第24話:翼を授かった騎士たちと、全自動お掃除防衛線
【全自動防衛システム】
アビスの入り口を埋め尽くす、黒い霧。その中から、ぎらついた目を光らせた1,000匹ものゴブリン軍勢が、不気味な叫び声を上げて押し寄せてきた。
「お、お嬢様! 来ますよ! あんな数、まともに相手してたら一瞬で飲み込まれますって!」
カイルが偵察ドローンからの映像を観ながら喉を枯らして叫ぶ中、アリシアは悠然と特等席に座り、優雅に紅茶を啜っている。
「騒がしいですわね、カイル。わたくしの楽園の入り口に、あんなに不潔なゴミが溜まっているのを放っておくわけがないでしょう?」
アリシアが石版を軽く叩くと、拠点の入り口に設置された数々の「お掃除道具」が、静かにその銃口をもたげる。
『――自動清掃モード:起動』「広域の魔物を消去しましたです」
ルルの淡々とした声と同時に、凄まじい閃光が放たれた。それは「SR:全自動・除塵パルス砲」。本来は家具の隙間の埃を一瞬で吹き飛ばすための清掃用具。そのパルスは押し寄せるゴブリンたちを、文字通り「塵」へと変えていった。
さらに、追い打ちをかけるように「SSR:高圧洗浄ウォーターキャノン」が火を噴く。しつこい泥汚れを根こそぎ落とすための、魔法の水の奔流。それは巨大な水の槍となってゴブリンの群れを貫き、跡形もなく押し流しいった。
「ひぇぇ……。あれ、お掃除用の道具ですよね? 魔物が、まるで排水溝の汚れみたいに消えていく……」
カイルが呆然とする中、アリシアは満足げに頷きました。
「しつこい汚れには、強い水圧と衝撃が一番ですわ」
【翼の生える、赤い牛】
しかし、全自動の排除を潜り抜けた、巨大なオーガや翼を持つガーゴイルが、少しずつ距離を詰めてくる。
「お嬢様、デカいのが来ましたよ! 今の放水じゃ、あいつらは止まらない!」
「あら、だったら皆様に、少しばかり元気を差し上げなくてはなりませんわね」
アリシアがガチャから取り出したのは、翼の生えた赤い牛が描かれた小さな缶飲料。
「皆様。こちらの『レッドカウ』を飲みなさいな。わたくしの騎士として、いつもの十倍の成果を期待していますわよ」
カイルと騎士たちが、言われるがままにその飲み物を一気に飲み干す。
「……なんだこれ? 口の中がピリピリして……あ、あれ? なんだか、背中が熱い?」
カイルが自分の背中に目を向けると、そこには光り輝く透明な翼の幻影が浮かび上がった。
「な、なんだこれ!? 翼が生えた!? それに……世界が、止まって見える……っ!」
レッドカウによる強烈な覚醒効果。カイルたちの脳は「通常の十倍の集中力と反射神経」という異常な状態へと突入しました。迫りくるオーガの棍棒が、まるで止まっているかのようにゆっくりと見え始めた。
【近接戦闘】
「い、行ける……。俺、今なら何でもできる気がする!」
カイルは叫びながら、猛スピードでオーガの懐に飛び込みました。防護服の力を引き出す装置と、エナドリによる覚醒が合わさり、その動きはもはや人間業ではありません。
「はああああっ!」
カイルの振るった剣が、巨体のオーガを翻弄します。オーガが腕を振り上げる前に、カイルは既に三回の斬撃を叩き込み、背後へ回り込んでいました。
「あれ、俺、意外とやれる……? っていうか、俺、天才じゃない!?」
勘違いしたカイルが叫ぶ中、騎士たちもまた、神速の動きで魔族を圧倒していく。
そこへ、一人の小柄でがっしりした男が、魔法の炎が渦巻く炉を担いで現れた。
「おらおら! 武器が欠けたらすぐに持ってこい! このギムリが、瞬きする間に新品に戻してやるぞい!」
ドワーフのギムリが、ボロボロになった騎士の剣を炉に放り込む。一瞬の火花と共に、剣は以前よりも鋭い輝きを放って戻ってくる。
「ガハハ! お嬢様の道具は最高だぞい! この炉があれば、武器の予備なんていらんぞい!」
ギムリの供給のおかげで、騎士たちは武器の消耗を気にせず、全力でお掃除を続けることができた。
【掃討】
カイルや騎士達の無双が続く中、宙に浮いているガーゴイルの群れ。
「お嬢様、上が! 上から囲まれます!」
「ルル、皆様に『グラビテ』の使い方を教えなさいな」
「了解したのです。皆様、服のスイッチを切り替えて、磁力を出して下さいです。空飛ぶゴミを引き摺り下ろすです」
ルルの指示で騎士たちがスイッチを入れると、空中のガーゴイルたちが叫び声を上げました。防護服から放たれた強力な磁力によって、空を飛んでいた魔族たちが、まるで吸い寄せられるように地面へと叩きつけられていく。
「よし、落ちたゴミは掃き溜めに捨てるのが正解なのです。皆様、一斉に突撃しますです!」
ルルの指揮のもと、騎士たちの「連携攻撃」、防護服と飲み物という「最新の道具」、そして効率的な「清掃プロセス」。これら三つの要素が完璧に噛み合い、中堅クラスまでの魔族軍勢は、見る間に消え去っていく。
戦場が一息つき、カイルが汗を拭きながらアリシアを振り返る。
「お、お嬢様……。なんとか、片付きましたよ。これ、僕たちの勝利ですよね?」
しかし、アリシアは優雅に「レッドカウ」の缶を見つめながら、少しだけ眉をひそめていました。
「あら。この赤い牛さん、少しカフェインという刺激が強すぎましてよ? 皆様の心臓が、少しばかり騒がしく聞こえますわ」
「……お嬢様、そりゃあこんだけ動けば心臓もバクバクしますよ……」
カイルのツッコミが響く中、不意にアビスの入り口の霧が、どす黒く、そして冷たく渦巻き始める。
これまでの魔族とは比較にならない、肌を刺すような重圧。
「……来ましたね。真打ちが」
アリシアの瞳が鋭く輝く。霧の奥から現れるのは、上級魔族デーモン、そして――世界を滅ぼす四魔貴族。
真の絶望が、すぐそこまで迫っていた。




