九幕=蹂躙=
次回更新は2月17日午前9時予定です。
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「あ、ぎ、ひぃっ……!?」
鬼のような顔だった霧先の顔が、人間の顔に戻りはじめていく。
(マジか……)
ハイドも悪魔憑きの戦いを数多く経験しているが、見たことがない光景で呆気に取られ状況の把握に困難を極めていた。
(少なくともわかってることは、鬼男がもう繊維を喪失しちまってるということか)
変身がとけかかっているのは、精神的にも肉体的にも追い詰められている証拠。
さらには這いつくばりながら距離をとろうと雅に背を向けてすらいる。
バカか!? とハイドは思わず口からこぼしそうになる。
側から見ても暴走をしている相手には悪手でしかない。隙を見せるのはより刺激するだけだ。
注意を自身に向けるために発砲しようと引金に指をかけた瞬間、雅の翼が大きく羽ばたき突風を起こしてハイドの動きを阻害した。
「うわわわわ!?」
「……お嬢さんの保護が先だな」
すでに状況は一変しており、危険度は大きく跳ね上がった。体勢を立て直しながら愛華の元へ行き、急ぎ近くの建物の影に彼女を連れていく。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいらない。それより、ここから動くな。風も建物をどうこうできるほどじゃないからここなら安全だから」
「わかりました。でも、あの……」
「心配するな」
愛華を安心させるため、なるべく優しい声音を出す。
「君の友達は俺がなんとかしてみる」
他人に迷惑をかけるためではなく、ただ友達を守ろうとした結果が今に繋がっているのだとハイドは思っている。
そういう人間は、彼にとって好ましい存在だった。
(問題は無傷ではすまないことだな、お互いに)
覚悟を決めて建物から飛び出ると同時に、突風が吹きあれる。
「く、来るな……来るなぁああああああああ!」
霧先の悲鳴が聞こえ、彼の上に影が刺す。
ハイドが視線を上にやれば、上空に雅がとどまっていた。
「A、ruaAAAAAAA!!!!」
耳をつんざくような野獣のごとき咆哮が周囲一帯に響き渡った。
あらためてハイドは雅の姿を確認する。
大きく人間の姿からかけ離れているわけではない。
黒い大きな鳥の翼に、猛禽類のような爪が両手両足に生えている。
日本の伝記に伝わる烏天狗がそのまま現れたかのようだ。
足の爪は血に濡れており、愛華を避難させている間にも霧先をなぶっていたのだろう。
――暴走しているとはいえ、ここまで一方的にやれるもんかね?
自分が手こずっていた相手をなぶっている姿に内心で汗をかきながら、大口を叩いてしまったもんだとぼやいた。
瞬間、雅は急降下をして霧先へと突貫して蹴りを叩き込んだ。
そして、足の爪が深々と霧先の肩に食い込んでいた。
「や、やめ……ぁあああああああああ!?」
霧先の悲鳴には意に介さずそのまま雅は翼を羽ばたかせ、再び上空へと飛翔する。
下からハイドが発砲するが、雅はその弾丸をかわしていき上昇は止まらない。
近くのビルほどの高度で上昇は止まり、霧先の三度目の悲鳴が上がる。
「a、AAAAAAAAA!」
そして雄叫びと共に再び急降下。
猛スピードで自分が地面と接触する寸前で爪を離し、霧先を地面に叩きつけた。
コンクリートの地面が砕け、地肌をあらわにしてとうとう霧先は変身が完全に解除され沈黙した。
腹がわずかに上下しているようで生きてはいるようだが、もうこの戦いに復帰することはできないだろう。
(さすがに同情するやられ方だな。自業自得だけど)
殺したと思った少女が悪魔憑きに覚醒し、暴走していたとはいえ一方的にやられるなどとは微塵も思わなかっただろう。
空中に向けて発砲し、雅がハイドの方へ視線を移す。
「そこまでだ、お嬢さん。そいつを殺されちゃ困るんでな、次は俺が相手だ」
先ほどまで霧先を殺そうとしていたことを棚に上げ、雅へ銃を向けた。




