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文学のまちに巨大みかんが降ってきた  作者: 明石竜


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第五話 三姉妹 松山最後の思い出作り

 土曜日。三姉妹地球滞在四日目の朝、十時頃。

「清隆くん、そんなに先々歩かなくても」

文乃は鶯色のカーディガンにグレーのスカート。

「だってさ、固まって歩くのは恥ずかしいし」

清隆はデニムのジーパンに黒地に白の英字がプリントされた長袖トレーナー。

「清隆ちゃんったら、シャイね」

田鶴子はオレンジ色のセーターにデニムのジーパンというスタイル。

「今日は晴れて良かったね」

「絶好の秋晴れですね」

砥音は青色のサロペット。留実は浴衣姿。伊子は花柄のセーター。

みんなそれほど派手ではない私服を身に纏い、徒歩で松山市一番の繁華街、大街道へ。

「砥音ちゃん達は、どこか寄りたい場所はあるかな?」

 文乃が尋ねると、

「あたし、映画を見に行きたーい。マジワウ星には映画館がないから」

 砥音が最初に希望を述べた。

「わたしも映画館というものを、一度体験しておきたいです」

「わたくしも。せっかくの機会だし」

 そんなわけで、みんなで近くの映画館へ。

「砥音ちゃん、見たい映画はどれかな?」

「あたし、これが見たーい! あたし達の国でも大人気だよ、これ」

 文乃に尋ねられると、砥音は壁にいくつか貼られてあるポスターのうち、対象のものを指差す。

「えっ! あれが見たいの?」

 清隆は動揺した。

「清隆くん、かわいい女の子が大活躍するアニメ大好きでしょ?」

文乃は爽やかな表情で問いかけてくる。

「いや、俺は、べつに。幹二が好きなだけで……」

 清隆は俯き加減で主張する。

「私も大好きなの。砥音ちゃんがすごく見たがってることだし、せっかくだから見よう!」

 それは、本日公開されたばかりの女児向け魔法もありのファンタジーギャグアニメだった。

「俺はこの辺で待っとくよ。チケット代の節約にもなるし、そもそも高校生の見るものじゃないし」

 清隆は当然見る気にはなれず。

「清隆お兄ちゃんもいっしょにこの映画見ようよぅ。清隆お兄ちゃんの三倍くらいは年上に見えるおじちゃんも一人で入って行ったの見たよ。清隆お兄ちゃんは大和魂の日本人のくせに勇気が無さ過ぎるよ」

「仕方ない」

 砥音に背中を押され、チケット売り場の方へ強引に連れて行かれてしまった。

「小中学生二枚、高校生四枚」

 文乃が代表して、お目当ての映画六人分のチケットを購入。受付の女性がその入場券と共に入場者全員についてくる、キラキラして可愛らしいおもちゃのペンダントをプレゼントしてくれた。

「砥音ちゃん、これあげる。俺こんなのいらないから」

「ありがとう清隆お兄ちゃん♪」

 清隆は速攻砥音に手渡す。砥音が受け取ったものとは種類違いだった。

「砥音も留実も映画が始まるまでに、おトイレ済ませておきましょうね」

「はーい」 

「そうですね、田鶴子お姉さん。映画一時間以上ありますし。お気遣いありがとうございます」

 こうして砥音と留実はいっしょに女子トイレへ。

「キヨタカくん、幼稚園の頃、ド○えもんの映画いっしょに見に行った時、途中でおしっこ行きたくなったのに我慢して漏らしたことがあったね」

 伊子はにっこり微笑みかける。

「野田さん、思い出させるなよ。俺も、行ってくる」

 清隆は決まり悪そうに、男子トイレへと向かっていく。

(清隆ちゃんったら、かわいいなぁ。光香ちゃんあんな弟がいて羨ましいわ)

 田鶴子はその様子を見てにこにこ微笑んでいた。

 二分ほどのち、同じようなタイミングで三人ともトイレから戻ってくると、

「はいどうぞ。落とさないように気を付けてね」

田鶴子はチケット売り場向かいの売店で売店であの間に購入した、ドリンク&ポップコーンを手渡してくれた。

「ありがとうございます田鶴子お姉さん」

「田鶴子お姉ちゃん、ありがとう」

 留実と砥音は喜んでいたが、

「俺はべつに、いらなかったんだけど……」

 清隆は若干迷惑そうに振舞う。それでも気遣ってくれたことに対する嬉しさは感じていた。

こうしてみんなは大型スクリーンのある劇場内へ。薄暗い中を前へ前へと進んでいく。

「文乃ちゃん、なんか周り幼い女の子ばかりだから、やっぱり俺達は入らない方が……」 

「まあまあ清隆くん。気にしなくてもいいじゃない。たまには童心に帰ろう」

 清隆は否応無く、文乃に右手をぐいぐい引っ張られていく。

「昔といっしょの光景じゃね」

 伊子はその様子をすぐ後ろから微笑ましく眺める。

 真ん中より少し前の列の席で、清隆は砥音と文乃に挟まれるようにして座った。座席指定なのでそうなってしまった。

(……視線を感じるような)

 清隆は落ち着かない様子だった。

 五〇人くらいいた他の客、八割くらいは就学前だろう女の子とその保護者であったからだ。

       *

上映時間八〇分ほどの映画を見終えて、

「とっても面白かったぁー。地球のアニメ映画最高♪」

「わたしも愉快な気分になれましたよ」

「しゃべる野菜や果物やお菓子さんもかわいかったね。私もまた見に行きたいなって思ったよ」

砥音と留実と文乃は大満足な様子で劇場内から出て来た。

「思ったよりも良質な映画だったわ。清隆ちゃんもそう思うでしょ?」

 田鶴子もお気に召されたようだ。

「まあ、思ったよりは……子どもの騒ぎ声がうるさかったけど」

「キヨタカくんも昔はあんな感じだったんよ。アヤノちゃんは大人しく見てたけど」

「そうだったかな?」

 伊子に突っ込まれ、清隆はちょっぴり照れた。

「私、子ども向けアニメ大好き。アン○ンマンとかド○えもん、今でも毎週欠かさず録画もして見てるもん」

「文乃お姉ちゃん、あたしといっしょだぁ」

「わたくしも子ども向けのアニメ今でもけっこう好きよ。そろそろ正午だから、お昼ご飯食べましょう」

田鶴子はスマホの時計を眺め、提案した。

 こうしてみんなは、近くの大型デパート内のレストラン街へ。

「六名様ですね。こちらへどうぞ」

砥音の希望したファミリーレストランへ入店すると、ウェイトレスに六人掛けテーブル席へと案内された。

留実と文乃を真ん中に、田鶴子と伊子、砥音と清隆が向かい合う座席配置で座ると、伊子がメニュー表を手に取りテーブル上に広げる。

「ワタシ、スープカレーにする!」

「野田さん、相変わらず辛い物好きだな。俺は、天麩羅蕎麦で」

「清隆くん、渋い。私はクリームシチューとフランスパンのセットにしよう」

「あたしは、お子様ランチ♪ お飲み物はミックスジュース!」

「砥音、もう十代になったんだから、そろそろお子様ランチは卒業しなきゃ。わたくしは、奮発して伊予牛ステーキにしよっと」

「わたしは、釜めしにしますよ」

 他の五人もすんなりとメニューを決めた。

「ワタシが注文するね」

 伊子はコードレスチャイムを押し、ウェイトレスに注文する。

それから五分ほどして、

「お待たせしました。お子様ランチでございます。それとお飲み物のミックスジュースでございます。はいお嬢ちゃん。ではごゆっくりどうぞ」

 砥音の分が最初にご到着。新幹線の形をしたお皿に、旗の立ったチャーハン、プリン、タルタルソースのたっぷりかかったエビフライなど定番のものがたくさん盛られている。さらにはおまけのシャボン玉セットも付いて来た。

「……ワタシのじゃ、ないんだけど」

 伊子の前に置かれてしまった。伊子は苦笑する。

「あらまっ、伊子ちゃんが頼んだように思われちゃったのね」

 田鶴子はくすくす笑う。

「伊子ちゃん、若手に見られてるってことだから、気にしちゃダメだよ」

 文乃も思わず笑ってしまう。

「あのウェイトレスさん、伊子お姉ちゃんがあたしと同い年くらいに見えたのかなぁ?」

砥音は少し申し訳なさそうに、お子様ランチを自分の手前に引っ張った。

(ウェイトレス、どっちか悩んでたよな)

 清隆は笑いを堪えていた。

「……確かにワタシ、一六歳だけど小学生に見えるよね」

 伊子は内心ちょっぴり落ち込んでしまった。

それから少しして清隆、田鶴子、伊子、文乃の分が順に運ばれて来た。

「あの、皆様、先に食べてていいですよ」

 留実はそう伝えるも、他のみんなは快く待ってくれた。

さらに五分ほど待ってようやく留実の分が運ばれて来て、みんなのランチタイムが始まる。

「エビフライは、あたしの大好物なのーっ♪」

 砥音はしっぽの部分を手でつかんで持ち、大きく口を開けて豪快にパクリと齧り付いた。

「美味しいっ! 相変わらず日本のエビはマジワウ星の養殖のより味が上だね」

 その瞬間、とっても幸せそうな表情へと変わった。

「モグモグ食べてる砥音ちゃんって、なんかキンカンの葉っぱを食べてるアオムシさんみたいですごくかわいいね」

「砥音、あんまり一気に入れすぎたら喉に詰まらせちゃうかもしれないですよ」

文乃と留実はその様子を微笑ましく眺める。

「トオンちゃん、食べさせてあげる。はい、あーんして」

 伊子はお子様ランチにもう一匹あったエビフライをフォークで突き刺し、文乃の口元へ近づけた。

「ありがとう、伊子お姉ちゃん。でも、食べさせてもらうのはちょっと恥ずかしいな」

 砥音はそう言いつつも、結局食べさせてもらった。

「清隆くん、育ち盛りなんだし天麩羅蕎麦だけじゃ足りないでしょう? 私のも分けてあげるよ。はい、あーん」

 文乃はクリームシチューの中にあったチキンの一片をフォークでぷすりと突き刺し、清隆の口元へ近づけた。

「いや、いいよ」

 清隆は困惑顔を浮かべ、昨日の昼食時と同じく左手を振りかざして拒否。右手で箸を持ち、麺を啜ったまま。

「あーん、今日もダメかぁ」

 文乃は微笑み顔で嘆く。でも嬉しそうだった。

「あらあら、失敗しちゃったわね」

「清隆さん、お顔は赤くなっていませんが、照れていますね」

「キヨタカくん、一回くらいやってあげなよ」

 田鶴子、留実、伊子はにこっと笑いながらそんな彼を見つめた。

「出来るわけないだろ」

 清隆は苦笑いしながら伝え、引き続き麺をすする。

「赤ちゃんみたいで、恥ずかしいもんね」

 砥音は清隆の気持ちがよく分かったようだ。

みんな昼食を取り終え、レストランから出た直後。

「あの、私、おトイレ行ってくるね」

 文乃はもじもじしながら伝える。

「ワタシもちょうど行きたいと思ってたんよ」

「あたしもー。漏れそう」

「わたしも行きたくなって来てしまいました」

「わたくしも」

 他の女の子四人も同調した。

「じゃあ荷物、見張っててあげるよ」

 清隆は優しく気遣う。

「サンキュー、キヨタカくん。さすが男の子、頼りになるね」

「ごめんね清隆くん、なるべく早く戻ってくるから」

「申し訳ないです」

「清隆お兄ちゃん、ありがとう」

「清隆ちゃん、ここから動いたらダメよ。迷子になっちゃうから」

 五人は安心して荷物を清隆に預け、最寄りの女子トイレへと向かっていった。

(余計なお世話だ、田鶴子ちゃん)

 清隆は受け取ったリュックサックを自分の側に固め、近くの長椅子に腰掛ける。

(早く、戻って来ないかなぁ)

 待っている間、そわそわしていた。

「お待たせー、清隆くん」

「大変お待たせしました清隆さん」

「混んでて思ったより時間かかっちゃったんよ」

「清隆ちゃん、よく出来たね」

「清隆お兄ちゃん、誘拐されてなくて良かった」

五分ほど待ってみんな戻ってくると、清隆はホッと一安心。

「あのう、わたし、どうしても寄っておきたいお店があるのです」

続いて留実の希望により、伊予鉄松山市駅すぐ近く、千舟町商店街に佇むアニメグッズ専門店に立ち寄ることにした。

発売中または近日発売予定のアニメソングBGMなどが流れる、賑やかな店内。

「やはりわたし達が住んでいる街のアニメグッズ専門店『アニメヒエ』と比べると、品揃えが豊富ですね」

 留実は嬉しそうに店内を散策する。

「お店の名前を見るとアニメグッズしか売られてなさそうだけど、お菓子もいっぱい売られてるね」

「お菓子もアニメグッズの一種だと思うよ。あたし、十個中八個が激辛のキャンディー買おうっと! あっ、これ、松山店限定だって。これも買おう!」

 田鶴子と砥音もけっこう楽しそうにしていた。

「ルミちゃん達が住んでるマジワウ星でもアニメキャラの中の人、声優さんはやっぱ人気ある?」

 伊子は気になってこんな質問をしてみる。

「はい、地球と同様熱心なファンもたくさんおられますよ。ただ、マジワウ星では当然のことながら、生の声優さんと触れ合える機会はありません。声優さんのイベントに参加出来るのは羨ましい限りです」

 留実がやや残念そうに呟くと、

「ワタシ、声優さんのイベントはそんなに魅力は感じないんよ。特に女性声優の場合、ディープな男の客ばっかりで怖いけん」

 伊子は苦笑いを浮かべながら伝えた。

「ああいうの、男の俺から見ても怖いよ。幹二がよく見てる、ライブイベントのブルーレイで声優さんが挨拶する度に、うをおおおおおーっ、とかオットセイみたいに叫んで、声優さんが歌ってる時はうぉうぉ叫びながらペンライトぶんぶん振り回してすごい激しく踊ってる集団」

「私は恥ずかしがり屋さんだし怖がりだから、声優さんは絶対無理だなぁ」

 清隆と文乃も苦笑いを浮かべる。

「ワタシも無理じゃ。でもアフレコ体験だけはしてみたい」

「話を聞く限り、声優さんのイベントはけっこう過酷そうですね」

 留実は声優さんとイベントの参加者に尊敬の念を抱いたようだ。

「あっ!」

清隆はラノベコーナーにいた誰かに気が付き、近寄っていく。

「おう、清隆殿ではないかぁ。奇遇であるな」

 幹二であった。

「幹二、ラノベ大人買いだな。俺はラノベの表紙のキャラクター、全部同じに見えるぞ」

 清隆は商品に手を触れず、ただ眺めているだけ。

「清隆殿、全く違うではないかぁ。まだまだ学習不足であるな。これらのキャラの見分けが簡単につくようになれば、これから習う、似たようなのが多い三角関数の公式や、有機化合物の化学式や性質を暗記するのも楽に出来るようになるぜ」

 幹二はにっこり笑顔でそう言う。

「教科の勉強とこれとは全く関係ないだろ」

 清隆は呆れ顔だ。

「やぁ、カンちゃん、やっぱりいたね」

「こんにちは、幹ちゃん」

 伊子と文乃は嬉しそうにご挨拶。

「どっ、どうも」

 この二人にまさかこの店でぱったり出会うとはぁ、と幹二は思っていた。

「あーっ、本物のお相撲さんがいるぅ。ねえねえ、お兄ちゃんの四股名は何って言うの? 出身地と所属部屋はどこ? 番付の最高位は? 通算成績は何勝何敗何休?」

 砥音も幹二に気付くと、彼の側にぴょこぴょこ近寄っていく。

「いや、オレ、お相撲さんではぁ」

 幹二はかなり緊張気味に否定した。彼の心拍数、ドクドクドクドク急上昇。小学生くらいの現実の女の子は特に苦手なのだ。

「この子が清隆ちゃんのお友達かぁ。とっても大きいわね」

「両国にいそうな感じですね」

 田鶴子と留実はにこにこ微笑む。

「清隆殿、あの二次元美少女みたいなコスプレのやつらは一体?」

「母さんの知り合いの海外からのお客様だ。訳あって、俺んちにホームステイしてるんだ」

 清隆は幹二が混乱しないよう、こう嘘も伝えておく。

「そういうことであったか。清隆殿んち元民宿だもんな。では清隆殿。またな」

 幹二は居心地が悪くなったのか、そそくさ店をあとにした。

「カンちゃん逃げちゃったね」

 伊子はにこっと笑った。

「早く帰らないと門限に間に合わなくなって親方に叱られちゃうのかな? ねえみんな、次はゲームセンターへ行こう! 地球のゲームセンター、一度行ってみたーいっ!」

 砥音は強く懇願する。

そんなわけでみんなはこのあと、近くのファミリー向けアミューズメント施設へ立ち寄った。

「いとうるさいですね。落ち着かないです」

 留実の第一感想。苦笑顔を浮かべる。

「やっぱりマジワウ星のゲームセンターよりも豪華で賑やかね。プリクラも相当種類があるし」

 田鶴子は嬉しがっている様子だ。

「せっかくやけん、みんなで記念にプリクラ取ろう!」

 伊子は誘う。

「野田さん、みんなって、俺も入ってる?」

「当然じゃ!」

「俺はいいよ」

 清隆は即断ったが、

「清隆ちゃん、男の子一人だからって恥ずかしがらなくてもいいのよ」

「清隆お兄ちゃんもいっしょに写るのぉ!」

「清隆くんもいっしょに写ろう」 

「キヨタカくん、高校時代の思い出作りになるけん、いっしょに写ろう」

「清隆さん、お願いします。清隆さんが仲間はずれになっちゃいますし」

「分かった、分かった」

 他のみんなに腕や服を引っ張られたりしがみ付かれたりして無理やり参加させられる。

みんなはいくつかあるうち最寄りの専用機内に足を踏み入れると、前側に三姉妹、後ろ側に清隆達三人が並ぶ。背の高い田鶴子は前かがみになってあげた。

「このフレームがいい!」

砥音の選んだ道後温泉本館のフレームに他のみんなも快く賛成。

「一回五百円か。けっこう高いね」

清隆はこう感じながらも気前よくお金を出してあげた。

    *

 撮影&落書き完了後、

「おう、そうとうきれいに撮れてる!」

 取出口から出て来た十六分割プリクラをじっと眺める伊子。自分が見たあと他のみんなにも見せてあげる。

「本場日本のプリクラは画質も最高ね」

「学校のお友達に自慢しよっと」

 田鶴子と砥音は大満足な様子。

「野田さん、清隆くんとデート、ハートマークとかって落書きしないで」

 清隆は迷惑顔になる。

「いいじゃん、キヨタカくん、ほとんど事実なんじゃけん」

 伊子はてへっと笑い、舌をペロッと出した。

「清隆くん、幸せそうな表情してるよ」

文乃はプリクラをさらに注意深く眺める。

「文乃ちゃん、俺、そんな表情してないと思うんだけど」

 清隆は照れてしまった。

「いやいやー、してるよ」

 文乃に嬉しそうな笑顔で反論され、

「……」

 清隆は何も言い返せなかった。

「留実ちゃんは、表情がちょっと硬いね」

「なんか弁護士みたいじゃね」

「留実お姉ちゃん、話しかけづらいがり勉少女みたーい」

「あれれ? 笑ったつもりだったんだけどな。生徒証の写真はもっと表情硬いですよ」

 留実は照れくさそうに打ち明ける。

「留実ちゃんの学校も生徒証があるんだね。私も生徒証の写真はそんな感じだよ」

「ワタシも生徒証の写真は表情そうとう硬いよ。睨んでるような感じじゃ」

 文乃と伊子がさらりと打ち明けると、

「文乃さんと伊子さんも同じなのですね、よかった」

 留実に笑みが浮かんだ。

「留実、今の表情すごくいいわね」

 田鶴子はサッとスマホをかざし、カメラ機能で留実のお顔をパシャリと撮影する。

「留実、最高の笑顔が取れたわよ」

「田鶴子お姉さん、なんか恥ずかしいからすぐに消してね」

 留実の表情はますます綻んだ。

「見せて、見せてー。留実ちゃん、本当にすごくいい表情だね」

「ルミちゃん超かわいい」

「留実お姉ちゃんの笑顔素敵♪ 消すのは勿体ないよ」

 文乃と伊子と砥音は興味深そうにその写真を眺める。

「あーん、これ以上見ないでー」

 留実は表情を綻ばせたまま、頬を赤らめた。

(どんな表情してるんだろ?)

 清隆は気にはなったが、罪悪感に駆られ見ようとはしなかった。

「あたし、次はこれがやりたいなぁ」

 砥音はプリクラ専用機すぐ向かいに設置されていた筐体の前に歩み寄る。

「砥音ちゃん、動物さんのぬいぐるみが欲しいんだね?」

「うん!」

 文乃からの問いかけに、砥音は嬉しそうに答えた。お馴染みのクレーンゲームだ。

「動物のぬいぐるみは特にかわいいけんね」

 伊子は同調する。

「あっ! あのミーアキャットのぬいぐるみさんとってもかわいい! お部屋に飾りたぁい」

 お気に入りのものを見つけると、砥音は透明ケースに手のひらを張り付けて叫び、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

(すごくかわいいな)

 清隆はその幼さ溢れるしぐさに見惚れてしまった。

「砥音、あれは隅の方にあるし、他のぬいぐるみさんの間に少し埋もれてるから、難易度は日本の東大級よ」

「大丈夫! むしろ取りがいがあるよ」

 田鶴子のアドバイスに対し、砥音はきりっとした表情で自信満々に言った。コイン投入口に百円硬貨を入れ、操作ボタンに両手を添える。

「砥音ちゃん、頑張れーっ」

「トオンちゃん、ファイト!」

「砥音、慎重にね」

「砥音、落ち着いてやれば、きっと取れますよ」

「頑張れよ」

 他の五人はすぐ後ろ側で応援する。

「みんな応援ありがとう。あたし、絶対取るよーっ!」

砥音は慎重にボタンを操作してクレーンを動かし、お目当てのぬいぐるみの真上まで持っていくことが出来た。

 続いてクレーンを下げて、アームを広げる操作。 

「あっ、失敗しちゃった」

 ぬいぐるみはアームの左側に触れたものの、つかみ上げることは出来なかった。

砥音が再度クレーンを下げようとしたところ、制限時間いっぱいとなってしまった。クレーンは自動的に最初の位置へと戻っていく。

「もう一回やるもん!」

 砥音はとっても悔しがる。お金を入れて、再チャレンジ。しかし今回も失敗。

「今度こそ絶対とるよ!」

この作業をさらに繰り返す。

砥音は一度や二度の失敗じゃへこたれない頑張り屋さんらしい。

 けれども回を得るごとに、

「全然取れないよぉ。重力が強いせいかなぁ?」

 砥音は徐々に泣き出しそうな表情へと変わっていく。

「あのう、砥音さん、他のお客さんも利用するので、そろそろ諦めた方がいいかもです」

 留実は慰めるように忠告したが、

「嫌だぁっ!」

 砥音は諦め切れない様子。不機嫌そうにぷくぅっとふくれる。

「気持ちは分かるのですが……わたしも一度やると決めたことは、最後までやり遂げたいですから」

 留実は深く同情した。

「このままだと砥音ちゃんかわいそう。ねえ清隆くん、取ってあげて」

文乃が肩をポンッと叩いて命令してくる。

「でも、俺も、クレーンゲーム得意じゃないし。真ん中ら辺のシマウマのやつはなんとかなりそうだけど、あれはちょっと無理だな」

 清隆は困惑顔で呟いた。

「ねーえ、清隆お兄ちゃん、お願ぁい!」

「……わっ、分かった。取ってあげる」

 けれども砥音に寂しがる子犬のようにうるうるとした瞳で見つめられると、清隆のやる気が急激に高まった。クレーンゲームの操作ボタン前へと歩み寄る。

「ありがとう、清隆お兄ちゃん。大好き♪」

 するとたちまち砥音のお顔に、笑みがこぼれた。

「さすが清隆くん、男の子だね」

「キヨタカくん、きみの判断は正しいよ」

「清隆さん、心優しいですね」

「清隆ちゃん、たとえ失敗してもその心意気は高く評価するわ」

 他の四人も、彼に対する好感度が高まったようだ。

(まずい。全く取れる気がしないよ)

 清隆の一回目、砥音お目当てのぬいぐるみがアームにすら触れず失敗。

「清隆お兄ちゃんなら、絶対取れるはず♪」

 背後から砥音に、期待の眼差しでじーっと見つめられる。

(どうしよう)

 当然のように、清隆はプレッシャーを感じてしまう。

「清隆くん、頑張れーっ!」

「キヨタカくん、ドンマイ!」

「清隆さん、ご健闘を祈ります!」

「清隆ちゃんならきっと成し遂げられるわっ!」

(よぉし、やってやろう!)

 他の四人からの声援を糧に清隆は精神を研ぎ澄ませ、再び挑戦する。

 しかしまた失敗した。アームには触れたものの。

けれども清隆はめげない。

「清隆お兄ちゃん、頑張ってーっ。さっきよりは惜しいところまでいけたよ」

 砥音からも熱いエールが送られ、

「任せて砥音ちゃん。次こそは取るから」

清隆はさらにやる気が上がった。

 三度目の挑戦後。

「……まさか、本当にこんなにあっさりいけるとは、思わなかった」

 取出口に、ポトリと落ちたミーアキャットのぬいぐるみ。

清隆は、砥音お目当ての景品をゲットすることが出来た。ついにやり遂げたのだ。

「やったぁ! さすが清隆お兄ちゃん! だぁぁぁーい好き♪」

 砥音は大喜びし、バンザーイのポーズを取った。

「清隆くん、おめでとう! 三度目の正直だね」

「清隆さん、素晴らしいプレイでしたね」

「キヨタカくん、ワタシ感動したよ」

「清隆ちゃん、よく出来ました」

 他の四人もパチパチ拍手しながら褒めてくれる。

「たまたま取れただけだよ。先に、砥音ちゃんが、少しだけ取り易いところに動かしてくれたおかげだよ。はい、砥音ちゃん」

 清隆は照れくさそうに語り、砥音に手渡す。

「ありがとう、清隆お兄ちゃん。ミーちゃん、こんばんは」

 砥音はさっそくお名前をつけた。受け取った時の彼女の瞳は、ステンドグラスのようにキラキラ光り輝いていた。このぬいぐるみを抱きしめて、頬ずりをし始める。

「砥音ちゃん、幸せそうだね」

 文乃はにこやかな表情で話しかけた。

「うん、とっても幸せだよ」

 砥音は恍惚の笑みだ。

「砥音、観光以外でも楽しい思い出が出来てよかったね」

 田鶴子は優しく微笑み、砥音の頭をなでであげた。

ゲームセンターから出たあと清隆達三人は、三姉妹がまだ巡っていない松山市内の観光名所を坂の上の雲ミュージアム、萬翠荘、松山城、子規記念博物館の順に案内してあげた。

夕方、帰り際。

「そういえばこの三日間、愛媛県内各地いろいろ回ってみたけど、語尾にぞなもしって付けてる人、一人も見かけなかったわね。わたくし、日本語の中でさらに細分化されてる伊予弁というのを、夏目漱石著作、『坊っちゃん』というタイトルのテキストを用いて事前に学習して来たのに」

 田鶴子は残念そうに言う。

「あの、言っとくけど今時愛媛でも語尾に〝ぞなもし〟なんて付ける人は絶滅危惧種なんよ」

 伊子がくすくす笑いながら伝えると、

「えっ!」

 田鶴子は驚き顔。

「ひょっとして、鹿児島の〝おいどん〟、〝ごわす〟や、高知の〝ぜよ〟もですか?」

「ほうよ。もはや死語になっとんよ」

 伊子は笑顔で答える。

「そうなのかぁ。お父さんが言ってたことと違うわ。せっかく覚えたのに」

 田鶴子はがっかりしていた。

「まあ古語表現を覚えられたってことで、損はないですよ」

 留実はにこっと微笑む。

「ぞなもし使う人、一回くらいは会ってみたいなぁ」

 砥音はわくわくした様子で呟いた。

「砥音、いい子にしてたら会えるかもしれないわよ」

 田鶴子は期待を持たせるように言う。

(古賀が使ってるけど、絶対会わせちゃいけないよな)

(古賀先生に会わせたら、ちょっとまずいよね)

(古賀なら、この子達が宇宙人じゃと気付かれかねん)

 清隆達三人は今、こう思っていた。

「今日もすっごく楽しかったぁー。作文に書けることがたくさん出来たよ」

「今回の地球旅行では現地の人々の暮らしにも密着出来て大満足です。今まで家族全員で地球を訪れたさいは観光地巡りばかりだったので、ちょっと物足りないと感じていました」

「この四日間、とっても貴重な体験をさせてもらったわ」

 三姉妹はご満悦な様子で伝える。

「みんな今夜には帰っちゃうのは残念だよ。またいつか絶対来てね」

「地球まで片道一週間もかかるようじゃけん、無理は言わんけど、一年以内には来て欲しいな」

「俺も、これで会えなくなるのはなんか寂しい」

 文乃達三人は名残惜しそうにしていた。

「もちろん来るよ。文乃お姉ちゃん、伊子お姉ちゃん、清隆お兄ちゃん、楽しみに待っててね」

「マジワウ星の学校の冬休みは十日ほど、春休みは一週間ほどしかしないので無理ですが、来年の夏休みには絶対来ますよ」

「わたくしは、受験生になっちゃうから厳しいと思うけど、なるべく訪れるから」

 三姉妹は固く誓う。彼女達も目が、ちょっぴり潤んでいた。やはり別れを寂しく思っていたのだ。

「あと二時間くらいで整備士さんが来るよ。修理は三〇分くらいで終わるみたいだから、お別れまではあと二時間半くらいだよ」

 砥音がそう伝えたちょうどその時、田鶴子の所有しているスマホの着信音が鳴り響いた。

「もしもし」

『こちら、緊急連絡を頂いた宇宙船整備士の武智と申します。馬越さんでいらっしゃいますね。あの……』

 田鶴子は受話器の向こうからいろいろ伝えられる連絡を聞いたのち、

「そうなんだ。わたくし達は大丈夫よ。お気をつけてお越し下さってね」

 そう言って電話を切った。

「整備士さん、到着が予定より遅れて明日になりそうだって」

 そして皆にこう伝える。

「それじゃ、清隆お兄ちゃんちにもう一泊出来るってことだね」

 砥音だけでなく、

「私もお別れが一日伸びて、嬉しいよ」

「なんか、意表を付かれた感じじゃ」

 文乃と伊子も大喜びした。

「清隆さん、申し訳ございませんが、もう一晩だけお世話になってよろしいでしょうか?」

「まあ大丈夫だろうけど、姉ちゃんが許してくれるかな?」

 午後六時頃に帰った後、清隆は三姉妹を迎えに来てくれる人の到着が予定より遅れて明日になるからもう一泊だけ泊めて欲しいと伝え、宇宙船のこと云々は隠しておいた。

すると、

「もちろんオーケイよ」

「いつまででもいていいぞ」

両親は快く賛成。

「そういうことなら、仕方ないわ。今晩はうち、友達と漫研サークルのお泊り会やけんおらんけど、清隆に何かしたら承知せんけんねっ」

 光香も、やや嫌がりながらも賛成してくれた。

「光香お姉さん、明日はいつ頃お帰りになられるのでしょうか?」

 留実は尋ねる。

「夜遅くよ。十時は過ぎるかな」

 光香はきっぱりと答えた。

「それだと、わたし達とはこれで最後のお別れになりますね。光香お姉さん、このたびは大変お世話になりました」

「ばいばい、光香お姉ちゃん」

「わたくし、光香ちゃんと遊べて、すごく楽しかったわ」

 三姉妹は少し寂しそうな表情。

「うちはすごく嫌じゃったよ。それじゃぁ、そろそろ行くけん」

光香は苦笑顔でこう告げて、家を出て行った。

六時五五分頃。テレビで愛媛県内各地の天気予報が流れると、

「今夜は雨かぁ。でも明日朝までには上がるみたいでよかったわ」

「星空が楽しめないのは残念です」

「雨は嫌だよねー。雪は大好きだけど」

 三姉妹はやや憂鬱そうに反応した。

 けれども夕食時にはすっきりとした気分へ。今夜は焼き肉。

「隙ありっ!」

「あーん、田鶴子お姉ちゃん、返してぇー」

 今日も相変わらず田鶴子と砥音の争奪戦が繰り広げられた。

 注意してくれる光香はいなかったが、いつものように数十秒で収束する。

 清隆は、今日は三姉妹のあとに入浴。

 それでも、

「清隆ちゃん、こんばんはー」

「こんばんはです」

「清隆お兄ちゃん、やっほーっ!」

 やはり入り込んで来た。

「今日は先に入っただろ」

 清隆は当然のように迷惑顔。

「二度風呂しようと思いまして」

「だって松山は温泉の街だもん!」

「今夜は光香ちゃんいないから、思う存分楽しめるわね」

 三姉妹はお構いなし。

「俺はもう出るから」

「ねえ清隆ちゃん、文乃ちゃんとはキスしたこと無いの?」

「ないに決まってるだろ」

田鶴子に唐突に質問され、清隆はやや照れくさそうに否定する。

「あらら、十年以上も付き合ってるみたいなのに勿体無い」

「べつに付き合ってるわけじゃないって。単なる幼馴染なだけだから」

「清隆さん、日本では男の子にとっての女の子の幼馴染というのは、お互い仲が良いのは幼少期くらいのもので、思春期を迎える頃には敬遠疎遠されるのが普通なのでしょう? 清隆さんはラブコメマンガやラノベの設定みたいに恵まれているのですから、文乃さんを大切にしてあげなきゃダメですよ」

「分かってるけど……」

 留実の力説に、清隆が迷惑顔で呟いたその時、

「こんばんはー清隆くん、お部屋越しに今からみんなで入ると伝えられて来ちゃった♪」

 さらに文乃も登場。バスタオルは肩の辺りから膝下までしっかり巻かれていたが、

「文乃ちゃん、困るよ」

 やはり清隆はとても気まずく感じ、即効浴室から逃げていった。

「清隆ちゃん、この様子じゃ文乃ちゃんの仲がこれ以上なかなか進展しそうにないわね」

 田鶴子はにこっと微笑みながら見送る。

「なんで逃げるんだろ?」

 文乃は不思議そうにしていた。

「文乃お姉ちゃん、今日はお船で遊ぼう」

「うん」

 このあとは三姉妹と文乃、四人で楽しく入浴タイム。

       ※

 午後十時頃、清隆が自室の机に向かい英語の宿題に取り組んでいたところ、

「清隆お兄ちゃん、今からみんなでいっしょに野球拳踊りしよう。じゃんけんで負けたら服を脱いでいく松山の伝統行事なんでしょ? あたしの学校でも流行ってるよ。先生は禁止って言ってたけど」

 砥音が入って来て誘ってくる。

「……それは、萩本欽一さんが広めた間違ったやつだよ」

 清隆は苦笑顔で教える。

「マジワウ星の子ども達の間では、そっちの方が浸透してしまったようです。本家の野球拳踊りは小学校の社会科の教科書日本の暮らしの項目にも載ってはいるのですが」

 留実はにこやかな表情で伝える。

「清隆ちゃん、今晩はわたくし達のお部屋でいっしょに寝ましょうね」

「いいって」

 清隆は断るが、

「清隆さん、最後の思い出ですから。光香さんもいないことですし、鬼の居ぬ間に洗濯しましょう」

「清隆お兄ちゃん、せっかくのチャンスなんだよ」

留実と砥音にぐいぐい手を引かれ強制的に連れて行かれてしまった。

「清隆ちゃんの香りがするわ。良い匂い」

 田鶴子は清隆の普段使っているお布団一式を運ぶ。

「清隆お兄ちゃん、あたしといっしょに寝て欲しいな」

 砥音が突然こんなことをお願いして来て、袖をぐいぐい引っ張って来た。

「ダッ、ダメだよ」

 清隆は困惑顔で浮かべ、きっぱりと断った。

「あーん、お願ぁい」

 砥音は駄々をこね、今度は清隆の肩を掴んで体を揺さぶる。

「清隆さん、いっしょに寝てあげて下さい」

「清隆ちゃん、せっかくの機会だし、砥音と寝てあげて。この子、お兄ちゃんも欲しがってたみたいだし」

 留実と田鶴子も要求してくる。

「無理に決まってるだろ。砥音ちゃん、悪いけど、諦めて」

清隆は照れ気味に、申し訳無さそうにお願いした。

「あーん、清隆お兄ちゃんのケチィィィッ」

「あのう、砥音ちゃん、痛いから」

 砥音は迷惑がる清隆の肩を構わずこぶしでドンドンドンと叩き続ける。

その最中だった。

窓の外に、ピカピカピカッとジグザクに走る稲光が見えた。

その約二秒後、

ドゴォゴォーン! と強烈な爆音が鳴り響く。

「びっくりしたぁー。きっ、清隆お兄ちゃぁん。さっきの雷さん、もの凄かったね。近くに落ちたのかも……」

「あっ……あの、砥音ちゃん」

 清隆はかなり気まずい心境に陥る。砥音が清隆の背中にコアラのようにしがみ付いて来たのだ。

「ごめんね清隆お兄ちゃん、あたし、今でも雷さんが怖いのぉ」

 砥音は顔をこわばらせ、プルプル震えていた。

「そっ、そうだったんだ」

 清隆は意外に思った。

 その直後、ズダァァァッン、バリバリバリビッシャーン! と耳を劈くようなさらに強烈な雷鳴が轟いた。

「清隆お兄ちゃぁん、怖いようぅぅぅぅ」

 砥音はさらに強くしがみ付いてくる。

「砥音、まだ雷嫌いなのね」

 田鶴子は優しく微笑む。

「マジワウ星でも、雷って発生するのか?」

 疑問を浮かべた清隆に、

「はい、地球と大気成分がほぼ同じですから、気象状況もほぼ同じなんです。台風的なものも発生しますよ。あのう、清隆さん、じつはわたしも、雷さんが怖いのです」

 説明した留実も強くしがみ付いてくる。今にも泣き出しそうな表情をして声も震えていた。

 雷はまだ、数十秒おきに鳴り続けていた。

 雨脚も急に強くなってくる。

「二人ともずるいわ。わたくしもー」

 田鶴子まで加担して来た。彼女は楽しんでいる様子だ。

「砥音ちゃん、留実ちゃん。田鶴子ちゃん、密着しないで。暑苦しいって」

今、清隆の右腕に留実、左腕に田鶴子、背中に砥音が抱きついている。清隆は自由に身動きが取れない状態になっていた。

「夜は雷雨になるって予報、当たっちゃったみたいね」

「寒冷前線の通過によるものだから、すぐに治まってくれるとは思うんだけど、怖ぁい」

「日本の八百万の神様、雷さんを、早く治めて下さい」

 大きな雷鳴が轟く度、三姉妹は清隆の体に強く密着してくる。

「あの、痛いから、あまりきつく締め付けないで。というか正直、早く退いて欲しい」

 こんなハーレム的状況でも、清隆は嬉しさよりも苦しさの方が遥かに強く感じていた。

 鳴り始めてから十分少々もすると、雨と雷は小康状態になった。

「清隆さん、ありがとうございました。もう平気です」

「清隆お兄ちゃんの背中、すごく柔らかかったよ」

「清隆、とても男の子らしく見えたわ」

三姉妹はようやく清隆の体から離れる。

「暑かったぁー」

 清隆はかなりくたびれた様子だった。汗もけっこうかいていた。

「あの、清隆お兄ちゃん、あたし、やっぱり自分のお布団で寝るよ。さっき無理なお願いして罰が当たったもんね」

 砥音がそう伝えると、

「分かった」 

 雷のおかげで助かったぁー、と清隆は内心ホッとした。

 その直後、

「あのう、さっきの雷、大丈夫だった?」

 外からこんな声が聞こえてくる。

 文乃だ。

「凄く怖かったけど、清隆お兄ちゃんが側にいてくれたから大丈夫だったよ」

 砥音は窓を開けて、向かいにいる文乃に元気な声で話しかける。

「そっか。私は、お母さんといっしょに震えてたよ」

「今夜は光香ちゃんいないし、文乃ちゃんもこっちで泊まらない?」

 田鶴子がこう誘いかけると、

「そうしたいところなんだけど、校則で友人宅での外泊は禁止にされてるから。それじゃ、おやすみなさい」

 文乃は残念そうに伝えて、窓を閉めた。

「あまり守られて無さそうな校則もきちんと守るなんて、文乃ちゃんはとってもいい子ね」

 田鶴子はほとほと感心する。

「品行方正さは愛東高一だと思う」

 清隆は自信を持って主張した。

「また鳴るかもしれないから、おへそしっかり隠さなきゃ」

 砥音はもう一度おトイレに行ってから、お布団にしっかり潜り込む。清隆に取ってもらったミーアキャットのぬいぐるみもお隣に置いて。

「砥音、子どもっぽいですよ」

 先にお布団に入っていた留実はその様子を横目に見て、微笑む。

「それじゃ、おやすみ」

 田鶴子が紐を引いて電気を消し、四人とも就寝準備完了。

 それから五分も経たないうちに、三姉妹はすやすや眠りについた。

(緊張して眠れない)

 こんな状況のためか、清隆は目が冴えてしまう。

この子達の寝顔、どんなのかな? と清隆は気になってしまった。けれども罪悪感に駆られ、覗こうとはしなかった。彼が眠りつくことが出来たのは、布団に入ってから一時間以上が経ってからだった。

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