2.わたしと変態と日常
※1話目の注意は継続中。変態しかいません。
一夫一妻が基本のこの世界。
同じ紋様を持つ同性は存在しないうえ、同じ紋様を持つ“つがい”にしか目がいかないのだから当然浮気なんてありえないそうな。
なのに朝から私に纏り付く四人の紋様は当然異なっているし、はっきり言うと彼等の中に私と同じ紋様を持つ者もいない。
それなのに私が“つがい”だなんておかしくない?
こいつらの“つがい”センサーは絶対何処かがイカれているか壊れているんだと私は思っている。
そんな彼等から私が意識を少し外していた間も大人しく【待て】が出来ればいいのだが、生憎とそんな大人しい奴等は一人もいなかった。
「エリ、最高級のガルムの肉だからうまいぞ?」
左からはフォークに刺された分厚い肉をずいと差し出され、
「エリ、採れたての新鮮な野菜です。美容にもいいんですよ?」
右側からはフォークに刺されたサラダがずいと差し出される。
「エリ、飲むのが億劫なら私が口移しで飲ませようか?」
そして左前からはジュースを片手に妖艶な瞳で意味深に訴えかけられ、
「エリ、余の膝の座り心地をまずは試してみてはどうだ?」
右前からはどう見ても筋肉質で固そうな膝上をすすめてくる。
私を取り囲み跪いてこちらを見上げる顔は種類は違えどどれも極上のイケメン。
筋肉質な肉体系の騎士団長様に、頭のバリバリ切れるインテリ宰相様。
多くの女性を泣かせてきただろうそんな雰囲気漂うフェロモンたっぷりな魔術師長様に、最上の魔力と力を有するこの国の王様にと地位と名声に溢れた素晴らしい物件達……だと一見思うかもしれない。
だが私は彼等と極力関わらず彼等を空気として扱う様にしている。(そのせいで余計に彼等の態度もひどくなっている気もしなくはないけど…)
まぁ私もイケメン嫌いじゃないので元の世界でこんなイケメン達に囲まれたら頬の一つや二つ赤く染めて夢中にもなったかもしれないけど。
しかし、はっきり言うと私は現在幼女である。
元の世界では成人もとうに越え、25歳を迎えていた私が今はどういうわけだか幼女みたいな幼い女の子なのである。(大事なことなので2回言いますが)
最初はこんなイケメン達に囲まれおろおろわたわたもしたけれど、ここでの生活に慣れ冷静になれば私が彼等に変態のレッテルを貼り、まともに相手をせず冷めた対応をとるかもわかっていただけると思う。
これでも男兄弟の中で育った私はそれなりに男の生体にも生理現象にも一般女性より寛大だ。
エロ動画やエロ雑誌を見ている兄や弟の部屋に突入したことも何度もあるし、朝の生理現象も生暖かい目でスルーしてやる。
なので好ましい女性に盛って股間が反応する生理現象も仕方ないことだと理解はしているけど、幼い少女(※見た目)に盛って現在も股間の主張を止められないでいるいい大人達に冷めた目を向けてしまうのは常識的に見ても正しいと思う。
一応全面的に世話になっている手前、あまり大きな態度には出られない。(これでも遠慮はしている…つもり。)
彼等が私を“つがい”だと宣っている内は、本気で嫌がることはしてこないし止めてくれる。
でも相手をするとキラキラとした目とはぁはぁと荒い息を向けられるので身の安全+精神の育成上一定の距離を保って空気の様に接している。
しかしこの世界の雄は“つがい”に対する執着が激しい。
おまけに恋は盲目という状態と求愛行動が続く。
ただ“つがい”として身も心も結ばれればそれなりに落ち着くみたいだけど、未だつがっていない彼等は延々とその状態が続いている……らしい。
蛇の生殺しとでもいうのか、目の前に求めてやまない“つがい”がいるのにつがえないもどかしさが彼等の行動に拍車をかけるのか、出会った時は距離も態度ももっと紳士的だったのに今じゃこの有り様だ。
「エリ、遠慮していると大きくなれないぞ。」
彼等を無視してパンを千切って口にしていると、じれ出した騎士団長様が隙あらば肉を突っ込もうと口元に肉を押し付けてくる。
しかし断固として肉を拒否し続けている私の口元は押し付けられる肉汁とタレでべたべたと汚れていく。
それに不快感を覚え眉間にシワを寄せると、騎士団長様はまずいと思ったのか
「あ、すまんエリ。」
ペロリと私の口元の肉汁とタレを舐めとった。
その行動に驚いたのは騎士団長様以外の全員だった。
だが私は騎士団長様が無意識でやったことは理解している。
考えるよりまず手が出る脳筋系だから他意もないのだろうとそのままスルーして食事を続けようとしたのに、
「あ、すみません、エリ。」
右の口元にもドレッシングたっぷりのサラダを押し付けられ、謝られると同時に舐められた。
視界に入る宰相様はうっとりと目を細め垂れるドレッシングを舌でなぞるように拭っていく。
…って言うか喉までドレッシングは垂れてませんけど!?
騎士団長様と違い宰相様の行為はどうみたって故意だった。
が、何故かそれに対抗意識を燃やしだした騎士団長様が負けじと顔をprprしてくる。
ちょっとやめなさいと口を開こうとしたとき、太ももにバシャッと何か冷たいものが掛かった。
「ああ、エリ。君のすべやかな足に何てことを…。今すぐ拭くから許しておくれ。」
…おい、魔術師長…貴様もかっ!!
ジュースをこぼされた白いワンピースは濡れて太ももにぴったりと張りついてくる。
おまけにパンツにまで染みてきて不快感MAXだ。
「馬鹿者っ!エリになんてけしからんことをっ!」
魔術師長様を叱りつけながら一緒にジュースを拭き始める王様。
…ちょっと待て。スカートに手を突っ込むな!
太ももを撫でるな!
顔を近付けて匂いを嗅ぐなっ!
どさくさに紛れて乳を触るなっ!
全身舐めようとするなーっ!!
「…いい加減に…しろっ!!この変態どもめっ!!
3秒以内に私から離れてそこに並んで正座っ!!」
ブチギレした私がピシャリと言うと、私の指差した場所に奴等はさっと並んで正座する。(正座はここに来て数週間後に私が教えました)
“つがい”に嫌われたくない雄は大抵雌の言うことを聞く。
ここがハーレムを築く様な男尊女卑な弱肉強食世界だったらそうはいかないだろうけど、ここでは子供を産む“つがい”の女性は宝の様に大切に扱われるので女性は女王様になり放題なのである。(私にS気はないのでやりたいとは思わないけど)
「エリは怒った顔も可愛いが笑った顔の方が俺は好きだ。」
ニコニコと呑気に笑っているが誰が怒らせたと思っているんだろうか、この天然脳筋騎士団長様は。
あんた達の変態行為のせいでこっちは腹を立ててるというのに。
幼女に群がって許されるのは2次元の中だけなんだからねっ!
あと、頬を赤めて目を潤ませるな!
「エリが与えてくれるものなら私は何でも構わないのです。」
睨み付けているのに宰相様も頬を赤めて目を潤ませている。
…なんだか怒りよりも引く。背筋がぞわぞわする。
「エリのお仕置きならいつでも受けたいよ。一番はベットの中で…が希望だけど。」
こいつはダメだ。完全にダメだ。
エロにしか話を持っていかないエロ魔術師だった。
「エリ、正座をしたぞっ。余の膝に座ってくれるのかっ?」
王様の癖にこいつが一番ヤバい。
反省すらしていないし(それは全員だった)キラキラした目を向けて幼女に言う言葉じゃない。
おまけに幼女に興奮して一番息を荒立ててるのがこの国の王様なんだよ?
信じられる?
ま、信じられなくてもそれが現実だけどね!
「私はお風呂に入ってくるけど私が戻るまで全員正座で反省してなさいよ!
それとその見苦しい股間もどうにかしときなさい!
私をおかずに処理するのだけは禁止だからね!」
「だったらエリのなk…」
「もうしゃべらなくていいからっ!変態は黙って反省だけしてればいいからっ!」
さすがにもうアウトすぎる発言は聞きたくなくて私は椅子から飛びりた。
大人用の椅子は今の私には高すぎるからぴょんと飛び降りる方が早いのだ。
そしてそのまま彼等に背を向けて歩き出そうとしたら、後ろからクイッと腕を引かれその反動のまま私の重心は後ろへ倒れ、ぽすんと床よりは柔らかい所へ尻餅をついた。
「エリ…早く帰ってきてくれ。エリがいないと余は胸が苦しい。」
真剣な瞳を向け切なげに訴えてくる王様。
真顔はイケメンなので一瞬ドキッとしてしまったが、手の甲にキスをされ舌を這わされてから自分が変態の膝の上にいることを思いだし、慌てて変態を振り払って立ち上がった。
「ふ、ふざけるのも大概にしなさいよっ!
幼女に手を出すなんていい大人のやることじゃないわっ!」
「幼女?エリは確かに小さいが、その手の紋様は成人の証でもある。
子作りに何ら問題はないが、小さい分入れるのには苦労するだろうが毎日入れていれば余の大きさにもすぐ馴染んでくるぞ。」
「でもその体格差にぐっとくるよ。私の下で小さな肢体を揺らすユリ。…最高じゃないか。」
「変態なんて滅びてしまえーっ!!」
変態王とエロ魔術師に対抗して宰相と騎士団長が口を開く前に、私は奇声をあげて部屋を飛び出した。