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文学のまちに巨大みかんが降ってきた  作者: 明石竜


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第六話 真夜中の侵入者

真夜中、三時頃。

 赤瀬宅に、異変が起きた。

「お嬢様がいらっしゃるのは、このお部屋のようですね」

「きっとそうでしょう。お嬢様の荷物にこっそり忍ばせたマイクロ型GPSが反応を示していますから」

「お嬢様達、いましたよ。気持ち良さそうにぐっすりと眠っております」

「うわっ、おっ、男の子が、いましたよ、隊長。留実お嬢様と砥音お嬢様に挟まれるように眠っております。とても幸せそうです。それにしても体が重い。これが地球の重力か。何度も地球へご来星されているお嬢様達は1Gに慣れとるようじゃが、わしにはきついぞなもし」

 清隆と三姉妹が寝ている部屋の窓から、黒い布を顔以外の全身に纏った大勢の侵入者が――。

「お嬢様達がまだ地球から飛び立ってないようなので、最高時速一二万キロの超高速宇宙船で飛んで来てみたら、男の家に泊まっているとは――道後の旅館かホテルに滞在するとおっしゃってたのに。やはりまだお嬢様達だけでの地球へのご旅行は早過ぎたようですね。この男、お嬢様達を監禁したな。こいつを即処刑せねばいかん、ぞなもし」

 そのうちの隊長と呼ばれる女性が険しい表情で清隆の寝顔を見下ろしながら、小声で言った。

他の侵入者は清隆の周りを取り囲む。みんなまるで忍者のように、物音はほとんど立てずに行動していた。

「おい、起きろっ!」

 その後、隊長は中腰姿勢になって囁くような声で命令し、清隆のほっぺたをペチペチ叩く。

「なっ、何? うわっ」

清隆は目を覚ますやびくっと反応してガバッと上体を起こす。彼はこの人他数名から銃口を突きつけられていた。

「だっ、誰だよ? おまえら」

 ぽかーんとした表情で周囲をぐるりと見渡す。数えてみると八人いた。全員女性だった。

「ワタクシ達はお嬢様達の護衛隊だ。先ほどマジワウ星から大急ぎで飛んで来た、ぞなもし」

 護衛隊長は険しい表情で伝える。 

「ぞなもし?」

 清隆は思わず笑ってしまった。

「何がおかしいっ?」

 銃口を鼻頭に突きつけられ問い詰められると、

「あの、今時、愛媛でも、語尾にぞなもしを付ける人なんて、滅多にいない、ですよ」

 清隆は途端に顔をこわばらせ、唇をカタカタ震わせながら教える。

「そんなバカな。愛媛の日常会話表現だと近所のおばさんから教わったぞ。ほじゃけん言葉が通じるように、事前にワタクシ達護衛隊の皆で日本語のうち伊予弁と呼ばれる方言の勉強会までして来たのに。まあ、とにかく、おまえを始末する、ぞなもし」

「処刑じゃ、処刑じゃぁ!」

「覚悟しろ、地球の少年」

「一瞬で済ますけん、怖がらなくてもいいんよ。ニンニン♪」

 もう三人の護衛に両こめかみと後頭部に銃口を突きつけられると、

「まっ、待ってくれ、落ち着けって。俺が、何をしたって言うんだよ?」

 清隆は強い恐怖心からか身動きが取れなくなってしまっていた。

「とぼけるなっ! 貴様、お嬢様達を監禁したじゃろ?」

 隊長は清隆の鼻頭に銃口を突きつけたまま、きつい口調で問う。とは言っても三姉妹を起こさないようにするための配慮なのか、小声で迫力はなかった。

「しっ、してないよ」

 清隆はかなり怯えながら手をぶんぶん振りかざして主張するが、

「嘘付けっ!」

 全く信じてもらえなかった。

「ほっ、本当だって」

 清隆は今、こんな時、側に姉ちゃんがいてくれたらな、と心の中で思っていた。

「では、お嬢様達はなぜ貴様の側にいる?」

 隊長は怒りに満ちた表情で問うた。

「それは、この子達から、誘って来たんだ」

 清隆はこう主張したが、

「分かり易い嘘をつくな、ぞなもし」

 隊長は信じてくれず。

「キミ、往生際悪いぞ」「地球人は嘘つき星人ぞなもし」「あなた、草食系っぽいけん、お嬢様みたいな大人しいタイプの子を狙ったんじゃろ?」「ほうじゃよね?」 

 他の護衛も同じだった。コソコソ言い合う。

「しっ、信じてくれよぉ」

 清隆は今にも泣き出しそうな表情で主張したが、

「問答無用、ぞなもし。皆も容赦なく撃てぇっ!」

 隊長の構えていた銃の引き金が引かれ、発射されてしまった。

 一発、清隆の鼻頭に諸に命中する。

 ほぼ同時に両こめかみと、後頭部にも。

 計四発食らわされたのだ。


 しかし、それでも清隆は生きていた。


しかも、顔が粉々にされたどころか、血が一滴たりとも出ていなかったのだ。

「あれっ? 痛く、ないぞ」

 清隆は呆気に取られていた。

「ん? この色、この匂い、これって……」

 頬を伝ってパジャマの上にぽたぽた流れ落ち続ける、どろっとした液体を見て彼は目を丸くする。

「ポンジュースじゃ……」

 こう呟くと、

「その通りだ。マジワウ星産じゃけん本場のポンジュースとは若干成分が違うかもしれんがな。砂糖未使用、いよかん果汁百パーセント、口に入ったら酸っぱいぞなもし」

 隊長は得意顔で言った。

 次の瞬間、

「おねしょの刑!」

 護衛のもう一人が、清隆の股間目掛けて銃を撃った。見事直撃する。

「冷たっ」

 清隆は思わず声を上げる。

「どうだ! この色、おしっこそっくりじゃろ? っていうかキミ、さっきリアルに漏らしたんじゃないの?」

 撃った本人はにやにや笑う。

「あのう……」

 清隆が意表を付かれた攻撃に呆然としていたところ、

「なんか、騒がしいわね」

「何の音ですかー?」

「うるさいよぅ」

 三姉妹も目を覚ました。

「あら、友近さん、どうしてここに?」

 田鶴子は、銃を清隆の眼前に向けていた隊長に不思議そうに尋ねる。

「お嬢様達、お目覚めですか。貞操はご無事ですか?」

「今すぐお嬢様達をマジワウ星へ連れて帰りますので、ご安心下さい」

「お嬢様達も、いくら現地の生活に密着したいからといって、男の家に寝泊りするなんて、不純過ぎますぞなもし」

「この男、ばっちり処刑しといたよ」

 護衛部隊の方々は口々にこうおっしゃる。

「落ち着いて下さい皆さん、じつはですね――」

 留実は眠たそうにしながらも護衛隊の方々に、自分達がここに泊まるようになるに至った経緯を冷静に説明した。

「……そういうことでしたか。清隆さん、でしたね。早とちりしてしまい申し訳ございません」

 隊長は事情が分かると清隆に向かって土下座姿勢で謝罪した。

「ごめんね」「冤罪じゃったんじゃね、ごめんなさーい」「アイムソーリー」

他の護衛も同じような形で。

「いやいや、俺、べつに気にしてないから」

 清隆はけっこう戸惑う。

「それでは、失礼致します」

 隊長の友近さん、他七名の護衛は窓から外へ出て、続々と赤瀬宅庭に留められてあった一隻の大型宇宙船に乗り込んでいく。

 その宇宙船の形は、まるで松山の伝統工芸品、『姫だるま』のようであった。

「清隆ちゃん、災難な目に遭わされちゃったみたいね。元はといえば、わたくしがあの子達に帰りが遅れること連絡するのを忘れたせいだわ。ごめんね清隆ちゃん」

 田鶴子はぺこんと頭を下げる。

「清隆お兄ちゃんを悪い人だと思っちゃうなんて、あたし達の護衛は用心深過ぎるね。大丈夫? 清隆お兄ちゃん」

 砥音はとても心配してくれた。

「大丈夫。だけど俺、あの人達に銃で撃たれる直前、死を覚悟したよ」

 まだ恐怖心から若干震えていた清隆に、

「マジワウ星の人々は争い事を好まず、とっても温厚ですから、人殺しなんてしませんよ。マジワウ星では戦争も殺人罪も過去に遡っても存在しません。わたし達の護衛の役割は、わたし達が虫やヘビ的な自然界の生き物に刺されたり噛まれたりしないかとか、石につまずいて転んだりしないかということを見守ることなのです」

「あと熱いお茶やスープをふーふーもしてくれるよ。正直ちょっと迷惑。そこまでしてくれなくてもって思ってる」

 留実と砥音は微笑み顔で説明した。

「そうなのか、本当に平和だな。パジャマがポンジュース塗れだよ。下着まで染みてる」

 清隆は苦笑いを浮かべる。すぐにお部屋から出て自室へ向かい、新しい下着とパジャマと持って洗面所兼脱衣場へ。着替えた後、汚された下着とパジャマを水で洗って絞り、続いて自分の髪の毛と顔を洗って、タオルで拭き取る。

 洗った下着とパジャマは洗濯籠に入れておくと後で母におねしょを疑われかねない、と危惧した清隆は、それは自室に干しておくことに決めた。

 清隆が再びこのお部屋に戻って来た時には、三姉妹は再びぐっすり眠っていた。清隆も安心して二度目の眠りにつく。

 この騒動は両親も、文乃も全く気が付かなかったという。


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