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記憶観覧

駆が声をかけてからの群衆の行動は早かった


まずEランクの人々は我れ先にと他人を押しのけながら一目散に逃げていった

攻撃系スキル保持者以外のスキル保持者は避難できない子供や年寄りの避難を手助けしている。

それぞれの学園で学んだ、もしくは学んでいるスキル保持者はしっかりと魔出の時の避難がしっかりしている、しかしEランクは全てがスキル保持者とは別々のEランクだけの学園にしか進学できない。そこでももちろん魔出の避難訓練は受けるのだがEランクの人々はスキルを目にする機会が兎に角少なく、そのため魔物を目の前にすればパニックになる人がほとんどでこのような両極端な現状が生まれてしまう。


そして攻撃系スキル保持者はゴキブリの魔物を確認するとそれぞれ学園で習うように避難完了、もしくはスキル警察到着まで時間を稼ぐため自分のスキルを発動し、ゴキブリを倒していく、中には駆が表通りに辿り着いた時に初めに声をかけてくれたサラリーマン風の男もいた。


しかし不運にも攻撃しているのは10人ほどしかおらず、その10人ともCランクと思われる程しか攻撃力がない。

ゴキブリ達は攻撃で減らされながらも次から次に建物の間から増えてくる。

はじめは30匹ほどだったのに、今となっては100匹以上いる。

ゴキブリ達は駆達を囲むように進んでくる。


幸か不幸かゴキブリ達は俺や攻撃系スキル保持者のいる場所しか狙ってこないので戦えない人の避難は俺以外が着々と進んでいく。


「なんでこんなに魔物がでてくるんだよ、普通は多くても10匹程度だろ!!」


「そんなこと知るかよ! 喋る暇があったら攻撃しろ! これはマジでヤバイ」


「まだ助けは来ないのか!!」


そんな声が飛び交いながらも攻撃を続けていく

駆は逃げ出そうにもアドレナリンが切れて全身に痛みが走り動けそうにない

そもそも、もう囲まれているので1人では逃げられないが


周りの群衆達はもう避難を終え、残るは俺を

含め11人しかいない


「避難が完了したようた我々も逃げよう」


そしてついに200匹にまで達してきた時、救急車を呼んでくれたサラリーマン風の男が攻撃をしている人達に呼びかけた。


他の9人とも逃げることを準備していたのか、行動が早かった。


「私が合図したら皆さんはあちらを一斉に攻撃してください。そこからそこから安全な所まで逃げます。」


サラリーマン風の男が指揮をとり、他の9人もそれに頷く


「ではいきますよ、3.2.1 撃て!!」


ドーーーーーン


10人からそれぞれの一斉攻撃により軽い爆発が起きる

ゴキブリの肉片や緑色の液体を地面が辺り一面にばら撒かれた


(これでやっと助かる)


「誰か、動けないから運んでくれま「では皆さん逃げますよ そこの君は囮として残ってもらいます」せ……えっ!?」


駆はサラリーマン風の男がなにを言っているのかわからなかった


俺を指差しながら囮と言っている


「おっ、おい! 何言ってんだよ!」


「これは必要な犠牲なのです。あなたが囮にならなければ我々10人では簡単に追いつかれてしまいますから。

簡単に言いますと1を取るか10を取るかの選択ですよ。

そもそもゴキブリ達を連れて来たのはあなたのようなものですし 諦めてください。」


(は?何言ってるんだこいつは、他の奴らは?!)


駆は他の9人を見る


「そうだ、魔物を連れて来たのはこいつじゃないか!」


「私は死にたくない死にたくない死にたくない………」


9人は口々にサラリーマン風の男の言ったようなことを口にしている。


「それでは私が先頭を行きますので近づいてくるゴキブリ達を攻撃しながら進んでください。」


サラリーマン風の男はそういうと他の9人は後ろめたさからか俺に見向きもせずに一斉攻撃によって空いたゴキブリの包囲網を突破していった。


1人ゴキブリの真ん中に取り残された駆は動けないまま仰向けで寝転んでいる

周りからは特有のカサカサという音が鳴り響き、恐怖を駆り立てるようにゆっくりと駆を目指してゴキブリ達は歩みを進める


(もうダメだ…洗剤もない、あったとしてもこの数じゃ話にならない

普通は来るはずのスキル警察も来ない

周りには人の姿もない)


ゴキブリ達は逃げた9人を数十匹で追いかけるも駆の方には300匹ほどが残って駆を囲んでいる


(もうゴキブリは増えていないな〜 ってこんなこと考えても意味ないか…あと数秒後には死んでるんだからな、自分が死ぬと分かったらこんなにも落ち着くんだな、いや、開き直りか?)


駆が開き直っている間にもゴキブリ達はジリジリと駆との距離を詰め寄っていく


(俺の人生ろくなものじゃなかったな〜

スキルはDランクで周りからは差別されるし

『記憶観覧』のせいで家族からは隔離され、友達と呼べる存在すら出来ない、もちろん彼女などもってのほかだし、童貞のまま死にたくない、まだ15年しか生きてないし、これから友達だってできるかもしれないし、もしかしたら超かわいい彼女ができるかもしれないそしたら脱童貞も夢じゃなかったのに)


そんなことを考えている間にもう目の前にゴキブリの気持ち悪い頭が目と鼻の先まで迫る


駆は目を瞑りその時を待った



真っ暗な瞼の裏に色が浮かび上がり映像が流れ混んでくる


0歳の病院での初めて見た若かりし両親の笑顔


喋ったり歩けるようになった時の両親の喜び様


(これは…『記憶観覧』か…自分にも使えたんだな

最後の最後に使い道が走馬灯の上位互換というのもどうかと思うが有難く使おう)


5歳の時の誕生日、次の日にスキルの検査があるので両親は不安そうにして、子供の時の俺はそのことが分からずに無邪気にはしゃいでいる


スキル検査の日Dランクと分かったときの両親の絶望の顔


そしてすぐに両親は俺から離れて、一人暮らしが始まった


6歳の1人だけの誕生日、この時から誕生日はただの苦痛でしかなかった


小学校は友達もおらず「仲良しでペアー組んでね〜」という先生の言葉にイラつきながら毎回ペアーを組んでいた


中学生はトイレで1人で朝に作った弁当を食べる技を身につけた


高校生はまだ1ヶ月ほどしか過ごしていないがもうみんなに嫌われている


(もう終わりか……8割ほどが嫌な思い出だが最期に思い出せてよかった)


そこで色が次第に薄れ黒くなる


(これでもう終わりか…普通に暮らしたかったな…やっぱり死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)


黒く色あせていた記憶観覧による視界にに再び色が付き始める



この世界とは違うスキルのない世界の地球の記憶


そこで15年間幸せに暮らしていると、ある日異世界に召喚された記憶


(なんだこれは…俺の記憶じゃない、アニメでもこんなの知らない。でもどこか懐かしく感じるのはなんでだ)


異世界の王城に7人召喚され、勇者になって魔王を倒してくれと言われた記憶


7人はそれぞれ火、水、風、土、光、闇、無属性に分類され俺は闇属性の勇者に選ばれた記憶


魔王を倒すために半年間寝る間も惜しんで魔法や剣、体術などを魂に刻み込むほど修行した記憶


王城から7人で旅立った後も俺は暇さえあれば修行し続けた記憶


途中の村や街で人々を悪魔から救った記憶


異世界では嫌われている人間と獣人のハーフの女の子を助けて俺が世話をすることになった記憶


筋肉ムキムキの火の勇者と一緒に汗を流しながら修行した記憶


おっとりした水の勇者によく怪我を治してもらった記憶


天然バカの風の勇者の作った料理で一週間寝込み続けて旅が遅れた記憶


The委員長の土の勇者に女風呂の覗きがバレて裸で廊下に1日正座させられた記憶


テンプレイケメン主人公の光の勇者がモテ過ぎて俺が僻み続けた記憶


The普通の無属性と一緒に光の勇者を僻み続けた記憶


助けたハーフの女の子が懐き過ぎて夜這いしてきた記憶


魔王をなんとか協力して打ち倒した記憶


そして俺が闇の勇者だからという理由で背後から6人の勇者に襲われ、ハーフの女の子をなんとか逃がし、三日三晩闘い続けて光の勇者と相打ちになり死んだ記憶……


そので記憶観覧が終わり瞼の裏が真っ暗に戻り目を開けた


目を開けるとまだ閉じた時と同じ光景で記憶観覧の時間が一瞬であったことを物語っている


そして何故か身体中から何か温かいもの溢れて、全身が黒い光に包まれている。力が身体の内側から溢れてくるようで先ほどの怪我で動けなかった身体も自然と動くようだ


使える確証もない、自分の妄想かもしれないそれでも駆には使える自信があった。

駆は記憶で何度も見た前世で自分がよく使っていた魔法

文字通り魂に刻み込むほど修業して魔法の説明も使い方も何度も見た、失敗する想像など微塵もない。


「重力圧縮」


駆が言い終えた瞬間には辺り一面が緑色の液体で染まり、ゴキブリの姿は影も形もなくなっていた。



____________________________________


「1人しか殺せなかっただと!!??」


「はい、アフレイン様 あちらに送り込んだ密偵数人による調査が一致しているので間違いないかと」


薄暗い部屋の中、2つの影が蠟燭の火によってゆらゆらと揺れている


片方の人間にはない角を2本生えており、血の気の引いたような肌に何十年も鍛え上げたような筋肉、子供が一目見れば泣き出してしまうほどに目付きが悪く尖った牙をもつ男は真っ黒な王座に座ってあり得ないものを聞いたかのように驚いている。


もう一方は甲冑を着た120cmほどの緑の肌に尖った耳と牙を持つ、世間一般ではゴブリンと呼ばれる姿をしており、王座の前で膝をつき、事の顛末を先ほどの大男に語っている


「なぜだ!確かに下級とはいえ600匹近くを送り込んだんだぞ!」


「それが謎の人物により300匹ほどの魔物が一瞬で殺られたそうで、残りの300匹は少し離れたところで暴れさせたのですが、殺られた300匹に当てられるはずだった人員が残りの300匹に当てられて殺られました。多少怪我人は出したものの死者は1名の身元不明の学生だそうです。」


「まあよい、元々は敵の戦力を調べるための捨て駒だ。相手側に強者がいると分かれば幾らでも対処できる」


「おいおい、アフレインの旦那そいつ俺に殺らしてくれよ」


いつの間にかゴブリンの後ろに赤髪のいかにもチャラチャラしたような男が姿を表していた


「シュルドか……まあいいだろう。そいつが出てくれば対応はお前に任せよう」


「サンキュー、久し振りに遊べるかな〜」


「真面目にやれ!今回はあの方が魔王になられて初めての作戦だ。失敗は許されない」


「わかってるよアフレインの旦那、そいつは俺がきちんと殺しといてやるよ」


「お前ならあまり心配はしとらんが気をつけるんだぞ。お前は他に報告はあるか?」


そしていつの間にか大男にシュルドと呼ばれた者はいなくなっており、大男の矛先がゴブリンに戻る


「他にはあの地には厄介なSランクが2人もいます。それにあちらの世界では都心と呼ばれる、人間が数多くいる場所です。戦力は多く見積もった方がいいかと思われます」


「そうだな。雑魚どもは下級の奴らに相手をさせるとしてもう1人ほど戦力を呼ぼうか。

そちらはもうよい、ところで前魔王は見つかったのか?」


「それがどうやら人間界に逃げたようでして足取りは掴めません」


「確かに前魔王は強力だったが優し過ぎた、人間と和平を結ぼうなどとどうかしている」


「まったくその通りでごさいます」


「それでは他の奴らの準備も整い次第我々も作戦を始める。早急に準備しろ」


「御意」


そう言うと甲冑を着たゴブリンは部屋を出ていき、部屋には大男1人だけが残った


「今度こそこの前の借りを返させて貰おう」


蠟燭の明かりが消え、真っ暗になった部屋に大男の声だけが誰に聞かすでもなく鳴り響いた。





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