おひさまに
捨てることの出来ない赤い鈴。
それを握っていつもの場所にいくの。
「なにやってんだ」
「ヨシフミ君に会いに来たの」
「……? 俺に?」
不思議そうな表情の彼に微笑みかける。
私はヒドい事をしようとしてる。
「アンタ、だれ?」
その視線がはじめて鋭くてコワイ。
「私は片槻スミレ」
「え? いや、スミちゃんはまだ、一年生で……。同姓同名?」
くるくると困惑してるフミくん。
ごめんなさいが思考を占める。
「お姉さんが結婚したよ」
パッと表情が明るくなる。
「ユウの奴やったなぁ! これできょうだいか」
嬉しそうに笑う。
手の中に赤い鈴。
フミくんがこの会話を記憶にとどめることができないと知っていて話した私は狡い。
いつだって初対面。傷つけるのは一瞬だって思ってる。
「おかえりなさい」
伊住くんが手を差し出してくる。私はその手を取れない。
「ごめんなさい」
「ゆっくりでいいと思う」
フミくんと約束した。
彼が記憶しなくても二人の約束。
「幸せを追い求めて。君は俺のお日様だから」
「私はおひさまになれる?」
私はおひさまを見上げる雑草。
「スミレちゃんは、俺のおひさまだよ?」
フミくんに恥ずかしくない、おひさまに私はなれるかしら?
片槻スミレ編 完。
伊住セージ編に続く。