嫉妬か羨望か?
その気もなさげにグループメンバーと合わせる彼女をあらぬ方向を見てるフリで見つめる。
「片槻ちゃん、フリーらしいな」
からかうような友人の声。
「免疫ないならすぐオチっかな? いってみれば?」
片槻スミレ。
口数少なく、影のように地味な君。
君との未来を築くために必要なもの。
それは情報と資金。
それがなければ技能知識は得ることができない。君とのデート資金とか、君の趣味方向性とかも情報を駆使すればいくらかは手に入る。
バイトしてそれまでの貯金とあわせて大きな買い物は車。
最初に乗せる女性はスミレちゃんがいい。勝手にそう決めて、準備した。
「買い物が便利になるわ。ありがとう」
一番最初は母さんだった。
それでも二人目の女性はスミレちゃん。
冷却シートを貼るハメになっても大好きだと思える女性とドライブランチはにやつきそうだった。
心は少しは揺れたかな?
でも君はいないものに心を寄せる。
それはいないけれど、確かにそこにいる。
君の心は確かに揺れる。
『関係ないよね』と切り捨てられて別れた。
ここには見えない誰かがいる。
気配だけはずっとここにいる。時計を握りしめて心音を時計の音に合わせる。
目を開ける。
『……』
何か聞こえた気がした。でもわからない。
すれ違い続けて届かない電波のようだ。
彼女を送った帰り道。
彼女がしゃがみこんでた場所を見る。
うっすらと空気の色が違う。
確かなそこになにかいるのはわかる。
目をこらそても、色が違うのがわかるだけで変わらない。
時計を見れば時間だけが過ぎていた。
「なぁ、クソ親父、俺さ、一度そこにいるなにかと話をしてみたい。どうすれば会話ができる?」
親父が読んでいた新聞を破れそうな勢いで丸めた。
数分後、廊下で正座して親父の言葉を聞く。
「見えるようになると言うのは、他も見ることになるということだ。わかってるか」
親父の我儘を聞いて大人しく正座で「お願いします」と頭を下げる。
「惚れた彼女でなく、なんで死者と語りたいになるんだ?」
それは、彼女を知るため。
彼女が捉えている相手を知るため。
「生きてる人間の方がコワイんだろう?」
「死者と言えど無害だけではない」
雨あがりの公園で見上げる虹。
「セージ、悩み事か?」
「俺にだって悩みくらいありますよ。フミ先輩」
答えて、思考が停止する。
「そっかぁ」そんな声が遠く聞こえる。
振り返れば柵にもたれて虹を見上げる先輩の姿が消えていく。
ここでよく話を聞いてもらったっけ。
今のがここでよく相談にのってもらっていた記憶の残像なのか、悩ましい。
「先輩はもういないんですよ」
悩み事かが追加された気になる。
わからない距離感を相談してみようかと思ってしまう。
「先輩は、もう死んでいるんです」
「うっわ。マジか?」
先輩が軽い。
時間をかけて遠回りして帰る。
踏み出す足を決めるのはずっと昔に聞いたおまじないだった。
買い物帰りの君を見かけられるおまじない。
今日はたまごの特売日。
たまたま見かけた買い物中。これ幸いと声をかけたら渋い顔。
たまごのメニュー相談くらいのってくれてもいいよね?
すぐ、となりを歩く惚れた人。
手を繋いで歩けたらいいのに君はツンツン、俺はしっかり嫌われてる。
なんとも思われていないより、きっとずっといい。
いつか覆せる可能性に賭ける。
「レジに並ぶから」
「じゃあ、俺はとなりのレジに」
迷惑そうな顔もキュート。
「大好きなんだよ」
「ふーん」
気のない返事でエコバッグに買った食材を詰めてくれる。
入れる順番わかってなかった俺グッジョブ!
スミレちゃんが倒したドリンクや重い物の上にたまごを置く。
「コレでいいわ」
「ありがとう!」
いやぁマジ助かる。
ありがとうととった勢いで繋いだ手はさらりと外される。持つよと伸ばした手もやっぱりさらりと拒否される。
それでも好きな料理の話題で歩く。
「自炊してないんだ」と言われて、「恥ずかしながら」と答える。
「上手そうだし、今度教えてくれる?」
調子にのって頼んでみた。
歩く公園はひと気はまばら。
先輩は静かでいいよなとよくここまで来てた。旅行土産に木刀買ってくるような人だった。
彼女の手にあるのは赤い鈴。
ユウ先輩がフミ先輩をからかっていた赤い鈴と同じような赤い鈴。
これは疑惑と嫉妬だ。
すぐ、となりを君は歩くのに歳の差だってないのに、まるで違う世界に生きる君。
それでも、笑ってくれるなら、幸せになれるならそれだって悪くないのに。
君は鬱々と視線を落とし、いないものに目を凝らし、耳を澄ます。
スミレちゃんが誰を好きかなんて知らない。