覚醒の瞬間
男は、いじめられていた。
ああ……やり返すだけの強さがあれば。
僕には無理だ。誰か助けてくれ。もう限界だ。
いっそ、僕の体を誰かが使ってくれたら――。
「……痛ってぇな」
その日、通報が入った。
男子高校生が複数人に暴行を受けたというものだ。
死傷者はゼロ。しかし加害者側は全員、複雑骨折。全治数ヶ月。
能力は願望型、しかも二重人格型と推定。
ショウとリサは、現場へ向かった。
「なぁ……もう気は済んだだろ。
もうお前は、必要ないと思うが?」
「……えっと。生きてたら、いいことありますよ。多分……」
男は、ギラついた目のまま、口元だけを震わせて言った。
「疲れたんだ。
この先に、いいことなんて無い」
「その力をこっちで活かしてくれると助かるんだがな。
対覚醒者対策課に入れば、ある程度の罪は免除される」
「もういい。どうでもいい」
「……だそうだ。捕まる気も無いらしいな」
戦闘が始まった。
ナイフは使っていない。だが純粋な格闘技術だけで、私は押されている。
警察内でも腕には覚えがある。それでも、捌くのが精一杯だ。
一発でももらえば終わり――そんな圧がある。
「リア! 声をかけ続けろ! いい!」
「分かりました!」
リアは叫ぶ。
「私にもトラウマはあります!
でも、過去を踏み越えれば強くなれます!
その力、役立てましょうよ!」
「……何が分かる」
「分かりません!
あなたの辛さは、あなたにしか分からないです!
でも――頑張れば、いい未来が来る可能性が消えることはないんです!」
男の動きが、徐々に鈍くなっていく。
「その力は、社会のゴミを片付けるために使え。
叶えたい願望があったんだろ?
だから、こうなった。
使いこなせ。自分の力で、叶えろ」
男は、涙を流し、その場に崩れ落ちた。
「過去は変えられない。
だが、有効活用はできる。
そうやって、人は大人になっていくんだ。……皆な」




