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即興小説

ビアガーデン

作者: 瀬古冬樹

 二輌編成の路面電車の始発駅。屋根もない場所で電車を待っているだけで、汗がじんわりと浮かんでくる。

 周りで電車を待つ他の人たちも同じようで、スーツの上着を脱いで腕にかけていたサラリーマンのおじさんは、ネクタイをはずしてシャツのボタンを開け、腕まくりまで始めた。そしてアイロンがしっかりかかったハンカチで汗を拭きながら、近くにいる同僚らしき人たちと話に夢中になっている。

 全体的にサラリーマンやOLらしき人たちが多い。私の目の前にいるのは、会話から察するに専業主婦でママ友ってやつらしい。服装からして、六人のグループかな。

 私のように一人きりで電車を待つ人は他にいないらしい。三十人ほどが電車を待っているけれど、誰もが誰かと話しをしているように見える。

 いや、私だって今は一人だけれど、本当は一人じゃない。一緒に電車に乗る予定のヤツが遅刻しているだけなのだから。


 とは言え、一人でいるのはどこか居心地が悪い。あんのバカたれ、早く来い。電車がもうする到着するじゃないのさ!

 スマホのロック画面を表示させ、時計と睨めっこしながら電話かメールでもこないか確認する。最後にあった連絡によると、電車の到着時刻には十分に間に合うということだった。


 まっすぐに伸びる道路に走る路面電車の線路。そのずっと先に電車の姿が見えた。ここまであと何分くらいだろうか。

 またスマホで時間を確認する。


「お、お待たせ」

 電車がどんどん近づいてくるのを見ていたら、後ろから軽く肩が叩かれた。上半身だけで振り返れば、荒い息の友達がそこにいた。

「ギリギリ。ほら、あそこに電車がいるよ。もうすぐ到着だね」

 指さした方を友達も見る。本当にギリギリだ。実は間に合わないんじゃないかと心配になってきていた。この電車に一人で乗るのは、ちょっと勇気がいる。

 友達は肩から提げた小さめのスポーツバッグからタオルを取り出し、吹き出る汗を拭いたり、小さく振り回してうちわ代わりにしている。

「楽しみ、だね」

 その様子を見ているだけで、友達が今どれほど忙しいのか推し量る。


 ブレーキ音を響かせて、路面電車が始発駅であり終着駅でもある場所に止まった。中には誰もおらず、回送運転中だったらしい。

「身分証明書をお手持ちになり、入り口で確認後にご乗車ください」

 適当に列を作りながら、一人ひとりがゆっくりと本人確認を受けて電車に入っていく。入り口から少し流れ出ている、車内のクーラーで冷やされた空気が心地よい。


 友達と二人、免許証で本人確認を受けた後、電車に乗り込んだ。

「涼しー! あー、いい匂いがするー!」

 事前に聞いていた通り、好きな席に友達と並んで座った。

 全員が乗り込み終わると、電車が動き始める前に、乗客全員にビールが配られた。乗務員さんの音頭で乾杯したのをキッカケに、電車もゆっくりと動き始めた。


「ぷはー! 走ってきたかいがあった! この冷たさと苦味が、乾いた喉に気持ちいい」

「本当に。暑い中待ったかいがあったわ」

 友達とも小さく乾杯をして、ビールを一気にあおる。喉を軽く刺激しながら流れ落ちるビール。


 ビアガーデン電車での旅は、まだ始まったばかり。

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