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文学のまちに巨大みかんが降ってきた  作者: 明石竜


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序章

「アヤノちゃん、昨日のランキンぐぅのすけ見た? 街頭インタビューの調査で観光に訪れたい都道府県、愛媛がビリから五番目の四三位になってたんよ」

 十月も終わりに近づいたある日の朝。

いで湯と城と文学のまち、愛媛県松山市内に佇む、県立愛橙東あいとうひがし高校一年一組の野田伊子のだ いこは、登校してくるなり同じクラスの幼友達、妻鳥文乃めんどり あやのに不満そうに話しかけた。 

「私はその番組見てないけど、ごく普通の結果じゃないかな?」

 文乃は爽やかな笑顔でコメントする。

「俺も妥当な順位だと思う。愛媛県って全国的知名度は低いだろうし」

すぐ近くにいた同じクラスの男子、赤瀬清隆あかせ きよたかも話に加わった。

「確かにほうじゃろうけど群馬や茨城や新潟や山梨や島根や宮崎や、香川にすら負けてるっておかしいじゃろう? 愛媛には松山だけでも道後温泉とか坊っちゃんスタジアムとか、萬翠荘とかじゃこ天とか五色素麺とか労研饅頭とか、有名な名所・食べ物がようけあるのに。三〇位以内には入れると思うんじゃけどね」

 伊子は納得いかない様子だ。

「道後温泉とプロ野球もやってる坊っちゃんスタジアムはともかく、萬翠荘とじゃこ天と五色素麺と労研饅頭なんて地元民しか知らないと思う」 

 清隆はさらに意見する。 

「そんなもんかいね? ほじゃがあの番組は絶対やらせじゃ。ガチで調査したら群馬や茨城や香川なんかより絶対順位上になるはずじゃ」

伊子は悔しそうにこう主張して自分の席へ。一五〇センチに届かない背丈、丸っこいお顔、くりくりしたつぶらな瞳、広めのおでこ、みかんのチャーム付きダブルリボンで飾ったほんのり茶色なおかっぱ頭が、小学生に間違えられてもおかしくないあどけなさを感じさせるそんな彼女に、

「伊子ちゃん、それは群馬県民、茨城県民、香川県民に失礼だよ」

 文乃は軽く苦笑いしながら注意した。背丈は一六〇センチちょっと。面長ぱっちり垂れ目、細長八の字眉が可愛らしく、ほんのり栗色な髪を小さく巻いて、水色のシュシュで二つ結びにしている。おっとりのんびりとした雰囲気の子だ。

愛橙東高校には、古賀という名のけっこう変わったキャラの物理教師もいる。

五分刈り頭に黒縁眼鏡とカイゼル髭がトレードマークで、いつもフランネルの赤いシャツを身に纏い、袴を着付け足袋と下駄を履いている。年齢は四〇代後半。背丈は一八〇センチ近くあり、すらりと高い。そんな偽紳士っぽさも醸し出されている彼が受け持つクラスでテストを返却するさいは、あくどいことをしてくる。

この日の七時限目、一年一組の物理基礎の授業で二学期中間テストの答案が返却されている最中のことである。

「二三点っ! おまえさん、これで四連続赤点ぞなもし。明日の放課後、再試験じゃ」

 古賀先生は伊子の点数を大声で伝えてから手渡したのだ。

「古賀ぁ、いい加減皆の前で点数ばらすのは止めて下さいよっ!」

 伊子は彼の行為に対し、ふくれっ面で抗議するも、

「赤点取った者の点数をばらすのは、おれの新人教師時代からの伝統じゃけん! のだいこよ、怒った顔もホトトギスのようで可愛いぞなもし。ハハハッ」

 古賀先生は高笑いして、全く悪びれていない様子だった。

     ※

帰りのSHRも終わって解散後、 

「古賀ぁ、プライバシー侵害しやがって本当に腹立つよ。語尾にわざとらしく〝ぞなもし〟なんか付けて、誰にもウケてないってこと、まだ気付いてないんかな?」

 教室をあとにした伊子はむすーっとした表情を浮かべ、ぶつぶつ不満を呟きながら文乃と清隆といっしょに廊下を歩き進む。

「もはや口癖になっちゃって、ごく自然に出ちゃうんじゃないかなって私は思うなぁ」

「ぞなもしなんて土佐弁のぜよ、鹿児島弁のおいどん、ごわす並の絶滅危惧語じゃよなぁ」

「古賀先生、話し口調は面白くて、格好もユニークなんだけど、無鉄砲だよね」

 文乃も彼に少しうんざりしているようだ。

「ほうじゃな。等加速度運動の説明じゃ言うて教室でラジコンカー暴走させたり、斜方投射をビジュアルで見せるとか言って生徒の筆箱や鞄を放り投げたり。テストの解答例も面倒くさいからって配布してくれんけん、ワタシいつも再試験対策に困るんよ」

「生徒からの質問にも全然答えてくれないよね」

「うん、うん。決まって返事は自分で考えて欲しいぞなもし、じゃけんね。あいつ、よく今まで教職クビにならず勤まっとるなと不思議に思うよ」

「古賀って、教師になって以来二〇年以上愛東から異動したことがないらしいな」

 清隆も二人の会話に加わる。

「古賀先生、京大卒だから愛東で重宝されてるのかも」

 文乃は微笑み顔で推測する。

「あいつ本当に京大卒なんかな? 最初の授業の時自慢しまくっとったけど、ワタシは信じられんよ。古賀の授業はうるさくて鬱陶しいけん、来年はよその高校へ飛ばされて欲しいわー」

 ため息交じりで願望を述べた伊子に、

「伊子ちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ。古賀先生は確かに私もちょっと嫌いだけど、今でも宇宙人の存在を信じてて、日々望遠鏡とかで探し続けてるみたいだし、中年になっても夢見る子どもの心を持ち続ける素晴らしい先生じゃない」

 文乃はにこにこしながらこう伝えてあげた。

「それって単なる精神年齢の低いおっさんなだけやと思うんじゃけど……」

「俺もそう思う。ガキ大将がそのままおっさんになったようなものだろ。部活中もたまに割り込んで来て小学生みたいなイタズラしてくるし」

 伊子と清隆は苦笑いしてしまった。 

 この三人はまもなく校舎から出ると、いっしょに部活動拠点の中庭へと向かって行く。三人とも園芸部に所属しているのだ。

清隆は入学当初、部活に入るつもりは無かったのだが、文乃によって無理やり入らされた形となった。文乃にとって清隆は、伊子よりもさらに古い幼馴染。そのためか文乃は清隆が高校生活を無味乾燥に過ごしてしまうのではないかと心配していたのだ。

ただそれが、文乃が清隆を園芸部に強制入部させた最たる理由ではなかった。

文乃と伊子が高校入学式前から入部しようと決めていた園芸部は、四月当初部員数0で廃部の危機にあった。存続のためには部員を三人以上集めなければならず、清隆も入部させたことによって廃部を免れたわけである。園芸部員は今もこの三人だけだ。


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