迷想
大人しく座る車内。
赤みを帯びた頬に冷却シート。買ってきたテイクアウトを漁る被害者。
特に問題ないなら送ってもらえと言ったのは積木先生。人をひっぱたいたのははじめてで、ぼんやりしたまま頷いた。
なんで伊住君は機嫌がいいの?
マゾってヤツ?
「はい、あーん」
二人乗り。狭い車内。強制的に食べるように促される。
「海へ行こうか」
送ってもらうだけだよね?
何その冗談は?
どうして、乗ってしまったのか。
「私、恋愛する気はないの。伊住くん」
好きな人は一人だけ。
「亡霊に恋しても報われないよ」
……嫌いだ。そんなことわかりたくなくてもわかってる。
「応える気のないのにおしてもしかたないと思うわ」
「生きてる限りゼロではないだろ。可能性に賭けるんだ」
食事もスイーツも美味しくなさそうに食べてるのはもったいないと伊住くんは笑う。
可能性のない想いだからって簡単に捨てられるわけでもないのに。
同じなのかな?
私の想いの宛先も、伊住君の心の宛先も。
「私にはわからない。ただ、大好きな人なの」
「決して、ふれあえないのに? 辛いだけじゃないの?」
「見える、の?」
伊住くんは笑って「まさか」と否定する。
よくわからない期待を抱いて裏切られた感じ。心が残念感に沈む。
それでも伊住君の視線は彼が現れる場所をじっと見据えて離さない。
「そこになにかあるのがわかるだけさ。アレは触れないのが一番いい」
ああ。
本当にそこにいるんだ。
「ありがとう。伊住くん」
伊住くんは不満そうな表情で車を止めた。私の家の前。
「執着していると双方解放されないよ。死者を繋ぎ止めちゃいけないんだ」
正論だと思うの。
だけど、従えるのかと言えば違うんだと思う。
「送ってくれてありがとうございます」
さよなら。
あなたのくれた言葉は絶望で救い。
私の心は不安定に揺らぐ。
「なにやってんだ?」
「好きな人との思い出に浸ってるの」
そう吐きだせば、彼がはじけるように笑ったのがわかった。
「いいな、ソレ。俺も、あ、俺はフミ、な。好きな子のこと考えてたら、ハッピーだし。ねーさんもだろ?」
オレンジ色の靴。
あなたは変わらない。
「なにやってんだ?」
「なにやってんだ」
繰り返されるはじまりの会話。
その時の会話は普通。
次に会ってもいつもはじめましてなだけ。
すれ違いなんて最初からない平行線。
ちょっと一息って、心を緩めたい時にあなたに会いに来る。
赤かった鈴は随分と汚れちゃった。
「なぁ」
「ちょっと、息抜きしてただけだわ」
「その鈴、還すべきだと思うな」
なにを言ってるの?
「その鈴が結ぶんだろう?」
あの人がくれた赤い御守り鈴。
手放すなんて出来ない。
どうして、そんなことを言うの?
「進めないだろう。囚われていてはさ」
「なにやってんだ」
いつもの声。
「いじめられたのか?」
「フミくん」
「あー、うん。知り合い?」
まぁ、いいかとこだわらないあなた。
「フミくんの好きな子ってどんな子?」
「は? なっ、んで、っく」
端まで赤くしたフミくんの耳が見える。
顔が近い。
「ねーさん、唐突ー。俺の好きな子はお日様だよ。きっと、俺の想いはまだ知らないけどね」
しゃがみこんで二人で顔を近づける。
「年下だからさー、年上の俺からいくと周りにロリ扱いだし、学校違うからからかわれるようなことがあっても、気がついてやれねぇしさー」
そんなに年が離れてる子なの。
ねぇ、あなたの好きな人のことを聞けるようになったわ。胸は痛いけど、あなたが愛おしそうに語ってる。
「だから伝えるタイミングって大事じゃん?」
不安そうにも思える表情。
「告白したら応えてくれる?」
「うわっ。すっげー傷つく。そんなのわかるわけねぇし。それでも、伝える。ずっとあの子が好きだから」
私の言葉をどう捉えたのか、迷いながら、それでも、真剣に迷わない言葉が私を裂く。




