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シニモドリ  作者: 朝霞ちさめ
シニモドリの冒険者
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10 - ギルドと魔物と条件のこと

 街に到着した僕とたちは、そのまままずは宿を取り、そこで着ていた服を洗濯。

 僕にしろケビンにしろ服は血にがべっとり付いていたし、汗もすごかったし、僕の場合はあれもあったしで、身だしなみを整えることは大切だったからだ。

 ついでだったので水も浴びておく。その時、鏡に映った『僕』の姿を見て、今回の『僕』を改めて認識する。

 ラス・ペル・ダナンと比べても、少し身長が低いかもしれない。なのにラス・ペル・ダナンとは比べ物にならないほど身が締まっている。

 格闘魔術師か。十歳でこの身長ということは、単にそういう血なのかなとも思ったけど、別の可能性もあるんだよね。

 シーグが冒険者になったのは七歳のころ。この時点で、既にケビンと旅を始めているけど、これは少し言い方がちがっている。シーグが生きるためには冒険者にならざるを得なかったのだ。

 冒険者になり、当然戦うための訓練をして、三年かけてレベルは33。

 『三年でレベル33』は比較的まともな部類だ。その始点となる年齢が幼すぎたと言うだけのことである。

 で、七歳ごろの記憶を手繰る限り、その頃の体格は普通だった。並程度の身長はあったのだ。けれど訓練を重ねるにつれて、シーグの身体には筋肉などが付いてきた。

 子供の体格から、戦士の体格に。

 ようするに成長期真っ盛りに、体格方向に成長のエネルギーを使ったから、シーグの身長は伸びなかったのでないかと思うわけだ。

 まあ、格闘魔術師という戦闘スタイルを取る限りにおいて、身長の低さ、体格の小ささは利点にもできるので、都合がいいと言えば都合が良い。

 僕はそう納得することにした。

 で、服の洗濯は普通に行い、乾かすのには記憶にあった魔法の一つを使った。

 乾いた風を産み出す魔法だ。何を考えてこんな魔法がつくられたのだろうかという思いと、たぶん洗濯物を乾かすためにつくったんだろうなあという思いが奇妙に交錯しつつも、十五分ほどで洗濯完了。

「おいシーグ。なんだか今、さりげなくとんでも無い事をしなかったか?」

「時間が惜しいんでしょ?」

「それはそうだが……」

 しまった、シーグの記憶には確かにこの魔法の情報あったけど、こうやって使った事ないんだった。

 今度からは使った事のあるシチュエーションとかも思い出さないと。

「まあ、いいか。ギルドに行くぞ。レベルカードは持ってるな」

「うん」


 この街のギルド支部は、ラス・ペル・ダナンが暮らしていた街のそれと比べても尚大規模なものだった。

 三階建ての建築物。

 一階の奥半分は酒場になっていて、二階にも席があるらしい。

 で、一階の手前半分には、道具屋と武具屋がある。

 冒険に行く前に、あるいは冒険から帰って来た時にすぐにお店を使えるという、便利設計らしい。

 まあ、僕たちは今回お店に用事が無かったので、奥の階段を通り、二階を飛ばして三階へ。

 このギルド支部においては、三回が冒険の窓口になっているのだ。

 階段を昇りきると見張りだろう、戦士らしき人が僕たちの前に立ちはだかる。

「ここから先は冒険者のみ立ち入り可能の区域だ。兄さんはともかく、そっちの子供は遠慮して貰いたい」

「僕も冒険者だよ。ほら、レベルカードもある」

 僕は自分のレベルカードを見せると、戦士らしき人はぎょっとして散歩下がり、失礼しました、と直角に近いお辞儀をした。

 あれ?

 これはシーグの記憶にもない反応なんだけど。

「ははは。まあそうなるわな」

 ケビンは笑う。どうやらこの反応の理由を知っているらしい。

「どういう事?」

「あの戦士は駆けだしの冒険者だよ。レベルは多分5か、6か。そのくらいだろう」

 なるほど。

 それに対して僕のレベルは格闘魔術師で33だから、実績が違うわけだ。

「実力も、だろうけどな」

 なるほどなあ。

「でも、僕だって最初はレベル2とかだったし。最初から5あるなら、十分じゃないの?」

「お前の場合は七歳だったろうが。比較対象にできんよ」

 ごもっとも。

「さて、受付はがらがらか。丁度いい」

「そうだね」

 というか人がまばらだ。

 時間がお昼過ぎという微妙な時間だから当然なんだろうけどね。

 僕たちは受付へと向かい、レベルカードを提示する。

「神官戦士のケビンだ。こっちは格闘魔術師のシーグ。つい先ほどまで魔物と、近くの森で交戦していた。かなり危険だ。詳細を支部長に直接話したい」

 僕のレベルカードを見て受付さんは目を見張り、ケビンのレベルカードを見て後ずさる。

「さすがレベル93」

「いや、94だ。半日あの魔物とバトってたからだろうな」

 …………。

 レベルが90を超えると、普通の方法でレベルをあげる事は出来ない、とシーグの記憶にはある。

 これはつまりあの魔物との戦闘は、普通の方法ではないと言う事なのだろう。

「で、支部長と話はできるか?」

「はい。すぐにお呼びします、お待ちください」

「うん」

 ケビンが頷いたのを見て受付さんはすぐに動く。

 受付さんの取り次ぎが早かったのか、それとも僕たちがこのギルド支部に入った時点で支部長が見ていたのかはわからないけれど、支部長はなんと、一分もしないで僕たちの前に現れる。

「とりあえず、簡潔に現状を説明する。そっから先はギルドで判断してくれ」


 半日前、二人で行動している際に魔物と接触。その魔物の外見的特徴は首から下は人型、首から上は馬のような形。

 単純に力が強いタイプだと思われるが、魔法の行使も確認された。

 接触した時点でケビンの指示もあり、即座にシーグは離脱を試みるが、力場結界が既に発生していており脱出に失敗。

 ほぼその直後に、シーグは魔物に身体が取りこまれるも、結界内部における五時間の戦闘を経て、シーグの身体を改めて魔物から分離させることに成功。

 さらに遅れる事数分、シーグに意識が戻り、シーグは自身の意識が戻った事をケビンに伝えると、ケビンはその戦闘における勝利条件を撃破から撤退に変更、神殿における儀礼済みの大剣と神官魔法によって地面に縛りつけ、シーグと合流、二人の魔力を利用して結界の一部をごく短期的に破壊しその隙間から撤退に成功。

 そして今に至る。


 概ねこんな感じで説明をケビンが終えると、ギルドの支部長の表情は硬くなっていた。

「ケビンどのに確認したい。その魔物の撃破はケビンどのに可能か?」

「可能だったらとうに撃破してきているさ。まあ、俺一人じゃ無理だな。とはいえ、それはあくまで俺が一人で戦っていたからだ。レベル80の集団、四人以上ならば、撃破は不可能ではないと思う」

「それでもレベル80は必要か」

「70代でも戦えるとは思うぞ。死人が出ると思うがな」

 レベル70代は、少ないとはいえ、大抵の支部に数人いるらしい。

 けれど、レベル80代となると国家単位で数人になってしまう。

「俺達が離脱する時に仕掛けた術式は、あと十分持つかどうかだな。その後その魔物がどう動くかにもよるが、討伐するにせよ誘導するにせよ、少し待った方が良いだろう」

「わかった、そうさせてもらおう。そしてもう一つ、これはケビンどのとシーグどののお二方に確認したい。魔物に取り込まれた……と言っていたが、それは?」

 ちらり、とケビンが僕をみた。

 言っていいのか、そんな感じだ。

 だから僕は、平静を装って答える。

「そのままの意味だよ。ほら、僕はまだまだ弱いから、その魔物にあっさり捕まっちゃってね。あれよあれよと身体が取りこまれちゃったんだよ。その後意識が無くなって、次に気が付いたら地面の上だった。ケビンが助けてくれたみたい。その間の事は、僕の意識が無かったし、僕に覚えは無いよ。ケビンはどうだったの?」

「お前が取りこまれたってのに気付くまで、数分、時間がかかった。けどまあ、気付く切っ掛けは多かったがな。お前が持ってた筈の調理用の短剣が落ちてたし、なにより魔物の動きがお前そっくりだった。アレは恐らく、技量盗みだな」

 技量盗み。

 魔物の中でもごく一部が持つ特殊能力で、取り込んだ生物の特性を己に発生させるという、厄介な力。

 もっとも、人間が丸ごと取り込まれることができる個体はごくごく希。普通は身体の一部だけを取りこむせいで、盗んだ技量も完全には使いこなせていないことがほとんど、ということをケビンは説明してくれた。

「その点、あの魔物はシーグを丸ごと取り込めた。十歳の子供とはいえ、人間一人をだ。魔物としてのランクは最上位に近いと考えたほうがいいと俺は思う」

「なるほど」

 ギルドの支部長は苦々しげに頷く。

「それほどまでに強大な個体であるならば、あるいは記録があるかもしれない。事後調査や誘導討伐の判断はギルドで行い、相応の冒険者に対応させるが、万が一の場合、ケビンどのの助力を願いたいのですが、よろしいか」

「構わないが、それには条件が一つある。俺はどんな場所であっても、シーグを連れていくぞ」

「…………」

 ケビンの解答に、支部長は思い切り眉をひそめて答えたのだった。

「解りました。可能な限り、ケビンどののお手を煩わせないようにしましょう」

掲載日時がえらいことになっていたので訂正して掲載。

お騒がせしました。

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