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文学のまちに巨大みかんが降ってきた  作者: 明石竜


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第四話 秋の遠足 清隆達は宮島へ、三姉妹は中南予へ

 翌早朝、六時頃。

 目覚まし時計の音で目を覚ました清隆は、とりあえず布団の中を確かめてみた。

(よかったぁ。今日は何もいないや)

 普段と変わりない様子に、清隆はホッと一安心。

「ん?」

 次の瞬間、伸ばした右腕に妙な違和感を覚えた。

 むにゅっとしていた。突起物もあった。

「これって、ひょっとして……」

 清隆はすぐに手を離し、焦りの表情を浮かべる。

 恐る恐る、視線を横に向けた。

「うわっ!」

 すぐに視線を元の位置に戻す。

 光香がブラジャーとパジャマの上着を脱ぎ捨て、おっぱい丸出しで横臥姿勢になって眠っていたのだ。

「ねっ、姉ちゃん、なんて格好を……」

 清隆はずれていた羽毛布団を被せてあげた。

「……んにゃっ、おはよう、清隆」

 すると、光香は目を覚ましてしまった。寝起き、とても機嫌良さそうだった。むくりと上体を起こすと、また布団がずれて、光香の裸の上半身が露に。

「姉ちゃん、なんで、服脱げてるんだよ?」

「清隆、何焦ってるのぉー?」

 光香はぼけーっとした表情。まだ寝惚けているようだ。

「その……」

 清隆はさっきから視線を下に向けたままだった。

「あっ! うち、おっぱい丸出しにしてたのね」

 光香はついに今の状況に気付いたが、特に取り乱すことなく冷静に自分の腕を清隆から離した。布団から出て、ゆっくりと起き上がる。

「ねっ、姉ちゃん、どうしてパンツ一丁になってるんだよ?」

 ちらりと見てしまった清隆、咄嗟に壁の方を向いた。

「今朝は暑かったから、無意識のうちに脱いじゃったみたい。男の子が水泳する時の格好になってたね。おかげですごく気持ちよく眠れたわ」

 光香は照れ笑いしながら言う。

「とっ、とにかく、早く服着ろ」

 清隆は壁の方を向いたまま命令する。

「清隆ったら、そんなに慌てなくても」

 光香はにこにこ微笑む。

 そこへ、

「おっはよう、光香お姉ちゃん、清隆お兄ちゃん」

「おはようございます。今朝はちょっと寒いですね」

「おはよう清隆ちゃん、光香ちゃん」

 三姉妹がこのお部屋へやって来た。

「みっ、光香さん! なっ、なんてはしたない格好を――」

「光香ちゃん、清隆ちゃん、ひょっとして……しちゃったの?」

 留実と田鶴子は目を大きく開く。頬もちょっぴり赤らんだ。

「二人でお相撲ごっこしてたんでしょう? それとも内科検診ごっこ?」

 砥音は興味深そうに質問する。

「いや、これは……」

 清隆はかなり焦りの表情。

「砥音ちゃん、正解よ。うち、清隆と相撲ごっこしてたんよ」

 光香は冷静に説明すると、清隆の腕をガシッと掴んだ。

「えいっ!」

そして担ぎ上げるようにして清隆を投げ飛ばす。

「いってぇぇぇ!」

 清隆は畳の上にびたーんと叩き付けられた。

「光香お姉ちゃん、力すごーい。一五センチくらい背の高い清隆お兄ちゃんがくるんって回転したぁーっ」

「美しいです!」

「見事な投げ技ね。さっきの決まり手は、一本背負いね。わたくしも体育の授業で習ったわ。実技テストはさっぱりだったけど」

三姉妹は納得してくれたようだ。お部屋へと戻っていく。

「姉ちゃん、何するんだよ」

 清隆は痛そうに腰をさすりながら立ち上がった。

「清隆も相変わらず弱いわね。うちもあんなに軽々と投げれるとは思わなかったんよ。それじゃ、うち、もう一眠りするけん」

 光香は散らばったブラジャーとパジャマ上下を着込むと、布団に潜り込む。

「姉ちゃん、今夜からは自分の部屋に戻ってくれよ」

 清隆は制服に着替え、一階へ。今日は父もまだ起きていないため母と朝食を取る。

「おはよう清隆くん」

 六時四〇分頃に文乃が迎えに来て、清隆は家を出る。

 今日は学校行事の一つ、全校秋の遠足の日。一年生は松山観光港が集合場所だ。そこからチャーターフェリーを利用して宮島へ向かうことになっている。

「アヤノちゃん、船酔いは大丈夫?」

「うん、たぶん」

 船内で、伊子と文乃は隣り合うように並んで座った。文乃が窓際だ。

 出航してほどなく、

「ぅおーい、おまえさんらぁーっ、窓の外を見てみろーっ。ターナー島が見えて来たぞなもし。今見ておかんと帰りは真っ暗やけん見れんぞなもし」

 いつも通り赤シャツを身に纏った古賀先生が大声で叫び回りながら船内を走り始めた。かなり興奮している様子だった。生徒達の多くに迷惑がられるが、彼はお構いなし。

松山観光港沖に浮かぶ、三つの突き出た岩肌。それがターナー島だ。

「古賀、精神年齢お行儀の良い幼稚園児未満じゃな。ワタシは何度も見たことあるけん、全く感動せんよ」

「私も感動はしないけど、あの三つの島を見ると砥音ちゃん三姉妹を思い浮かべちゃうよ」

「確かに。大きさ違うけんね」

「のだいこと妻鳥は、ターナー島の価値が少しは分かるようじゃな。ターナー島の価値が分からん者は、人生の九割九部九厘九毛損しているぞなもし。のだいこ、昨日の再試験、返すぞなもし。三二点じゃ」

 古賀先生が歩み寄って来た。大声で伊子の点数を伝え、答案を手渡してくる。

「古賀ぁ、人前で点数言うのはやめてって。まあよかったぁー。本試験より点数上がって。奇跡じゃ。トオンちゃんのおかげじゃな」

伊子は安堵の胸をなで下ろした。

「よかったね、伊子ちゃん。再々試験にならなくて」

 文乃もホッとする。

 その頃、清隆と幹二は、

「清隆殿、これ読んでみたまえ」

「先生近くにいないよな?」

 周囲を気にしながら不要物とされているアニメ雑誌やラノベを読んでいた。

 八時一五分頃。赤瀬宅では、

「それじゃ、行ってきまーす」

光香が家を出ようとしているところだった。

 三姉妹は昨日より早めの八時半頃に赤瀬宅を出発。今日は中南予を巡る予定らしい。

 八時四〇分頃。チャーターフェリー内。

「じつはオレ、船内の暇潰しにこれも持って来たぜ」

 幹二はこう告げると、リュックからノートパソコンを取り出した。

「重たいのによくやるな」

 清隆はほとほと呆れ返る。

「清隆殿、まずはこれから見ようぜ」

 幹二はノートパソコンを立ち上げ、とある配信サイトのアニメを再生した。

「俺にはこういう、美少女系のアニメ、どれも同じに見えるんだけど……この間見たやつと違うんだよな?」

流れてくる高画質かつ高音質な映像を眺めながら、清隆は眉を顰める。

「清隆殿はまだまだ稽古不足であるな。オレは日々睡眠時間を惜しんで深夜アニメを三時間以上は凝視しとるけん、キャラ、キャラデザ、声優含めどれも全部違うアニメに見えるというのに」

 幹二は大きく笑った。

「その分を教科の勉強に費やせよ」

 清隆はやや呆れる。 

 同じ頃、

「あっ、また折れちゃった」

「伊子ちゃん、握力強過ぎだよ。もっとそーっと握らないと」

伊子と文乃は、スケッチブックに色鉛筆やクレヨンを用いてイラストを描いていた。

この二人は週一で活動している文芸部にも所属しているのだ。二人とも今でもちっちゃい子ども向けの絵本やアニメや児童文学書、可愛らしい絵柄のマンガが大好きで、ライトノベルや一般文芸、雑学文庫もわりと多く愛読している。文芸部の主な活動はマンガ、小説、絵本などの創作活動だ。部員のほとんどが女子である。

「妻鳥よ、なかなか上手い図画を描いておるな。学業優秀なだけでなく、絵も上手いとは。さすが一組のマドンナぞなもし。おーい、みんな、これ見てみろー」

 古賀先生は文乃の手からスケッチブックをパッと奪い取ると、右手に高々と掲げて他の生徒達に見せびらかした。

「「「「「「「おおおーっ!」」」」」」」

 近くにいた生徒達から拍手が巻き起こる。

「恥ずかしいですからやめて下さい!」

 文乃は困惑顔を浮かべ、ピョンッとジャンプしてパッとすばやく奪い返した。

「アヤノちゃん、さっきの動き、そうとう敏捷じゃったね」

 伊子はちょっぴり驚く。

「相変わらず妻鳥は照れ屋さんのままじゃな。全体的に色が薄めで、内気な性格を示しとるぞなもし」

「余計なお世話です」

 文乃は古賀先生をぷくっとふくれた表情で睨んだ。

「まあまあ、そんなに怒らんでも。怒った顔もヤマアラシのようで可愛いぞなもし」

「……」

 古賀先生は文乃のご機嫌をとろうとしたが、その発言がかえって損ねさせる結果となってしまったようだ。

 そんな時、

「古賀先生、妻鳥さん嫌がってるでしょ」

 背後から黒い影が忍び寄る。

「この声は、マッ、マドンナ?」

 古賀先生は恐る恐る振り返った。

 そこにいたのは予想通り、遠山先生だった。

「古賀先生、その呼び方はいい加減やめて下さいね。妻鳥さん、ごめんね。古賀先生が二度と邪魔して来ないように括り付けておくけん」

 遠山先生は古賀先生の首根っこをガシッと掴み、ズズズッと引っ張っていく。

「ありがとう、遠山先生」

 文乃は笑みを浮かべ、嬉しそうに礼を言う。

「古賀、いい気味じゃね」

伊子は微笑ましく見送った。

 そんなやり取りから三〇分ほどが経った頃、

「次はこれやろうぜ」

 幹二がリュックから、一つの箱を取り出した。

「……幹二、これは、非常にまずいだろ」

 パッケージに描かれたエロティックなカラーイラストを眺めた瞬間、清隆の顔が引き攣る。

「オレ的法律によれば、十八禁とは〝十八歳以上はプレイ禁止〟ってことだぜ」

 幹二はきりっとした表情で言い張った。

「おいおい。真逆の解釈をするな」

 清隆は呆れてしまった。

「良いではないか清隆殿。高校生の兄と中学生の妹が仲睦まじくいっしょにエロゲープレイしてるラノベもあるんだし、いまどき小学生でもエロゲをプレイするぜ。全く問題ないって」

「そういう子達の将来が心配だ」

 清隆は頭を抱える。

「清隆殿、このエロゲはエロシーン少ない方なんだぜ。来年一月からはテレビアニメも始まるし」

 幹二が、肝心のゲームが収録されてあるDVD‐ROMを箱から取り出し、投入口に入れようとした瞬間、

「カーンちゃん、何しようとしてるのかなぁ?」

 背後から誰かにそのDVD‐ROMをパッと奪い取られ、阻止された。

「うぉっ!」

 幹二はビクーッとなる。椅子から転げ落ちそうになった。

 正体は、伊子だった。 

「幹ちゃん、こんなエッチなものに手を出しちゃダメだよ。お母さんが悲しむよ」

 文乃もいた。二人とも頬を赤らめて、パッケージに描かれたイラストを眺めながら注意して来る。

「わっ、分かりましたぁ。すぐに、仕舞います」

 幹二は伊子からDVD‐ROMを返してもらうと、素直に従う仕草を見せた。

「今度持って来たら真っ二つに割るけんね」

 伊子はにこやかな表情で警告しておいた。

「清隆くん、こんなのは絶対好きになっちゃダメだよ」

 文乃は心配そうに忠告する。

「分かってる。俺、こんなのには全く興味ないから」

「良かった。じゃあ清隆くん、いっしょにお外の景色見に行こう」

「うっ、うん。いっ、いたたたぁ」

 清隆は文乃に腕をぐいっと引っ張られ、強制的に甲板へ連れて行かれる。

「清隆殿も大変だな。さてと、再開するか」

 三人の姿が見えなくなったのを確認すると、幹二は先ほどの忠告は無視して再びパソコンに例のDVD‐ROMを入れようとした。

 すると、

「乗松くん、これは何かしら?」

「うをぉっ!」

 またも背後から誰かに奪われてしまった。

 遠山先生だった。

「没収! すぐに処分します」

 頬を赤らめながらそう告げて、そそくさ別の場所へ見回りに行く。

「また買い直しだな、八千円もしたのに」

 幹二は悲しげな表情で彼女の後姿を見送った。

その頃、甲板では、伊子と文乃が楽しそうに会話を弾ませていた。

「ワタシ、昨日は帰ってから模試のことでママと口論になったよ。あんたの成績が下がったんはマンガやアニメばっかり見とるからじゃ、期末も悪かったらあんたの部屋に大量にあるマンガやアニメ雑誌類捨てるよって言われて。アヤノちゃんは、ママと口論とかしたりしないの?」

「しないよ」

「ほうか。確かにアヤノちゃんが親に反抗するところなんて考えられんもんね」

「でも私、お母さんからり○んとか、○ゃおとか、な○よしとか、いっぱい溜めてるから捨てなさいって言われるけど、なかなか捨てられないんだ」

「ほうなんじゃ。アヤノちゃんの気持ち、ワタシにもよく分かるよ」

「そういえば小学校の頃、私、伊子ちゃんといっしょにマンガ描いてり○んに投稿したことがあったね」

「ああ、あった、あった。あっさり落選したよね」

「私、お恥ずかしながら絶対大賞が取れると思ってたよ。お母さんとお父さん、田舎のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんにも私と伊子ちゃんとで描いたマンガがり○んに載るのーって言い回ってたよ」

「ワタシもーっ。あの頃は現実が分かって無かったよね。応募要項なんか完璧無視して自由帳に色鉛筆とかで落書きして応募したもんね」

「私はあれで漫画家さんになる夢諦めちゃったよ。伊子ちゃんは、今もマンガ描いてるんだっけ?」

「うん、一応。でも最近は小説の方が中心かな、賞に応募するの」

「伊子ちゃんも小説書き始めたんだ。私も最近、童話賞に応募するようになったよ」

「ほうなんか。仲間じゃね。ワタシはラノベの賞に応募してるよ。公募のは十万字くらい書かなきゃいかんけんきついけど」

「そんなにたくさん書いてるの!? 伊子ちゃんすごいっ! 童話賞は五枚から十枚くらいだよ。私それ以上は書けないよ」

「俺は読書感想文で五枚埋めるのにも毎年苦労するよ。幹二もラノベの賞に応募しようとしてたみたいだけど、いつも途中で止まるからって諦めてたな」

 清隆は思い出し笑いする。

「まあ、夏目漱石さんとかの手書き原稿の時代の苦労と比べれば、なんてことないよ。今はパソコンですぐに修正出来るけんね。ワタシ今は、十一月末締切りのG○に向けて新作書いてるんよ。原稿全然進んでないけど。ラノベは読みやすくて面白いよね。キヨタカくん、アヤノちゃん、これ読んでみる?」

 伊子は嬉しそうに話しながら、鞄からとあるラノベを数冊取り出す。

 折悪しく、

「野田さん、遠足の時でも、マンガなんか持って来ちゃダメでしょ」

 背後に遠山先生が――。問答無用で没収されてしまった。

「あーん、遠山先生、これ小説なんよ」

 伊子は困惑顔で主張する。

「マンガじゃない」

 遠山先生は表紙絵と巻頭のカラーページをぱらっと見て、にこやかな表情で反論した。

「これは、ラノベっていう若者向けの小説なんよ。遠山先生も若者やけん分かるじゃろう?」

 伊子は再び主張するが、

「分かるけど、野田さん、先生はラノベはマンガと同等のものと見なすけん。小説っていうのはね、夏目漱石さんとか芥川龍之介さんとか、森鴎外さんとか宮沢賢治さんとか、川端康成さんとか志賀直哉さんとか、そういう高尚な人達によって書かれた、読書感想文に使えて国語の教科書や国語便覧に載るような作品のことを言うんよ。ラノベって呼ばれるものは先生が中高生の頃からすでに流行ってたけど、先生は読む気には全くなれなかったわ。あまりにも文章が稚拙で不健全過ぎて」

 遠山先生は返してくれなかった。そそくさ他の場所へと移動していく。

「遠山先生のケチッ。ラノベの価値が分からんとは国語の先生失格じゃっ! 夏目漱石の『坊っちゃん』や『吾輩は猫である』だって考え様によってはラノベじゃろ!」

 伊子はそう呟いて悔しそうに唇を噛み締める。

「伊子ちゃん、いつかきっと返してくれるよ」

 文乃は肩をポンッと叩いて優しく慰めてあげた。


 愛東高一年生と引率の先生方を乗せたチャーターフェリーは、二時間四〇分ほどの船旅を経て宮島に到着。

「午後三時四五分の集合時刻まで、各自自由行動。遅れたら置いて行っちゃうからね」

 降りる前に、学年主任も勤める遠山先生はメガホンを用いてこうおっしゃる。

 文乃と伊子はもちろんいっしょに行動をとることに。宮島桟橋から海岸沿いの道を歩き進む。

「鹿さんがたくさんいるね」

「宮島といえば、もみじ饅頭、厳島神社だけじゃなく鹿も有名やけんね」

「私、鹿さんには嫌な思い出があるの。昔家族旅行で奈良へ行った時にね、おせんべい買ったらいきなり取り囲まれちゃって」

 文乃は鹿の姿をなるべく見ないようにしていた。

「分かる、分かる。集団でやって来られたらちょっと怖いよね」

 伊子は同情心を示した。

「私、本当は鹿さん大好きだよ。キーホルダーやぬいぐるみ持ってるもん。でも、本物の鹿さんに近寄ろうとしたら、どうしても体が拒んじゃって……」

 文乃がぼそぼそと打ち明けると、

「二次元美少女キャラは大好きじゃけど、三次元の女の子は無理っていうカンちゃんと同じような感覚なんじゃな」

 伊子はにんまり微笑んだ。 

 その時、

「鹿を叱る。鹿をシカとする。死海の鹿。鹿の歯科医師。おれの駄洒落、面白いじゃろ?」

 二人の背後からこんな声が――。

 古賀先生だった。数頭の鹿に向かって話しかけていた。

「しょうもなっ、て鹿は思っとるよ」

「古賀先生、鹿さんと戯れてますね」

 二人はすぐさま振り向いた。特に気にかけず先を歩き進む。

 その頃、清隆と幹二は、

「オレ、宮島なんかよりも広島市内へ行きたかったぜ。紙屋町にプチ秋葉原があるけんね。宮島は前にも家族で来たことがあるし、つまらん」

「まあそう言うなよ幹二、宮島もそのうち伊予市とかのわ●たべみたいに美少女系アニメの聖地になるかもしれないだろ」

 土産物屋でたむろしていた。

 文乃と伊子は大鳥居の近くへと向かっていく。

「今の時間、水に浸かってるね。残念」

「ほじゃがこれはこれでいい風景じゃ。アヤノちゃん、あれを背景に写真撮ろう」

 伊子は肩に掛けていたポーチからデジカメを取り出す。近くにいた観光客に頼み、撮ってもらった。

文乃と伊子は厳島神社本殿を参拝後、お昼ご飯を食べるため近くの食堂へ。

「あっ、清隆くんに幹ちゃんだ」

「おう、偶然じゃね。ねえ、キヨタカくーん、カンちゃーん、いっしょに食べよう!」

 ちょうどお目当ての店内に入ろうとした清隆と幹二を見かけ、呼びかける。

「俺は、かまわないけど」

 清隆は快く承諾した。

「オレも、べつに、いいぜ」

 幹二も承諾してくれた。若干緊張している様子だったが。

 店内に入ると四人掛けのテーブル席に向かい、清隆と文乃、幹二と伊子が向かい合う形で腰掛けた。

「やっぱり宮島に来たからには、『あなごめし』だよね」

文乃はメニュー表を手に取る。

「そりゃそうじゃろう」

「俺もそれ食べるつもりだったよ」

「オレは、それプラス牡蠣カレーと広島焼きも頼むぜ」

 幹二はにこやかな表情で伝えた。

「食い過ぎだ幹二。内臓に悪いぞ」

 清隆はやや呆れ顔。

「幹ちゃん、やっぱりそれくらいは食べるんだね」

「カンちゃんのお腹はブラックホールじゃね。でもいつものお弁当よりは少なめじゃない? ついでにデザートのチョコレートパフェも頼んじゃいなよ」

 文乃と伊子はにこっと微笑む。

「いや、腹七分目に抑えたいけん、今回はこのくらいで」

 幹二は照れくさそうに言う。

「あれだけ頼んでも腹七分目なのかよ」

 さらに呆れた清隆が代表して注文してから五分ほど後、四皿分のあなごめしがお盆に載せられ同時に運ばれて来た。それから三〇秒も経たないうちに幹二の頼んだ他の二つのメニューも運ばれて来る。こうして四人のランチタイムが始まった。

「清隆くん、はい、あーん」

 文乃は清隆側のあなごめしの一片をお箸で掴み、清隆の口元へ近づけた。

「いや、いいよ。自分で食べるから」

 清隆は左手を振りかざし、拒否した。彼は照れ隠しをするように、おまけで付いて来た緑茶に口を付けた。

「清隆くん、かわいい」

 文乃はにっこり微笑みながら、その様子を眺める。

「傍から見ると、本当のカップルみたいじゃね。カンちゃんも、はいあーん」

 伊子も文乃の真似をしてみたが、

「けっこうです」

 幹二は伊子のお顔よりも大きいくらいの手のひらを伊子の眼前にかざし、拒否。

「カンちゃんは相変わらずキヨタカくん以上の照れ屋さんじゃね」

 伊子はにこりと微笑む。

「……」

 幹二は照れ隠しをするかのように牡蠣カレーをがつがつ食らい付いていた。

同じ頃、

「清隆お兄ちゃん達がいる宮島は全然見えないよぅ」

「方角は合ってると思うけど、さすがに無理かぁ」

「残念です。山々が邪魔をしていますから仕方ありませんね。海沿いを走る『愛ある伊予灘線』なら見られたかもしれませんが。帰りはそちらの方を利用しましょう」

 三姉妹は内子‐伊予市間を鉄道で移動中。三人ともマジワウ星産の双眼鏡を使って車窓から北北西方向を眺めていた。

その途中で、田鶴子の持っていたスマホの着信音がマナーモードで鳴り響いた。

「やっぱり護衛の子か。かかってくるの、一昨日松山に着いてからでも十五回目ね。心配性なんだから」

 番号を確認すると微笑み顔でこう呟いて、通話ボタンを押す。

『お嬢様達、何かトラブルには巻き込まれていませんか? 地球人共に危険な目には遭わされていませんか?』

 するといきなり、早口調で、深刻そうな様子で問いかけて来た。

「全く心配ないわ。いちいち電話してこなくても大丈夫だから」

『そっ、そうですか。あの、今日も松山市外へ足を伸ばされているのですか?』

「うん、時間にゆとりがあるし」

『ということは、やはり電車にも乗られたということですね?』

「ええ。今ちょうど乗ってるところよ」

『お嬢様達、昨日も言いましたように、お嬢様達だけで電車に乗るのは危険行為ですよ。日本の電車にはスリは滅多にいないようですが、痴漢と呼ばれる危険人物は大勢いると聞きますし』

「もう、心配性ね。昨日も今日も危険は全く感じなかったわ。わたくし達に、もし何か困ったことがあったらこっちから電話するからね」

 そう余裕の笑みで伝えて、田鶴子は電話を切った。

「あーん、心配してあげてるのにぃ」

 マジワウ星、三姉妹の自宅リビング。固定電話から先ほどかけた護衛の子はかなり残念そうにしていた。

「お節介を焼き過ぎるのも、娘の成長に良くないと思う。それに、地球へ頻繁に電話をかけると、電話料金が恐ろしい額請求されるから、これ以上は控えて欲しいのだが」

 三姉妹の父は、苦笑いを浮かべながら要求した。

「申し訳ないです国王様。星間電話料金は現状、まだまだ高過ぎますもんね。確かに、ワタクシもお嬢様達のことを子ども扱いし過ぎているのかもしれません。これ以上のお嬢様達へのお節介はやめておきます」

 護衛の子は深く反省。


地球、宮島。清隆達がお昼ご飯を食べ終えようとした時、

「清隆くん、幹ちゃん、これからは、いっしょに動かない?」

 文乃は誘ってみるが、

「やめとくよ。俺達、厳島神社の本殿はこれから寄るつもりだし」

 清隆はすぐさま申し訳なさそうに断った。

「そっか。それじゃ、集合時刻にフェリーで会おう」

       ※

文乃と伊子は、昼食後は宮島水族館へ立ち寄った。

「ここも厳島神社っぽいね」

「ほんまじゃ。宮島らしいね。写真撮らんと」

 エントランスホールのデザインに感心していた頃、

          ※

三姉妹は、

「昔ながらの日本って感じね。写真撮っとかなきゃ」

「この造りは、うだつと呼ばれるものですね。記念に和蝋燭を買っておかなきゃです」

「江戸時代の日本にタイムスリップしたみたいだね」

木蝋と白壁の町、内子を楽しく散策中だった。

         ※

再び宮島水族館。

「スナメリさん、すごくかわいい♪」

「ワタシもスナメリ大好きじゃ。見てると癒されるよね。ミュージアムショップにぬいぐるみあったら買おう」

「私も買う!」

 文乃と伊子がその愛らしい動物をうっとり眺めていた頃、

「清隆殿ぉー、オレ、もう歩き疲れた。ちょっと休もうぜ」

「体力無さ過ぎだろ」

 幹二と清隆は厳島神社本殿を参拝していた。

回廊を歩いている最中に、

「ぃよう、狸。これ、マドンナから取り戻してやったぞなもし。ほれっ」

 古賀先生に遭遇。

 狸とは、古賀先生が幹二に初対面で付けたあだ名である。

「ぅおう、古賀さん神じゃ。誠にありがとうございます」

 べつにそう呼ばれてもそれほど嫌には感じていない幹二は受け取ると、満面の笑みを浮かべながら礼を言った。船内で没収されたエロゲだったのだ。

「なあに、例には及ばんぞなもし。マドンナの目を盗んでこっそり奪い返すのは、スリルがあって楽しかったけん」

 古賀先生はとても機嫌良さそうにそう伝えて、どこかへと走り去って行った。

「この場所で古賀神に出会うなんて、縁起が良いな」

 幹二の呟きを聞き、

「世界遺産の神聖な場所にエロゲなんて淫らなものを持ち込むなんて、罰当たりだな」

 清隆は呆れ顔で反論する。

文乃と伊子は、水族館を出た後は弥山へと向かっていた。

厳島神社より少し北の紅葉谷公園を通り抜け、ロープウェイを乗り継いで、

「瀬戸内海が一望出来て、いい眺めだねー」

「うん、天気も良いし最高じゃ」

 辿り着いた獅子岩展望台から楽しそうに絶景を見渡している時。

「猿の捕獲された宮島はつまらんのう。猿も木から落ちるのビジュアル体験をさせられんぞなもし。宮島の猿が去る。弥山は見せん!」

 背後からこんな声が聞こえてくる。

「古賀、また現れたよ。ムードぶち壊しじゃ」

 伊子はハァーッとため息をつく。

「古賀先生、神出鬼没だね」

 古賀先生の非常につまらない駄洒落に、文乃はあはーっと笑ってあげた。

「山の上は天体観測に最適ぞなもし。おまえさんら、山の上は宇宙に近いけん、宇宙人が見つかる可能性が高いぞなもし。暇なやつらは、おれといっしょに探して欲しいぞなもし。宇宙人、宇宙人、いたら返事して欲しいぞなもし」

 古賀先生は自前の天体望遠鏡を覗き込みながら、大声で叫ぶ。

「古賀っち、盗撮魔みたい」「古賀ちゃん、SF漫画の見過ぎーっ」「宇宙人なんかおるわけないし」「小学生みたいじゃ」

 そんな彼の無邪気な姿を見た、愛東高の一年生達は嘲笑う。

「おまえさんら、おれのことバカにしとるみたいじゃけど、理系失格ぞなもし。宇宙人は必ずどこかにおるんよ。おれは子どもの頃から宇宙人の存在を信じておってな、宇宙のことを深く学びたくなって猫の額ほどの広さしかないど田舎松山から出て、かの湯川秀樹君の母校、京大理学部物理学科に入って、物理教師になったんじゃ。うおぉっ、太陽じかに見てしもうたぞなもし。目が、目がぁー」

 古賀先生は生き生きとした表情を浮かべながら、楽しそうに空を見渡していた。

「宇宙人、いるんよね。ワタシも一昨日の夕方までじゃったら、いま古賀のやってること見てバカにしてたよ」

「古賀先生には、あの子達の存在は絶対ばらしちゃいけないね」

 伊子と文乃は小声で話し合いながら、ロープウェイ乗り場へと引き返していく。

 

下山後、もう一度厳島神社へ。

「今は水が引いてるね」

「アヤノちゃん、せっかくやけん、行ってみよう」

 大鳥居の下を記念に潜り抜けて来て、そのあと、厳島神社と船乗り場とを結ぶ表参道商店街で、

「アヤノちゃん、鹿の張子が売ってあるよ。買う?」

「ううん。この鹿さんは平気なんだけど……ちょっと買う気がしないなぁ。やっぱ宮島といえばもみじ饅頭だよ。つぶあん、こしあん以外にもいろんな種類のがあるんだね。ハ○ーキティの、とってもかわいい」

「ワタシもこれにしようっと」

「砥音ちゃん達の分も買って帰らなきゃね。抹茶味のも美味そう。そういえば宮島って、杓文字も有名だったね。それも記念に買って帰ろう」

楽しそうにお土産を買い漁った。

文乃がもみじ饅頭を食べながら船乗り場へ向かって歩いている最中、

「あっ、鹿さん、やめて、やめて」

 数頭の鹿が文乃の周りにまとわりついて来た。

「鹿も食べたがってるみたいじゃね」

 伊子は傍から微笑ましく眺める。

「ぃよう、おまえさんら。災難な目に遭ってるみたいじゃな。ここはおれが敵を討ってあげようぞなもし」

 そこへまたも古賀先生が現れた。

「あっ! 古賀。やめてあげて。鹿がかわいそうじゃ」

「古賀先生、鹿さんにそんなことしちゃダメ!」

 伊子と文乃は注意しながら彼のもとへと駆け寄った。

古賀先生は鹿達に、水鉄砲を食らわせたのだ。

「ハッハッハッ。見よ! 水平投射のビジュアル版ぞなもし」

 まったく悪びれる様子は無く、鹿達に狙い撃ちする古賀。と、その時――。

「あいたたたっ」

 鹿達が突然、古賀先生に突進して来た。

「こっ、こいつめ。このおれに勝とうなんて百年早いぞなもし……たっ、助けて欲しいぞなもし。プリーズヘルプミーぞなもし」

古賀先生は手足や顔をど突かれたり、噛まれたり。

「自業自得じゃな、古賀」

「古賀先生、大丈夫ですか?」

 伊子と文乃はその様子をほのぼのと眺める。

周りに観光客は大勢いたが、彼を心配する者は誰一人としていなかったという。


「全員揃ってるわね?」

 集合時刻、船内で遠山先生は点呼確認をとった。

午後四時に出港。愛東高一年生と先生方を乗せたチャーターフェリーは、松山観光港に向けて航行する。

「マドンナ、縄を外して欲しいぞなもし」

「なりません!」

生傷だらけの古賀先生は遠山先生に監視され、文乃他生徒達にちょっかいをかけることはなかった。というより出来なかった。

     ※

 午後六時半頃、松山まで戻って来た三姉妹は、

「この広告の女の子グループ、WR●ITって言うみたいね」

「日本では、ご当地アイドルも人気あるみたいですよ」

「このアイドルグループの子達はみんな、いよかんや坊っちゃん団子が大好きなのかなぁ?」

松山市駅バス停から赤瀬宅へと戻るため銀天街のアーケードを通り抜けていく。

その最中に、予期せぬ事態が三姉妹の身に降り注いだ。

「あっ、あのう、すいませーん」

 誰かに背後から、ぼそぼそっとした低い声で話しかけられたのだ。

「何かしら?」

「何でしょうか?」

「なぁに?」

 三姉妹は思わず立ち止まり、後ろを振り向く。

 そこに立っていたのは、背丈が一六〇センチくらいで眼鏡をかけた、三〇代くらいに見えるリュックサックを背負った小太りの男性。服装はジーンズに赤いチェック柄の長袖Tシャツ。白のスニーカー履き。

「日本語、分かるみたいだね。よかった。あの、写真、撮らせてもらっても、よろしいでしょうか?」 

 高そうなカメラを手に抱え、にやにやした表情で、こんなお願いをして来た。

「もちろんいいですよ」

「おじちゃん、かわいく撮ってね」

 留実と砥音は快く承諾し、ポーズを取ろうとしたが、

「砥音、留実。このお方は危険人物よっ! 逃げるわよ」

 田鶴子は若干表情を引き攣らせ、こう警告する。

「分かりました、田鶴子お姉さん」

「逃げた方がいいのかな?」

 こうして三姉妹は、足早にその男性から遠ざかっていった。

「ありゃまっ、逃げられちゃったよ」

 男性は苦笑い。諦めて松山市駅方面へと引き返していく。

「地球に来て、初めて怖い思いをしたわ。さっきのおじさんはきっと痴漢ね。見るからにそんな感じがしたわ」

 今、田鶴子の心拍数はけっこう上がっていた。

「田鶴子お姉さん、外見で判断して即逃げるのは失礼だと思うのですが……」

「田鶴子お姉ちゃん、さっきのおじちゃんタヌキに似てて、面白そうだったでしょ?」

「でも、地球地理の授業で先生から、ああいう特徴の地球人には女性は特に要注意って教わったから」

「その先生、視野が狭いですね。日本ではイケメンと呼ばれている容姿端麗な男性は性犯罪を起こさないと思い込んでいそうです。さっきのお方は、カメラ小僧と呼ばれる人だと思いますよ。わたし達が何かのコスプレをしているのだと思われたのでしょう。地球人、特に日本人からすればどう見てもわたし達、昨晩光香お姉さんに疑われたように髪の毛を染めているようにしか思わないでしょうし」

「そうかしら? まあ万が一のために逃げておいて良かったと思うわ」

 こうして三姉妹は無事、赤瀬宅へ帰り着くことが出来た。


愛東高一年生と先生方を乗せたチャーターフェリーは、午後七時前に松山港へ到着。

「ただいまー」

 七時半頃に、清隆は帰宅した。 

「おかえり清隆ちゃん、わたくし達も少し前に帰ったとこよ。今日は大洲と内子の町並みと、とべ動物園などを見に行って来たわ」

「とべ動物園ではマジワウ星には棲息してない動物さんがいっーぱい見れて、すっごく楽しかったよ」

「JR伊予市駅、伊予鉄郡中港駅近くにあり、わ●たべの聖地にもなった五色姫海浜公園と灘町ポケットパーク。伊予上灘駅近くのふたみシーサイド公園、下灘駅も訪れきれいだという夕日も眺めて来ました。鉄道の本数が少な過ぎるのは不便な点であり、タクシーも利用しましたが、とても楽しめましたよ。市坪駅前にある坊っちゃんスタジアムも存在感がありますね」

 昨日と同じく、三姉妹が満足げな様子で今日の出来事を報告してくる。清隆が宮島土産のもみじ饅頭などを手渡すと、さらに喜んでくれた。

 このあとすぐに、応接間にて家族揃っての夕食会が始まった。

 今夜の夕食には、柿も用意されていた。

「柿食えば、鐘が鳴るなり法隆寺。ですね」

 留実は美味しそうに頬張りながら呟く。

「正岡子規の詠んだ句ね」

 田鶴子はにこっと微笑んだ。

「あたし、柿大好き。田鶴子お姉ちゃんも分もあたしが貰うね」

 砥音が横から奪い取ると、

「こら砥音、返しなさい」

「嫌だよ」

 またも争奪バトル開始。

「もう、柿なら台所のダンボール箱にたくさんあるから、ケンカしないで」

 それを光香が呆れた様子で注意する。

 三姉妹が来てからは、赤瀬宅の夕食の団欒がより一層賑やかになった。

 夕食後、今日も清隆が入浴中に、

「やっほー、清隆ちゃん」

「失礼します」

「清隆お兄ちゃん、いっしょに入ろう!」

 三姉妹が割り込んでくる。

「やめてくれよ」

 湯船に浸かってくつろいでいた清隆は咄嗟に壁に目を向ける。

「清隆ちゃん、今日は水着を付けてるんだからいいでしょう?」

「そういう問題じゃ……」

 清隆は壁から目を離そうとはしない。

 砥音は昨日と同じくすっぽんぽん、田鶴子と留実は日本の学校でお馴染みの紺色の女子用スクール水着を着けていた。

「伸縮性はいいけど、やっぱり限度はあるわね」

田鶴子はきつそうだった。

「あんた達、また清隆に乱暴を。それ、うちの中高時代の水着。勝手に着ないでよ」

 そしてほどなく光香がすっぽんぽんで乱入してくる。

「……」

 清隆は湯船から上がり、足早に浴室から出て行った。今日は入浴時間がずれたためか文乃の訪問は無し。

夜九時頃。清隆の自室。清隆が机に向かって英語の復習に励んでいたところ、外から、

「おーい、清隆くーん」

 と文乃の叫び声が聞こえてくる。

「文乃ちゃん、どうしたの?」

 清隆は窓を開けベランダに出て、問いかけた。

「あの、明日、伊子ちゃんと、砥音ちゃんと留実ちゃんと田鶴子ちゃん、皆で大街道へ遊びに行こう。都合がつけば光香ちゃんも誘って。明日でお別れだし」

 斜め向かいの部屋にいる文乃から、こう伝えられた。

「それはいい考えだね。あの子達にとって、最後の思い出作りになると思うし」

 清隆は快く賛成する。

「それじゃ、明日ね、清隆くん」

「あっ、ちょっと待って文乃ちゃん、じつは俺、一昨日水遣りしてる時に、みかんっぽい飛行物体が降りていくを見かけてたんだ」 

「そうなんだ。あの子達の宇宙船、清隆くんはその時にもう見てたんだね」

「文乃ちゃんと野田さんに教えようと思ったけど、一瞬で見えなくなっちゃったし、見間違いかと思ったから」

「そっか。普段見慣れないものを見かけたら、我が目を疑っちゃうよね。気付いたのが冷静な清隆くんだけみたいで良かったよ。私だったら興奮して叫び回って、不特定多数の人にあの子達がマジワウ星人だってことがバレてたかもしれないから。それじゃ清隆くん、おやすみなさーい」

 文乃は満面の笑みを浮かべながら、就寝前の挨拶をして窓を閉めた。

そのあと清隆は風呂上りの三姉妹と光香にさっきの連絡事項を伝える。

「行く、行くぅ!」

「わたくしももちろん行くわ」

「お別れ会のようなものを計画して下さり、誠にありがたいです」

 三姉妹は参加意欲満々。とても嬉しそうだった。

「うちは行けんわ。レポート課題がけっこうあるし、原稿の〆切も近いけん、皆で楽しんで来て」

 光香は残念そうに参加を拒否。ちなみに光香は今夜も清隆のお部屋で寝泊りしたのであった。

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