いらない
「おはよう」って挨拶が飛び交う。
バタバタと動いた。積木先生が笑って「手伝わせて悪いなぁ」と言葉を飛ばす。みんなで笑って報酬を強請れば、慌てて拒否する先生。笑いながら雑用をする。私達の時も卒業した先輩達がよくしてくれた。体を動かすのはやっぱり好きだと思う。
たとえ、思い出のたくさん詰まった辛い場所だとしても。
そんな時間のあと、客席に座ってぐぅっと足を伸ばす。
仰げば、青空が広がっている。
私はその心地よい風を感じながら、手の中で赤い鈴を転がす。
意味が有ればと願いながら。
「片槻ちゃん」
いや、だなぁ。
私はちょっと息抜きしてただけなのに。
彼は、伊住君は、私につきまとう。
そんな心配必要ないのに。
「片槻ちゃんはさ、いつもその鈴持ってるね」
伊住君のなれなれしい口調が癇に障る。ずかずかと私のテリトリーに入らないで。心に触れてくるからか、すごく気にさわる。拒否感が強い。かまわないでよ。
「御守りだもの」
赤い鈴はキズがヒドくて凹んだりしてもう綺麗な球体を維持していない。模様も随分剥げてしまった。
それでも、コレが繋げてくれるの。すごく愛おしい。
「それ、やめろよ」
その言葉に視線を上げると真剣な横顔。こっちを見てはいないけれど、真剣な真面目な声。
さっきまでちゃらちゃらふざけてたくせに。
「それ、よくないと思う」
砂を噛んで鳴らない鈴をぎゅっと握りこむ。体温を吸い込んだ鈴は存在感が希薄に思える。
いやだ。
私が選んで私が決めたの。
あなたには関係ないじゃない。
「心配なんだ。目がはなせない」
関係ないじゃない。心配してなんて私は頼んでない。
「関係ないじゃない」
不満なのは私なのにどうしてあなたが不満そうなの?
「関係ないままにいたくないから」
ワカラナイ。
そんなのは知らない。
「片槻ちゃんが好きだから、よくないことから遠ざけたいんだよ。すれ違い、過ぎ去るだけじゃなく、ちゃんと絆を結びたい」
ワカラナイよ。
ヨクナイことってナァニ?
「好きだから、思いつめてつらそうな表情より笑顔が見たい」
ねぇ、私は好きじゃないわ。
関わりたくないわ。
そんな言葉、聞きたくないの。
わかりたくなんかないの。
辛いだなんて決めつけないでよ。
キリキリと心が締め上げられていく。
「少しは周りを見ろよ。興味ありませんって顔で愛想笑いして周りに合わせるなよ」
世界が無音になる。
ただ、手のひらが熱かった。
湿った音。
ちろりと弧を描く唇を舐める赤。
ワカラナイ。
どうして笑っているの?
「ようやく、見てくれた。現実に、おかえりなさい」