七幕=生への執着=
今日は自分の誕生日です。ピース。どの作品でも感想などいただけたら嬉しいので、よろしくお願いします。
次回更新は2月13日午前9時予定です。
「ここで仕留めさせてもらうぞ」
引き金が引かれ、銃声が何度も鳴り響く。
私を切った鬼男は黒いローブをたなびかせながらその銃弾を回避し、ローブはともかく男本人にかすることはなかった。
この程度で、と鬼男はぼやき一呼吸の間に黒いコートの男の懐にまで接近する。
その瞬間、息も絶え絶えながらも私は自分の胸を切り裂いた物の正体がはっきり見えた。
黒いコートの男に一撃を見舞おうとする男の腕は、完全なる刃と化していた。あれが私に致命傷を与えたのだろう。
受けたこの身からすれば、とてもではないが目で追える速度ではない一撃が放たれると想像するのは容易かった。
そして抜刀。その一撃は黒いコートの男の胸を……
「ぶねぇな」
切り裂くことはなかった。
一撃を回避し、それどころか黒いコートの男は鬼男の肩に銃口を突き当て、引き金を引いた。
「がっ……!?」
銃声が再びなり、苦悶の声がこぼれ、鬼男はすぐさま距離を取っていた。
顔の変化は読み取れないが、戸惑っているとわかるのは容易だった。
(銃弾が貫通している……馬鹿な、関節でも狙われたわけでもないのになぜ……)
「ローブつけててもわかる重装甲そうな見た目のわりに速いな、お前。いや、変身しているわけだから自分が感じる体の重さは一緒か。そら本人からしたら動きも変わんないか」
どういう理屈でそうなっているのかはわからんけど、と黒いコートの男はぼやく。
「お前……何者だ」
「そうだな。ハイド、とでも呼んでくれ。あ、これ当然偽名な」
黒いコートの男、ハイドと名乗った彼はいたずらに成功した子供のような声で銃を構え直す。その様子を見て男はイラついているように声を荒げた。
「俺の、俺の一撃を人間ごときが避け、あまつさえ傷をつけるとは……!」
「これでも努力はしてるし、銃弾も特別製だ。あとはもうちょい身体能力底上げできたらよかったんだが……生憎努力と他の補強を合わせても俺はこの程度だ。残念ながらな」
「ふざけてるのか?」
「大真面目だよ。でなきゃ見た目が怪物のお前とやり合おうと思わないって。そこの女の子の一人はもう助からないだろうが、生きている子は保護させてもらおうかな」
ハイドという人は私がもう助からないことをわかっている。
だからこそ、私に構わず目前にいる男に集中しているのだろう。
(よくわかってるわね、クソが……)
実際、まだ意識を保てているのが奇跡的だと自分でもわかっている。
「あとわかってると思うけど、俺はお前を捕虜とか考えてないからな。情報は欲しいのも正直なところなんだが、まぁ死体からでも大なり小なり情報を得ることはできる」
再び銃を構えるハイド。声音から察するに本音だろう。
冷酷に見えるけど、きっと正しい判断だ。愛華だけでも無事に済むのならそれが一番だ。
だけど、私がこの光景を最後まで見ることはできないだろう。視界が霞んできた。
「……やび……ん! し……り……て!」
近くで手を握って必死に私を呼びかけている愛華の涙ぐんだ声がだんだんと、聞こえづらくなっていく。
心なしか体も冷えてきた。血が流れていくと同時に私の生命も確実に途切れていく。
視界も霞んでいく中で私は顔を天空へと向ける。
もうすぐ雨が降りそうな天気だったということはわかっていたが、死ぬ日に雨というのは嫌だな……
どうせ死ぬんだったら晴れの日で、太陽の下で穏やかに死にたかった。
自分で言っておいてなんだが、私には似合わないが、死ぬ時の理想くらいは勝手だろう。
ああ、雨でも別に死んでもいい死に方もあるな。
(りゅうが、さん……あの人がもし、生きていたら……)
私にとっての憧れで、ヒーローで、そして……王子様だった彼の手の中でなら、雨の中で死んでも悪くなかったかな。
ポツリ、と私の頬に冷たい雫が落ちる。
それからほどなくして、顔にだけその雫が再び落ちてくる。
雨にしては局地的だ、なんてボケはいらないだろう。
これはきっと、愛華の涙だ。
私が今まさに死のうとしていて、それを悲しんで泣いてくれている私の大親友の涙だ。
こんなに悲しんでくれるのなら、愛華の中で私はすごく大きな存在になってくれているのだろう。うん、素直に嬉しい。
死の間際だというのに、怖くなくなった。
「あり……が、と。あい、か」
震える唇で、どうにか彼女にお礼を言う。
心残りは、これで……
(本当に、ない?)
意識が落ちる前に、頭の片隅で声が聞こえる。
聞こえたのはその一言だけだが、妙に頭に残った。
いや、ないわけがない。私はまだ仮面ナイトの新作だって見たいし、母さんと腹を割って話をしていない。
いや、それよりも大事なことがある。ここで仮にあのハイドって人があの鬼男に負けたら、誰が愛華を守る? 護る?
誰もいない。愛華はさらわれて、なにをされるかわからない。
(ダメだ。それは絶対にさせない……させてたまるもんか!)
こんな風にお別れの挨拶をして自己満足のまま死んじゃダメだ。
死ぬのは、愛華を助け終えて安全を確保してからだ。
力がほとんど入らない左腕を伸ばし、なにもない中空を握りしめる。
なにもない空間を握ったはずのその手には、なにかを掴みとる感覚があった。
それと同時に意識が急激に薄くなって……




