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シニモドリ  作者: 朝霞ちさめ
シニモドリの冒険者
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16 - 賭けと僕らの結論のこと

 僕が提示した可能性に対して、ケビンのリアクションは素早かった。

 普通にギルドへと向かったのだ。もちろん、一人では僕が危ないと言うことで、僕も一緒に。

 状況に気付いていたのは流石に僕たちだけじゃあないようで、それなりにレベルがあるらしい冒険者たちは既にギルドの支部にあらかた到着していたのを見て、僕たちはむしろ後発組だったのを知った。

 もっとも、僕たちはこの現象に対する一定の解答を導き出せたけど、それはケビンがラヘル城跡での戦いを経験していたから、そして僕があの魔物に一度取り込まれたからその可能性が高いとしただけだ。

 あの魔物に実際に取り込まれた事のない、そしてラヘル城跡の戦いに参加したこともないであろう普通の冒険者たちは、この現象をまるで理解できていないようだった。だからこそ、僕たちが試していなかった事を冒険者たちは実践していたので、これはこれで一種の役割分担なのかもしれない。

 で。

 ギルドの支部に入り、奥の酒場の中央ほどまで僕たちは歩みを進めて、ケビンが近場のテーブルを片手で持ち上げ、そのまま振りおろす。当然大きな音を立ててテーブルは大破、また弁償が必要そうだ。この場を生き残れたらだけど。

 ともあれ、そんな派手な事をして視線を集めて、ケビンは言う。

「レベル94の神官戦士、ケビンだ。連れはレベル61の格闘魔術師、シーグ。先日の騒ぎの事を知っている冒険者も多いだろうが、まあ、今回俺達もそれどころではないから、今は忘れておけ。それでだ、俺達はこの現象について一定の解答を得ているが、解決には至れない。それ故にここで情報を交換し、共にこの現象に対応、可能ならば解決したいと思っている。協力は可能か、不可能か?」

「不可能とした場合?」

 木の強そうな、鎧を纏った女性が言う。

 ケビンは笑みを浮かべて答えた。

「その時は俺とシーグの二人だけで脱出するさ。俺達とて無駄死には御免だからな」

「あら。言うわね。言っておくけど、この街の周囲には結界が張られているわ。かなり強固な……力場結界に良く似た、ね。たとえあなたがレベル94だとしても、結界破りなんてできるわけが無い」

「普通ならそうだろうな。だが俺とシーグにならば可能だ。ところでお前、名前は何と言う?」

 どこかおもしろそうにケビンは問いかける。

 すると女性はレベルカードを取り出して、それを見せつけながら言った。

「レイアよ。レベルは79、クラスは騎士。で、知りたいわね。あなたたちはどうやって結界を抜けるつもりだったのか」

 レベルカードに書かれている通りの内容だ。概ね外見的にもその通りだし、嘘は無いと思う。

「魔力の融通。普通の冒険者にはできねえことだが、俺のような『異質な』神官にはできるんだよ。まあ、無理に信じろとも言わんさ。それで、協力は可能か? 不可能か?」

 やれやれ、とレイアと名乗った女騎士は首を横に振って両手を挙げた。

「協力せざるを得ないわね。結界の脱出が可能であれ不可能であれ、今この場に居る者の中で最高レベルの戦力をむざむざ蹴りだす理由は何処にもないわ」

 合理的な発想だ。

 冒険者らしいとも言う。

「それで、あなたたちは何を知っているの?」

「浸食結界。神殿がそう記録した現象について。そして、とある強力な魔物について。質問は後で受け付ける、まずは説明を聞いてくれ」

 ケビンの言葉に、周りがしん、と静まった。

 そして、ケビンは語り始める。

 十年前のラヘル城跡での戦いで観測された浸食結界。数日前の魔物との戦闘と、取り込みと言う力。

 根拠は無い。

 殆ど勘だ。

 しかしほかに考えようがない。

 いや、あるにはあるのだ。

 だから全てを話し終えた時、納得した風の表情をしながらも、レイアはそれを指摘する。

「なるほど、範囲内を全て取り込む結界……恐ろしい仮説ね。筋もとおっているし、それなりに可能性は高いわ。けど、最悪の状況は別にあると私は考えるわ。まあ、私が気付いたくらいだものね、あなたも気付いてると思うけど、一応指摘。結界を張っている魔物が必ずしもその魔物では無い、つまり敵が複数居る可能性についてよ。これ、否定できる?」

「無理だな。状況的に肯定する要素はあるが、否定できる要素も無い。もちろん、力場結界を張れる魔物自体が珍しい上でこの周囲ではあの魔物以外に観測されていない以上、あの魔物による結界と考えるのが妥当ではあるが、俺達があの魔物と実際にバトったのは数日前。数日あれば魔物が増援を呼び、増援がこの結界を作った可能性もあるし、結界を作ったのはその魔物でも、他の魔物が増援として居ないとも限らない」

 他の魔物……そうか、その可能性もあるのか。

 やはり僕の考えは不完全のようだ。一応のとっかかりには出来たみたいだけど。

「そこで、魔物の探知系の魔法を使えるものに協力を頼みたいのだが。街を丸ごと補足できる者はいるか?」

「俺が既にやった。レベルは68、魔法使いだ。結論から言おう。探知は不可能だ」

「不可能?」

 ケビンが眉をひそめる。想定外だったらしい。

 というか魔物探知の魔法なら僕も使えるんだけどね。

 一応こっそり探知試しておこうかな?

 いや、余計なことに魔力を使って大切な時に魔力が不足するのも問題だからやめておくか。

「不可能とはどういう意味だ」

「うん。俺も説明に困ってたんだが、あんたの説明とあわせることである程度、それっぽい説明もできそうだ。恐らくこの浸食結界ってのが問題なんだよ。力場結界の内部は、その魔物にとって都合のいい空間と言い換えても良い反面、魔物は結局一つの身体だからな、探知の阻害は無い。けど、この浸食結界はその魔物の特殊能力を広げた空間……なんだろう? 探知結果は『魔物は居る、前にも横にも後ろにも』。要するに『全方向全範囲』に反応しちまうんだよ。だから魔物の詳しい位置を特定できないし、真面目に均一なせいで、どこに本体が居るのか見当もつかねえ」

「……厄介だな」

 ケビンが大きく息をついた。

 本当に厄介だ。

「ねえ、あなた。その範囲全部って、具体的にはどの程度の範囲?」

「街の外周から100メートルを追加した感じだな。結界はもう少し広いんだと思う」

「そう」

 何かに気付いたようにレイアは挙手して注目を集めると、そのまま発言する。

「自分で言っておいてなんだけど、この際、魔物は複数居ないと言う事にしましょう。万が一複数いたら生き残る事を優先して引き気味に戦って合流。数で優位を取れればここのメンツで大体は殲滅できるでしょうから。そして、ここで一つ疑問なんだけど、ケビン、この結界の内部には魔物の力が均一に存在する、のよね?」

「ああ、神殿が記録している限りではそのはずだ」

「ならばこれはチャンスね。相手の頭体はとっても大きくて、しかも密度が薄い分だけ『弱く』なってると思わない?」

 …………、あー。そっか。そう言う考え方があるんだ。

「頭いいね、レイアさんは」

「あら、ありがとう坊や。私も伊達に冒険者を十年やって無いの。なんでそんな便利結界があるのに使わないのか、そこに発想が至れば至極まっとうよ」

「そっか。僕はまだまだ経験が三年しかないから、そのあたりがどうしてもね」

「え、三年もあるの?」

「うん。七歳から冒険者」

 おかげでレベル61。

 まあ、実際のところ、『僕』が入る前のシーグのレベルがいくつだったのかはもはや知る術が無いけど。

「そうか。あなたもレベル61あるんだっけ。なら坊やとは呼べないわね、シーグ。正直な話、ここにいる冒険者であなたよりもレベル高い者のほうが少ないわよ」

「え?」

 周囲を見渡してみると、半数ちょっとが目をそらした。

 そう言う事らしい。

「ま、とりあえず『魔探』で検証して、と」

 僕は『魔探』の魔法を発動するべく魔力の形を形成する。

 でもこれ、普通に使う分には術者の頭に浮かぶだけなんだよね。

 なにか良い手ないかな……ああ、属性を情報から光に変更したら丁度いいかな?

 やってみよう。

 で、行使すると、概ね僕の想像した通りに、僕の眼前にその光の立体地図が顕れる。

 範囲を広くしている分効果時間がやたら短くなってしまっているので、その立体地図を全力で記憶して、こんどは単純な『光図』という光で地図を描く魔法を使い、再度点灯。

「これがその結果で、」

「ちょっと待て。なんだ今のは」

「なんだって、魔物探知の魔法の決定版、『魔探』だよ。範囲はとりあえず僕を中心に半径百メートル。でもあの魔法、属性が情報でしょ? 普通は術者の頭にふわーって浮かんで終わりなんだけど、ならば属性を光に変化したら表示できないかな? と思ってやったらできたの」

「…………」

「見ての通り、反応は均一。空気に溶け込んでいる。結界の広さからして、この魔物の強さはその分だけ弱くなってるはず」

「ああ……なるほど、そう言う事か。何事も相談してみるものだな」

「本当だよね。あのまま僕とケビンだけで話し合ってたら、きっと気付けなかった」

 でも、気付いてしまえばこちらのものだ。

 既に冒険者たちも各々準備を終えている。

「それじゃ、レイアさんの合図で、それぞれ適当にぶっぱなすってことで」

「解ったわ。三、二、一……」

 かくして真夜中の三時前。

 まだまだ暗いはずの時間帯、しかし冒険者たちが各々放った魔法や技の煌めきは、まるで太陽のようにまばゆく周囲を照らし、周囲に拡散した状態であった魔物をズタズタに切り裂いたのだろう。

 空気からざらつくような感覚が無くなったのを感じて、冒険者たちは歓声を挙げる。

 ケビンも「よしっ」とか、嬉しそうだ。レイアさんとハイタッチとかしてるし。

 僕はそんな二人を見た時に妙な感覚を覚え、下を見る。

 僕の胸元から、光の槍がはえていた。

「…………」

 かふっ、と。

 息をしようとしたはずなのに、口から出たのは血だった。

 声を出そうとするけれど、そもそも呼吸が満足に出来ない。

 そして身体も。

 思うように動かない。

「よかった、これで安心だな、シー……」

 ケビンが僕を見た。

 僕はケビンに腕を伸ばそうとして、やめる。

 前までの僕には出来なくて。

 今の僕にはできること。

 僕は、僕を後ろから突き刺している誰かを、後ろ手にぎゅっと抱きしめる。

 触れているのに、感覚が無い。

 いや、違うな。感覚が無いんじゃない。感覚を感じられないんだ。

 事実、それからは困惑の感情が伝わってきた。

 僕を刺したのが誰なのか、それが人間なのかすらもわからない。

 ただ……僕を刺したであろう誰かは、そのまま僕を盾にするつもりだったのだろう。

 だから、僕から抱きしめられて、困惑している。

「ご んね、  ン」

 治癒魔法には限界がある。

 腕や足が斬れた程度なら、神官次第では生やすことだって可能だ。

 けれど、治癒魔法にはどうしても治せない場所が二つある。

 頭と心臓だ。

 この光の槍は、確実に心臓を貫いている。

 全身に流れていたはずのものが、止まってしまう。そんな感覚が、不思議と手に取るように解る。

 全ての魔力を、無理矢理小さな塊にして、僕はその塊によって魔法とする。

 この魔法は……シーグが一番最初に覚えた魔法。

 シーグがケビンに拾われて、一緒に冒険をすることが決まったその時真っ先に、シーグが必死に覚えた魔法。

 僕の周りに光が集まる。

 ケビンが僕に手を伸ばす。

 その手が届くよりも前に、

 僕の意識はぷつりと途切れた。

おまけデータ:国内冒険者ランキング

第一位...アレシア…魔法使い(レベル98)

第二位...ウォル…大盾使い(レベル95)

第三位...ケビン…神官戦士(レベル94)

第四位...ソーン…槍騎士(レベル92)

第五位...グィン…アサシン(レベル90)


番外...ケセド(※神殿で一番偉い人)…神官(レベル121)


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