十幕=沈静=
次回は2月19日午前9時更新予定です。
書き直しだからストックがどんどん消えていきます。
「GURuu……」
敵意を向けられたことを察した雅は、完全にハイドを敵と認識する。
(引きつけるのは成功だな)
狙いを翼に絞り、引金を引く。
銃弾を回避した雅は咆哮し、躊躇わずにハイドへ向かってくる。
常人よりは耐久力はあるとはいえ、あくまでハイドの肉体は普通の人間そのもの。
容易く霧先を屠った雅の攻撃などかするだけでも致命傷だ。
そんな雅の素早い攻撃を紙一重のタイミングで避ける。全神経を集中し、時には勘を交えながらのそれは著しくハイドに著しく負担をかけるが、直撃するよりもはるかにマシだった。
(意識がトんで本能だけで攻撃してるから、軌道は直線的なのが幸いしてる)
――それでも長くは持たない。
ハイドは元々卓越した動体視力を持っており、それに加えて彼の所属している管理局から支給されている装備で足りない部分は補っているのだが、それでも限界はある。
思うように攻撃が当たらない雅は大きく下がり、翼を羽ばたかせ突進してくる。
その攻撃も紙一重で避けて。副次的に発生する突風に体勢を崩されぬようにしっかりとふんばる。
「だけど、今なら」
振り返り背中を向けているはずの雅へ向ける。だが、信じられないものを見た。
ユーターンすることなく、一回転して再びハイドに向かってきた。
翼があるゆえに地に足をつけずとも可能な芸当だが、相当な負荷がかかっているだろう。本能だけで動いている今だからこそできることなのか。
二度目の突貫もすれすれで回避するが、先ほどよりも感覚的に肉薄している。
「ち……覚醒したてでこんなに厄介なやつは初めてだ」
普通ならば力の制御ができず気絶するか、力に振り回されている間に取り押さえられるかだ。
少なくとも、並の悪魔憑きならば取り押さえることは容易いくらいにはハイドは手慣れているのだ。
残弾は残り三発。霧先の時以上にリロードする隙はない上、すれ違いざまに当てることも難しい速さだ。
いち早く現場について交戦を開始したが、応援の局員もまだ来る様子はない。
「雅ちゃん……!」
思考を全力で回している中、聞こえてはいけない声が聞こえた。
「ば……!? 動くなって言ったのに!」
今の状況では愛華を守れるほどの余裕はない。だからこそ建物の影へ避難させたというのに。
だが、愛華が出てきたのをきっかけに雅の動きが止まった。
(……もしや、彼女へ被害が出ることを無意識に拒んでいる?)
あまりにもご都合的な展開だが、可能性はゼロではない。
「お嬢さん! 叱りたいところだがあのお嬢さんに呼びかけてくれ!」
「え!?」
「希望的観測だが、この場を無事におさめることができるのは君だ」
「わ、わかりました」
すぅ、と深く息を吸い込み愛華は視線を雅に向ける。
「雅ちゃん! 僕は無事だから、もう止まって!」
愛華の必死の叫びと同時に、ピタリと雅は完全に動きを止めた。
「……ビンゴ」
ハイドは安心したように息を吐き、銃をホルスターに納める。もう雅からは殺気も何も感じないため危険はない。
分の悪い賭けではあったが、こういう時止められるのは友人かヒロインだと相場が決まっている。
(それを現実に持ってこようとする俺の脳みそも大概お花畑だとは思うが、結果オーライだな)
「ぅあ……」
ぐらり、と雅の体制が崩れたのと同時に変身が解け、そのまま地面に倒れた。
――これでようやく保護ができる。
そう思ったのだが、別の問題ができた。
変身が解けた雅の上半身は真っ裸となっていた。オウマイガー。
「み、雅ちゃん!」
大慌てで愛華は自身が着ている制服の上着を脱ぎ雅に駆け寄ってそのまま上着をかぶせる。
「……あの、見てないよね?」
「すまん。一瞬見えた」
「……」
愛華の目が細くなり、ジト目で突き刺すような視線がハイドに向けられる。
ハイドとしても不可抗力なので勘弁してもらいたい思いなのだが、女性というのはこういうことにも厳しい。
あるいは、雅のことだからそのようなことになっているのか。
「怖い顔で睨むな。その娘は……雅ちゃん、だったか」
「はい。て、すみません。助けてくれたのに睨んで……」
しょぼんとしながら自分の身勝手さを素直に謝罪する愛華。
「なに、いいさ。友達を大切に思っているのは悪いことじゃないからな」
最終的に助けられたのはハイドも一緒だ。なんなら重要度は愛華の方が高かっただろう。
「ところで、君の名前を教えてもらっていいかい? 俺はハ……」
「ハイドさん、でしょ。さっきのやりとり見てるんだから知ってます。僕は夕凪愛華です。それでこの子は雅ちゃん」
「ありがとう、助かるよ。俺も本当は本名を教えたいところなんだが、諸事情があって名乗ることできないんだ。厨二臭いおじさんととってもらってくれても構わないよ」
「なんでそんな卑屈なんですか……?」
「大人になるといろいろあるのさ。こんなことやってるからね」
一つ、ため息を吐いてハイドは倒れている霧先を親指で指して苦笑する。
「あんなのを相手にするのはしょっちゅうさ。もっとも、君の友達の方が強かったわけだが」
「そ、そうだ。さっきの雅ちゃんに起きたことはいったい……」
「その辺の話もしておきたいが、ここじゃできなくてね。一度俺の所属する組織、管理局に来てもらう。君たちのメディカルチェックもしなきゃならんしな」
「じゃあお医者さんにもちゃんと雅ちゃん見てもらえるんですね」
もちろん、と返す。
「性格は俺と合わないけど、腕は確かなやつがいる。あいつも女だから俺よりも気が楽だろう」
「よかった。雅ちゃんが僕のせいで危険な目にあって……」
愛華の瞳から涙が溢れる。女性の涙は困る、と頬をかく。
「危険な目にあったのは君のせいじゃないよ。悪いのはあそこの鬼男だ。管理局で拘束するから、背後関係も洗い出すからそこは俺たちに任せてくれ」
「はい……お願いします」
「ああ。それにしてもあいつら遅いな……って、来たな」
「ん?」
上空から大きなプロペラ音が聞こえ、二人は視線を上に向ける。
視線の先には、管理局という白文字で書かれた黒のヘリコプターが飛んでいた。
「え、え!?」
「噂をしたらなんとやらだ。それじゃ、ご同行を願いますよ。お嬢さん」
梯子が降ろされ、ロープをつけた隊員らしき人間も数名降りてくる。
ハイドとは装いが全く違うので本当に同じ所属の人たちなのかと愛華は疑うが、ハイドに敬礼をしながら状況を確認しつつ霧先を拘束していることで疑いは晴れた。
それから隊員たちに敬語されながら、愛華と雅はヘリコプターに乗るのだった。




