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迷宮演舞  作者: とにあ
伊住セージ
8/13

進むべき路

「クソ親父。頼みがある!」

 誠心誠意頼んだら殴られた。

 悩み相談所。つまりカウンセラーなんかやってるクセに手が早い親父である。

「やり直せ」

 ボールペンでむさ苦しいヒゲ面を掻きながらやり直しを請求された。

「クソ親父。マジ真剣なポイントで相談頼みがある!」

「教育が、悪かったようだな」

 俺はこめかみを拳で捻られた。

 幾度かの無駄なやり取りの後ようやくまともな会話に向かった。

 椅子に座って考え込んでいる腐れ親父をリノリウムの床で正座しながら見上げる。

 ここまでしたんだから、真面目に対応しろよ?

「で、おまえ、何がしたいんだ?」

 話聞いてねぇのかよ。クソ親父!?

「なにか、いるんだろう? だが、結局は生きた人間の問題だ。おまえは何をどうする気なんだ?」

 親父は俺とは違ってはっきりいないモノを見る。らしい。俺には見えないけれど、なんとなくいるのはわかる。

 もっと、その感覚の強い親父なら答えを知っていると思ったんだ。

 親父の専門だろうって。

 俺が?

 俺がなにか出来るのか?

「おまえが何もできんならそれはおまえが干渉してはいけない」

 わからない俺がもどかしいのか、親父が疲れたように告げてくる。

 それは正論かもしれない。

 何もできないのに波だけ立てる。それは無責任だろう。

「だって、風が止まってるんだ。あのままは嫌なんだよ」

 風が吹けばいい。心が動けばいい。

 身勝手な押し付けだと思う。それでも、見ないではいられないし、そのままに見守るだけももどかしいんだ。

「惚れた弱みか? なら、遠回りでも自分でなんとかする道を探れ。まず、まともな頼み方からな!」

 真面目に頼んだろ?

 茶化されて気分は良くない。

 すごく惹きつけられて目が離せない。それが俺にとっての彼女。

 ローヒールに周囲に倣ったような溶け込む地味な服装。並べば身長差が希望するよりなくて、背筋を伸ばそうと決意する。

 彼女はいつだって表面だけで笑ってる。

 きっと、他にもそういう奴はいるだろう。

 でも選べるのは、俺が、運命的に絆が培いたいと望んだのは彼女だ。

 少なくとも、俺は彼女の笑顔が見たいんだ。

「親父、俺に何ができる? あと、足痺れてんだけど……」

 黙って、腐れ親父は足を刺激してきた。

 悲鳴しかない。

 鬼か!?

 腐れ鬼畜は地獄に落ちろ!

「先ずは、押し付けず友人になれ。馬鹿息子」

 友人になりたいわけじゃない。

 なりたいのは恋人。特別。

「知らん相手になにを言われても響かんわ」

 ああ、それはそうなのかもしれない。


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