 それはそれで良いと思うけど、なんだか前のめりに過ぎるんだよね。

 一歩身を引いて周りを見えるような装備のほうが良いと思う。

「そんなイメージです」

「なるほど。参考になる」

 本当になるんだろうか……。

 ていうか、僕も僕だよね。

 なんでこんなアドバイスがすらすらと出せるんだろう。

 さらに言えば三人は満足そうにうなずいているので、逆に心配になってしまう。

 と、そんな時に、

「お待たせしたわね」

 お母さんが帰ってきた。

 その両手には大きな荷物。

「はいこれ、リストにあった品よ。確認して頂戴」

「ああ、ありがとう。ところで奥さん、息子さんには特別な教育したのか?」

「いえ、全然できてないわ。それがどうかしたの?」

「いや……なかなかに的確なアドバイスをくれてね。あるいは英才教育でもしたのかと邪推したのさ」

「アドバイス?」

 何の事かしら、とお母さんは問い返したので、僕が答えることに。

「イメージで良いから、三人の武器を僕が選んだらどうなる? って聞かれたの。で、答えた!」

 お母さんは軽く頷き三人に視線を向けると、三人も揃って頷いた。

「驚いた。私たち、ラスにはその手の事は全く教えてないわよ」

「何かしらの、助言系のスキルがあるのかもしれないな」

 ラバルさんが言う。

 スキルって何?

 あとで聞けば教えてくれるだろうし、今は良いか。

「うん、確かに預かった。不備はない。代金はいつも通り、証文で」

「ええ、構わないわ。裏書きは?」

「俺か冒険者ギルドのどっちかだな。どっちがいい」

「じゃあ、ミア、あなたの名前でお願いするわ」

「了解」

 証文?

 裏書き?

 何それ?

「ああ……そういえばそのあたり、まだ教育して無かったか。ほら、これほどまでに大量の品とか、大金のものを購入する時、いちいち現金を持ち歩いてたら大変でしょう。だから、お金が銀行で支払われるようにする仕組みが有るの。もちろん……ある程度の信頼関係は必要だけどね」

「へえ……。確かに、金貨数千枚とか持ち歩くの、重いもんね」

 頑張れば持ち歩けない事も無いだろうけど……。

 僕の呟きに僕以外の四人が同時に頷いた。

「ほい、証文。それじゃ奥さん、生きて帰ったらまたよろしく頼む」

「ええ、ミアたちの御武運を願ってるわ」

「お買い上げ、ありがとうございます!」

 とりあえず丁寧にお辞儀をすると、三人組は笑みを浮かべて去って行った。

 ふう、初めての接客はとりあえず失敗ではないようだ。

「ラス。あの三人の顔は忘れちゃだめよ。お得意様だから」

「はい。それと、お母さん」

「うん?」

「その三人が今日買って行ったやつ、結局いくらだったの?」

「……知りたい?」

 僕は頷いて答える。

 お母さんはこほんと咳払いをして、答えた。

「金貨三十七万八千枚よ」

 …………。

 いや、えっと、頑張っても持ち歩けそうにないな……。

初回投稿分はここまで。

これからは一日一話増えるかも。

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