5.わたしと束の間の平穏
イケメン?なにそれ?美味しいの?
※変態とシモとエロネタが1.5割増です。注意
私の1日はまずチュピピピピーと鳴く窓の外の小鳥の餌やりから始まる。
窓の外にやってくる青くて雀の様な姿の小鳥はあちらの世界の鶏と同じ様に早朝に鳴く習性があるらしい。
野生ではあるものの可愛らしい鳴き声にパン屑を与えたところ寄り着くようになり、今では私の目覚まし時計の役割をしてくれている。
そんなわけでまず私が朝起きて1番にする事は目覚まし役を担ってくれている彼らへのお礼を込めた餌やりだ。
窓を開けて用意していたパン屑を出窓カウンターの上に撒くと、私が窓から離れるのを見計らって一羽二羽と次々にやって来る。
そうして餌を啄む様子を少し離れた所から見ていると部屋のドアがノックされる。
私が起きると起床センサーでも付いているのかと思うぐらいの良いタイミングで侍女のメアリーがやってくるのだ。
私が入室を許可するとメアリーが天使の微笑みと共に朝の挨拶をしてくれるので私も笑顔で挨拶し顔を洗いに洗面所へ向かう。
顔を洗ってスッキリした後洗面所を出ると笑顔のメアリーにドレッサーの前に座らされ、化粧水を塗られ顔のマッサージから始まり髪のセットと服の着付けが終わるまで私は黙ってメアリーのお人形さんと化す。
抵抗する方がしんどいという事を身を持って知っているのでここで一時間程耐える。
まぁこの後の事の方が憂鬱な気分になるのでまだメアリーの笑顔を見ている方が癒やしとなるからいいんだけどさ。
その後は食堂で朝食をとることになるんだけど食堂へ向かう足取りはいつも重い。
まぁ原因は言わずもがな、アレしかない。
今日も今日とてべったりとくっついてきて落ち着いて食事なんて出来ないんだろうなぁなんて思いながら食堂の中へと入ると何時もの様に変態達が…
「おはよう、エリ。よく眠れたか?」
「おはようございます、エリ。今日はエリの好きな物ばかりですよ。」
「おはよう。今日もむしゃぶりつきたい程可愛いね、エリ。」
「おはよう、エリ。今日も余の膝はエリの為に空けてあるぞ。」
…朝の挨拶と称し寄ってたかって引っ付いてきて手の甲にチューし始めたかと思いきや、ほっぺから全身にprprベタベタ合戦をし始めているんだけど…
アレ?アレアレ!?
発言はともかく今日は私に飛びついてることもなく大人しくみんな席に着いている。
昨日までとは違う変態の仰天姿に驚き固まって突っ立っていた私だったけど、それを見かねたメアリーに手を引かれようやく私の席(彼らと向かいの席)に着くことが出来た。
「それではエリも揃った事だ。食事を頂こう。」
しかし席についてもまだ驚きの硬直から開放されない私は半開きの口のまま食事の前の祈りを捧げる目の前の4人を見つめる。
目の前の4人ははぁはぁと変態臭い荒い息遣いもしていないし、恍惚とした表情もないし、憑きものでも落ちたかのようなスッキリとした表情をしている。
…あえて触れたくはないけど、…うん、…溜まってた欲的なものを処理してきたみたいだ。
はぁはぁと生暖かい息と空気に包まれる事が無いせいか、いつもより食事も美味しく感じるし前方から視線は感じるけどねっとりべったりじゃないし……良いよ良いっ!平穏万歳!
ウキウキ気分のままゆっくりと食事を味わった私はぽっこりしている自分のお腹を撫でつつニコニコ顔でご馳走様をした。前方から返ってくる笑顔も変態ぽくないニコニコ顔で万々歳だ。
「今日はよく食べたな、エリ。」
「美味しかったのですね。エリの嬉しそうな顔で私もお腹いっぱいです。」
「ああそうだな。エリの笑顔でエリと一緒に食後の一運動をベットの上でしたいぐらい体が熱くなるよ。」
「馬鹿者。食後は余の膝の上で愛の語らい時間と決まっておる。」
「いや、決まってないから。勝手に決めてんじゃないわよ、そこ。」
変態発言は抜い…げふんげふん、スッキリしても治らないのはまだ初日だからだろう。
だってそんな発言を日常茶飯事に連発してる人はいないし、欲を吐き出していけばその内この変態発言も治まってくるんじゃないかと思う。
王様と魔術師長はこの国で魔力が1位と2位の保有者なせいか変態度も1・2を争うが、メアリーが言ってたように魔力と精神は結び付きが強いと言ってたし、変態に狂った分変態度も増量しているかもしれないから発言だけは大目に見てあげよう。
うんうんと一人納得して頷いていた私は、ふとある物が目に入った。
「あれ?あなた達そんな腕輪してたっけ?」
4人がお揃いの同じ金の腕輪を右腕につけてるのが珍しくて私は疑問をそのまま口に出していた。
そんな私の言葉に表情を変えたのが2人(脳筋と変態王)。変わらなかったのが2人(宰相と魔術師長)。
それに違和感を感じて私は一番口の軽い脳筋騎士団長に、それどうしたの?とにっこりと微笑みながら探りを入れた。
「あー…これはベルナード兄上が昨日、よりリアルにエリに×××××××を……ぶっ!?」
「ダリウス、ハエが止まっていたよ?気を付けような?」
ニコニコ顔で何にも考えてないんだろう騎士団長様は軽い口調で話し始めていたのだけれど、話を遮るように隣の魔術師長に顔面をグーで殴られていた。(…どう見てもハエを払う手つきではない。)
騎士団長を殴った笑顔のままの魔術師長だけど、何処か表情が硬い。
他2名も似たような感じだったので聞いてもはぐらかす様な気がする。
なのでやはり脳筋騎士団長の口の軽さに頼るべきだろう。
この妙な空気に嫌な予感しかしないので確かめておかないと私の気が済まないしね。
「昨日それ使ったのよね?どうやって使うの、ダリウス?」
「「!?」」
名前というのはその人の存在を他と区別し認識する為のもの。
普段呼ばない分に付け加え自分の“つがい”からの発言というのが彼らにとって大きな破壊力を持っているのは計算尽くだ。
ただそれにより騎士団長は嬉しそうに頬を染めはぁはぁと荒い息を吐くいつもの変態に戻ってしまったが、他3名はこの世の地獄でも見たかの様に口を半開きにして愕然としている。
多分耳と尻尾が出ていたらそれがもっと良くわかったかもしれないけど今は放置だ。
「エ、エリがそんな…。いや、でも……エリが望むなら…」
大きな体を小さくして何かを呟きながらもじもじしている騎士団長は可愛くともなんともない。
とにかくさっさと使い方を吐きなさいと、私は焦れてもう一度使い方を尋ねた。
「だから、どうやって使うものなの?」
「!…わ、分かった。エリが俺の××××××××している所を見たいなら存分に見てくれっ!」
「?!」
すっと突然立ち上がりベルトをカチャカチャ緩め始める騎士団長の行動にギョッとして私はものすごく慌てた。
見たくもないのに男のストリップなど見せられたくない。
「ベルナード止めてっ!ズボンを抑えてっ!!」
机に身を乗り上げるようにしながら騎士団長の隣に座っていた魔術師長にズボンを指さして命令すると、彼は下がりかけたズボン+αを素早く押さえつけてくれた。
それにホッとしたのもつかの間。
「余の××××××とて大きさも太さもダリウスには負けておらん!
エリッ!!見るのなら余の××××××をっっ!」
変態王も何をとち狂ったのか立ち上がって騎士団長と同じくズボンのチャックをカチャカチャ緩め始め何かを取り出そうとしたのだ。
「レイシスッ!そのバカ王を止めてズボンを抑えてっ!」
慌てて変態王の隣の宰相様にも素早く命令するとこちらも魔術師長同様変態王のズボン+αを素早く押さえつけてくれた。
それを見てようやくほっとした私は床を指さし、毎日の恒例行事となりつつある「全員黙って正座」を彼ら4人に目と顎で促した。
「そもそも私は痴女でも変態でもないのになんであんた達の××××××してる所なんて見なきゃいけないのよ!?
大体ね、私は使用方法を聞いたの!実践してみせろとは一言も言ってないの!
あんた達は見られて興奮するのかもしれないけど、私は見せられても興奮なんてしないんだからねっ!」
…何だかツンデレ臭い言い方になってしまったが、デレているわけでは全くない。
いつもの様に正座する変態4人を前に教育的指導しているだけだから。
「エリに視姦などされたら…私は一瞬でイッてしまいます…。
ああ…乱れた私を想像したいなら…あなたの前でいつでも乱れて差し上げますのに…。」
「断じて視姦などしてないからっ!睨みつけてただけだからっ!想像すらしてないから!」
睨みつけてるだけだったのに恍惚とした顔はぁはぁしだした宰相様が気持ち悪いことを言い出したので私は速攻で目を逸す。
「エリが余にいたずらをしたいなら視姦せずとも良いのだ。
縄でも鞭でも好きな物を余の体に使えば良い。余はエリの愛と共にすべてを受け入れるぞ!」
目を逸らした先・宰相様の横にいた変態王も胸を張りながら主張していたがそれもスルーした。
メアリーが言ってたように変態共を飴と鞭を使って再教育してるつもりなんだけど、飴だけでなく鞭までもしゃぶりついてくる変態の現状をどうしたらいいのかなー…。(遠い目)
怒って睨みつけても殴っても全てご褒美にしてしまうんだけど…。
私に逆らうことはないけれど、常に敗北感がこちらにあるのってどうなの?絶対おかしいよね?
とりあえず腕輪の確認だけしたら視界から変態を消そう。私の健やかな成長の為に。
ため息をつくと幸せが逃げると言われるけど、幸せとは程遠い生活なので自然と出るため息をつきながら私は魔術師長に向き直った。
「製作者、余計なことは言わなくていいから腕輪の説明だけしてちょうだい。
私が満足する答えならご褒美をあげてもいいから。」
「これは昨日ダリウスがリアルにエリに×××××されるのを想像し難いというので、エリの抜け毛を混ぜて私が作り出したもので魔力を少し込めれば右手が大きさも柔らかさも忠実にエリの手(仮)になる渾身の力作だよ。」
早口でペラペラと説明しながら魔術師長が右腕の腕輪に触れた途端腕輪と手が光り始め、数秒後に光が治まると彼の言った通り男の大きな手に代わって子供の手が現れた。
…が、想像してみて欲しい…。
男の太い腕の先(腕輪の先)に小さな子供の手が生えている様を。
その不自然さ、どう見たってホラーだよね…?
何故これで興奮できたのか、謎を通り越して怖い。
今もそのホラーな手で自分の頬を撫でさすってる変態魔道師に興醒めだし、他の3人もそれを羨ましそうに見て同じ様に腕輪に魔力をこめてホラー映像を増やしてくれているし…もう変態の思考回路が理解できない(前から1ミリも理解したいとは思ってないけど)。
この絵図らに耐えかね、私は可愛らしくにっこり笑って彼らの前に手を差し出した。
「全員今すぐそれを外して私に渡してくれるわよね?」
「「!!?」」
「あと、今後似たような物の使用制作も禁止ね。」
私のお願い聞いてくれるわよね、勿論。という笑顔の圧力をかけると全員が両手を床につけ、床に頭を擦り付けるように土下座し必死に懇願してきた。
「エリッ!それだけはどうか勘弁願えないだろうかっ!!」
「1日でエリの手(仮)とお別れなど辛すぎます…っ!!」
「擬似でもエリとの濃厚な夜とお別れなんて…っ!」
「余はまだ十数回しかエリの手(仮)と戯れてはおらんのに…っ!」
…聞きたくない絶倫情報をひとつ聞いてしまった気がしたが全て自分の為になることはなく頭痛の種にしかならないので私は彼らの懇願を右から左へ聞き流した。
そして彼等から視線を明後日の方向へ向けて腕を組みツンとした態度をとって見せる。
「ふーん。そんなにソレがいいなら私はいなくてもいいわよね?
じゃお役御免って事で私明日から旅にでも…」
いこうかしらと続くはずだったセリフは体当たりするようにドンッとくっついてきた四つの塊の衝撃で口から出ることはなかった。
「ち、違うんだっエリッ!浮気ではないっ!俺にはエリだけだからっ!」
涙と鼻水を出しぐちゃぐちゃの情けない顔で取り縋る騎士団長は金の腕輪を片手でパキリと握り潰し後ろへ放り投げ、愛してるどこにも行かなでとショックで飛び出した犬耳をペタリと垂れさせ訴えてくるし、
「こんなものあなたの代わりになんてなりませんっ!あなたに捨てられたら生きていけませんっ!」
同じく涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で取り縋る宰相様も手にしていた金の腕輪を魔法で灰と化した後、犬耳をぺたんと垂れさせて何処にも行ってはダメです、行かないでと訴え、
「エリを不快にさせるものは全部破壊するっ!エリ、エリエリエリ…ッだから私を見て!」
女泣かせの魔術師長も涙と鼻水を垂れ流し女がドン引きしそうな情けない顔で金の腕輪を魔法で消滅させ犬耳をぺたんと垂れさせたままエリエリエリ…と熱にうかされた様に名前を連呼しながら取り縋り、
「エリッ!余が愛しているのはエリだけだっ!紛い物など幾つあってもエリには足りないっ!
余はエリがいなければこの世に生きる意味が無いっ!」
ずびずび鼻水と涙を垂れ流しながら金の腕輪を握り潰し魔法で消滅させた変態王も犬耳をペタんとさせて何処にも行ってはダメだ、余から離れてはダメだと取り縋りながらすりすり顔を寄せてくる。
それを真似て他の3人もスリスリしてきた為奴等の鼻水と涙で私の服やら腕がべたベタし、その気持ち悪さで文句を言う気力も湧かなかった。
こんな情けない姿を晒す彼等の姿を見てお付の人達はどう思っているのかと少し気になって壁際で控えている方達にちらりと目を向けると、彼らはこちも見ず静かに佇んで完璧に空気と化していた。(もちろんメアリーも。)
有能なだけあって表情に動揺を出さないというのは完璧で素晴らしいと思う。
私が彼らの立場だったら上司のこんな姿を見たら仕事場変えるけどね。
…まあそれよりも、今はこの鼻水と涙を擦り付けてくる奴らを引き離して体を綺麗にする方が先決だ。
食事も済んだし金の腕輪は無くなった今、私がここに留まる理由ももうないし。
「…分かった。何処にも行かないからまず離れて頂戴。」
「…本当か?」
「…本当の本当ですか?」
「本当の本当に本当だと誓ってくれるのかい?」
「本当の本当の本当の本当に何処にも行かないか?」
縋りついてくるのは止めてくれたけど、体液まみれのぐしゃぐしゃの顔でじっと見てくる面倒臭い4人に私はため息をつきながら深く頷いた。
「貴方達に黙って何処かに行ったりしない。それでいいでしょ?
…それと、貴方達につがい成分みたいなものがいかに大事かというのは十分分かったから…そうねぇ…」
4人の垂れた耳がピコンと立ち上がり尻尾も左右にぶんぶん振られ何かを期待する目を向けられている。
しかしあちらの世界で見た目的にも犯罪になるようなエロい事は一切しないということを私はずっと前から宣言しているし、破る気も一切ない。
花畑になっている彼らの頭の中ではもう忘れ去られている事かもしれないけれど、そういう期待の含まれた目はバッサリと無視する。
けれど、彼らの平常心+私の平穏のためには適度なスキンシップというのがいるのだ。
つがい成分が薄くなると(厳密に言うと私の魔力に触れてないと)ベタベタ引っ付いてくるのだから、毎日お手手つないで庭を散歩してたら足りるだろうか?
それ位なら健全で私も譲歩はできる。
「…毎日手をつないで庭を散歩…でどう?」
デート、と言う言葉はあえて避ける。
奴らを調子付かせたくはなかったからなんだけど…、
「エリとデートかっ!?」
「初めてですね!エリからデートのお誘いなんて…!」
「ああっ!どんな服を着ていこうかっ!やはりエリと揃いの格好がいいかな!」
「エリと手を繋いでラブラブデートか!盛り上がった二人は熱い抱擁の後熱烈な口付けを…と言う奴だな!」
お花畑な彼らの頭の中では、たかが散歩(数十分)もデートという妄想に至るらしい。
そこはもう放っておく事にして、その涙と鼻水を垂れ流した汚い姿のままだと一緒に歩くのも嫌だからきちんと身なりを整えて綺麗にしてきてよと言うと、全員しゅばばばっと素早く部屋から駆け出して退室した。
そしてその後を追うように駆け出す従者の方々の姿を見送った後、近付いてきたメアリーからおしぼりを差し出された。
「エリ様、これをお使い下さい。すぐにお風呂場までご案内しますので。」
「…ありがとう、メアリー…。」
メアリーの気遣いにほっこりしながら受け取ったおしぼりでべたべたの腕を拭きつつ本日の食後の予定もやはり変わることなく、私はメアリーと共にお風呂場へと向かうこととなった。
※エリの一日
起床
↓
小鳥の餌やり
↓
着替え、身支度
↓
朝食
↓
お風呂(変態に汚されて仕方なく)
↓
お勉強
↓
昼食
↓
お風呂(変態に汚さry…)
↓
お昼寝後お勉強
↓
お茶会
(たまに変態と一緒だとその後お風呂)
↓
自由時間
↓
夕食
↓
お風呂(変態によry…)
↓
就寝