夢伊
通学途中に不思議な女の子に家に連れて来られて、今は女の子の部屋と思わしき部屋に2人で正面を向きながら床に座っている
何故"思わしき部屋"かというと、部屋には女の子には似つかない大きなパソコンとパソコンを乗せる机に椅子、それにベッドしか置かれていないからだ。
「色々と質問していいかな?」
「…ん」
女の子は首をコクンと前に倒し肯定を表してくれた。
女の子からお許しを貰ったので色々と聞いてみる
旗からみたら色々と危ない絵図らだが仕方ない
「なんでこんなに大きな家で1人で住んでるの?」
「……強くなるため」
「どうして強くなりたいの?」
またも予想より斜め上の答えを出してきたが、駆も慣れてきたのか動揺もあまりせずに聞いていく
「…………」
ここで初めて女の子が沈黙した
「言えないこと?」
「………言えない」
「わかった、じゃあ別の質問にするね」
「…ん」
「なんでお兄ちゃんが昨日、ゴキブリを倒したこと知ってるの?」
駆はこの女の子とあって1番気になっていることを単刀直入に聞いた
「…見てた」
(おかしい、一回目のファーストゴキは逃げている所は見られたかも知れないが、洗剤で倒した所は見えないはずだ、二回目も300匹のゴキブリに囲まれていて人が、ましてやこんな女の子が見れる場所じゃない)
駆は頭を悩ませながらも答えがわからず、仕方なく目の前の不思議な女の子に聞いてみる
「どうやって見たの?」
「……防犯カメラ」
(確かにそれなら辻褄は合うけど…
それでもおかしい、街や店の防犯カメラこんな女の子が見れるはずがない、でも嘘を言っている風にも見えないし…)
「防犯カメラって街の何処かにある施設でしか見れないはずだけど、どうやって見たの?」
「…ハッキング」
(もう着いていけないんですけど……)
女の子は相変わらず無表情のまま表情を動かさず淡々と爆弾を投下してくる
そんなことを考えていると女の子が急に衝撃的発言をしてきた
「…昨日の駆さんの映像とスキル発動記録消しときました」
一瞬何を言っているのかわからなかった
そして駆は気付いた
昨日、街で走馬灯&前世を見る時に『記憶観覧』を使ったことを
許可されている場所以外でスキルを使えばSRDから情報が発信されて、スキル警察に捕まる、これは一般常識であり昨日の授業でも説明されたことだ
そして駆はまだ『記憶観覧』を発動した時は前世の記憶も知らず、魔力操作もできない
あの時はゴキブリに囲まれたり、前世の記憶を思い出していたりでそれどころではなく、完全に失念していた。
本当なら昨日の晩や遅くても今日の朝にはスキル警察が家に来てもおかしくないのだ。
それをこの女の子が助けてくれたということだろう。
もしスキル警察にバレていれば魔法のことがばれていたかもしれない、そうなれば多分俺は高校生にして逃亡生活が始まっていただろう。
(確かにそれなら完璧に辻褄が合うし、スキル警察が来なかったという証拠もある
それに先ほどこの女の子は「駆さん」と呼んでた 。 これも恐らくハッキングで調べたんだろう
こんな子供に情報がダダ漏れの国が馬鹿なのか、国から情報を盗んでいるこの女の子が凄いのか。
取り敢えず、そのハッキングのおかげで助かった訳だしお礼はしないとな)
「本当にありがとう、なにかお礼しないとな」
「…ん…ゴキブリを倒した方法知りたい」
そうでしたね。すっかり忘れてました
斜め上過ぎる返答に意識を奪われ、忘れていた
どうしよう……なんだか女の子の目が無表情なのは変わらないのに何故かキラキラしている
これは断れない……駆はそう悟った
(魔法についてどう話そうか、いっそのこと重力魔法だけにするか
ん?なにか忘れてるような…魔法、魔法、魔法……
あ!!
記憶操作の魔法で女の子の俺に関する記憶を消せばいいんだ)
そうと決まれば駆の行動は早かった
昨日の俺に関する記憶と今日出会った理由を落し物を拾ったことにするように記憶を変えるイメージをする
(よし、いける)
「…記憶操作」
まだ無詠唱はできないので女の子に聞こえないようにボソッと呪文を呟く
魔力を消費し、昨日のように魔法を発動した感覚を感じる
しかし女の子の記憶を変えることはできなかった
駆は確かに魔法を発動する感覚はあった、しかし何かに弾かれるような感覚だけが残り、駆は謎が深まるばかりである
「…………??」
女の子は何も気づかずに、駆が黙りこくったままなので疑問に思い、コクリと無表情のまま首を横に傾げた
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結果だけを言うと魔法が効かなかったことは後で考えることにして、色々と教えてしまった
前世のことや元勇者ということは話さずに魔法や魔力についてだけ話した。
女の子は無表情のままだが真剣に聞いてくれ、そしてだいたい説明し終わると女の子は口を開けた
「……むいにも魔法使える?」
前世では魔力さえあれば誰でも魔法が使えた。
こっちの世界ではどうか分からないが調べるしかないだろう
「調べるから頭触ってもいいかな?」
「…ん」
正面に座る女の子は小さな頭をこちらにちょこんと傾ける
ナマケモノの着ぐるみと頭の隙間に手を入れて頭に手を乗せる
「…ん!?」
女の子の頭に手を乗せると女の子の身体が一瞬震え、驚いたような声が上がった
「ご、ごめん 嫌だったかな?」
駆は咄嗟に手を引っ込めて謝罪する
「……嫌じゃない……もう一度」
そう言うと女の子はもう一度ちょこんと小さな頭をこちらに傾ける
駆も今度は慎重に頭に手を置く
プルっと一瞬震えたが先ほどのように声は上げずにいてくれた
駆は調べ終えると頭から手を離す
「…ぁ」
女の子から少し声が聞こえたが小さかったので気にしないで結果を告げることにする
「君はちゃんと魔法が使えるよ。魔力量も十分だし、属性は無属性だね」
「…ありがと」
「どういたしまして」
(ちょっと女の子の顔がほのかに赤い気がするが着ぐるみのせいで暑かったのだろうか?)
「……あと」
「なにかな?」
「…君じゃない、むい」
(君と呼ばれるのが嫌だったんだろう)
駆はそう結論付て呼び方を改める
「わかったよ、夢伊ちゃん」
「……むい」
「どうしたの?夢伊ちゃん」
「……むい」
(表情は変わらないのに何故か夢伊ちゃんから不機嫌オーラが出ている)
「……ちゃんいらない」
(夢伊ちゃ、いや、夢伊が怒っている?理由はこれただったのか、子供扱いされたくないなんて可愛らしいな)
「……もうひとつ」
「なにかな?」
「……喋り方…普通にして」
「わかったよ夢伊、これでいいか?」
「……ん」
(やっぱり喋れ方も子供扱いしているようで嫌だったんだな)
「……魔法を教えてください」
夢伊がさっきまでとは雰囲気を変え、なんの脈絡もなく真剣な趣きで頼んだ
「強くなりたいからか?」
「……ん」
駆は先ほどのやり取りから推測で聞いてみた
「やっぱり、理由はいえないか?」
「…………………………ん」
少しの沈黙のあと夢伊が首を前に傾け肯定を表す
「…なんでもします…お願いします……教えて……ください」
断られると思ったのか夢伊は正座をして床に頭を付けて土下座してきた。
駆は自然と頭に手を置き、軽く撫でた。
「顔を上げて、断ったりしないから。
魔法の存在を教えた時から教えるつもりだったし、土下座なんてしなくてもいい。」
夢伊は顔を上げ顔はやはり無表情だが何処と無く嬉しそうだ
「でも犯罪とか悪いことしちゃダメだからな?あと魔法のことは他の人に言ったらダメだからな」
「……ん…」
(さっきまでと返事が少し違う気がするけど気のせいかな?)
駆が夢伊に疑問を抱き、夢伊を見ると、夢伊の視線が少し上にいく。
そこで駆も自分が今夢伊の頭を撫でていることに気がつく。
「ごめん、気持ち悪かったな」
駆はすぐに手を引っ込めて夢伊に謝罪する
「……気持ち悪くない…うれしかった」
駆は夢伊がお世辞を言ったと判断してすぐに切り替える。
「じゃあ魔法の練習は俺の学園が終わった後の放課後にこの家に来るからそれでいいか?」
駆は魔法を教える日時を決めようと夢伊に話しかけた。しかし夢伊はフルフルと首を横に振る。
「どうしてだ?俺も流石に学園は休めないぞ?」
またも夢伊は首を横に振り口を開けた
「…学園で教えてもらう」
「でも学園は関係者以外立ち入り禁止だぞ」
ルミーナ学園は基本的に関係者以外立ち入り禁止だ。
夢伊みたいなかわいい子でも無断で連れ込むと学園長から制裁により出家コース間違いなしだ。
「…むいも在籍している」
(1ヶ月近く通ってまだ1度も見たことないけど、まぁ初等部は高等部と離れてるから顔を合わすことも少ないか)
「でも初等部と高等部だから待ち合わせしてから練習場行くのしんどいだろ?、この家なら学園からも5分の所にあるしいいと思うんだけど?」
「……駆初等部なの?」
夢伊はかわいく首をちょこんと傾げて聞いてくる
駆は呼び方が駆さんから駆に変わっていることや駆が初等部に見えるのかとか色々ツッコミ所があるが今回はスルー
1番大事なのは今の夢伊の言い方だとまるで夢伊が高等部のように聞こえることだ
夢伊は身長130〜140cmぐらいでどう見ても小学4か5年生ぐらいである
仮に発育がよくなくても中等部ぐらいまでが限度だろう
「俺は高等部だけど、ゆめ伊は高等部なのか?」
「……ん…同い年」
「………………」
路上のナマケモノ、美少女のハッキングなどを越える、今日1番の衝撃をいただきました
本当に驚いた時は声が出ないということを知った今日この頃




