どうなるんだろう
「事故だったの。背伸びなんてしてないで、旅行のお土産でも貰った時に幼いなりに告白していれば良かったのにね」
もしもなんてありえないけれど、そのもしもを考えない人間なんていないから。
ゆるく、痛そうに微笑むスミレちゃん。
「片槻」
「スミレって呼ぶんじゃないの?」
なんと言っていいのかわからない表情で微笑まれて言葉が詰まる。
「スミレちゃん……」
「遠回りしてもあの人の元にたどり着くのは一つの道しかなくて。それでも、それは選んじゃいけない」
ロビーで泣かせるのも忍びなくて、俺はスミレちゃんを部屋に連れていく。
ポツポツこぼれる他の男への想いを聞く。
それはすでにスミレちゃんの中で答えは出てる想いなんだと思える。
だからって、終わるわけじゃない。
答えは出ていたとしても、想いは消えないから。
向き合うことは、進むことはとても、痛いんだ。
「あら、セイちゃん、女の子、泣かせちゃだめよ」
ふらりと一人戻ってきた母さんがそんなことを言ってスミレちゃんを連れ去っていった。
そんな女性二人の後ろ姿を呆然と見送る。
何が起こった?
「貸切温泉タイムだったんだがな」
母さんとの混浴タイムを逃したクソ親父が遠い眼差しでぼやく。すれ違い時に専用バスセットのバスケットを母さんに渡したらしい。中身はドリンクとアロマキャンドルだとか。乙女か、親父。悪態をつけば、母さんが好きなんだよ。くっせーけどな。って返ってきた。
……スミレちゃんも好きだったりするのかなぁ?
クソ親父と二人っきりの部屋。
「あの子か」
俺はただ頷いた。
たわいない会話はあったけれど、基本は女性陣の動向が気になった。
ノックとともにカラリと母さんがスミレちゃんを連れて部屋に戻ってきた。
宿の浴衣とむぞうさにあげられた髪のこぼれた姿にドギマギする。
母さんは入り口にとどまって親父を手招く。
「あなた、お散歩いきましょ。スミレさんはお部屋で休んでらしてね。セイちゃん、いけないことしちゃだめですからね。してもキスまでよ~」
母さんがよけいなことを言うから、スミレちゃんの顔が赤い。
母さんは親父を引き連れて楽しそうに散歩に出て行った。
「ご両親と仲がいいのね」
困ったようなそれでも微笑みを浮かべるスミレちゃんからは優しい香り。
部屋に備え付けられている急須でお茶をいれる。
「子供じゃないのに過干渉で困るよ」
差し出せば、小さくお礼を言って口をつけてくれる。
「いいご両親だと思うわ」
恵まれてるとは思う。
「じゃあ、スミレちゃん、義理の両親にどう?」
驚いて俺を見上げる。
「他の届かない誰かが好きだと知ってる。それでも俺はスミレちゃんが好きだ。俺は代わりにはなれない。それでもそばにいたい」
「いい、の?」
他の人が好きなのにと呟く彼女に俺はどうすればいいんだろう。
「生きてる人じゃないんだろ?」
ビクリっとスミレちゃんが緊張する。
「すぐ、一緒になりたいんじゃないんだろ?」
死ぬつもりなら絶対に止める。
「……彼はそんなこと望まないわ」
きっと、俺はずっと敵わない。
超えることはできない。
「彼が永遠でかまわない。でも、今のスミレちゃんの横を俺に頂戴。それとも、彼はスミレちゃんが笑顔を他に見せるのを嫌がる?」
沈黙のまま、横に振られた髪がパラリパラリと散る。
「嫌がったり、しないと思う」
零れ落ちる雫。
きっと、死者には敵わない。
それでも、つけ込むとこにはつけ込んでいくしかないだろ!?
「どんな人だったのか、俺に教えてよ。それでスミレちゃんを笑顔にできる人だったって言うならそれだけで尊敬するさ」
憧れを籠めて彼を語るスミレちゃんは確かに最高に可愛くて眩しい。
スミレちゃんは時々、公園に鈴を握って会いに行く。
俺は、それを見ながら、距離を詰める。
「フミ先輩。俺、負けませんから」
空は青く、俺のお日さまが俺を見て笑ってくれた。




