おいでよ!異世界の城!
『異世界』 この言葉には若者の興味を引く、何かがあると思う。異世界召喚・巻き込まれ・ハーレム・俺TUEEEEE・奴隷・ケモミミなどなど様々だが、果たしてそれらは命をかけてまで手にしたいものかと私は思う。なぜなら俺は・・・・
「ようこそ。異世界“イリーガス”へ。私の名前はアイリス。この国、アポロスの姫をしております。今回の件について、私の父 ガロン国王からお話しがありますので私について来てください。」
そこにいたのはピンク色のドレスを身に纏い、艶やかな金色の髪をした、まさにお姫様という感じの女性と黒髪のしっかりしていそうなメイドだった。そんな女性が笑みを浮かべて立っていた。
いきなり現れた美少女に呆然としつつ、クラスの連中は特にほとんどの男子は鼻の下を伸ばしながら、そいつに着いていった。
俺はというと、そんな女の笑顔に薄ら寒いものを感じ、警戒しながら連中の後ろにひっそりと着いていった。その間、情報収集として黒髪メイドと話して好感度を上げようとしたが、2人の鬼女からの殺気を受け、泣く泣く断念した。
ーーー王の間ーーー
そこは豪華絢爛と言わざるを得ないほど豪華だった。大理石の床に、壁には高そうな絵画が飾られ、天井にはガラスのようなもので出来たシャンデリアがあり、高そうな壺など様々だ。クラスの連中はその現実離れした煌びやかな光景に見惚れていた。
というか、こいつらはこの光景を見て何も思わないのか?俺はこんな腐った国に召喚されて早くもテンションだだ下がりである。この国にはメイドしか救いがないな!
「貴様ら、王の御前であるぞ!頭を下げんか!」
「まぁ、良いじゃないか。エリザ宰相。彼等はわざわざ異世界まで来てくれたのだから。」
(何が来てくれただ、ただの誘拐だろうが。)
「我の名はガロン。この国の王をしておる。まずは、君たちをこんな場所に来させることになって、誠に申し訳ない。」
ガロンという男はまさに山のような筋骨隆々とした大男で、優しげな笑みを浮かべているものの、その威圧感は凄まじく、とんでもない迫力があった。
「すいません。私達は帰れるんですよね?」
そんな大男におずおずと話しかけたのは我らのクラスのビックマウンテンこと 富士 沙織先生だ。
「すまん。現状では不可能だ。」
その一言にクラスの怒りが爆発した。
「ふざけんな!とっとと家に帰せよ!」
「そーよ!家族だっているのよ!」
「帰せ!帰せよ!」
そんなクラスの叫びに周りの騎士達が殺気だっていた。
(これはまずいな。仕方ないが、なんとかするか。)
「みんな、落ち着い「いや〜、すごいな。ウチのクラスの連中は。こんなに周りに武器を持った連中がうようよいるのにあんな啖呵がきれるなんて、俺には怖くて出来ないなぁ〜。」
俺の一言により、クラスの連中は自分達の立場に気づき、冷静になって黙りきったところで、ついに説明をし始めた。
ついでにイケメン野郎に被せたのはわざとではないよ(棒)。
「すまないな。今、我らの国全土が崩壊の危機に瀕しているのだ。我らは魔族の王、“魔王”が原因と見ている。
そもそも、この世界は4つの大陸からなっている。まずはここ、人間族が住む“アポロス”。さらにここから北にあるエルフ族が住む“キエッダ”。西には汚らしい亜人族が住む“コリニード”。その3つの大陸の中心にあるのが魔族が住む“クルウル”。
そしてエルフ族と亜人族は魔族から派生して誕生したと言われている。だからこそ、エルフは魔族と同じ、“魔法”という外道な術を用い、亜人族は魔族のような顔つきをしており、ずば抜けた身体能力を持っている。
そして今、その3種族が我らを根絶やしにしようと魔王の復活を進めている。“勇者”として、それを阻止し、奴らを倒してほしいのだ。そうすれば、君たちが元の世界に帰れるかもしれん。」
「ふざけないで下さい!彼等はまだ子供なのですよ。教師として彼等をそんな危険な目に合わせる訳には行きません。」
「あなたの言いたいことは理解しているつもりだ。もちろん、無理矢理行けとは言いません。戦わない場合にはこの城で使用人のようなことをしてくれれば、生活費の援助はしよう。しかし、異世界の住人である君たちには我らを超えるほどの素質を持つそうだ。」
「それでも、私は・・・・」
「待って、先生。力があって、僕は困っている人がいるなら、助けてあげたい。このまま黙って、見過ごすことは出来ません。」
「境君。」
「なぁ、みんな。僕らでこの世界のために戦わないか?僕たちみんなで“勇者”として、誰かを救える力を持っているんだ。だったら、みんなでこの世界を救おうじゃないか!」
境の演説にクラスの連中は動かされたのか、1人また、1人と戦う意思を示した。ほとんどの女子は境を見て、頬を染め、賛成していた。中には、そうじゃない女子もいたが、少数だった。
泉とか椿はあいつが好きだと思っていた自分としてはびっくりだ。もしかして、豪坂狙いか?
そんな興奮のなか、俺はというと
このくだらない茶番がいつ終わるのか、待っていた。そして過去の自分と重ね、その愚かさに胸糞悪い感じがした。
そして、まさにガキの戯言と言うに相応しい茶番は全員賛成という結論になろうとしていた、ってちょっと待て!
「僕たちはみんな、この世界のために戦います。」
「そうか。ありがとう、勇敢なる者たちよ!では、さっ「ちょっと待った!」
突如、割って入る声に、ていうか俺の一言に戸惑う一同。この顔を眺めるのも面白いが、このまま黙っている訳にはいかない。
「なんだ、貴様!いきなり!」
「まぁ、良いだろうエリザ宰相よ。では、お主は何のようだ?」
「悪いが、俺たちが戦うかどうかは1日待ってほしい。」
「何勝手なことを言ってるんだ、君は!」
「どっちが勝手だ!こんな訳の分からない場所に拉致られて、いきなり戦えだ?んな大切なことをみんながやるからやるなんて、適当な理由でしろとか冗談じゃねぇ。それと、幾つか頼みがあるが、別にいいよな?王様。」
「よかろう。話してみよ。」
クラスのうざったい視線に晒されながら、俺は自分の要求を述べた。
「まず、1つ目は戦うか決めるためにこの国の実力者同士の模擬戦がみたい。」
「一体何故じゃ?」
「俺たちの国は戦いとは無縁の生活だ。だからこそ、戦うにせよ戦わないにせよ、この世界の戦いは見て慣れるべきだと思う。」
「なるほど。わかった。で、他には?」
「この世界に慣れるためにまず、この国をまわってみたい。他の奴等は戦うらしいから必要ないが、あいにく俺はこの国に何の思い入れがないんでな、この国の現状を是非見て決めたい。」
「すまないな。今は無理だ。この異世界召喚について、外にまわっていないとは言えないからな、わざわざ、君たちを危険に晒す訳にはいかない。こちらの準備が済みしだい、させよう。」
「そうか。分かった。最後に部屋についてだが、どうなっている?」
「もちろん、全員分の個室を用意しておるぞ。」
「そうか、いろいろありがとうございます。」
王との取引も終わり、クールに去ろうとすると、何故かいきなりイケメン(笑)に肩を掴まれた。
「何だよ?」
「どうして、君は勝手な行動ばかりするんだ!こんな危険な状況だからこそ、みんなで団結しないといけないじゃないか!」
こいつのバカさ加減に呆れるが、世のリーマンに敬意を示し、対応してやることにした。俺ってば、まさに紳・・(ry
「はぁ〜。いいか?今、右も左もわからない状況で1番ダメなことは何だ?」
「そんなの、勝手なことばかりすることに決まっているじゃないか!」
「お前はほんとにバカだな。いいか、教えてやるよ、それはな場の空気を読んでみんなに合わせることだ。普段ならそれでもいいが、今は自分の命がかかってるんだ。そんな中で誰かの意見に合わせて、考えもせず行動なんて自殺行為だ。
つまり、それを押し付けるお前は大量殺人犯という訳だ。分かったか!」
「おい、言い過ぎだぞ。」
「来人君に謝りなさいよ。」
「はぁ〜。まだ分かってないか。もういいや。じゃあ王様、さっきの件よろしく。」
今だに状況を把握できてない連中をほっといておれはさっさと出てった。
もう会わないと思っていた。あの時の王の眼、まるでゴミを見るようなあの眼。見た目は綺麗だが中身は吐き気のするような腐り切った眼。
「全く、最低な日だ。」
おれは“前世”以来、見てなかった“アイツ”と同じ眼をする男に出会ってしまった。
その後、自分の部屋が分からず、1時間ほど彷徨った末、最初の黒髪メイドさんに送ってもらったのはご愛嬌だ。