1匹見たら30匹いると思え
(あの大きさだとCクラスぐらいか....あいつは間違いなく俺より速い、直線で逃げればすぐに追いつかれてしまう)
俺はすぐに進行方向に向き直り、スピードを緩めず左に曲がった
(あいつのあの大きさじゃこの細い道幅で充分に動けないはずだ、曲がり角を曲がる時もどうしてもスピードを落とさないといけない、このまま細道に逃げ込めば逃げ切れる)
駆は無我夢中で走り続けた、
右へ、左へ、右へ、右へ 極力スピードを殺さずに走り続けた
後ろからG特有のカサカサという音が次第に大きくなる
息を荒くして、汗ももう全身から出ている
走っている足の一歩一歩に全神経を注ぎ込み走り続けた
時間の感覚もあやふやになり、実際には十数秒ほどだが駆には1時間ほどにも感じられた
そして必然的に目的地に近づいていく
(この角を曲がれば!)
走る勢いを殺さずに左へ曲った
そこには10mほど先に駆の思い通りの50cmもない細道が目に映った
(あそこに入ればあいつも入って来れない
細道を抜けてすぐ曲った所に表通りもある
あと10mで助かる!!)
しかしここまでの逃亡でいくら角を曲って時間を稼いでも相手は魔物だ
普通の人間が勝てる速さで勝てるはずもなく駆との距離も3mを切っていた
カサカサカサカサカサカサカサカサ
残り8m
駆はいつの頃かわからないが前にも同じような体験を思い出していた
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
残り6m
いつかは分からない記憶
場所もわからない
追手も思い出せない
本当に自分かも分からない
それでもこの緊迫した状況と自身から嫌というほど出る汗の嫌な匂い、そして敵を前にして何故か冷静でいられることは覚えている
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
残り4m
この記憶の時の俺はどうなったんだろう……
ドン!!!
「ぐはっ!」
そこで俺は急な後ろからの衝撃により思考を強制中断され細道とはズレた壁に文字通り吹き飛ばされた。
2mほどのゴキブリだ。軽く車に弾かれたような衝撃を駆は受けた。
しかし駆はGに突進されたことに気付くとすぐに起き上がることができた。
幸い打ち所が良かったのか打撲と体中のかすり傷で骨が折れているような所もなく割とスムーズ起き上ることができた。しかしそれでも痛いものは痛いが先ほどまで全速力で走っていたこともありアドレナリンが出ていることもあり、さらに起きなければ死ぬという状況が駆の痛むからだに鞭を打った。
そして起き上がると突進された時に持っていた鞄や買い物袋が散乱して散らばっている中で1m先ではGが気色の悪い触角をウネウネいわせながらこちらにゆっくりと近づいていた。
(もう細道に入る時間もない、入ろうとすればその前にGの突進で壁とサンドイッチにされるだろう もう何もないのか……『トン』ん?)
駆が為す術がなく諦めかけた時、駆の近くに落ちていた先ほどの突進で散らばった荷物の入れ替え用洗剤が偶々手に当たった
(っ!!!!ある!!この状況をなんとかできるかもしれない方法が!
でもこれは賭けの要素強すぎる……
いや、もうこれ以外に方法はない
一か八かこれに賭けよう)
駆はすぐに地面に落ちた洗剤を取り封を開け、Gの両側面に向かって洗剤を掛けた
Gもまさか反撃されるとは露ほどにも思わず避けることができなかった
(よし、上手くいった後は効果を祈るだけだ)
両側面に洗剤を掛けられたGはそのテカテカ具合に一層磨きがかかっている
Gは自身に以上がないことを確認すると一気に駆との距離を詰めた
(ダメだ、死ぬ…)
そう思い駆は目を閉じた
しばらく経っても衝撃も何も来ない
駆は恐る恐る目を開けると、そこには苦しみ悶えているGがいた
駆は取り敢えず痛む体を動かし、念のため細道の方へ入った
(どうやら賭けに勝ったみたいだな
襲いかかってきた時は心臓が止まるかと思ったが、どうにか上手くいった)
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ゴキブリは側面の気門に洗剤を掛けられると、気門の中に洗剤が入り込み、呼吸出来ずに死にいたる
しかしそれは普通の地球に存在するゴキブリの話である
もしこのゴキブリ型の魔物が地球のゴキブリと体の構造が違えば駆は今頃ゴキブリの腹の中だっただろう
駆は細道を抜け、念のため細道の先にいるゴキブリを見た
ゴキブリは先ほどまで苦しみ悶えていたが、今ではピクリとも動かない
(なんとか助かった……
そういえば、あの走っている時の記憶ってなんだったんだろうな…)
不思議な記憶のことを考えながら駆は少し進み、表通りに無事?に着いた
そこはさっきのゴキブリとの一件がなかったかの様にいつも通りだった
(そういえば、ゴキブリに追いかけられてまだ1分も経ってないんだな)
「君、大丈夫か!? ボロボロじゃないか 何があったんだ?」
表通りに着くと知らないいかにもサラリーマン風なメガネをかけた男の人が駆に近寄り事情聞いてきた
そのサラリーマン風男の声に反応して駆のボロボロ具合に気付き、周りの人達も駆に近寄ってくる
「路地裏で魔出が起きてやられました」
「魔物はどうしたんだ?」
「なんとか倒しました、そこの細道の先で死んでます」
「おぉ! それは凄い、事情は分かった すぐに救急車を呼ぶから待っててくれ。」
サラリーマン風男はそう言うとケータイを取り出し、119番に電話し始めようとしたときに目の前の光景に体が固まりケータイを落とした。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
「えっ!?」
周りの人達は急な謎の音に混乱しているが駆はつい先ほどまで聞き続きていたのですぐにわかった
「みんな逃げろ!!」
駆が叫びながら裏路地の方に目をやると
そこにはあの2mサイズのゴキブリ30匹以上が建物などに張り付いていた




