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学園長

落ち着きを取り戻した駆はもう授業はとっくに始まっているが、このまま夢伊の家を出れば2時間目が始まる少し前に学園に着くことができるので夢伊との話し合いを一旦切り上げ夢伊と一緒にルミーナ学園に向かう



「あの〜夢伊さん、色々とツッコミ所があるんですけど…」



「……むい」


「あの〜夢伊、色々とツッコミ所があるんだけど…」


「…何?」


「どうして着ぐるみのままで俺の背中に乗ってるんですか?」


駆は夢伊の家の玄関を出ると急に背中に重みが加わり、首と腹に短い手足でガッチリとホールドされ、仄かに女の子特有の甘い匂いか駆の鼻をくすぐる。


「…敬語いらない」


「俺も悪いけど、そこじゃないよ夢伊。なんで着ぐるみで俺の背中に乗ってるんだ?」


「…制服ない…動きたくない」


「なんで制服がないんだ?生徒だろ?」


「…学園一回しか行ったことない」


「え⁉︎ルミーナ学園の生徒だよな?」


「…ん」


「小中6年間在籍して?」


「…ん」


「その一回で嫌なことでもあったのか?」


それなら許せない、重力魔法で潰すかっと駆は怒りを露わにしたが、夢伊は首を横にフルフルと振り、見えない駆にもそれが伝わり、怒りを沈めた。


「どうして行かなかったんだ?」


「……行く必要がなかった」


「そうか…」


駆自身もできることなら学園なんて行きたくない。しかし法律で義務化されているため今の駆ならともかく昨日までの駆では渋々従うしかなかった。

そのため駆は何故行かなかったのか?とは言えなかった。

何故行かなくても大丈夫なのか?おんぶは続けたままなのか?など色々聞きたいことはあるがこれ以上聞く気にもなれず夢伊を背負ったまますれ違う人々の視線を一身に浴びながらルミーナ学園に足を進めた。


____________________________________



「夢伊、連れていってやるから教室何組だ?」


「……駆と一緒」


(Bランク以上だと予想してたのにまさかDランクとはな、あの記憶操作を弾いたのはなんなんだ?)


ルミーナ学園に着いた駆は靴を履き替えながらまだ後ろにしがみついている夢伊に尋ね、予想よりも夢伊のランクが低いことに驚く


ここまで一言も喋らずに来たため予想より早く学園に着いたため今はまだ1時間目の授業中だ。


「もう学園にも入ったしそろそろ降りてくれ」


「……………ん」


(声の抑揚やトーンなどは同じなのに何故かすごく渋々感が伝わるな)


駆はゆっくりと夢伊の降りやすいようにしゃがむ

夢伊が降りたことを確認して立ち上がり2年D組へ歩みを進める


夢伊も駆のあとをトテトテと着いてくる


駆も夢伊の歩くペースに合わせて少しペースを落とす


「……駆疲れた…おんぶ」


「もうちょっとだから頑張ってくれ……」


____________________________________


そして教室に着き、授業中だがドアを開ける


「遅れてすいません、寝坊しました」


駆が入ったことにより授業が一旦止まりクラスメートや先生がこちらを一斉に見るなんとも言えない体験した人にしか分からないあの感覚が襲う


「おぉー黒井!!生きてたのか!! 心配し……天戯 夢伊なのか?」


先生が授業を止め、駆にまるで死んだと思ってたらひょっこり帰ってきたように無事を祝う

しかし途中で駆の後ろにいる夢伊に気付き動きが止まる



「じゅ、授業はこれで終わりだ!残った時間は自主してなさい。黒井と天戯はこの教室で居てくれ」


そう言い残すと先生は廊下を走って職員室がある方へ走っていってしまった。


駆を含めクラス中は何が起こったのか分からない。

唯一、夢伊だけはいつも通り平常運転で無表情だ。


駆はすぐに意識を切り替えて自分の席へと進む、その後ろを夢伊が着いていく


そして駆は自分の席に座る


スタッ


「夢伊、何してるんだ?」


「…座ってる」


「何処に?」


「…駆の膝」


「…退く気は?」


「……ない」


「ですよね〜」


ちなみにクラスの生徒は今だに(今は駆と夢伊が原因のほとんどを占めているが)状況が飲み込めておらず固まっている。


(だいたい夢伊の性格がわかってきた、無表情で声もいつも変化がないけど、色々子供っぽかったり、所々で頑固だったり、めんどくさがりだったり、何故か強くなることに一生懸命だったり、行動が一つ一つ可愛かったり父性本能がくすぐられるな〜)


そんなことを考えながら「居てくれ」と言われたので駆はボ〜ッとしながら廊下の方を見ている

夢伊も駆に体重を預けて、足をプラプラして退屈を紛らわしている


ここでようやく生徒たちが現状を飲み込み始めたようでポツポツと話し声が聞こえる


「何あの子!?凄くかわいい、お人形さんみたい」

「なんであんなに小さい子が入ってきてるんだ?」

「あの覗きが今度は少女誘拐かよ」

「天戯 夢伊ってどこかで聞いたことない?」

「あんなに可愛い子に膝に乗ってもらえるなんて羨ましい」

「む、夢伊たん‼︎夢伊たんこそ僕が求めた最高の天使!!ハァハァハァハァ」


クラスメイトは口々に喋り出し話題は勿論駆と夢伊だろう

席の近くの者と駆と夢伊の関係の推察や夢伊の可愛さについて話している

しかし直接駆に話しにいく者など1人もいない


「幻影付与」


(なんだか色々と盛り上がっているが3番目の奴にはイラつくが最後の犯罪者予備軍は色々と危ないのでバッドステータス付与で小さい子から顔が豚に見えるようにしておいたしこれでなんとか未然に犯罪は防げただろう)


『黒井 駆君と天戯 夢伊さんは至急学園長室まで来てください。』


駆が犯罪を未然に防いだ後放送が鳴る


(どうやらお呼び出しがかかったようだな)


「夢伊行くぞ」


「……ん」


駆は膝の上の夢伊の両脇を持ち上げ横に立たせてやる


そしてクラス中かの視線を浴びて教室を出る


ピョン ガシッ


「…駆…おんぶ」


「夢伊そういうのは先に言ってからにしようか」


「…ん」


「ところで夢伊、学園長室ってどこにあるか知ってるか?」


「……知らない」


____________________________________


なんとか学園長室に辿り着き、無為も下ろして学園長室の扉の前にいる。


(そういえば学園長見るの初めてだな。Sランクなんだからきっとゴツゴツの大男とかかな〜)


心の準備を終え、駆はドアノブに手を掛けて恐る恐るゆっくりと入る


「遅れてすいませーー「遅いのよ!!」ん」


「いつまで待たせるのよ!!」


高圧的な釣り上がってパッチリとした目、柔らかそうな白い肌、眼の色が紅色の金髪のサラサラなツインテールに夢伊とはまた別次元の可愛さの持ち主が、いかにも高そうな椅子に座って駆に怒り散らしている。


「あのー貴女が学園長ですか?」


「そうよ!私かこのルミーナ学園の学園長、小鳥遊 音々(たかなし おとね)よ!なにか文句でもあるわけ?」


「いえいえ文句なんて滅相もありません。俺の想像と違って若くて綺麗だったので学園長だと思わなかったんです」


「あんたに言われても嬉しくもなんともないけど、私が可愛いから仕方ないわね!許してあげるわ!」


(自分で可愛いって言うやつ初めて見たよ…。

確かに可愛いし、学園が設立されて10年経ってるってことは30歳は超えてるはずなのに見た目は高校生ぐらいで普通に通用するほど若く見えるけど。夢伊を見てなかったら驚愕してたレベルだな)



「どうしたのよ、早くこっちに来なさい!ただでさえ遅れてきたんだから!」


遅れたことに怒ってる音々に言われて駆と夢伊は隣の応接室に入る


応接室は高級そうなソファー2つの間に机が置いてありよくわからないが高そうな絵や熊の木彫りなどが置いてある


学園長に勧められ入って右側のソファーに座る


スタッ


「夢伊、なんで隣が空いてるのに俺の膝に座るんだ?」


「……こっちの方がいい」


「学園長の前だぞ!それにこのソファーの方がふわふわしてて気持ちいぞ」


「……や」


「別に構わないわ、無伊さんもその方が話しやすいでしょう」


「…ん」


そう言いながら駆と無伊の正面のソファーに腰掛ける


「改めて言うわ、私はここの学園長の小鳥遊 音々よ。黒井 駆と天戯 夢伊さんで合ってるわよね?」


「はい」


「…ん」


些か駆と夢伊の扱いに不満はあるがそこは無伊と出会って1時間近くで身についたスルースキルでスルーする


「幾つか聞きたいことがあるから一つずつ聞いていくわ

まず、夢伊さんは久し振りね。6年ぶりぐらいかしら?」


「……ん」


「単刀直入に言わしてもらうわ。どうして入学条件の中に無登校許可を入れたのにわざわざ来たの?通学してくれることはこちらとしては大歓迎だけど理由が知りたいわ」


「……駆がいるから」


どうやら話の流れから察するに夢伊の入学には色々条件があり、その中に登校しなくても進級できるものがあるみたいだ


(だから6年間も学園に通わなくてもよかったのか)


「こっちの駆ってやつと知り合いだったの?」


「……今日知り合った」


「まあ、だいたいわかったわ。これからも通う気があるならSクラスの教室と教師を手配てお「えぇーーー!!??夢伊、お前Dランクっていってたじゃん、Sランクだったのか!?」」


「…駆と一緒にいるって言っただけ」


「ちょっと!勝手に話に割り込まないでよ!てかそんなことも知らなかったの?」


「今日会ったばっかりだし、この学園にSランクの生徒がいるなんて知らなかったんだよ」


「普通『不登校のSランク』とかの噂は聞くはずなんだけど…あっ!そういえばあんたボッチだったわね、たまに聞こえてくるわ」


「人の心にナイフをドカドカ投げやがってぇ」


「…駆ぼっちじゃない…むいがいる」


「俺の味方は夢伊だけだ」


「…ん」


「本当に仲がいいわね。ずっと前から知り合いだったんじゃないかと思うぐらいよ」


学園長の言葉と言う名の暴力により心のHPをガリガリ削られて何も言い返せずに落ち込む中、夢伊の言葉により復活した駆は夢伊の頭を撫でてやり、嬉しそうに鳴く夢伊


(小動物みたいで癒されるな〜)


「それより次に聞きたいのはあんたよ!黒井 駆!!」


「俺なんかに何を聞くんですか?」


(全く心当たりがないんだが)


「まず私のスキルから説明させて貰うわ。

私のスキルは夢伊さんと同じSランクで『振動』って名前なんだけど、そのまま物を振動させたり、振動を操ったりすることができるのよ。あまり詳しくは説明できないけど、この街ぐらいの範囲の音を聞くことができるのよ!

そこで昨日の事件で身元不明の学生が死んだということで、警察に依頼されてこの近くの学校は今日休んだ人を調べることになったの」


(だから先生もあんなに心配してたのか)


「そこで今日休んだ数名をこのスキルで街中の音を調べて探したのよ!そこであなたを探してて無伊さんの家で見つけたんだけど、急に音が聞こえなくなったのよ。まるでその空間だけがなくなったみたいにね」


(あの魔力の反応は学園長のだったのか)


ナマケモノに連れて来られて夢伊の家に入ってちょっとした後に外から微量の魔力の反応を検知したので攻撃のためではないとは分かってはいたが一応保険のために空間操作で別空間に作った所に夢伊の部屋を転移させておいたのだった


「そして夢伊さんのスキルでは弾くことは出来ても空間そのものをなかったことには出来ないのよ、だからあなたがやったんじゃないかと思ってるのよ!」


「俺はDランクスキルの支援系ですよ?学園長が言うような空間を操るなんてAランクやランクにしか持ってませんよ」


(完全に疑ってるな、魔力の漏れから恐らくスキルを使ってるだろうから記憶を消すにしても無詠唱はまだできないし、呪文を口にしようとした時点で気づかれて攻撃されるだろう。この世界のSランクがどれくらいの実力か分からないから勝てるかも分からないし…ここは取り敢えず誤魔化そう。)


「そんなこと分かってるわ!でも私はあなたが噂の男なんじゃないかと疑ってるんだけどそこのところどうなのよ!ちなみに嘘を言っても心音で分かるからね!」


(冷静になれ、まだ気付かれた訳じゃない。リラックスリラックス)


「噂ってなんですか?」


「ボッチのあなたは聞かないでしょうけど、ここ何年かでSRDに反応しない力を使う人がいるって言うのよ!被害はなく全て魔物や犯罪者がその力の標的になっているからスキル警察も動かないし、一部では神の使いだなんて言われてるわ。

昨日の事件だって公表はされてないけど300匹の魔物が何者かに殺されてたらしいのよ!私は身元不明の学生が怪しいと思ってるんだけど私はそれもあなたなんじゃないかと思ってるわ!」


「噂はわかりましたが、それは俺ではありません」

(嘘は言ってない、昨日のやつは俺だが、噂になってる奴とは違うという意味だ)


「ん〜〜確かに嘘ではないわね」


「次の授業があるので話が終わったなら退出してもいいですか?」


「分かったわ、今日のところは帰っていいわ」


「……待って」


そうして一刻も早くここを出ようとする駆の服を無伊が掴んで止める


「どうしたんだ?」


「……教師いらない…クラスも駆と2人きりがいい」


おそらく先程の教室と教師を手配するというものだろう


「おい無伊、そんな我儘が通るわ「いいわよ」けないだ……いいのかよ‼︎⁇」


「だって日本に10人、学生では2人しかいない内の1人が登校してくれるのよ?国からの援助だって簡単に降りるし、たった1人のボッチを生贄に捧げれば登校してくれるなんて願ってもない話よ」


「今学園長云々より人としてどうかと思う発言が学園長からきこえたのですが?」


「すぐには用意できないから明日までに教室と個人訓練場を用意しておくわ!2人とも今日のところは家に帰っていいわよ!」


(こいつ完全にスルーしやがった。てかこいつは俺に恨みでもあるのか?)


「それじゃあお言葉に甘えて帰るか」


「……ん」


無伊を立たせてやり、駆も地味に気に入ったふかふかソファーに別れを告げて部屋を出る


「しつれいしましたー」


「……したー」


そして一応相手は散々馬鹿にしてきても学園長なので礼儀として扉が閉まる時に挨拶はしておく


扉が閉まる瞬間学園長が笑っていることに気付かずに……




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