4.変態は平常運転です
※基本全話変態と下ネタ注意です。
「エリ様、お休みのところ誠に申し訳ありません。」
「…ん~……メアリ~……?」
いつもは私が起きるまで待ってくれているのに今日に限って揺すり起こされるなんて珍しい事もあるなぁと、私は寝ぼけ眼を擦りながらベッドから体を起こした。
寝過ごしすぎてもう昼過ぎなのかとも思ったけどカーテンで遮られた窓の外は暗くてとてもお昼には見えない。
「陛下達の“つがい”たるエリ様の睡眠中に訪問など論外だと申したのですが聞き入れてもらえず、終いには無礼を承知でエリ様に直接お返事を頂きたいとドアの外でお待ちで…。」
「…私に…?」
「エリ様が睡眠をお望みならば、私がその旨をしっかりお伝えして明日にするよう追い払って参りますけれど…。」
「いいよ、いいよ~…。…急用なら会うし…。」
所詮肩身の狭い居候の身だしねとあくびをしながらのろのろとドアへ向かう私にメアリーがお待ちくださいと慌てて肩にショールをかけてくれた。
今着ている白い絹のような肌触りのノースリーブのワンピースはこちらでは下着の部類に入るそうでそのまま人前には出ないそうだ。
ただ、中にはキャミソールとこちらでの下着(ドロワーズみたいな物)をつけているのでこれが下着と思えない私はこのまま何処にでも歩いて行けるけどね~。(ただし、変態の前以外に限る)
とりあえずショールだけを肩にひっかけてドアを開けると、
「「お休みの所本っ当に申し訳ございませんっ、エリ様っ!!」」
土下座した文官♂やガタイのいい騎士達♂の集団が私の部屋の前の廊下に広がっていて、物静かで高級感溢れるはずの廊下がなんとも暑苦しい場と化していた。
そのあるまじき光景に寝ぼけていた私の脳も一気に覚醒したけど、状況が理解できない私はドアを半開きにしたまま固まった。
「な、何事デスカ…?」
「本来私共が直接お声をかけることは許されてはいないのですが、エリ様にしか解決出来ないことなのです。」
「…私にしか??」
顔を上げずに土下座を続ける集団の中には声をかけたことはないものの、ちらほら見た事のある男達がいた。
たしか彼等は…
「はい。明日は他国の重役との面会もあり、ギラついた…いえ寝不足な陛下達に職務をさせるわけにいかず、陛下達に部屋に戻って休むよう一言だけでも言っていただければ…と。」
「「お願い致しますっ!」」
…そうだ!変態達の傍にいつも控えている彼等の部下達だ!
それと同時に私は思い出だした。
「……あ。」
そういえば私…変態を食堂に放置しっぱなしだったっけ…。
それに朝食もまともにとれずに風呂場でのぼせてそのまま寝ちゃってたし…。
今が何時なのか分からないけれど思い出した途端お腹も空腹を訴えてきゅるると鳴いた。
それを合図の様にしてその場がしーんと静まり返ったので、私は恥ずかしくなってお腹をおさえた。
「まずはエリ様の食事が先ですわ!厨房に行ってエリ様用の食事をここへ。
陛下達の事はその次です!」
すっと私を庇うように前に出たメアリーが近くの騎士に指示を飛ばすと、数人の騎士達が転がるようにして慌てて駆け出した。
ああやっぱりメアリーは私の天使だわ…と感動したものの、周りは感動の場面にそぐわない廊下を埋め尽くす土下座集団だったので私は長々と感動に浸る事も出来なかった。
とりあえず通行の邪魔にもなるので変態達の部下数人を残して後はお帰りいただき、私も彼らを待たせては申し訳ないと思いつつも空腹には勝てず運ばれてきた食事を先に頂くことにした。
その間部屋のソファにでも座って待っててくれていいよと言ったものの、〝部屋に入ったと知られたら殺されますからっ!〟と全員が部屋へ入るのは断固として拒否した。
仕方が無いのでドアの外で土下座ではなく壁沿いに立って待っていてもらいながら私がいない間の変態達の様子を教えてもらうことにした。
*******エリが食堂を去ってからの話********
エリが食堂を去ってからも彼らは食堂の冷たい床の上で正座をして静かに待っていた。
反省心というより、つがいの言うことを守って実行したいい雄だと褒めて貰いたいという下心一心で。(基本反省という文字は彼らの辞書にはない)
そして1時間、2時間、…気付けば5時間以上が経っていただろうか。
鍛えている彼らでも慣れない正座は簡単に彼らの足を痺れさせる。
けれどそれを顔に出さないように皆必死に耐えた。
「エリはまだ浴室なんだろうな…。」
「私の為に入念に身体を洗っているのでしょうね。」
「いや、私の為だろう。世の女性は雄に釣り合うよう磨きをかけるというしね。」
「いやいや余を見て目を潤ませていたから余の為だな。
だが出来れば余がこの手であの小さな身体を隅々まで洗ってやりたかった…。
いや、そう悲観せずともその機会はまだまだあるか……。」
“つがい”を見つけるも、つがえずにお預けを喰らわされ続ける雄達というのは例がなく(普通は出会った瞬間即恋人)焦らされ続けると超ポジティブ思考へ到達する様だ。
けれど流石にこのまま4人を放置するわけにはいかないと、従者の一人が言い出しにくいエリの現状(風呂で逆上せてそのまま寝た事)を告げると、
「「エリは大丈夫なのか!?」」
正座したまま4人は顔を真っ青にしておろおろ慌てだした。
本当は今すぐにでも正座を止めてエリの部屋へ駆け込みたいのだろうけれど、最初にエリに言われた言葉が歯止めをかける。
正座をして待っていろと言われたのにそれを破ればまた怒られるかもしれない。
いや、怒られるのはいい。怒るのは関心があるということで、無関心な態度よりはずっといい。
けれど一番欲しいのはエリの笑顔で、このままここで【待て】をしていれば約束を守ってえらいと笑って褒めてくれるかもしれないのだ。
心配で心が張り裂け噛み締める唇から血を流す彼等だったが、今はぐっすり眠っているという報告に駆け出したい心にぐっと蓋をした。
「で、ですが、エリ様も十分反省したと許してくださると思いますのでそろそろお部屋に…」
「明日は他国からの使者もくるのですよ?しっかり休まねば良い仕事はできません。」
「陛下達が体調を崩されたらエリ様も心配なされます。」
「お前たちの言い分も理解してる。」
「ええ。ですが、私達にもこれは死活問題なのです。」
「エリの笑顔が見れればこれからのヤル気に一層磨きがかかるしね。」
「仕事はする。それはエリの夫の務めだ。だがエリとの約束も守る。
それも良い“つがい”と認められる為に必要なことだからだ。」
「これはエリが俺達に与えた愛の試練だ。
この試練もエリが俺の愛を試す為だと思えばどんなに苦痛でも耐えられる。」
「エリから与えられる物…それが例え苦痛でも、足元から全身を駆け巡る痺れでも、構ってもらえるなら私達にはご褒美ですから。」
どんなに部下達が言葉巧みに誘導しようとも、足が痺れてぷるぷるしようとも、痺れの限界で両手をついてやや前かがみになろうとも、生理現象に襲われようとも、彼らは誰の言葉も聞かなかった。
そうして部下達の説得の甲斐もなく時刻は残酷にも夜の12時をまわってしまった。
陛下達に加え皆が限界寸前だと感じた部下達は処罰を覚悟して最後の頼みの綱のエリを起こすために寝室へと向かった。途中同僚達が一蓮托生だと集まってきて気付けばかなりの集団になっていた。
そんな集団にメアリーは驚きはしたものの、もう休んでいるからと頑なにエリに取り次ぐことはしなかった。
そして陛下達から正座と土下座という究極の謝罪方法を学んだ彼らはメアリーにも全員で土下座してお願いをした。
エリ様に直接返答を頂くまでは帰れませんと。
土下座する事数十分、扱いに困ったメアリーが折れてようやくエリに直接嘆願することが許された…。
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話を聞き終える頃には変態の気持ち悪さに食欲も落ち、残してしまうのは勿体無いと思いなからも途中でごちそうさまをした。
何度でも言うがイケメンでも変態はキモい。変態発言マジ勘弁。
あの変態具合の進行が私のせいなら私の平穏の為にも早々に何とかしなきゃ今後鳥肌だけじゃ済まなくなる。
普通のイケメンにさえ戻ってくれれば同じ空間にいるのも苦じゃないだろうし、傍にいられても不快感もないだろうし。
とりあえず変態共を興奮させない為に肌のあまり見えない服に着替えた後、メアリーと変態達の部下を引き連れ食堂へと向かうと未だに説得を続ける声とそれを拒否するが聞こえてきた。
まだやってるのか…と思いながら入口付近で一度足を止めたのだけど…
「「あ、エリ!」」
食堂の中から嬉しそうに私を呼ぶ声が聞こえてきた。
姿もまだ見せてないのに気配でそれとわかるなんて変態の能力って本当に底知れない…。
まぁここでじっとしてても事態は進展しないので仕方なく食堂の中へ足を踏み入れると、朝と変わりなく(両手で支えてはいるものの)正座をし続ける面々が、ご主人様を見つけた犬のように嬉々とした顔で尻尾をパタパタふっていた。
ちなみにその尻尾とは例えでもなく本物の犬の尻尾で、興奮や驚きが極限に達するとケモミミ(獣の耳)と一緒に出てしまうらしい。
まぁ耳と尻尾を出したまま生活する獣人もいるのでそう珍しい事でもないみたいだけど、出してあると感情が尻尾と耳の動きでわかってしまうため王宮の人達は普段は隠して生活しているらしいけどね。
「エリ!ちゃんと反省していたぞ!」
「…はいはい。」
「エリ、ちゃんと言いつけを守りました。」
「…そうね、えらいえらい。」
「エリ、ずっと反省しながら待っていたんだ。
足の痺れすら耐えた従順なる下僕にどうか慈悲を…。」
「余もエリの愛の試練に耐えぬいた!
エリから熱い抱擁や口付けなどの褒美があってもいいと思うのだ!」
「……。」
反省すべきことをやらかしといて反省したから褒美をくれとはおかしくない?
…いやいや、今はつっ込むより【アメとムチ作戦=しつけ】が優先だ。
私はこほんと1つ咳をついてニッコリと笑う。
それだけで彼らの尻尾は振りちぎれそうな勢いになったけど、私はさらにご褒美と言う名のアメを与えてやることにした。
「そうね、ちゃんといいつけを守ったんだから反省はもういいし、ご褒美もあげる。」
「「エリーッ!!!!♡♡♡♡」」
「娼館で溜まったもの全部吐き出してきていいから、今日はさっさと寝て明日のお仕事頑張ってね♡」
ハートもおまけでつけてやったし明日の仕事もこれで頑張るだろうし、溜まった性欲も娼館で吐き出せば私が被る被害も減る…いや彼らもスッキリするだろうと思ったのに、何やら4人はあまり嬉しそうではない。
ケモミミもしょぼんと垂れ下がっている。
「…エリが相手をしてくれないのか…?」
「…え!?」
「エリと出会う前ならともかく、性処理だけの為でも他の女に興味も湧きません。」
「で、でも、つがいじゃなくても相手に出来るって聞いたけど!?」
「つがいと出会った雄はもう他の女に食指は動かないんだよ、エリ。
来るもの拒まずだった私でさえもね。」
「だからエリでなければダメなんだ。
エリさえ受け入れてくれれば、余はいついかなる時でも…例え食事中でも風呂に入っている時でもエリを待たす事なくまぐわえるっ。」
いやいやいやっ!
こっちは準備万端いつでもOKだって言われてもこっちは無理ですからっ!(あと本音を垂れ流すなっ!)
体格差を考えてもこっちが壊れるからっ!
目を潤ませて訴えられても私はぜっっったいOKとか出さないからねっ!
けどこのまま性欲を溜められたままだと更に変態度が悪化しそうなので、ここは私が妥協する事にした。
妥協って言っても私が奴らに直接何かしてやるとかそういうことは一切ないけど。
「…わかったわ。じゃあ(ホントは嫌だけど)私をおかずにする事を許してあげるから溜め込むのはやめなさい。あんたたちの右手を私の右手だと思えば(妄想力で)どうにかできるでしょ。」
娼館に行かないなら自分でどうにかコントロールしてもらわないと困るし。
リアルで幼い少女姿の相手(中身は大人でも)にはぁはぁprprする姿とかを止めてくれるなら、妄想の中で位の勝手は我慢しよう。
私の提案に今度は食いついてくれたらしい4人は自分の右手を食い入る様に見つめている。
「こ、この右手をエリの右手だと思って…」
「つ、つまり…エリが私の×××××を優しく包み込んで…」
「…!?」
「×××××の部分を慣れない手つきで上下に…」
「ス、ストーッップッ!!妄想を口に出して垂れ流すなっ変態どもめっ!!
馬鹿なのっ!?死ぬのっ!?ぶっ飛ばされたいのっ!?
それとも私のかけた情けすら無かった事にしたいの!?」
私が一喝すると、驚きで彼らの耳と尻尾がぴんと一瞬直立したがすぐにへにょんと垂れ下がった。
俯き黙り込んだ彼らの様子に反省をしたのだと思った私は気持ちを落ち着けるために大きく息を吐いた。
まぁ今すぐ変態がまともになる訳がないのだから、それにいちいち腹を立ててたらこっちが疲れるだけだ。反省解除のお役目も終わったしここはもうスルーして部屋へ戻ってもいいよね?
「…あんたたちが頭の中でどう妄想しようがこの際許してあげたんだから妄想は頭の中だけにしておきなさいよっ。じゃなきゃ鉄拳飛ばすからねっ。」
「わ、分かったエリ。だが、俺の手は剣ダコだらけのうえに硬くてエリの様に小さくて柔らかくないからリアルにエリに×××××されるのを想像できないんだがどうすれば…」
「変態の脳内など知ったことかっ!
それこそそこのエロ魔術師に教授してもらえばいいでしょうっ!」
バシンッと騎士団長の頭を引っ叩いて私は踵を返した。
後ろからはお前だけ叩かれてずるいぞとか俺も俺もお仕置きしてという問題発言をしていたがそれも全て無視して、控えていた彼らの部下に奴らを部屋に放り込む様に言いつける。
変態のせいでまた精神的に疲れた私はさっさと部屋に帰って着替えもそこそこにベットに潜り込んだ。
私が真性のドSだったなら奴等をいたぶってストレスも発散するのだろうけど、そうでもない私はこういう時何も考えずぐっすり休むに限る。
寝付きのいい私はすぐに眠りつくことができたけど、次の日には自分の言動に心底後悔することになることをまだ知らない。
とりあえず今は、変態のことなど忘れてゆっくり眠らせてもらう事にするわ……。
※ちなみに長男陛下、次男宰相、三男魔術師長、四男騎士団長。
※エリと出会う前は乙女ゲームの相手役でもいけるぐらいの正真正銘イケてるメンズでした。(過去形)