一幕=悪魔憑き=
以前ここに賞へ応募していた時に投稿していた作品の再掲です。
今考えれば残したままにしておいてよかったのですが、当時は頭が回らず……読んでいただけますと幸いです。
「あ……!?」
鋭利な何かにより私、風峰雅の制服の胸元が刻まれ、鮮血が吹き出す。
その光景に近くにいた友人、夕凪愛華は唖然とした表情で雅が倒れるまで状況をつかめず、把握した瞬間に私に泣き叫びながら近寄った。
「雅ちゃん!? 雅ちゃんしっかりして!」
「あ……あい、か……逃げ……」
駆け寄って心配する愛華に息絶え絶えながらも逃げるように指示をする。
今、なにが起こったのかを私自身は理解しているが、正直信じがたいことこのうえない。視線を前方へ移し、今しがた自身の胸元を切り裂いた存在の正体を目視する。
背は190近い、そして全身が黒いローブのようなものでまとっている人物がいた。その顔はまるおとぎ話の鬼のようだ、と思った。しかもわずかながらローブの隙間から見えるのは鎧のような装甲。
だけど、つい先ほどまで目の前にいる化け物じみた存在は確かに一般男性そのものだったことは確かだ。
背も今よりも一回り小さく、また色白で病弱そうに見えたのだが、それがまるでテレビの世界のように、唐突にその姿が変わった、どこから取り出したかわからない黒いローブ。そしてその隙間から見える鬼の顔。
(やっぱ……意味わかんない……)
内心で今の状態に苦笑しながらも、なぜこうなったのかを思い出す。
私たちは通っている学校からの帰り道、変貌する前の男に声をかけられ「夕凪愛華を渡せ」と言われたのがこの状況の始まりかな? まったく、笑い話にもならない。
戸惑う愛華の前に立ち、私は毅然とした態度で「ふざけないでください。いきなり私の親友を渡せとか何考えてるんですか。人さらいの類には見えないけど、警察呼ばれたくなかったらとっとといなくなってください」と答えた。
男はその態度に腹を立てたのか、私の横を通り過ぎて後ろにいた愛華の腕を乱暴に握った。ここまで行くとさすがに看過することはできない。
そもそも私の気性は、友人に手を出されてとどまれるほど穏やかなものではない。
『ちょっとあんた……!』
そう言って、男の肩を掴んだ時だった。振り返った男は擬音をつけるならギョロリとでもいうのが相応そうなほど目を飛び出させた状態で私をにらんだ。
色白なのがさらに不気味さに拍車をかけていたが、それで押し黙ることはなかった。不気味でもなんでも私の親友である愛華に手を出しているんだから。
強引に愛華を掴んでいた手を上にあげ、急激に下ろして振りほどく。愛華も前に護身術代わりにこれは教えておいたし、体験もした方法なので比較的簡単に振り解けたのが幸いだった。
でもここで露骨に男の表情が嫌悪感を露わにした。これ以上関わるとろくなことはない、と考えて急いで愛華の手を握って走ってこの場を去ろうとする。
その辺にいる程度の不良や喧嘩慣れしている不良相手でも一歩も引かず、拳で語り合うような性格をしている私にしては珍しいと愛華は考えているかもだが、そこになにも言わずに手に引かれ共に逃げ出す。
はっきり言ってこの男はまずい。見た目こそ貧弱そうに見えるが、私の本能が全開で不良程度とは比べ物にならないくらい危険だと伝えていた。
そして走り出した瞬間だった。
目の前にいつの間にか黒いローブを身にまとった男の顔が見えたのは。そしてその姿は徐々に大きくなり、わずかにのぞかせた顔は……まさにおとぎ話に出てくるかのような鬼の顔だった。
(それで気付けば胸を切り裂かれてこのざま……やられた)
なんて無様なのだろう、と心底自分に呆れてしまう。
今の状況を、幼い頃に自分を助けてくれた恩人が見たらどう思うだろうか。
「雅ちゃん! ねぇしっかりしてよ……! やだ、死んじゃやだよぉ……」
「あ、いか……逃げなさい……てば……」
やれやれ、と内心思いながら自分の親友が手を離さないで逃げないでいることに、わずかだが嬉しさを覚える。自分が狙われているとわかっていて、逃げろと言っているにもかかわらずこの場に留まっている。
錯乱しているからか、そう一瞬考えるがすぐにそれはないと否定する。愛華は頭はいいが、不器用な少女だ。少なくとも私を見捨てて自分だけ助かろうという考えは起こさない。
「もう……ほ……んとバ、カ……なん、だから……」
「雅ちゃん……!」
「さぁ夕凪愛華、一緒に来てもらおうか」
茶番を見たかのような、そんな呆れた声で男は乱暴に左手で愛華の肩をつかむが、意地でも愛華は動こうとしなかった。しかしすぐに力の差が出て私から徐々に引き剥がされていく。どれだけもがこうとも、無情にも愛華は私から離されていく。
「やだ! 雅ちゃんを病院に連れて……!」
「無駄だ。あの一撃は致命傷だ。すぐに果てる。さぁこい」
力を入れ、男が愛華を強引に引っ張った時だった。
乾いた音がほとんど間をおかず放たれ、それと同時に男は愛華を離して回避行動に移り、その直後になびいたローブに二つの丸い穴が空いた。
「え……?」
思わず、私の口から声が漏れる。一体今のは……
「……ち、管理局か。ご苦労なことだ」
忌々しそうな声を出して男は襲撃者がいる方向に目を向け、私もなんとかその視線と同じ方向を見る。。
視線の先には気怠そうにしながら煙を吹いている二丁拳銃を持って佇む黒いコートの男がいた。身長は180くらい、ざっくばらんに伸ばした髪ときつい目つきとくわえタバコが特徴的だった。
「お前こそな。悪魔憑きがそのお嬢さんにどんな用かは知らんが……ここで仕留めさせてもらうぞ」
黒いコートの男はゆっくりと拳銃を男に向けた。




